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- 2024/11/16
Sony C-100 / ECM-100U / ECM-100N
ソニーからハイレゾ音楽作品の録音を意識した製品が発売され、注目を集めている。それらを使用する第一線のプロに、インプレッションを語っていただくのが本連載だ。今回はプロデューサー/作編曲家の鈴木Daichi秀行が登場。自ら購入し愛用中のコンデンサー・マイクC-100に加え、楽器収音用のECM-100U(単一指向性)とECM-100N(無指向性)の2機種についても語っていただこう。
3機種共、新開発のカプセルを採用したコンデンサー・マイク。ダイアフラム(24金蒸着)の薄膜/軽量化と背面電極のインピーダンス低減を図り、50kHzまで再現できる。背面電極とカプセル・ケースは真ちゅう製で、絶縁材にはポリエーテルイミドを使用。いずれにも高精度な切削加工を施し、各パーツを丁寧に組み立てることで色付け無きサウンドを実現しているという。
高域用カプセルと低域用カプセルを備えた2ウェイ構成のモデル。可変指向性で、さまざまなソースに有用。
単一指向性のモデル。楽器収音を想定した仕様だ。
無指向性の機種。空間の鳴りも含めた収音に向けている。
鈴木はもともとソニーの真空管マイクC-800Gの愛用者で、それと同じソニーのプロフェッショナル向けマイクということからC-100に関心を持ったそう。
「C-800Gは1992年に出たマイクですし、経年変化などを考えると、いつまで使えるか分からないなと思って。一方C-100は、真空管ではなくICを使っていますよね。だからメインテナンスの面でも有利だと思ったんです。それに価格がリーズナブル。15万円ほどなので、C-800Gを買ったときの1/7くらいで済むなと。音に関してはC-800Gを使ってもいたし、間違いないだろうと思って試聴せずに購入しました」
早速、ボーカルなどの録音に使い始めたそうだが、そのサウンドはC-800Gとは趣を異にするものだったという。
「どちらのマイクも周波数レンジが広く感じられるのですが、C-800Gは低域と高域に少しピークがあって、それによりワイドに聴こえる。でもC-100はフラット方向の音で、各帯域のバランスが良く、高域が伸びているというよりは下の方まで奇麗に収められる印象です。リファレンス・マイクという感じで、もちろん癖は無いんですけど、ほかの同傾向のマイクに比べると重心が低めで、どっしりとした音。そこが“音楽に使うマイク”という感じですね」
鈴木は、同じ“フラット”でも、音楽制作向けのマイクと音響測定用のマイクなどでは考え方が変わってくるという。
「例えば歌では中低域も大事ですし、そこも含め、きちんと収められることを前提としたフラットさが必要になります。C-100は、そういう音をしていますね。可聴帯域に凹凸が無いというフラットさではなく、音楽ソースに合わせたフラットさだと思うんです。リファレンス・マイクとしての性能を持ちつつ音楽的なサウンドで、なおかつこの価格を実現したマイクって、ありそうで無かったのではないでしょうか」
鈴木は、市場におけるC-100の立ち位置をこう考える。
「例えば最近の4〜5万円のマイクは、音が作られ過ぎているんですよ。多くはハイ上がりな傾向で、“その音”にしかならないから録音後にいじりにくい。C-100のように、正しい音というか奇麗に収音できるマイクの方が扱いやすいんです。で、マイクでキャラ付けしたいなら、結局は数十万円の機種を探すようになる。ただ、その価格帯の製品は個々に明確なキャラクターがあるので、今度は曲やシンガーによって合う/合わないが出てきます。そう考えると、15万円ほどで万能なマイクって、現状C-100くらいしか見当たらないんです。“最近録りもやるようになったから良いマイクが欲しい”と思っている作家の方や“20万円以内で応用の効くマイクが欲しい”と思っている人にはピッタリでしょうね」
普段はC-100をアコースティック・ギター録音にも使っているという鈴木だが、今回ECM-100U(単一指向性)とECM-100N(無指向性)を試してみて「アコギ録りなら最初からECMを使っておく方が良い」と感じたそう。
「C-100を使うと、録音後に低域をEQで切ることになりますからね。ECMの2機種も、音の傾向はC-100とよく似ています。ナチュラルなので、音数が多い曲よりはミニマムなもの、録音後の加工を前提としたロック系よりはアコースティック編成などでうまみを発揮しそうです。とは言え音数の多い曲にも使えるはずで、その場合はECM-100Uをオンめで立てると抜けの良い音が得られるでしょう。どちらの機種もアコギに合うし、ECM-100Uはハイハット、ECM-100Nはドラムのトップなどにもマッチすると思います。コンパクトなので設置しやすく、このクラスのコンデンサー・マイクには珍しくシャーシが頑丈だから、ドラムのスティックが当たってしまっても破損しにくいはずです」
リファレンス・マイクとしての確かな性能に、制作の現場を見据えたプラスαを備えるC-100とECMの2機種。「プラグインやアウトボードでキャラクターを付けたり調整することを考えると、脚色の無いマイクを使った方がやりやすく、どのくらい色付けしたかという判断も容易です」と鈴木は言う。
「プリアンプなどの特性もジャッジしやすいし、今は入力段で味付けできるオーディオI/Oなども出ているから、そういうものをきちんと生かせると思うんです。その意味でC-100もECMの2本も、現代の音楽制作に適したマイクですね」
本記事はリットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号』の記事を転載したものです。本号の巻頭特集は、毎年1月号恒例のプライベート・スタジオ特集。100ページを超えるボリュームで気鋭からベテランまで、17組の注目クリエイターたちのプライベート・スタジオを公開しています。
【登場クリエイター/エンジニア】
大塚 愛 / エイドリアン・シャーウッド / mabanua / AAAMYYY / Okada Takuro / machìna / Chaki Zulu / starRo / DJ PMX / クボナオキ / 畑亜貴 / 桑原聖(Arte Refact) / 毛蟹 / Nao(アリス九號.) / yuya(Develop One's Faculties) / 森元浩二. / フローティング・ポインツ
価格:オープン
価格:オープン
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鈴木Daichi秀行
サウンド・プロデューサー/作編曲家。絢香、モーニング娘。、YUI、miwa、家入レオ、LiSA、Swanky Dank 、いきものがかりなど数多くのアーティストを手掛ける。音響機器への造詣も深い。