AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
High-end Synthesizer
プロ・ミュージシャンの試奏やレビューを通して注目機種を紹介するキーボード購入ガイド。4つのキーボード・カテゴリに分けて紹介していく2020年版、続いてのキーボード・カテゴリは、憧れの【ハイエンド・シンセサイザー】です。今回もキーボード・マガジン2020年冬号の巻頭特集「響く、ピアノ」と連動して、一部紹介機種の“ピアノ・サウンド”にも注目。ハイエンド・シンセならではのリッチなサウンドに期待が高まります。
モーグのポリシンセ(パラフォニックは除く)としては、恐らく1982年発売の“Memorymoog”以来37年ぶりに登場した16音ポリシンセ“Moog One”(以下本機)。圧倒的存在感のエクステリアにはMemorymoogが憑依しているかのようだ。早速16音ポリ仕様を前提にサウンドや操作性などをレビューしてみよう。
クラシカルなツマミ類、アッシュ材や削り出しアルミの贅沢かつ重厚な外観に対して、中央には精細なカラー液晶、左にはEL液晶による波形表示部を搭載する。自動車で言うところの“インフォテインメント”のような、娯楽性の高さと情報提供量の多さを兼ね備えた、今までのモーグ製品にはなかったスタイルだ。時代に乗った小気味よいアップデート感は、最新のポルシェ911カレラのようでワクワクさせられる。
音源部は新開発された三角波コアVCOを3基搭載、オシレーターごとに波形アングルを変化させた音と、パルス・ワイズさせた音を同時発生&ミックスすることが可能で、オシレーター2、3は個別にハード・シンクもOK、強烈にエッジ感のあるサウンドが楽しめる。
VCFはモーグ伝統のラダー・タイプとステート・バリアブル・フィルター(SVF)を独立して搭載。個別に動作させることも、リンク・ボタンで同時可変もOKだ。
“ドミソのほかに違う音が鳴っている”。本機のアトモスフィア系プリセットを弾くとそんなイメージが舞い降りる。マトリックス・モジュレーション、4基のLFO、3基のEG、リング・モジュレーション、FMなど、さまざまなパッチングを駆使したポリフォニック・サウンドは、時間軸とともにさまざまなテクスチャーで彩られ、太く深く厚くオーガニックだ。
本機のことを“16台のMinimoogを内蔵しているようだ”と表現する人もいるかもしれないが、個人的には“いかに16音ポリで破綻のない美しいモーグ・サウンドを構築させるか”にフォーカスし開発されたと思う。音圧も存在感もすごい単音を、16音発生させても何ら問題はなく、当然だがリミッター感を微塵も感じない。ホールドさせて16和音を弾いてもスピーカーのバスレフからは安定した心地良い風が吹いてくる。飽和しない低域の重厚さに高揚する瞬間だ。
膨大なプリセット群も秀逸だ。液晶部ブラウザーのカテゴリー・サーチでスピーディーに選択可能なその数は何と千単位、そこから“パフォーマンス・セット”として任意の64種(最大128種)を右下のバンク・ボタンにアサインできる。ライブでの使用も前提に置いているのが好印象だ。当時のモーグ・モジュラー、いわゆる“タンス”のサウンドを彷彿させるアルペジエーター、Minimoog譲りの地を揺さぶるベース、1980年代を風靡したブラス・サウンド、波形むき出し感のあるリード、SFシネマチックなパッドなど、バラエティ豊富な音色を内蔵。まさにモーグ社の歴史をすべてこの1台に密封したかのような“合成魂”を感じるプリセットばかりだ。パンニングも凝っており、ステレオ感満載のワイドな音像に包まれると恍惚とする。
さらに3ティンバー・モードにより3種のプログラムを同時再生可能で、ティンバーのMIDIチャンネル可変により外部シーケンスからの楽曲制作にも威力を発揮する。豪勢な和音構成の音楽を1台のモーグで完結できるとはまさにドリーム・マシンだ。
高速CPUを持つOSを内蔵しており、司令塔であるセンター部では、カラー液晶を中心に4個のセレクト・ボタンと4個のロータリー・ツマミ、そしてプッシュ機能も持つマスター・ツマミを搭載する。ワークステーション的な操作性で速やかなエディットが可能だ。
