AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Unique Synthesizer
プロ・ミュージシャンの試奏やレビューを通して注目機種を紹介するキーボード購入ガイド。4つのキーボード・カテゴリに分けて紹介していく2020年版、最後のキーボード・カテゴリは、ズバリ【個性派シンセサイザー】。話題のセミモジュラー・シンセを始め、操作性やサウンド面で個性的な特徴を備えた4機種をフィーチャーします!
小型のセミモジュラー・シンセ、Grandmotherの発表から約1年。今度はより本格的な4音パラフォニックのアナログ・シンセ、モーグMatriarchの登場だ。“Matriarch”……一体何と発音するのだろう? そもそも、何という意味なのだろう。辞書を引くと“女家長・女族長”とある。なかなか馴染みのない言葉だが、海外の動画サイトを見ると発音は“マトリアーク”あるいは“メイトリアーク”。さて、構成をチェックしてみよう。
4オクターブ49鍵を持ち、カラフルに色分けされたパネルは左からアルペジエーター/シーケンサー・セクション、モジュレーション・セクション、ユーティリティ・セクション1、オシレーター・セクション、ミキサー・セクション、フィルター・セクション、ユーティリティ・セクション2、エンベロープ・セクション、ステレオ・ディレイ、アウトプット・セクションと、信号の流れに沿った形で並んだ王道のレイアウト。“セミモジュラー・シンセ”なので、パッチ・ケーブルをつながなくても内部で基本的なルーティングがされており、その状態でも一般的なアナログ・シンセに対して音作りの自由度で劣るということは全くない。写真で見た時はGrandmother同様、良い意味でチープなデザイン、昔のSonic Sixみたいだ……と思っていたが実物はなかなか魅力的。筐体の軽さも嬉しい。
パラフォニックとは一体どういうことかな?と思う人もいるかと思うが、Matriarchの場合はアウトプット・セクションに1、2、4とボイスの切り替えスイッチが付いており、4つのオシレーターの使い分けがシンプルにできるシステムだ(モノフォニック4ユニゾン、デュオフォニック2ユニゾン、4音ポリシングル)。
オシレーターはシンプルな4波形。4ボイスすべてが同じ機能を持ち、それぞれがシンク可能だ。素の音色がさすがモーグ、明瞭でシンセサイザーらしい太い音である。また、肝心のパッチ・ジャックはPITCH IN、WAVE OUT、PWM IN、LIN FM INの4つを装備。すべて個別に外からリニアFM変調がかけられるのはなかなか贅沢な仕様だと思う。
次にフィルターだが、特筆すべきなのは、パネル上で見ると1つのフィルターのように見えるのだが、実は2つのフィルターを持っていることだろう。切り替えは3種類。ハイパスとローパスの直列、ハイパスとローパスの並列、そして面白いのがローパス2つの“ステレオ”だ。レゾナンスの1と2はそれぞれ個別に効き、もちろん自己発振も可能。そして、SPACINGというパラメーターで2つのフィルターの“差”を設定するという仕様だ。なので、エンベロープを駆使するとフィルター・セクションだけでかなり複雑で空間的な広がりのある音作りをすることができる。2つのピークを持つうねりがステレオで、エンベロープでグイグイ動かせるのは魅力的! また、パッチ・ケーブルをつなぐことで2つのフィルターを完全に独立してルーティングすることも可能だ。
そして、内蔵ディレイもかなり贅沢な仕様。なんとこれも2つの独立したアナログ・ディレイを搭載しているのだ。TIME、FEEDBACK、MIXは基本的なパラメーターだが、それに加えてフィルター・セクションと同様、SPACINGというノブで2つのディレイ・タイムの“差”を設定することができる。また、ディレイの音質が絶妙で、かつてラインナップされていたモーグ製のストンプ・ボックス、Moogerfoogerシリーズのアナログ・ディレイを彷彿させる素晴らしい出来だ。また、SYNC/TAP、PING PONGという2つのボタンが非常に便利! もちろんSYNCはアルペジエーター/シーケンサーとの同期だが、ディレイ・タイムが変わる瞬間にキッチリ切り替わるのではなくツマミをグイッと回したような追従の仕方をするので効果満点! またPING PONGは押した瞬間にディレイ音が左右交互に振り分けられるのでステレオ音場ではこれまた効果絶大である。そして、このディレイにもそれぞれ独立のINPUT、TIMEのコントロール、フィードバックのCVなどが外部からパッチ可能だ。シーケンスを走らせながらこの辺りでいろいろ手を入れてやると、絶妙な広がり感や揺らぎからカオスな世界まで自由自在な音作りができる。正直なところ、筆者の手元にある間、このディレイで遊ぶだけでかなりの時間を費やしてしまった。
