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- 2024/11/16
ポータブル機材
クラブ・ミュージック・カルチャーからの視点で音楽制作ツールを語る#_SUPERCOMBO_ の機材夜話。今回は、2人の先輩でもある青森のターンテーブリストDJ SOUMAをゲストに迎え、電池駆動でどこでも持ち運べるポータブル機材について語ります。ブロック・パーティーという側面から見ると、ポータブル機材とクラブ・カルチャーには意外な関係性が見えてきました!
MEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO(以下、ABO)── バッテリー内蔵で外に持ち出せる「ポータブル機材」って、DJ向けの電子楽器には昔からちょくちょくあるよね。
DJ 1,2(以下、1,2) ── この連載で扱ったRoland SP-404やKORG microKORG、AKAI MPC Liveも乾電池駆動可能だったり、リチウム電池内蔵だったりするよね。
ABO ── DJブースでの使用を考えると、ブースの電源が常に空いているとも限らないし、置き場所からコンセントまで電源ケーブルが届かないこともたまにあるから、バッテリー駆動できる機材っていうのはありがたいんだよね。
1,2 ── そもそもヒップホップ・カルチャー自体が公園でのDJパーティ(ブロック・パーティ)からはじまったという歴史もあるしね。もっとも、その当時は電柱から電気を勝手に拝借していたらしいけど。
ABO ── バッテリー駆動する機材が充実してたら、電気を盗む必要もなかっただろうにね。で、ポータブル機材はDJ向け以外にもいろいろな名機がある。キーボード系のクラシックとして挙げられるのは、まず“カシオトーン”じゃないかな。特にCasiotone MT-40に収録されたプリセット・パターンの「Rock」は、ジャマイカで1985年に発表されたレゲエのヒット曲「Slang Teng」に使用され、定番のリディムとしていまだに愛されている。
1,2 ── 日本人が作ったプリセット・パターンが異国の地で定番フレーズ化するってのは面白い話だよね。このプリセットを製作したCASIOのオクダさんは、大学の卒論でレゲエを扱うような方だったらしく、ジャマイカ人の心に響いたのも必然だったのかもね。
ABO ── そのほか1980年代に発売された電池駆動できるキーボードだと、Roland SH-101やYahama CS01が有名どころかな。これらはBoutique SH-01A、reface CSへと引き継がれ、現在でも人気がある。
1,2 ── Boutiqueシリーズもrefaceシリーズも電池駆動でスピーカー内蔵だから、どこでもすぐに名機の音が出せる。こういう本気のシンセに子供でも手軽に触れられるようになったのはすごいことだよ。Roland Jupiter-Xmにいたっては、エクスパンションで過去の音源をどんどん追加できるんでしょ。膝の上に乗せられるサイズなのに。サウンドはJupiter-8だったりJuno-106だったりするわけで。
ABO ── 電源に限らず、配線が必要ない機材っていうのは、教育現場で使う場合にも有利になる。音を出す前に配線でつまずいちゃう子もいるだろうし、できる限りノー・ストレスで音を出して遊べる段階まで行きたいよね。
1,2 ── 対象年齢3歳以上の子供向けにデザインされたPlaytime Engineering Blipbloxは、成長に合わせて使い方が変わりそうな面白いシンセだよね。
ABO ── 3歳の時はおもちゃとして遊んでたけど、8歳になったらMIDIの存在に気づいて楽曲制作に興味を持つ、みたいな。
1,2 ── 手のひらサイズのシンセKORG NTS-1 digitalは、組み立て式でカスタマイズもできるから電子回路に興味を持つ子も出てくるだろうし、対象年齢3歳〜99歳がうたい文句のシンセDATO DUOは、1台を2人で同時に遊べるから、親子で楽しめたりするのも面白いね。子供に買ってあげる名目で、実は自分が楽しみたくて買ってる親もいたりして(笑)。
ABO ── Teenage Engineering Pocket Operatorシリーズは新しい機種がどんどん発売されていて、電卓みたいな見た目だけど、パターン・ベースのトラック・メイキングが楽しめる。こういう機材を子供が遊んでいるうちにかっこいいトラックを作ってしまうことだってあるよな。
ABO ── 楽曲制作方面ではYamahaがポータブル・シーケンサーを作っていた。1990年に発売されたQY10が元祖かな? YamahaのWebサイトによると、こいつのコンセプトは「スキー・バスの中での曲作り」だったそうな。
1,2 ── バブル期じゃないと出てこない商品企画だな! 「バスで君のために1曲作ったんだけど」とかいって女子を口説いてたのかな。
ABO ── もしくはスキーとかあんま興味なくて、本当は家で曲作りたいんだけど、っていう層向けとか。