マトリックス・モジュレーションを管理する“MOD”ボタンも重要だ。MODモードの液晶部でモジュレーションの追加、ディスティネーションやコントローラーの指定などのパッチングがほぼ完結する。また各LFOの“DEST”ボタンを押し、任意のツマミを回してのパッチングも可能だ。同様に下部のエクスプレッション・アサイン部も、各種コントローラーとカットオフなどのパラメーターを直接パッチング可能で、モーグ製品ならではの複雑なモジュレーションがとてもスピーディーに構築できる。
各セクション右上には三角状の“MORE”ボタンを搭載。これらはセクションごとの別階層を液晶表示させるボタンで、それぞれのツマミの現状数値や、そこでしか変更できないパラメーターなど、セクション全体を一気に見渡せるシステムだ。精細な液晶の視認性も抜群で、例えばVCF部のMOREボタンを押すと、2種フィルターのカーブが描画され、カットオフ/レゾナンス/ミックス・ツマミと連携してカーブが変化し、耳と目でフィルタリングを同時認識できる。またエディット中の状態を記憶させるスナップショット機能も便利。いつでも過去の状態に戻ることが可能だ(電源オフでも記憶)。
このMOREボタンを含む本機の合理的なエディット方法はまさに“目から鱗”的に革新的であり、マニュアルなしでもほとんどの機能は理解できるかと思う。何よりサウンド・メイキングへの深い没入感が次々と創造力を高めてくれるに違いない。
ポリフォニー・セクションのMOREボタンから、ユニゾン・モード時の発音数、プログラムの同時発音数などを設定することができる。これは各ティンバーの発音数を管理する上で大変有効な機能で、例えば16ポリ仕様の場合、ティンバー1のシーケンス系は4ポリ、ティンバー2のパッドは7ポリ、ティンバー3のブラスは5ポリと設定すれば、EGのリリースをうまく残しつつ次の和音を再生してくれるので、アレンジやライブ時でも無駄な発音や音切れに悩むこともなくなるわけだ。さらにモノ/ユニゾン・モードでの最大48オシレーターのファットなリード・サウンドも超弩級だ。デチューン・ノブもかなり使える。
ファタール製TP-8S鍵盤はやや重めのタッチでベロシティ感度もダイナミックだ。減衰系プリセットの表現力も抜群に良く、ベロシティに対するフィルターのヌケ感も相まって、従来のモーグや他社製アナログ・シンセとは違うアコースティックなフィールで演奏できる。
イーブンタイド製リバーブは、デジタル臭くなく音源とリバーブの境目が分からないほど融合しており、特にロング・リバーブは幽玄かつファンタジーな世界観を加味してくれる。またフェイザーはモーグのMF-103をエミュレートしたものだ。
リア・パネルには4つのインサートがあり、3ティンバーごとにコンプレッサーなどの外部ハードウェアとの接続が可能な上、XLRマイク入力から16バンド・ボコーダーとしても機能するのも大変興味深い。
温故知新という言葉では陳腐に思えるほどに熟成度の高いMoog Oneは、まさに唯一無二のフラッグシップ。インテリジェントかつシームレスに連携する操作性と、モーグ最高峰のポリフォニック・サウンドが、琴線に触れる極上のリアル・アナログ・ワールドを与えてくれるに違いない。チェロなどのアコースティック楽器との融和性も高く、映画やアニメなど映像に寄り添うような魂の込もったサウンドトラックにも最適だろう。
(文:近藤昭雄)
ウォルドルフは、ドイツの名門シンセサイザー・メーカー。デジタル初期の名シンセサイザーPPGのディストリビューターから始まり、1989年にはPPG Waveシリーズの音源方式を継承したMicro Waveを発売、以後も精力的に新製品をリリースし続けている。そんなウォルドルフの最新モデルが、Quantum。最新技術満載の超ド級ハイブリッド・シンセサイザーだ。
Quantumは、とてもカッコいい。磨き上げられた美しいデザインは、そこに置いてあるだけでも目が吸い寄せられるようなオーラがある。また、アルミ・フレームを大胆に使ったボディ・ワークはクールであるとともに、セッティングの容易さにも貢献している。パネル面には、パラメーターにダイレクト・アクセスできる多数のツマミとマルチ・カラーLEDが並び、中央には大型のタッチ・ディスプレイを装備。オールドスクールなツマミを使った音作りはもちろん、タッチ・ディスプレイによるソフト・シンセ的な操作、波形やエンベロープをグラフィカルに確認しながらのエディットも快適だ。艶消しダーク・グレイのパネルと、カラフルな発光部分の対比が美しくステージ映えも抜群だ。