2つのユーティリティ・セクションは、パッチ・ケーブルを使わない状態では結線されていない。しかし、マルチプル・ジャックやアッテネーター、独立した追加のLFOなど、実際にモジュラー・シンセを組む過程で必要になってくる、地味だが必要なものが最初から装備されているという感じでありがたい。
鍵盤左手側にはお約束のベンドとモジュレーションの2つのホイール、GLIDE(ポルタメント)ノブ、そしてシーケンサー・コントロール用のボタンがあるので、どんなパフォーマンスでも使いやすいだろう。また、アルペジエーター/シーケンサー・セクションはその真上なので、コントロールの連携もしやすく、つくづく良く練られたレイアウトだなあと感心せざるを得ない。発音数に余裕があると言うほどではないが、シーケンスを走らせながらの手弾きもしやすい。
さて、そもそもセミモジュラー・シンセとは一体何だろうか? ズバリ言ってしまえば“モジュラー・シンセとほぼ同様の自由度を持ちつつ、自己完結したシンセ”のことだ。筆者はある意味、このセミモジュラー・シンセで育ってきた部分もあるので、その良さが分かっているつもりなのだが……。純粋なモジュラー・シンセ・ファンからしたら、1つのパッケージにまとまっているセミモジュラー・シンセというのは“普通の楽器”に思えて、魅力に乏しいのかもしれない。しかし反面、リアルなモジュラー・シンセというものはどっぷりハマってしまえる才能がある人以外にとっては意外と早くに壁が訪れる。1つの音を作り上げるのが“大変”だからだ。
良くできたセミモジュラー・シンセというのは、すべてのパフォーマンスがやりやすい。音楽的なプレイにもきちんと付いて来てくれるし、練りに練った複雑な音を作り上げるにしても、リアルなモジュラー・シンセの半分以下のパッチングで済んでしまう。それでいて、拡張性に富んでいるので、足りないモジュールが出てきたら買い足していけば良い。Matriarchは、スタート地点として非常に優秀な“精鋭部隊”のモジュールを即使用可能な状態でパッケージしてある、理想的な状態だとも言えるだろう。しかも、素質はモーグの“音楽的な”サウンドを生かしたままで、である。
ただ、だからと言ってMatriarchがイージーなシンセだと言うつもりは毛頭ない。音色のメモリーはできないし(パッチ・ケーブルを使用したら当たり前だが)、4つのオシレーターのチューニングをそろえるのも、慣れるまではちょっと時間がかかるだろう。でも、だからこそ初心者にチャレンジして味わってほしいと思うのである。ベテランの皆さんは私のレビューなぞ読まずに早く買いに行きましょう。
(文:飯野竜彦)
小型ポリフォニック・アナログ・シンセサイザーとして人気があったMinilogueを各方面から大幅にアップデートしたMinilogue xd。場所を取らないサイズながらもそのサウンド、操作性の良さは特筆すべきものがある。ツマミやスイッチなどの配置は一般的なアナログ・シンセの基本構成を踏襲しているので、初心者でも音作りはしやすいだろう。外部機器と接続のためのインターフェースもUSB、MIDI(5DIN)、CV/GATEと、PCからモジュラー・シンセまでどんな制作・演奏環境でも使えるような仕様になっている。
昨今、アナログ・シンセは各社よりたくさん発表されているが、ポリフォニック・アナログ・シンセとなると選択肢はかなり少なくなる。まして、この価格帯となるとMinilogue xdのアドバンテージはとても大きい。4音ポリフォニックと発音数は少なめだが、このサイズ感で、片手で演奏することも多いと考えればちょうど良いのではないかと思う。まさにバランスの良い小型シンセサイザーだ。
さて、肝心なサウンドだが、2つのアナログ・オシレーターに、3つ目のオシレーターとなるMULTI ENGINE(デジタル・オシレーター)が加わる。ここに搭載されたVPMオシレーターと呼ばれるセクションでは金属的、FM的な倍音を多く含んだサウンドが作り込める。ほかに、ユーザーが自作した波形、またはサード・パーティー製の波形を6つ格納できるスロットを持つ。基本構造はアナログ・シンセであるものの、デジタル・オシレーターが加わることで、音作りの幅がかなり広がっている。また、アナログ・オシレーターとMULTI ENGINEは独立してフィルターを通すことができるので、2台のシンセをレイヤーさせたような音を作ることも可能だ。
また、LFO機能も充実している。パーカッシブなサウンドを作るのに適している“1-SHOT”モードや、楽曲のテンポに合わせて周波数が変化する“BPM”モードに設定して、シーケンスを走らせながら変化させると、とても良い具合にモジュレーション効果が出る。波形はノコギリ波、三角波、矩形波と基本的なものがそろっていて、モジュレーション先をPITCH、SHAPE、CUTOFFの3種類から選ぶシンプルなシグナル・フローなので、音作りはしやすいだろう。