1,2 ── そっちのほうがありそうだね。QYシリーズは、音源とサンプラー付きのポータブル・アレンジャーQR10などの派生機種も挟みつつ、2014年にディスコンになったQY100まで続く。今となってはGarageBandみたいなiPhoneアプリだけで、それ以上のことができてしまうんだけど、制限された機能の中でいかにカッコイイ曲ができるか、っていう挑戦する楽しさも捨てがたいものがある。だからこういうハードウェア機器は侮れないよね。
ABO ── ハードウェアから出てくるサウンドも個性的なものが多い。QYシリーズで印象的なのは僕はQY70だな。早生された日本のテクノ・アーティスト、うっど漫まん a.k.a. WOODMANさんが、QY70だけ使ってライブしていたのを思い出すよ。ものすごく骨太なデトロイト・テクノみたいなサウンドでぶっ飛ばされた。QY70は後継機種のQY100と比べても低域がファットでクラブ向き、と当時言われていたんだよ。
1,2 ── Yamahaは、SU10という電池駆動のサンプラーもリリースしていたから、1990年代後半はYamahaの機材だけで基本的なビート・メイクができたよね。とかくポータブル機材は、オモチャっぽいものも多かったりもする中、実際に現場で使えるっていうのは重要。
ABO ── その中から音的に「使える」ものを発見するっていうのは、まさにDJがレコードから音ネタを探す「ディグ(掘る)」感覚そのものだよな。
ABO ── クラブ・カルチャーの視点からポータブル機材を語る上で欠かせないのが、ポータブル・ターンテーブルの存在。Vestax handytraxや、Numark PT01といったリスニング向きの電池駆動式レコード・プレーヤーと、フリスクのケース・サイズのクロスフェーダー・アクセサリーを使ってスクラッチをするという発想から生まれたポータブル・スクラッチ・ムーブメントは、今では世界中のターンテーブリストへ広がっている。
1,2 ── 以前はDIY感覚で既存のレコード・プレーヤーを改造する必要があったけど、最近になってNumark PT01 ScratchやReloop SPINなど、ポータブル・スクラッチに対応する機材も出てきた。
ABO ──それらをサードパーティ製のパーツでさらにカスタマイズしているターンテーブリストも多いね。
1,2 ── ポータブル・スクラッチに関しては、僕らの地元、青森県八戸市のDJシーンの先輩であり、日本有数のスクラッチャーでもあるDJ SOUMAさんが詳しいので、今回ゲストとしてお迎えしました。ポータブル機材シーンのもう少し突っ込んだ話について伺ってみようと思います。それではSOUMAさん、よろしくおねがいいたします。
青森八戸出身のターンテーブリスト。DMC、Vestax EXTRVAGANZA、Vestax NO TRICKS、I.T.FなどのDJバトルに参戦し、数々の好成績を納める。DJアプリ"DJplayer pro"とポータブル・ターンテーブルを組み合わせたDVS(デジタル・バイナル・システム)でプレイを快適にする"Portablist Mode"の生みの親でもあり、DJ Player proを使ったオフィシャル・ビデオも海外メディアで紹介され話題となる。
SOUMA ── どうも、よろしくおねがいします。
ABO ── SOUMAさんは、地元でブロック・パーティ的なイベントを、数年にわたって続けてらっしゃいますよね。
SOUMA ── はい。Matsuring portable MTGという名前で、青森県八戸市のまつりんぐ広場という公園にポータブル機材を持ち寄ってビート・メイクやスクラッチ・セッションをするという集まりを週末に、週1ペースでやってます。
1,2 ── そもそもどういったきっかけではじめたんですか?
SOUMA ── ギタリストだったら、天気がいい日に車にギター1本積んでいって景色いい場所で弾いたりできるじゃないですか。DJには電気ありきなんで、そういうのはなかなかできないでしょ。
ABO ── 機材にせよサウンド・システムにせよ、なにかと大がかりですよね。
SOUMA ── でも最近はポータブル・ターンテーブルでスクラッチする「ポータブリスト」と呼ばれる人たちが出てきたし、機材もいろいろと便利になってきたんで、囲碁クラブみたいな感じで仲間内のDJで公園でやりましょう、と始めたのがそもそものきっかけです。最初は車から電源を引っ張ってきて、MPCでビート・メイクしたりしてたんだけど、やっぱり見た感じが怪しくて……。車止めてる横からケーブルが出てて、みんな黙々とヘッドフォンしてMPCでビートを作ってる姿に、掃除のおばちゃんがギョッとしてたりしてた。
1,2 ── そう考えるとInstagramなどで確認できる今のportable MTGの光景は、不思議な光景なりにずいぶんとスッキリしましたね。
ABO ── SOUMAさんにとってのポータブル機材のクラシックって何ですか?