音源構成は、3デジタル・オシレーター、2アナログ・フィルター、1デジタル・フォーマー(デジタル・フィルター)、6エンベロープ、6LFO、1コンプレックス・モジュレーター、5系統エフェクト+コンプレッサーと超強力だが、操作性が良くエディットも簡単だ。
Quantumの最大の特徴は、4モードのデジタル・オシレーターだろう。1番目のモードは、PPG直系のウェーブテーブル・ジェネレーター。ウェーブテーブルは、変化するひと連なりの波形で、読み出すポイントをエンベロープやLFOでモジュレーションできるのがキモ。エアリーやグラッシーな質感、スウィープやモーフィングのようなオーガニックな変化が作り出せる。85種類のウェーブテーブルがプリセットされユーザー・プリセットも可能だ。
2番目のモードは、ウェーブフォーム・オシレーター。オーソドックスなシンセサイザーのようにノコギリ波や矩形波、ノイズ波形などを作り出す。サウンドはファットかつ滑らかで、デジタル的な細さはない。素晴らしいのは、1オシレーターで最大8オシレーターまでのデチューン・サウンドが作り出せるところで、SuperSawのようなEDM定番サウンドも1オシレーターで可能だ。さらに8つのオシレーターは2つずつペアで、上下1オクターブまで任意のピッチにも設定でき、サブ・オシレーターを使った重低音ベースや、オルガンのドローバー・サウンドも作成できる。また、1オシレーターでシンク・モジュレーションが可能なのも秀逸で、シンセ・リードのような攻撃的なサウンドを簡単に作成できる。
3番目のモードは、パーティクル・ジェネレーター。これは1種のサンプル・プレイヤーで、プリセットのマルチ・サンプルやユーザー・サンプルを演奏可能。さらに、それらを元にした高度なグラニュラー・シンセシスが行える。これは、サンプルを短い粒(グレイン)に切り分け、ループしたり並べ替えたりして新たな波形を作りだすシンセシス。こうして言葉にすると分かりにくいかもしれないが、Quantumでは明快なグラフィックと豊富なツマミで、楽しみながら音作りが行える。
4番目のモードは、ユニークなレゾネーター。豊富な帯域を含むインパルス・レスポンス・データ(またはユーザー・サンプル)に高性能なバンドパス・フィルターを通し、共鳴させて、必要な倍音だけを取り出す仕組み。金属質な打撃音などを簡単に作成できる。
これら4つのモードには、それぞれオシレーターだけで波形や倍音を変化させたり、歪ませたりする機能があり、ウエストコースト的なフィルターに頼らないシンセシスや、アナログ的な揺らぎ、初期デジタル的なダーティーな音色も作成できる。さらに、各モードにプリセット設定が用意され、それらをロードして効率よく音作りが行える。もちろんユーザー・プリセットも可能だ。
もう1つの大きな特徴が、フィルター・セクションだ。フィルターには、往年のPPG Waveシリーズのように、アナログ・ローパス・フィルターを装備。12dB/octもしくは24dB/octにスロープが切り換えられる上、フィルターでの歪み具合を3段階から選択可能。さらに、2系統パラレル使用することもできる。効き味にはアナログらしい揺らぎがあり、過激に歪ませると予測不能な挙動になるのが楽しい。また、レゾナンスは自己発振するまで上げられるが、低域は減らないのでシンセ・ベースなどでも威力を発揮する。
デジタル・フォーマーは、さまざまなデジタル処理が可能なユニット。ここには、ローパスだけでなく、ハイパス、ノッチなどのフィルターやビット・クラッシャーなどを23種類から選択して使用できる。フィルターは、PPG WaveシリーズからNaveまで歴代の機種のスタイルを網羅。ビット・クラッシャーもビットだけでなくレートも落とせるなど、非常に高機能だ。
アナログ・フィルター、デジタル・フォーマーは、直列、並列、前後の関係を自由に設定可能。また、3基のオシレーターは、デジタル・フィルターとデジタル・フォーマーにさまざまな割合で分配することも、両方をパスして直接出力することもできる。この辺りの自由度の高さはモジュラー・シンセに近い。