個人的にMinilogue xdのサウンド面で評価したい点は2ポールのローパス・フィルターだ。レゾナンスを上げていく際、生じる発振音をコントロールできる範囲が大きく、過激にもソフトにも柔軟に発振サウンドのセッティングができるのだ。その際にレゾナンス量によって音痩せすることもないので、演奏中や制作中にフィルター・コントロールで音量の変化に気を遣うこともない。
本機の1番の特徴とも言えるのが、ポリフォニック対応のステップ・シーケンサーだ。これは単なる16ステップのシーケンサーではなく、各ステップに4つまでのパラメーターの動きを併せて記録する“モーション・シーケンス”機能が搭載されている。すなわちシーケンスに複雑な音の変化が付け加えられるのだ。この機能を活用すると、パネル上にあるツマミやスイッチのほとんどにオートメーションを付けられるので、予期せぬカッコいいシーケンスが生まれることがよくある。また、ステップ・レングスを長く取るとアルペジエーターをシーケンスに記録できるので、16ステップとは思えない長いフレーズを作ることも可能だ。しかも、エフェクトのパラメーター変化もプログラムすることができるので、動きのあるダイナミックなシーケンスが組めるのも特徴だ。試行錯誤することで、これまでのステップ・シーケンサーと一線を画すフレージングができるのがMinilogue xdの面白いところである。本機にはプリセットが200種類用意されているが、そのすべてにシーケンス・データもプログラムされているので、試奏すればそのバリエーションの幅広さにすぐ気付くだろう。筆者もこのステップ・シーケンサーの面白さにハマり、購入に至った。
プリセットのほか、ユーザー・エリアには300種類のプログラムが記録できるので、プログラムしたサウンドはどんどん保存することを勧める。また、作った音色データ、ユーザー・オシレーター、ユーザー・エフェクトは、“Sound Librarian”という無料のPCソフトウェアを介して、ファイルとして保存できる。音色管理もとても簡単で便利だ。
エフェクトは、モジュレーション系が4タイプ、空間系が10タイプ、ディレイが12タイプと充実しているので、うまく組み合わせればカッコいいサウンドが作れるだろう。そしてエフェクト・プログラムにもユーザー・エリアを持つので、自作またはサード・パーティー製のエフェクトを記録することも可能である。
そして、ユニークなのがジョイスティックのY方向、つまり上下2方向に好きなパラメーターを別々にアサインできる機能だ。一般的にこのようなジョイスティックのX軸はピッチベンド、Y軸はモジュレーションとなることが多いが、Minilogue xdは29種類ものパラメーターから自由に選んでY方向にアサインできるのだ。これを活用することで今までとは違った演奏方法を探ってもらいたい。
さて、こういった小型シンセサイザーには珍しくマイクロ・チューニング機能が搭載されているのも見逃せない。プリセットが23種類、ユーザー・エリアで6種類の設定ができる。しかもこの機能はプログラムごとに設定することができ、プログラムを変更した際には同時にスケールも変更されるので、ライブでの使用にもありがたい機能だ。マイクロ・チューニング機能とは言えど、実は細かいピッチの調整をするだけでなく、好きな鍵盤に好きな音程をアサイン可能なので、どこを弾いてもミスタッチのないスケールを組むのも面白いだろう。
また、有機ELディスプレイは演奏時にはオシロスコープの役割を果たす。当初、この機能は波形の見た目を楽しむ程度のものと考えていたが、長い間見ていると、聴いているサウンドがどんな波形か、だんだん想像できるようになってくる。時に波形とサウンドの相関関係が視覚的に理解できるわけだ。そうすると、視覚的な情報から音作りができるようになるのも面白い。例えば、SYNCサウンドを作る際には、波形がどうやってSYNCしているのか、どんな波形をモジュレーションさせたら良いのか、どのくらいのピッチが効果的なのかが視覚的に分かることで、論理的な音作りができるようになる。数時間触っていると、誰でもその波形表示から得られる面白さが分かるだろう。個人的な見解ではあるが、波形の変化とパラメーターの動きを視覚的に理解できると、音作りも早くなるように感じた。
小型アナログ・シンセサイザーは多数発売されているが、価格面や機能面からも考えて“バランスの取れたシンセサイザーは何か?”と問われれば、間違いなくMinilogue xdを勧める。
最後に、これはシンセの機能とは関係ないが、電源を入れてオート・チューニングが機能している時に任意のノブを触るとシューティング・ゲームが始まる。そんな遊び心もこのMinilogue xdの魅力でもある。
