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- 2024/11/16
NARB Amp(Marshall Amp)
いつだってペダルのことばかり気にしている“ディーパーズ”の皆さんも、たまにはアンプのことも気にしなきゃ……ということで、今回は1959 SUPER LEAD “BLACK FLAG”に続き、レア・アンプである「NARB」をディープにチェックしてみます。
Kitchen Marshall、BIG-M、CMI、PARK、そしてNARB……1970年代にはこういったマーシャル製作のアンプでありながら、“Marshall”のロゴを持たないアンプが存在しました。その中でも一番有名なのはPARKアンプでしょうか。なぜ「PARK」というブランドが生まれたのか? その辺りのお話は探ってみると非常に面白いので、ぜひ調べてみてください。特に1990年代のソリッドステート・アンプのPARKしか知らない/そのイメージしかない皆さんには、ぜひもう少しだけ深く……PARKの生い立ちにも触れていただきたいものです。
話を戻しましょう。今回DEEPER'S VIEWで取り上げるアイテムはビンテージ・アンプ。上述の「マーシャルであってマーシャルでないアンプ」の中でも、特に生産台数が少ないと言われている、“NARB”アンプを取り上げます。
NARBの名称の由来は、ジム・マーシャル氏とともにマーシャル・アンプに創業当時から携わっていた人物、ケン・ブラン氏に関係しています。
1966〜81年までの15年間、マーシャル社は自社のアンプを独自に販売することができなかった期間があります。その期間はロンドンの老舗楽器店であるローズ・モーリス(1919年〜)がマーシャル・アンプの全世界独占販売権を持っていました。マーシャルはそれまで自身のショップを持っていましたが、この契約により66年以降は作ることはできても、直接顧客(や店舗)に販売することができなかったのです。当時、イギリス中のロック・バンド/ミュージシャンがマーシャル・アンプを使い始めていました。当然、他の楽器店も人気のあるマーシャル・アンプを販売したい……取り扱いたい……なんとかして……。
当時、ロンドンのデンマーク・ストリートにサウンドシティという楽器店がありました。そのサウンドシティから「マーシャルと同一仕様のアンプを別の名義で販売したい」と相談されたジム・マーシャルは「Marshallの名を冠さなければ、同じようなスペックのアンプを作っても問題ないだろう」ということで、このオファーを承諾します。
実はそれより少し前に、同じような打診を受けて“Marshall”とは名義の違う「似たようなアンプ」を作っていました。バーミンガムの友人ジョーンズ氏に向けたPARKアンプがそれです! イギリス(特に北部において?)PARKはマーシャルに代わり人気を博したと言います(ローズ・モーリス以外の販売代理店はマーシャル製品を販売できなかったので……)。今でもスウェーデンやオランダ、デンマークなどの北欧で、状態の良いレアなPARKアンプが見つかることが多々ありますが、もしかしたらそれと関係あるかもしれませんね。なお、PARKの販売はCleartone Musical Instruments(CMI)という会社が行なっていました。あれ? そういえばマーシャルメイドのCMIというアンプもありましたね……。
話を戻します。
“Marshall”でなければ何という名前にする? そんな時、主要メンバーであるケン・ブラン(KEN BRAN)の名を使うのは当然の成り行きだったことでしょう。ではBRAN AMPにする? いや、BRANという名前は他の商品でもよく見る名前だし……。
では、BRANを反対に読んでNARBにしてはどうだろうか?
ということで、このサウンドシティ店の別注品となるマーシャル・アンプ「NARB」が誕生します。製造は“NARB ELECTRONICS”……なんと嘘みたいな本当の話!
このNARBが作られたのは1973年。プレキシ・マーシャルの最終モデル~アルミ製パネルを装備したアンプへの移行が69年から70年頃で、ポイント・トゥ・ポイント・ワイヤリング(以下P to P……いわゆるハンドワイヤードと呼ばれたりする)基板も73年までの仕様です。
NARBはP to P仕様であることからも、73年の生産と言われています。他にもレイダウン・トランスやシャーシ、トレモロ回路用パーツなどに60年代後半から70年代初頭のパーツが使われていると言います。これは長期的に継続するモデルではなく、ワンショットのオーダー品……つまり(ついでに)この機会に69年頃までに使用されていた「旧仕様のパーツ」を使い切ってしまおう、という意図があったものだと言われています。しかし、個人的にはサウンドシティー側から「一つ前の仕様の音が好きだからその仕様でオーダーしたい」と言うオファーがあったのでは?と思ったりもしています。理由はないのですが!