モジュレーション・ルーティングも、モジュラー・シンセ並みの自由度を持っている。しかも方法は非常に簡単だ。モジュレーション・ボタンを押すと、モジュレーション先(ディスティネーション)候補のツマミ下のLEDが青く光り、ツマミを回すと選択される。すると、今度はモジュレーション元の候補になるツマミのLEDが黄色く光るので、ツマミを回してモジュレーションの深さ(アマウント)を設定する。これで、ルーティングとセッティングは完了だ。
モジュレーション先には、通常のピッチやカットオフなどのほか、エンベロープやLFOのパラメーターも選択可能。モジュレーション元には、定番のエンベロープやLFOのほか、独自のコンプレックス・モジュレーターも用意されている。これはLFOの1種だが、波形をユーザー自身が作成でき、しかもそうして作った2種類の波形を好きなように混ぜられる。さらに、タッチ・ディスプレイを使うと詳細なモジュレーションが行え、内蔵シーケンサーやMIDIコントローラーによるモジュレーションも可能だ。
エフェクターも超強力。5基それぞれがフェイザー、コーラス、ディレイ、リバーブ、イコライザーなど8種類に切り替えられ、プリセットも豊富だ。さらに、コンプレッション・ツマミも装備し、回すと最終段にコンプレッサーがかかり、音圧がグッとアップする。ライブで音量を稼ぎたい時などにサクッと使えて実用性が高い。
Quantumは、その名の通り音を粒子化するところまで追求できる高精度のシンセシスが行える。ほとんどのパラメーターには、ツマミのスケールの切り替えがあり、1/100、1/1000といった精密な設定まで追い込める。一方で、豊富なツマミを用いた音作りは初心者にも優しく、プリセットのエディットも容易だ。音質は高級機に相応しいワイドなレンジと音圧を持つとともに、初期デジタル的な荒々しいサウンドも生み出せる。アナログ・フィルターの質感は、決してプラグインでは得られないものだ。あらゆる意味で、現代の最先端、最高峰の1台、ぜひ実際に触ってみてほしい。
(文:高山 博)
ヤマハがフラッグシップ・シンセサイザーとして2016年に送り出したMONTAGE。MOTIF時代から新たに見直し、分解能もアップした“AWM2音源”(波形の容量は実にMOTIFの7倍)とヤマハが誇るFM音源の最進化版である“FM-X音源”(8オペレーター、128音ポリ)のハイブリッドな音源部を持つ。つまり複雑な波形を持ち生楽器などのサウンドを得意とするAWM2音源と、トリッキーなFM音源の良いところを1台に集約している。どちらの音源も弾いてみると非常にクリアでパワフルに感じた。アナログ出力の回路なども見直されたその出音は、MOTIFよりも格段に良くなっているのが実感できる。プリセットに入っているサウンドはどれも丁寧に練られており、さすがのフラッグシップ・モデルと納得させられた。
本機は、進化したハイブリッド音源と、多彩なコントロール・ソースによる“モーション・コントロール”を組み合わせることで、今までのシンセとは一線を画す表現力豊かな機種となっている。“モーション・コントロール”とは“モーション(リズミカルな音変化と多次元な音変化)を生み、その変化をリアルタイムにコントロールする”機能ということだが、多次元な音変化とはどういうことだろうか。音には音量や音色、歪み具合、アタックやサステインなど変化させられる要素がいろいろあり、シンセの基本はそこを変化させることである。さらには違う音同士を合成したり、さまざまなエフェクトやフィルターをかけたり、アルペジエーターやシーケンス・パターンでフレーズ化したりしているのが昨今のシンセ・サウンドだ。そういった変化させられる要素を1つ(一次元的)ではなく同時にいくつも(多次元的に)変化させるというのだ。なるほど演奏しながら同時にいくつものパラメーターやレイヤーされた音色のバランス、あるいはアルペジオ・フレーズなどがどんどん変わればダイナミックな動きのある音が生まれる。本機は躍動感のあるリズミカルな表現や、2つの異なるサウンドをスムーズに行き来させることなど、これまでのシンセとは異なる新たな演奏スタイルに挑戦できるモデルというわけだ。モーション・コントロール機能にはSuper Knob、Motion Sequencer、Envelope Followerなどが用意されている。