SOUMA ── いろいろあるんだけど、やっぱりRAIDENが出したポータブル・スクラッチ用のクロスフェーダーRXI-Fかなぁ。ポータブル・スクラッチって、どこかオモチャっぽい印象が拭えなかったんだけど、RXI-Fは完全に現場で使える本格的なクロスフェーダーになっていて、ポータブル機材に対しての見方が決定的に変わった。
1,2 ── SOUMAさんはスマホとポータブル・ターンテーブルを組み合わせて、完全ポータブルでDVSができるシステムを構築してるんですよね。
SOUMA ── うん。DJ Player Professionalっていうアプリの拡張性がとにかく優れてて、工夫すればいろんなMIDIアサインできちゃう。例えば、ポータブル・ターンテーブルにピッチ・コントローラーが付いてなくても、MIDIコントローラーにピッチ・コントロールを割り当てることもできるんだよ。いよいよ実戦的になってきた。最近はこのシステムで現場でDJしてるよ。リュック1個で機材を全部持っていけて、設営も撤収も早いから、ライブハウスでセッション・ミュージシャンとして参加したり、活動の幅も増えたよ。
1,2 ── “設備ありき”からの解放ですね。なるほど。
SOUMA ── うん。機材はNumark PT01 Scratchというものをカスタムしたものをメインに使用してます。あとamadana Spinboxという機材を2台使って改造して、オールインワン・デッキを作ったこともあるよ。
ABO ── 毎週やってると周りの反応はどうですか?
SOUMA ── 通りすがりの人が結構興味を持ってくれるよ。分かりそうな人にはいろいろ説明したりする。
1,2 ── こういうところから、ビート・メイカーやターンテーブリストが増えたら面白いですよね。限りなくハードルが低いし。
SOUMA ── うん。あとやっぱ仲間内で、電池駆動で動く珍しい機材を掘ってきたらプロップス(仲間の評価)が上がる、みたいな要素もあって。この間メンバーのひとりが、和楽器の音が出る電池駆動の謎の電子楽器を持ってきて、仲間内でそれがすごく流行ったりした。あと、スピーカーはJBL FLIPシリーズの音が良くて、よく使ってます。最近は、さらに昔の電池駆動のラジカセをそれに加えて鳴らしたりしてます。
1,2 ── Matsuring portable MTGの動画や写真を見ると、新しい機材と古い機材が混在してるのが印象的です。
SOUMA ── バッテリー駆動するっていう共通点の下、古いテクノロジーと新しいテクノロジーが混在する感じがAKIRAやブレードランナーみたいな感じがして好きなんですよ。Roland SPシリーズは、SP-404だけでなく、バイナル・シミュレーション・エフェクトの質感が良いっていう理由でSP-303を持ってくる人もいるし、Teenage Engineering OP-1やAKAI MPC Liveみたいな最新機種も接続したりする。
ABO ── それはすごくサイバーパンクにも通じるフェティッシュを感じますね。Matsuring portable MTGはある意味、最先端のブロック・パーティといえるかも。
SOUMA ── 僕たちは仲間内で好きにやってるだけだけど、そういう気軽なノリで最先端なことをやるってのが楽しい。
1,2 ── ここからいろいろ興味持ってくれる人が増えるといいですね! 本日はありがとうございました。
SOUMA ── ありがとうございました。
ABO ── しかし、portable MTGの写真や動画を見て思うのは、外でポータブル機材で遊んでる絵って、InstagramみたいなSNS全盛の今、圧倒的に「映える」ね。
1,2 ── それは確実にあるね。今って、音楽を届けるにしても、曲だけWebにアップするんじゃなくて画像とか動画とか何かしら「絵」をつけないとなかなか注目してもらえないところがあるじゃない。音楽家にとっては悩みでもあるけど。
ABO ── それは確かにある。どうせ絵でみせるなら、スタジオの中だけじゃないく、持ち出せていろんなシチュエーションで音を出す方が見てて楽しいもんね。
1,2 ── これから通信も5Gになっていくと、映像配信とかも場所をさらに選ばなくなっていくだろうし、そういう時代になるとさらに「持ち出しやすい機材」の需要が高まってきそうな気がするね。
MEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO( #_SUPERCOMBO_ )
1984年生まれ。1998年より地元でDJ/トラックメイカーとしての活動をスタートし、2002年に上京。さまざまなアートに触れる日々を送りつつ、活動を本格化させる。2008年から新木場ageHaで約2年間に渡って開催されていたパーティ「Cloudland」では毎月2,3時間のロング・セットを行なうレギュラーDJを務めたことで、シーンに独特な存在感を示す。サウンド・クリエイターとしてもダンス・トラックのみならず、美術作品のための音響製作や、パフォーマンス・ガールズ・ユニット「9nine」のライブ音源制作、ファッション・ショーや映像作品のための音楽/音響制作、ゲーム音楽やアニメ劇伴なども手がける。
DJ1,2( #_SUPERCOMBO_ )
日本を代表するターンテーブリスト。ヒップホップ・カルチャーの根付く街、青森県三沢市にて、14歳から独学でDJを始める。その後DMCを始めとする多数のDJバトルに出場し、華やかな戦歴を残す。2003年には19歳という若さで、世界3大DJ大会の1つのITF Japan finalにて優勝。日本代表としてドイツ・ミュンヘンにて行なわれた同大会の世界大会に出場する。その確かなスキルは、玉置浩二、Def Tech、MIYAVIなど、多数の著名アーティストから絶大な信頼を得て、ツアーDJとして選び抜かれる。近年ではNHKへの出演や楽曲提供、海外でのイベント出演等、ターンテーブリストとしての活躍の場をさらに広げている。まさにオールラウンド・プレイヤー。