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- 2024/11/16
Kz Guitar Works
従来のどんなギターとも違う個性とサウンド。国産ギター・ブランド=Kz Guitar Worksは、そんなオリジナリティを追求するブランドだ。代表モデルの“Kz One”はオリジナルのピックアップやコントロール、独自のボディ・シェイプを持つユニークなギターだが、そのルーツにはとある伝説的ギターの存在がある。本特集ではその歴史を追いながら、神奈川県逗子市にある工房にも潜入し、ブランドの魅力を多角的に紹介していきたい。
まずは代表・伊集院香崇尊氏の話を聞きつつ、ブランド創立から現在にいたるまでの歴史を紐解いていこう。
オリジナリティをストイックに追求するギター・ブランド=Kz Guitar Worksの歴史は2001年、創立者である伊集院香崇尊(いじゅういん・かずたか)氏が埼玉県蓮田市に最初の工房を構えたところから始まった。ブランドを代表するモデルは“Kz One”。独自のボディ・シェイプ、一から設計したというKGWピックアップ、そして最大23通りものPUコンビネーションを実現するコントロールなど、あらゆる要素にオリジナルなアイディアが詰め込まれたギターだ。ビンテージ・フェンダー/ギブソンの再現、もしくはそれを基盤に新要素を盛り込む、というコンセプトに情熱を燃やすメーカーは多いが、Kz Guitar Worksの理念は明らかにそれらとは一線を画す。そして、その理由は伊集院氏のビルダーとしてのルーツに大きく関わっている。
僕はもともと、レッド・スペシャルを作ることにしか興味がなかったんですよ。ギターを弾き始めたのは16~17歳の頃なんですが、当時ひと通りロックを聴いてみようと思っていろいろ聴く中、クイーンが本当に衝撃的だったんです。そうなるとやっぱり“あの音を出したい、同じギターを使いたい!”と思いますよね。でも調べてみると、“ブライアン・メイはレッド・スペシャルというあのギターを自分で作ったらしい”ということを知って、つまりあのギターはどこにも売っていないと。じゃあ自分で作るしかない、というのがギター製作のスタートでした。その当時は仕事にするつもりもなく、ただ自分のために作りたかったんです。
かの有名なレッド・スペシャルを自身の手で作りたい。そんなシンプルな探究心からビルダーの道を歩み始めた伊集院氏の熱意は、のちに本家=ブライアン・メイにも届くこととなる。
当時は今のように情報が多くなかったんですが、調べれば調べるほどレッド・スペシャルは特殊なギターでした。例えばトレモロの仕組みさえも解明されていなかったので、写真を見て想像するしかない(笑)。それでも自分で考えたり、いろんな人の助けを借りたりして、2001年には独立してレッド・スペシャルを作るための工房を立ち上げたんです。それがKz Guitar Worksの始まりなんですが、その時もまだ商売のつもりはなく、自分と周りの人のために何本か作ったら終えるつもりでした。ところが翌年、ブライアン・メイ本人のギターを修復したグレッグ・フライヤーという人に試作器を持って会いに行ったんです。その出会いがつながっていき、2006年にはブライアン・メイのオフィシャルでレッド・スペシャル(Brian May Super)を作ることになり、ブライアン自身もワールド・ツアーで僕のギターを弾いてくれたんですよ。
そうした規模の拡大に伴う何度かの移転後、2015年に現在も工房を構える神奈川県逗子市に拠点を移す。そして、同年始動したのがレッド・スペシャルの遺伝子を継承するオリジナル・モデル、Kz Oneだ。
