AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Sony C-100 / ECM-100U / ECM-100N
ソニーからハイレゾ音楽作品の録音を意識した製品が発売され、注目を集めている。それらを使用する第一線のプロに、インプレッションを語っていただくのが本連載だ。今回は、アーティスト活動を経て、サウンド・プロデューサーとしてCharaやCrystal Kay、CHEMISTRYなどを手掛けた浅田祐介が登場。高域用/低域用の2つのカプセルを備えたC-100、楽器収音に向けた単一指向性のECM-100U、無指向性のECM-100Nという3つのコンデンサー・マイクをレビューしてもらう。
3機種共、新開発のカプセルを採用したコンデンサー・マイク。ダイアフラム(24金蒸着)の薄膜/軽量化と背面電極のインピーダンス低減を図り、50kHzまで再現できる。背面電極とカプセル・ケースは真ちゅう製で、絶縁材にはポリエーテルイミドを使用。いずれにも高精度な切削加工を施し、各パーツを丁寧に組み立てることで色付け無きサウンドを実現しているという。
高域用カプセルと低域用カプセルを備えた2ウェイ構成のモデル。可変指向性で、さまざまなソースに有用。
単一指向性のモデル。楽器収音を想定した仕様だ。
無指向性の機種。空間の鳴りも含めた収音に向けている。
浅田はC-100のヘビー・ユーザーで、2018年の発売当初に自ら購入して以来、愛用し続けているという。もともと同じソニーのマイク、C-800Gが大好きだったと言い、それがC-100を選ぶ動機になったそう。
「店頭で自分の声を入れてみたところ感触が非常に良く、その場で買って帰りました。C-800Gとは特性が違い、中高域が強調されたような印象は無くフラットで、よりワイド・レンジに収音できます。プロ用のボーカル・マイクとして使えるクオリティですし、歌のほかにもアコースティック・ギターなどいろいろなソースに対応するため、1本持っておくとよい万能系マイクだと思います」
原音に忠実な方向のマイクをプリアンプで味付けして使うのが浅田の流儀だ。
「昔から自分の声と真空管マイクの相性が悪く、真空管の色ありきになってしまうのも好きではなかったので、フラットかつリアルに収音できるマイクを好んでいます。歌い手や曲に合わせてプリアンプで色付けしつつ録りたいので、C-100は自分の音楽作りの方法にすごく合っているんです」
浅田にとっては、自由に表現できるキャンバスのようなものなのだろう。
「あと、最近は音圧戦争が沈静化した感もありますが、そうは言ってもマスターにリミッターを挿してレベルを稼ぐじゃないですか?」と続ける。
「そのときに、超高域が録れていないとナローになってしまい、詰まって聴こえるんです。でもC-100は40〜50kHzくらいまで余裕で収音できるため、録り音にコンプをかけてもちゃんと前に出てくるし、マスター段でマキシマイズしても沈まない。超高域だけでなく低域の方もしっかりと入っているから、つぶしても自然な上下感が得られるんです」
周波数レンジのみならず、解像度の高さも魅力だそう。
「マイクにおいて大事なのは、音の立ち上がりから1ms以内といったディテールをいかに高解像度でとらえられるかだと思っていて。スキルの高いボーカリストなどは、そこの歌い方によってアタックを前に出すか控えめに聴かせるかをコントロールしているのですが、解像度の低いマイクはせっかくの表現を押しなべてしまいます。その点、C-100は過渡特性に優れ、ハイスキルなボーカリストが使うと非常にニュアンス豊かな音が得られる。本当に衝撃的ですよ、すべてを録れている感じがして。逆に、未熟なシンガーの場合には粗が目立ちます。しかし、それがプラスに作用することも多く、ささいなリップ・ノイズにも耳が行くので“少し水を飲んでください”といったディレクションが早い段階から行えるんです」
その解像度に関して、ECM-100UとECM-100Nにはさらなる性能を感じたようだ。
「ダイアフラムが小さくアタックへの反応が機敏で、かなりの情報量です。C-100に薄くコンプがかかって聴こえるほどの“速さ”で、立ち上がりの再現性はC-100以上だと思います。アコギに立ててみたところ、ヘッド寄りなのかブリッジ側なのかという演奏位置はもちろん、マイクとの距離の変化やピックの違いなどもよく分かりました。また倍音の聴こえ方が、楽器の生音を聴いているときとそっくりなんです」
アコギを使ったチェックでは、3本のマイクをほぼ同じ位置に並べ、同一のゲインで一度に録音したそう。
「ECMのマイクについては、個人的にはECM-100Nの方が好みです。無指向性なので部屋の鳴りもよく入り、ふっくらとした音が得られます。中低域が充実していて、かつ立ち上がりの速いマイクってあまり見かけないので、面白いですね。一方ECM-100Uは、タイトでセンターに寄った音。オケ中で扱いやすく、ストロークなどに向くと思います」
浅田はECMの2機種から「開発者のメッセージを感じますね」と語る。
「既存のペンシル・マイクのような音はしないけれど、音にかかっていた薄膜が取れたでしょ?といったメッセージです。まさにハイレゾ時代のマイクという感じがしますし、アナログ領域で起こっている音の変化がつぶさに出るDSDなどの録音方式には、特にマッチすると思いますね」
本記事はリットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号』の記事を転載したものです。本号の巻頭特集は、毎年1月号恒例のプライベート・スタジオ特集。100ページを超えるボリュームで気鋭からベテランまで、17組の注目クリエイターたちのプライベート・スタジオを公開しています。
【登場クリエイター/エンジニア】
大塚 愛 / エイドリアン・シャーウッド / mabanua / AAAMYYY / Okada Takuro / machìna / Chaki Zulu / starRo / DJ PMX / クボナオキ / 畑亜貴 / 桑原聖(Arte Refact) / 毛蟹 / Nao(アリス九號.) / yuya(Develop One's Faculties) / 森元浩二. / フローティング・ポインツ
価格:オープン
価格:オープン
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浅田祐介
1995年にアーティストとしてフォーライフからデビュー。その後、Charaをはじめ数多くのアーティストのサウンド・プロデュースを手掛ける。近年はイベント“ミュージシャンズハッカソン”なども展開。