(文:江夏正晃[marimoRECORDS/FILTER KYODAI])
発売以来、異彩なシンセとして話題となっているMircoFreak。盛り上がりを見せているモジュラーやマシン・ライブのシーンで見かけることも増え、気になっている人も多いのではないだろうか。そんな本機をじっくり見ていくその前に、まずは歴史的にどのような位置付けとなるシンセなのかを紐解いておきたい。ここが実は重要なのだ。シンセはモーグに代表される東海岸系と、ブックラに代表される西海岸系とに大きく分類することができる。両者の違いを簡潔に説明するならば、前者はVCFによる減算方式の音色合成と伝統的な音楽スタイル、後者はウェーブ・シェイピングなどによる複雑な倍音を生み出す音色合成と非伝統的な音楽スタイルといったところだろう。よって馴染みのある往年のシンセの多くは東海岸系と言えるのだが、近年では米メイク・ノイズ社の成功が象徴するように個性的な音を生み出せる西海岸系が再び脚光を浴びているのだ。
それではMicroFreakを見ていこう。ブックラを彷彿させるプリント基板むき出しのキーボード部からも伺い知れるように、本機をずばり言えば西海岸系の哲学を受け継いだシンセだ。それゆえ東海岸系の視点では本機の魅力を十分にとらえきれないし、異彩な本機を理解する上で西海岸系という視点がヒントを与えてくれるだろう。
本機のデジタル・オシレーターは自社開発の音源タイプ4種に、人気モジュラー・メーカーである仏ミュータブル・インストゥルメンツ社の音源Plaitsのソース・コードを元に開発された7種を加えた、計11種もの音源タイプを内蔵している。これらはそれぞれオシレーター部のみでダイナミックな音色変化を生み出すことができ、ポップな音から奇抜な音まで簡単な操作で作り出せる。
アナログ・フィルター部はオーバーハイムSEMをベースに開発されたもので、LPF/HPF/BPFを切り替え可能だ。−12db/octという扱いやすくシルキーな特性を持っており、レゾナンスを発振させても出力が安定しているので、ライブでもガンガン使っていけるだろう。
エンベロープ部はタイプ違いで2系統用意されている。CYCLING ENVELOPEはパラメーターがRISE、FALLという表記になっており、エンベロープのカーブをユーザーが自在に変更できる。またLFOとして機能させるループ・モードも備えている。こうした辺りもまさに西海岸系だろう。もう1つのENVELOPEはフィルターとアンプを同時に割り当て可能で、ディケイとリリースを1つのツマミで兼用するタイプとなっている。これが実用的で、例えばシーケンスさせた音色のゲート感を変化させたい時には、このツマミを片手でサッと回すだけで簡単にできるのだ。
モジュレーション・マトリクスには5つのソースに対して、そして3つのユーザー設定を含む7つのデスティネーションが用意されており、モジュラー・シンセのような内部接続の自由度を持つ。しかもユーザー設定の方法は上部の小さなボタンを押しながら目的のツマミを回すだけという容易さである。設定によってはEMS Synthiのような循環ルーティングも作れるなど、本機の摩訶不思議な音作りの核と言えよう。
アルペジエーターや、各音色ごとに最大64ステップ×2パターンを保存できるシーケンサーも搭載されている。再生時にスパイス&ダイス機能を使ってフレーズを変化させたり、Utilityページから再生を止めずステップ数を変更することもできるので即興での変拍子プレイも可能だ。そのほかアルペジエーターで偶然生まれたフレーズをシーケンサーへ登録できるなど、曲のスケッチやライブに応用できる機能もある。
さりげなく使い勝手が良いのがHOLDボタンだ。キーボードから指を離しても弾いた音を持続させるボタンで、4音パラフォニックを生かしてドローン演奏しつつツマミを動かし音色を変化させるといったテクスチャーもお手の物となるのだ。外部との連携もUSBやMIDI、CV/Gate/Mod OUT、Clock IN/OUTと充実しているので、幅広い環境で活用できるだろう。
駆け足で見てきたが、少し慣れてくると簡単な操作で細やかに使いこなせるほどユーザビリティが洗練されており、楽曲やライブでプラスアルファなスパイスを求める時に真価を発揮することだろう。ぜひ、本機を体験してほしい。
(文:西田彩ゾンビ)
1970年代にストリングス・アンサンブル・サウンドの再現を目指し登場した数々のストリングス・シンセサイザーは、昨今の大容量サンプルを用いたオーケストラ音源はもちろん、PCM音源ともまるで違う幻想的で哀愁の漂う独特なサウンドが特徴。1980年代にポリフォニック・シンセサイザーが登場して以降ストリングス・シンセサイザーはしばらく途絶えていたが、“Streichfett”というコンパクトなデスクトップ・モジュールでウォルドルフがハードウェアとして蘇らせた。それをさらに拡張し強力なボコーダーを搭載した鍵盤付きモデルがSTVCだ。