為替の問題などもあって2010年頃にオフィシャルの製作を終えたんですが、僕がそれまでやっていたのはオリジナルを100%コピーすることだけが正解だったので、“ここは改善できるんじゃないか”と思っても、それを実行するとレッド・スペシャルから離れていってしまうんです。でも、長年作り続けて構造を熟知するとそういうアイディアも出てくる。レッド・スペシャルってネックが太いし、スケールも短いし、音もクセがあるのでなかなか普通に弾けるギターではないんです。“じゃあレッド・スペシャルを発展させた、自分のオリジナル・ギターを作ってみよう”、そう考えて作ったのがKz Oneです。僕がエレキ・ギターを作る意味、僕にしかできないことはそれだと思ったんですよね。
そうして完成したKz Oneを軸に、現在はカスタムライン、スタンダードライン、フルオーダーという3ラインを展開。レッド・スペシャルが持つ利点を受け継ぎながらも、ユーザーひとりひとりのニーズに寄り添う柔軟なカスタマイズを提供している。
ボディはレッド・スペシャルを受け継いでセミ・ホローがフラッグシップではあるんですが、ソリッド構造も用意しています。また、独自に開発したKGWピックアップを全モデルに搭載しているのも大きな特徴ですね。さらにシリーズ/パラレル・スイッチ、フェイズ・スイッチも標準装備しているので、3シングルコイル・モデルの場合は最大で23通りのサウンド・バリエーションを1本のギターで得ることができるんです。もちろん、よりシンプルな操作性を好むギタリストのために5ウェイ・セレクター仕様もラインナップしていて、スタイルによって選ぶことが可能です。現在は塗装も自社内ですべて行なっているので、カスタムオーダーでは色も含めて1点モノのギターを作ることができますよ。フルオーダーはシェイプやスペックまでゼロから決めていくラインですね。
従来のどのギターとも違う個性を持ったモデル=Kz Oneを、湘南・逗子から世界へ向けて提案するKz Guitar Works。伊集院氏は最後にこう語ってくれた。
ストラトキャスター、テレキャスター、レス・ポールといったスタンダード。そこにKz Oneを並べることが僕の目標なんです。そのためにメーカーとして常に新しい挑戦を続けていますし、ひとりでレッド・スペシャルを作っていた頃と違って、今はそれを一緒に楽しんでくれる優秀な職人が集まっています。Kz Oneを弾くことで新しいサウンドを見つけて、それを使って新しい音楽を作り出すギタリストが増えるとうれしいですね。
Kz Guitar Worksの工房を訪問。少数精鋭による匠の技でこだわりのギターの数々が生み出されていく様子を本コーナーでレポートしよう
2001年に埼玉県蓮田市にて創業してから、ブランドの拡大とともに02年に同県飯能市、08年に神奈川県藤沢市と移転を行なったKz Guitar Works。そして2015年、オリジナル・モデル=Kz Oneの本格的なスタートと時を同じくして移ったのが現在の拠点である逗子工房だ。JR逗子駅から車で5分ほどの場所に位置する本工房では、カスタムラインとフルオーダーの全行程、そしてスタンダードラインの最終セットアップを行なっており、伊集院氏のほか経験豊富な職人が日夜ギター製作に勤しんでいる。
工房は大きく分けて木工、塗装、セットアップと3エリアで構成され、それぞれの作業を専門的に行なう職人が分担。木工エリアはベルトサンダーやバンドソー、ルーターといったマシンが所狭しと並び、ネックの1本1本、ボディのひとつひとつが丁寧な手仕事で形作られていく。美しい杢目が浮き出たキルト・メイプルのトップ材など木材ストックも保管されており、オーダーの際は希望があれば実際に杢目を見ながらどの材でギターを作るかを決めることもできるという。
塗装ブースはその道20年の職人が担当。カスタムライン、フルオーダーでは1本ごとにカラーを作り込むため、既存製品にはないような微妙な色彩を実現することも可能だろう。印象的だったのはレッド・スペシャル関連の書籍が多数置かれていたこと。Kz RSとしてラインナップされているKz製レッド・スペシャルのカラーリングを本家に近づけるための資料だが、“本物のレッド・スペシャルの赤は書籍に印刷されるものとも少し違うんです”との談。たしかに、名前の由来にもなっているあの赤色を、印刷物や液晶画面ではなく直に目にする機会はほぼないことに気づく。そんな部分まで忠実に再現できるのも、実器を細部まで知り尽くしたKz Guitar Worksならではと言える。
