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- 2024/11/16
Fender / American Ultra Stratocaster
フェンダーの「顔」であるストラトキャスター。1954年に登場して以来、現在にいたるまで「エレキ・ギターのスタンダード」として愛されている。基本的なデザインを変えることなく常に進化し続けるストラトキャスターの魅力とは何だろうか? そんなことを考えながら今回の試奏に臨んだ。
ビンテージ・ストラトと同じフォーマットでありながら、より一層洗練されたデザインが特徴のAmerican Ultraシリーズ。すべてのモデルで共通となる「ウルトラ・ノイズレス・ピックアップ」と、ネックにはオールド・ギターの雰囲気も感じさせながら現代的なプレイ・スタイルにフォーカスした新設計の“モダンD”・シェイプを採⽤。ネックの肉付きは控えめでありながらトップの厚みを持たせてあるので、音がペランとならない。確かにモダンなシェイプだが、往年のストラトを愛するみなさんにとっては何の違和感も感じさせないと言える。64〜65年あたりのストラト・ネックにも通じる雰囲気なので、手が小さい方でも弾きにくいということはないハズだ。丁寧なネック・サイドの加⼯は演奏性もさることながら、音色や響き/サウンドでも重要なファクターとなるのはご存知のとおり。3、4弦の音の太さからも、そのあたりへのこだわりがうかがえる。
そしてボディにもアップデートが加えられている。まずはボディ・コンターが変更され、体へのフィット感を向上。さらにネック・ジョイントもスクエア・シェイプでなく、1弦側の角を落とすことで、ハイ・ポジションでの演奏性がさらに向上している。
新開発の「ウルトラ・ノイズレス・ビンテージ・ストラト・シングルコイル・ピックアップ」を3基搭載した、最も基本的なSSSスタイル。生鳴りはアルダー・ボディならではの少し暗め/メロウなサウンドだが、そこに高出力でありながら透明感のあるピックアップを組みわせることで「聴いたことのある音」を引き出していると感じる。センシティブでダイナミックなレンジを持ちながらも、ハムノイズを打ち消すこのピックアップは強力で、シングルコイル・サウンドを好むギタリストにとってはかなり喜ばしいトーンが飛び出してくるだろう。
さらに、S-1スイッチによりフロント・ピックアップを常時オンにすることが可能で、ノーマルのストラトキャスターでは選択できない「ネック・ピックアップとブリッジ・ピックアップのパラレル・サウンド」なども引き出せる。この組み合わせはバッキングやアルペジオなどで威力を発揮するだろう。
また、American Ultraシリーズのすべてのギター・モデルには「トレブル・ブリード回路」が搭載されている。この回路のおかげで「音量」を変えることなく「音色」を絞ることができる。ギターのボリュームを少し落として、コンプレッション感とダイナミクスを得るという「ブルース・ギタリスト・マナー」のような使い方で真価を体験できるだろう。
指板およびカラーリングは、ローズウッド指板がウルトラバースト/エイジド・ナチュラル/プラズマ・レッド・バースト/アークティック・パールの4色。メイプル指板がウルトラバースト/モカ・バースト/エイジド・ナチュラル/プラズマ・レッド・バースト/テキサス・ティー/コブラ・ブルーの6色となっている。
American Ultra StratocasterのHSSモデルとなる本器には「ウルトラ・ノイズレス・ホット・ストラト・シングルコイル・ピックアップ」2基に加え、ブリッジ・ポジションには新開発の「ウルトラ・ダブル・タップ・ハムバッカー」を搭載している。
「ダブル・タップ・ハムバッカー」は片側のコイルの巻き数を多くし、コイル・タップ時にそのボビンが選択される「オーバー・ワウンド・コイル」を採⽤することで、パワーのあるシングルコイル・トーンが得られる。また、コイル・タップ時にはミドル・ポジションのピックアップとのコンビネーションでもキレイなハーフ・トーンを生み出してくれるだろう。ピックアップ以外のスペックは先述の「American Ultra Stratocaster」と同じだが、ブリッジ・ポジションのピックアップがハムバッカーになることで、さらにハードなドライブ・サウンドや、エッジの効いたディストーションにも対応する。
指板およびカラーリングは、ローズウッド指板がウルトラバースト/エイジド・ナチュラル/コブラ・ブルーの3色。メイプル指板がウルトラバースト/プラズマ・レッド・バースト/アークティック・パール/テキサス・ティーの4色となっている。
どちらのモデルも「かなりのモディファイを施したストラトキャスター」という印象を持った。もちろん、あとから手を加えるのではなく、最初から意図した設計に基づいているので、圧倒的に完成度が高い。特にモダン・ミュージックで聴けるストラトの音……つまりクリーン、クランチ時の「音の位置」が素晴らしい。「そうそう、この音!」というサウンドがそのままアンプから飛び出してくる。耳に痛い高域とブーミーな低域を削り、そしてミッド・レンジに奥行きを加えているのだ。特にアンプ直結でも成立する上質なクリーン・サウンドは、プロ・ミュージシャンが楽器を買って、そのままスタジオに持ち込んでもOKなレベルにある。もちろんクランチやディストーションでも「良い音」の延長線上で音がドライブしていく。当然、耳障りなサウンドは出てこない。ギターに必要な帯域だけがしっかりと存在している。
ストラトキャスターという伝統的な楽器の雰囲気を壊すことなく、見事に現代的なサウンドとプレイアビリティにチューニングされたAmerican Ultra Stratocasterは、その名に恥じない実力を持っていた。これからストラトを手に入れようと思っているみなさん、そしてお手持ちのシングルコイル・ギターに不満があるみなさんは、ぜひ一度この楽器を弾いてみてほしい。ほとんどの不満が解消されるハズだ。
価格:¥265,000 (税別)
価格:¥265,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。