Super Knobは1つのノブで複数のパラメーターを1度にコントロールすることができるというもの。演奏しながらシンプルな操作でダイナミックなサウンドの変化やリズムのモーションを変えることができる。いくつものパラメーターが同時に連動して変化する“モーション”は実にダイナミックかつ刺激的である。フット・ペダルを使えば両手での演奏中にもコントロールできる。ほかにもモーションを操作するための機能として、Motion Sequencer(これがまた強力)や、Envelope Follower(入力信号のテンポに同期が可能)などが用意されている。これらのモーション・コントロール機能に加え、8個のロータリー・ツマミ、8本のスライダー、ホイール、ピッチ・ベンド、リボン・コントローラー、10,000を超えるパターンを持つアルペジエーターなどプレイヤビリティーをとことん追求した1台と言える。
MONTAGE6と7には非常に滑らかで弾き心地の良い最上級のFSX鍵盤を採用。MONTAGE8はピアノと同じ感覚で表現が可能な88鍵のバランスドハンマー鍵盤が装備されている。中央には大きなタッチ・スクリーンがあり、さまざまなモードにすぐアプローチすることが可能である。またライブ・セットのモードでは16個の音色がスクリーンに並び、視認性も操作性も良好。音色の切り替え時に、リバーブなども含め音切れすることがない“Seamless Sound Switching機能”を搭載しているのがありがたい。
本機を実際に操作してみたところ、タッチ・スクリーン上で常に操作したいモードに行き来ができる。そのため初めての操作でも分かりやすく感じた。また自照式のスイッチが消灯、半点灯、点灯などで現在の状態やこれからできる操作を表示してくれるのも良い。複雑なアルペジオ・パターンやモーション・シーケンスを駆使したライブの際には“シーン機能”が非常に便利である。本体の左に用意された8つのボタンにアルペジオ・タイプやモーション・シーケンスのタイプ、パートのパラメーター値の設定を記録しておけるので、曲中でAメロ、Bメロ、サビなどシーンの進行に応じてボタンで切り替えればいい。このように1世代前のワークステーション的なシンセから演奏表現に比重が大きくシフトしたのがMONTAGEの最大の特徴と言える。ライブやパフォーマンスで今までよりもはるかにアーティスティックかつ斬新な演奏ができる機種と言えるだろう。
ぶっといシンセ・サウンドからリアルなオーケストラまで極上クオリティの音源がそろう上、モーション・コントロール機能による刺激的なサウンドやリズミカルに変化する音色などを弾いていると、次々と曲やフレーズのアイディアが浮かんでくる。そんな時にMIDIデータをソングとして録音できるのがまた良い。1ソングには16トラックのパートが録音できるので曲のスケッチも可能。アイディアが浮かんだら逃さず即本体にスケッチ。USBフラッシュメモリーを用意すれば本体だけでオーディオ録音も可能だ。また、最大6chイン/32chアウトのオーディオ・インターフェースも内蔵し(192kHzまで対応)、Mac/PCなどにも録音が可能。もちろんiOSデバイスとの接続にも対応している。マスター・キーボードとしての使用もでき、A/Dインプットからのマイクやライン信号を本体のサウンドとミックスして演奏することも可能である。とにかく音の良さと革新性を持つ本機は、新たな音楽表現への情熱とワールドワイドな音楽制作現場の潮流、展望に真摯に向き合って開発されたシンセだと思う。2019年9月には“MONTAGE WH”としてホワイト・モデルがラインナップに加わった。また、OSのバージョンも3.0へとアップデートされ、音色の増加、パターン・シーケンサー機能やSuper Knob Link機能の搭載など、さらなる深い音楽表現が可能になるような進化を遂げた。
MONTAGEにはさまざまなピアノ音色があるが、中でも同社の最高峰グランド・ピアノCFXを丁寧に録音し、入念に調整しながら仕上げられた“CFX”という音色は、非常に繊細なフレーズからダイナミックな表現までを弾き分けることができる。贅沢な波形と分解能の高いそのサウンドをぜひ1度弾いてみていただきたい。ピアノ好きな演奏者を間違いなく本気にさせる最上級のピアノ・サウンドである。もう少しスケール感の小さなS700のサウンドもいい。ほかにもMOTIF、S90などからの使い慣れたFull Concert Grandのサウンドもオケに馴染み使いやすい。アップライト・ピアノのサウンドも多種用意されている。またそれぞれのピアノ・サウンドの音場感を変えたバリエーションも豊富で、プリセットの中にはパッドやエレピなどのサウンドを混ぜた使い方もたくさん提案されている。ピアノはどこまでもピアノらしくというこだわった使い方もいいと思うが、本物のピアノにはできない新たな表現をした方がよりアーティスティックだと筆者は思うがどうだろうか? ピアノとしても使えるシンセをお探しなら間違いなくMONTAGEがお薦めである。