セットアップ作業はおもに伊集院氏が担当。Kz Oneは先述のとおりレッド・スペシャルの遺伝子を受け継いでおり、つまりはセッティングにおいてもストラトキャスターやレス・ポールといった一般的なギターと異なるノウハウが必要となることは容易に想像できる。木工、塗装、セットアップ、それぞれの工程で発揮される独自の技術。このすべてがKz Guitar Worksのギターを形作っているのだ。
レッド・スペシャルのアップデート、というコンセプトに始まり現在はそれに留まらない独自の進化を遂げたKz One。ここではその基本仕様を紹介。
ヘッドにはブランド・ロゴが刻まれたメダルが輝く。カスタムラインでは本メダルのカラーをオーダーすることもできる。
チューニングの安定性に定評のあるゴトー製ロック・ペグを標準採用。弦交換が容易になるメリットも。
ボリューム・ノブを引き上げることでフェイズ・アウト・サウンドを得ることが可能。クイーンにおけるブライアン・メイのギター・サウンドのような、個性的な音を楽しむことができる。
Kz One最大の特徴と言えるのがPUコンビネーションの多さ。3トグル・スイッチ仕様(左写真)ではシリーズ/パラレル・スイッチ、フェイズ・スイッチと組み合わせることで23通り、5ウェイ・レバー・スイッチ仕様(右写真)では11通りのサウンドを得ることができる。もちろん、直感的に操作したいプレイヤーのためによりシンプルな仕様もオーダー可能だ。
ネックは演奏性の高い“モダンCシェイプ”を標準採用。オプションとして、よりガッシリとした“ミディアム・ファット・グリップ”を選択することもできる。
ケーラー製アーミング・ビブラートを標準搭載していることも大きな特徴。本ユニットならではのスムーズな操作性とチューニングの安定性をぜひ一度は体感してほしい。そのほかチューンOマティック、2点支持シンクロナイズド・トレモロ、ストップテイルも選択可能。
レッド・スペシャル譲りのセミ・ホロー構造はトップ材にハードロック・メイプルまたはホンジュラス・マホガニー、バック材にホンジュラス・マホガニーを採用し豊かな鳴りを生み出す。一方ソリッド・ボディ仕様はよりタイトに鳴り、深い歪みとの相性も良い。
ミニ・スイッチによってPU接続が切り替わり、ふたつ以上のPUを選択した際にハムバッカー的なシリーズ(直列)と、シングルコイルらしいハーフトーンを生み出すパラレル(並列)を使い分けることができる。
Kz Guitar Worksの最も大きな特徴のひとつ、オリジナル設計のKGWピックアップにフォーカス。
“ピックアップはエレキ・ギターの心臓部。最も重要だと思っています”と語る伊集院氏の理想を形にしたのが、Kz Guitar Worksのほぼ全モデルに搭載されるKGWピックアップだ。ギター・ブランドは数あれど、PUに関しては既存の規格を流用するケースが大多数。その常識に囚われずオリジナルPUを作ってしまう点からも、こだわりの強さがうかがい知れる。
そんなKGWピックアップだが、そのルーツにはやはりレッド・スペシャルが登場してくる。初期のKz Oneにはもともと、ブライアン・メイ本人のギターにも搭載された英バーンズ社製“トライソニック・ピックアップ”を採用していたのだが、良くも悪くも音のクセが強く、現代音楽シーンの中では使いにくい場面もあったという。しかしトライソニックの魅力的なトーンを生かしたいと考えた伊集院氏は、同PUを参考にしつつ、さらに幅広く使えるようにアップデートすることを決意。“ブリティッシュなダークさ”を軽減して汎用性を高めつつ、構造を見直すことでロー・ノイズ化も実現した。コイルが薄く幅広で巻数が少ないのも特徴であり、それによってタッチ・ニュアンスの表現力も高まっている。