何れにせよ、このNARBアンプの総生産台数は24台程度だと言われています。
NARBアンプの回路は、69年頃の“プレキシ” SUPER TREMOLOに酷似しています...というかそのまんま。メインのレイダウンタイプ・トランスと出力トランスの間のフィルター・キャップ、そしてチョーク・トランス近くに配置されたプリアンプのフィルター・キャップ。これらは、いわゆるバージョン8と呼ばれる回路と同じです。
この回路は68年頃のバージョン7回路に比べるとハム・ノイズが減り、タイトなローエンドと相対的にクリアになった高域を生み出します。この仕様のプレキシ・アンプはジミー・ペイジやジミ・ヘンドリックスが愛用したと言われており、確かに歪んでいるのにクリアな歪み感が印象的。それ以前(68年以前)のプレキシに比べると、ファットな歪み感というよりは、スピード感と高域の突き抜けるようなサウンド・キャラクターを感じます。そう、ブルース的というよりはハードロック的な印象です。
このNARBアンプは以前のDeeper’s Viewで紹介した“BLACK FLAG”と呼ばれる1959 SUPER LEAD/JTMのサウンドを参考に、少し手を加えています。
・INPUT1-1 : ややゲインを下げてハイパスを控えめに(低域を持ち上げる)
・INPUT1-2 : そのローゲイン仕様
・INPUT2-1 : ややゲインを上げ、ハイパスを強めに(高域を持ち上げる)
・INPUT2-2 : そのローゲイン仕様
・トレモロは使わないのでトレモロ回路は分離させる(トレモロ・バイパス時にもトレモロ回路からのノイズが混入するため)
上記のチューニングにより、さらに使いやすいアンプに仕上がっています。しかしながら、もともとのNARB が持っていた回路特性やキャラクターを変更するような手の入れ方はしておりません。インプット付近を少しだけモディファイしているだけです。
また、筆者が本機を手に入れた時点で、以前のオーナーにより改造が施されていました。細かい点で言えば、電源ソケットもバルジンの円形から、近年のモノにリプレイスされています。また、電圧切り替え、インピーダンス切り替えのピン・コネクターもロータリー式に交換されています。こういった実用的なパーツ交換はコレクター的には「許せない!」というものかもしれませんが、90年代後半にこの個体に施されたこれらの変更は、実際にビンテージ・アンプを使用する当時のミュージシャンにとっては必須のものだったのかもしれません。まぁ、ロータリー・スイッチのツマミはルックス的に交換した方が良さそうですが……(笑)。
というわけで、今回のDeeper’s Viewでは(ブランド・ロゴ・パネルこそ交換されてしまっていますが)マーシャルメイドの「NARB」という珍しいアンプをご紹介しました。
基本的には1960年代後半のプレキシのサウンドを持っています。前回の“BLACK FLAG”と併せてビンテージ・マーシャル・サウンドのサンプルとしては良いコンディションの個体であり、良質なサウンドを持っていると思います。
ところで、今回のアンプをメンテナンスしてくれた某氏が、かなり素晴らしいマーシャル・コレクションを持っていらっしゃいます。なかなかお目にかかれない貴重なアンプもゴロゴロしていました。機会があればDeeper’s Viewでご紹介させていただきたいと企んでおります。もちろん……すでに交渉中です。
最後に。プレキシばかりでなく、アルミ・パネルのビンテージ・マーシャルにも、素晴らしい個体はたくさんございます。70年代だけでなく、80年代にも。もちろん、現行品にも。そのあたりも含め、今後さらにいろいろなサウンドをご紹介できるかもしれません。お楽しみに。