STVCのサウンドは、まだポリフォニックなシンセサイザーが現実的ではない時代に当時の電子オルガンの発音方式に極端なEQやエンベロープを組み合わせ、さらにアンサンブルの豪華さを表現するために複数のディレイとLFOを組み合わせたアンサンブル・エフェクトやコーラス、フェイザーなどを駆使したあの独特な魅力を再現している。その上、プリセットにはそういった典型的な音色以外に、後述するモジュレーション機能を使用したSTVCの可能性を広く知ることができるようなものも多く含まれている。
STVCは完全ポリフォニックのストリングス・セクションとソロ・セクションとで構成されている。ソロ・セクションはレイヤーしてストリングスを補ったり、スプリットしてストリングスと別のサウンドを弾き分けられ、そのミックス・バランスは操作パネル中央付近のBalanceツマミで調整できる。
パネル上のツマミは基本的に単一機能で、音の立ち上がりや余韻をコントロールするエンベロープとエフェクトなどを除くと音の印象を決めるのは各セクション内の1つのツマミのみ。1番大きなツマミはストリングス・セクションのRegistrationで、ViolinやViola、CelloのほかBrass、Organ、Choirまで連続可変する。例によってこれは文字から想像する生楽器のような音ではなく、極端なEQとそのバランス調整によって得られる独特のサウンドで、連続的に絶妙な変化をする中でさまざまな音色を見付けることができる。
エフェクトはソロ側にTremolo、ストリングス側にEnsembleが搭載されているほか、Animate、Phaser、Reverbがあり、すべて同時に使用することが可能となっている。Animateは後がけのエフェクトというよりはRegistrationパラメーターをLFOでランダムにモジュレーションする機能となっている。
基本的な音作りはパネル上のツマミで完結するが、Tweakボタンを押すとさらに液晶画面上で5系統のバーチャル・パッチが組めるようになっている。モジュレーション・ソースには前述のAnimate用のLFOや個別のランダム波形なども使用可能。ここで一部パラメーターの上書きも行えるため、ソロ・セクションでMonoを選択した時のポルタメント・タイムなども実は自由に設定できる。
もう1つのメイン機能がボコーダーだ。グースネック・マイクも付属しており、VOCODERボタンを押すだけで使用できる。前述のRegistrationツマミを使用してフォルマントやノイズの混ざり具合などが調整でき、多彩なボコーダー・サウンドが1つのツマミで得られる。もちろんEnsembleエフェクトも使用可能だ。
また最長20秒程度フィルター係数を記録し再生できるFreezeボタンも搭載されており、音程を変更してもフレーズの長さ(速さ)が変わらないため、一旦言葉を記録すれば鍵盤を押さえるだけでさまざまなコーラス・フレーズなどを作り出すことができる。また、この機能を使えば実際に自分の声を入力したのと同じ条件で客観的に音作りに集中することができる。
もちろん筐体や鍵盤の物理的大きさで消費電力が決まるわけではないのだが、金属製のしっかりとしたボディのこのSTVC、実はUSB電源で駆動するのだ。ということはモバイル・バッテリーでも駆動可能で、これは意外とライブ派の人には朗報なのではないだろうか。MIDI端子も装備されているし本体右側のスペースには電池駆動のアナログ・シンセ・ガジェットがちょうど置けそうな空間もある。
(文:Yasushi.K)
本記事は、リットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2020年 WINTER』の記事を転載したものです。誌面では石毛輝、井上惇志へのインタビュー記事も掲載、各人のキーボード選びのポイントも紹介していますので、参考にしてみてください。
本号の特集では、“響く、ピアノ We need PIANO”と題して、日本のポピュラー音楽のピアノ・サウンドを検証。単体もしくはオーケストラとともに鳴らすピアノが、なぜポピュラー・ミュージックに採り入れられるようになったのか。日本の音楽に焦点を当てその経緯を探るとともに、ミュージシャンたちがそのサウンドをどのように響かせてきたかを検証します。ぜひ手に取ってチェックしてください!
価格:¥284,000 (税別)
価格:¥69,000 (税別)
価格:¥40,000 (税別)
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