(文:YANCY)
Sequential Prophet XLのコンセプトは“サンプル・プラス・シンセシス・ハイブリッド”。同じ音源を持つ61鍵シンセProphet Xの、セミウェイテッド76鍵バージョンである。同じようにサンプル(PCM)波形を使うといっても、現在マーケットにおいて主流となっているいわゆる“PCMシンセ”とはひと味もふた味も違っていて、そのままでも使える最高品質のマルチ・サンプル波形を、ループ編集/グラニュラー・タイプ・シンセシス(後述)レベルでいじり倒して新しいサウンドを得たり(しかもエディット階層が浅いので扱いやすい)、もはや伝説にまでなっているProphetシリーズのリード音、ベース音、パッド音などとスタックしたりスプリットしたりできるので、まさに新時代を思わせる音を出せるマシンに仕上がっているのだ。
そのサウンドの中低域はまさに厚く、中高域には色気がある。プリセットを次々に弾いていくと、ピアノやパッド的なサウンドではそのままハリウッド映画のサウンドトラックで使えそうな音が次々と飛び出してくるし、ローズ音には実物のMark Iを彷彿させるような厚みがある。ドラム/パーカッション・サンプルとシンセ音のスタック音は、ポストEDMのUS産R&Bトラックのイメージだ。これらの即戦力と言えるサウンドは、150GB SSDに内蔵されているサンプル・ライブラリーを提供しているクリエイター・チーム“8DIO(エイトディーオー)”と、シーケンシャル創始者デイヴ・スミス氏のセンスと技術の賜物だろう。SSDなのでサンプルのロード時間が非常に短いのも嬉しい。
それではProphet XLの装備・機能を見ていこう。本機のパラメーターは数多いが、豊富なツマミ/ボタン類やディスプレイによってほとんどが浅い階層に収まっているので、すべてに手が届きやすい。他機種にあまり見られないサンプル波形操作も含めて、いくつかプログラミング例が日本語訳マニュアルに掲載されているので、音作りはすぐにマスターできるだろう。
セミウェイテッド76鍵の鍵盤タッチは、フルウェイテッドよりは軽いが、オルガンやシンセ・ソロの演奏はもちろん、ピアノ音色を弾いてもある程度以上の弾き応えがあり、絶妙な仕上がりだ。加えてピッチ・ベンド・ホイール、モジュレーション・ホイール、その上に配置されているラッチ・ボタン付きのリボン・コントローラー2機(SLIDER1/2)、豊富なツマミ/ボタン類のすべてをリアルタイム操作して表情豊かに演奏することができる。なお、SAMPLE PLAYBACKとLFOセクションを除いてほとんどがMIDI(USB)CC入出力可能となっている。もちろん細かい音符の演奏は内蔵アルペジエーターやポリフォニック・シーケンサーに任せ、プレイヤーはツマミの操作に集中するのもいい。
本機のシグナル構成は、サンプル・プレイバック・インストゥルメント2機と、単波形及びPWM/SuperSaw用のオシレーター2機を自在にミックスし、4ポール・アナログ・フィルター・セクションに入る。そしてフィルターEG、アンプEGで音の時間的な変化のカーブを作り、LFOやペダルなどと各パラメーターをモジュレーション・マトリクスで結び、2機のデジタル・エフェクトで作り上げた音を出力する仕組みだ。なお、本機は16ボイス・モードと8ボイス・モードに切り替えできるのだが、8ボイス・モード時にはフィルターが左右に分かれる完全ステレオ仕様となる。先のミックス・セクションではレベルだけではなくパンポットも設定できるので、完全ステレオ仕様のフィルターにより、深みのあるステレオ効果が得られる。