シングルコイルの開発に始まり、現在はダブルコイルも加わったほか、P-90タイプも開発中とのこと。このオリジナルPUと独自コントロールによる多彩なサウンドはまさに唯一無二と言えるもの。“KGWピックアップが載っていることがKz Oneを弾く意味にもつながります”と伊集院氏も太鼓判を押すこのPU、ぜひ実際に体感してみてほしい。
シングルコイルと同サイズのダブルコイルPUを組み合わせ、柔軟なピックアップ・レイアウトを実現。ちなみに、2H仕様ではビンテージ・ハムバッカーをベースに開発された“Kz Classic”ピックアップが搭載される。
最後にカスタムライン、スタンダードライン、フルオーダーからいくつか製品例を紹介したい。全ライン、特にカスタムラインはオーダー内容によって多くの仕様が存在するので、ぜひ公式HPや販売店の情報をチェックしてほしい。
ケーラー製トレモロ、独自コントロール、KGWシングルコイル×3基など、Kz Oneのベーシックな特徴を備えるのが本器。キルト・メイプル・トップ、ボディ・バックやネックのホンジュラス・マホガニー、マダガスカル・ローズウッド指板といった材構成もカスタムラインの標準仕様だ。
グラデーションがかかったボディ・カラーにマッチング・ヘッド、ゴールド・パーツなど、ルックスの華やかさを各所に盛り込んだソリッド・ボディの1本。カスタムラインではこのようにKz Oneを基本としつつ、オーダー内容によって自分だけの1本を作り込むことも可能だ。
セットネックや材構成といったKz Oneの各仕様をSTシェイプに落とし込んだKz ST。PU配置はセンターがブリッジ側に寄った写真のパターンと、一般的な位置の2種をラインナップ。リード・スイッチをオンにすることで、セレクターがどの位置でもリア+センターの直列に切り替わる。
OEM生産されたKz Oneに逗子工房で最終セットアップを施して出荷されるのがスタンダードライン。本器はフロントとリアにダブルコイルPUを配置し、2点支持トレモロを搭載した1本。コイルタップ・スイッチによって幅広いトーンを得ることができる。
ストップテイル・ブリッジと3シングルコイルPU、木の質感が浮き出たマット塗装の1本。スタンダードラインにはセミ・ホロー、ソリッドもラインナップされるが、ここに2本紹介したジュニア・モデルはソリッド仕様でエルボー&バックにコンター加工が施されている。
これまでに紹介してきたモデルだけでなく、シェイプやスペックをゼロから作るフルオーダーでの製作も可能だ。英ロック・バンド、ザ・ストラッツのアダム・スラック(g)、ルーク・スピラー(vo)、ジェド・エリオット(b)のように、理想の1本を作り上げよう!
公式HPからアクセスできる“カスタマイズシステム”で、Kz Oneをベースにボディやネック、電装系、オプションの仕様を選び、自分だけの1本を作ってみよう! 選択肢は非常に多く、例えばボディ・トップ材の項目にはフレイム・メイプル、キルト・メイプル、プレーン、ホンジュラス・マホガニーの4種類をラインナップ。そのほかPU配列や材構成といったベーシックな部分はもちろん、ポジション・マークやバインディングの色にいたるまで、かなり細かく作り込むことができる。しかも選択がすぐに画面上のギターに反映されるため、ルックスも確認しながら進められるのだ。さらにページ内の“見積依頼”から選択した仕様での概算金額も確認可能なので、オーダーを考える人にとって非常に心強いツールとなるだろう。
本記事は、12月13日(金)に発売されるリットーミュージック刊『ギター・マガジン 2020年1月号』にも掲載されています。表紙巻頭特集は「シティポップを彩った、カッティング・ギターの名手たち〜80年代/真夜中のファンキー・キラー編〜」。ぜひチェックしてみてください!