サンプル・プレイバック・セクションでは、2機のサンプル・プレイバック・インストゥルメントにそれぞれマルチ・サンプル波形をアサインし、波形読み出しのスタート・ポイント、エンド・ポイント、波形のリバース(逆方向の読み出し)のON/OFF、ループのON/OFF、ループ・サイズ(ループ部分の長さ)、ループのセンター・ポイントを指定していく。何も手を加えなければ自然な状態の音色が得られるわけだが、あえて不自然なループをかけてみたり、波形の特徴的な部分を強調したりして、サウンドに緊張感を与えることも現代のポップ・サウンドには有効だ。また、昨今の新しい音色合成(または加工)方法として、波形を細かく分割しグレイン(顆粒)状態にしてから再び構成するグラニュラー・シンセシスと呼ばれる方法があるのだが、本機でループ・サイズを小さく設定し、LFOでループ・センター・ポイントを動かす(LFOには周期的なものだけではなくランダム波形もある)ことで、それに類したサウンドを得ることができる(グラニュラー・タイプ・シンセシス)。例えば途中までナチュラルで美しいピアノのコードが、いきなり細かくチョップされたノイズまじりのサウンドに変わるなどの演出を施すことができるわけだ。ちなみにこうした時でも、本機は耳障りで大きなノイズを発することはなく、常に音楽的な効果が得られるのは特筆すべきことだと思う。
オシレーター・セクションで指定する2機のオシレーターの波形には、Prophetシリーズ伝統の三角波、ノコギリ波、パルス波/PWMに加えて、EDMで多用されるSuperSawを指定することができる。パルス波をPWMにするのと同様、SHAPE MODツマミを回すだけでSuperSawの厚みが調整できるので便利だ。さらにモジュレーション・マトリクスを使って、FM変調を得ることもできる。通常はオシレーター間だけで使われる技術だが、本機ではサンプル・プレイバック・インストゥルメントを使うこともできるので、可能性はより広がっている。本機の4ポール・フィルターは自己発振させてピュアなサイン波を得ることもできるし、DRIVEツマミでよりエッジを加えた音にすることもできる、伝統と現代性を併せ持ったタイプだ。
以上、駆け足でチェックしてきたが、本機は伝統的・伝説的なProphetのアナログ・サウンド、最高品質のマルチ・サンプル波形、さらに波形編集による新たな可能性まで取り込んだ、現代最高峰のシンセの1つなのではないだろうか。
Prophet XL はあくまでシンセサイザーなので、昨今のオール・ジャンルに対応した、ハイファイ志向のステージ・ピアノとは方向性がまったく違うのだが、1928年製スタインウェイのサンプルに代表されるような、この機種でしか味わえない濃厚な味わいの音色とそのバリエーションを多数内蔵している。内蔵リバーブをかけるだけで、アメリカ映画のサントラで使われているような豊かなサウンドが出てきてまず驚かされるが、さらに波形ループの各ポイントをLFOで動かすなどして過激に加工できたり、Prophetシリーズの伝説的なシンセサイザー音とミックスしたりして使えるのだから、まさに鬼に金棒と言ったところだ。
具体的な収録音源を見てみよう。アコースティック・ピアノ波形には“1928 Grand”や“Grand”、“Upright”などが収録され、それぞれにマイク・ポジションなどの異なるサウンドが用意されている。また、エレクトリック・ピアノ波形の“Suitcase A”、“Suitcase B”、“Wurly A”、“Wurly B”や“Clavinet”にはマイク録音/DIなどのバリエーションがあり、“Hammond A〜E”にはSlow/Fastがそれぞれ収録されている。
(文:堀越昭宏)
本記事は、リットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2020年 WINTER』の記事を転載したものです。誌面では石毛輝、井上惇志へのインタビュー記事も掲載、各人のキーボード選びのポイントも紹介していますので、参考にしてみてください。
本号の特集では、“響く、ピアノ We need PIANO”と題して、日本のポピュラー音楽のピアノ・サウンドを検証。単体もしくはオーケストラとともに鳴らすピアノが、なぜポピュラー・ミュージックに採り入れられるようになったのか。日本の音楽に焦点を当てその経緯を探るとともに、ミュージシャンたちがそのサウンドをどのように響かせてきたかを検証します。ぜひ手に取ってチェックしてください!
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