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- 2024/11/16
オーバードライブ
ギタリストには欠かせない歪みエフェクターであるオーバードライブ。この企画は、エフェクター・シーンにおける識者に、自身にとっての“2019年に出会った最高なオーバードライブ”を選出・紹介してもらうというもの。自身のベスト3と比べてみるも良し、各人が選んだ実機を探して試してみるも良し。本記事を参考に、ぜひ最高な1台を見つけてほしい。
[選定の条件/ルール]
■各人が2019年に初めて触れたエフェクターであること。
※初めて触れたのであれば、生産・発売年は問いません。
■「オーバードライブ」の定義は当該エフェクター・メーカーのそれに倣います。
■マルチ・エフェクター/ギター・プロセッサー内の1エフェクトでもOK。
これは数年前に発売されたものですが、縁があって2019年に入手しました。今年手に入れたオーバードライブの中では、我が家のオーバードライブ・チームの1軍に入る可能性が最も高いペダルです。ご存知の通り、とにかく歪みのキメが細かく、心地よい倍音が乗り、タッチに対する反応が良いのが特徴。シルキーだ、クリーミーだと形容されますが、本当にその通りだと思います。ゲインが高いペダルではありませんが、自分はさらにゲイン低めの設定が好きで、写真のようにゲインはだいたい9時方向にセット。このペダルの売りでもあるミッド・ブーストは、センターから少しだけ右に回した音が好みです。ひと言で言えば、大人のドライブ・ペダルです。
■参考記事;【製品レビュー】Xotic / Soul Driven AH feat. Allen Hinds
古いペダルで、今年たまたま手に入れて気に入った1台。「DOD / 250」を参考にしたということですが、弾き比べたことはありません。これはなかなかの暴れん坊でして、ゲインを上げるとコンプレッションが強くなり、けっこうグチャーとした感じで歪みます。現代的なオーバードライブの主流とは別のところにいるモデルですね。ですが、下手をすると線が細くなってしまうような安価なTLタイプのリアにこいつを咬ませると、驚くほど太く、バイト感がある歪みが得られるので気に入っています。ハイがキツすぎるアンプと組み合わせても良い結果になりますよ! ツマミが2つという潔さも好きなところです(ゲインを上げるとハイも上がるので、そこを理解して調整するのがポイントです)。
最初に言っておきますが、「KLON / Centaur」の音が欲しいのなら、まずはCentaurの後継機である「KLON /KTR」を試すべきだと思います(私自身、CentaurもKTRも購入しましたが今年の話ではないのでここでは紹介できません……)。これは2019年製の、オリジナルに比べるとずっと安価な中国製のコピー品です。もともとは、音にうるさい某ギタリストが自身のHPのフォーラムで“PartsPipeのKlonのクローンは良くできていて、自分のオリジナルより良かったからレコーディングで使った”と発言したことから一部マニアに注目されました。私もこれをオリジナルと弾き比べてみましたが“微妙な違いで、良い悪いではなくあとは好み”と言えるくらいの音になっていると思います。
自分にとっての最高のオーバードライブはすでに数台に決まっていまして、そこに加えることができるモデルがあるのかないのかが毎年のテーマです。ちなみに今の自分にとっての最高のオーバードライブは「Menatone / The Blue Collar Overdrive」の古めのモデルでして、次いで「VEMURAM / Jan Ray」、「TS808 Cult Cloning Mod」といったあたりが続きます。これがレギュラーで、後続はその時の気分次第。
今年は、今さらではありますが「Xotic / Soul Driven」の良さを実感できたのが収穫でした。それから、ちょっと興味が薄れていたCentaur系のサウンドも、改めて良いなと感じることができました。ただ、今年、後世に残るようなオーバードライブの名作が発売されたかというと、どうなんでしょう? 私自身もある程度満足してしまいアンテナが鈍っているのか、残念ながらそこまでの名作と思えるものには出会えませんでした。
今年一番の衝撃。本機はLeqtiqueのRogerに、CULT細川氏のアイディアであるハイ・ミッドEQを加えたものだが、この取り合わせでしか起こらなかった奇跡と言っていい。Rogerの歪み自体が少し個性的で、透明に張り出したミッド・フィールの底にもう一段階分厚い得体の知れない内圧を隠している。それがピッキングに絡むと、Nokina氏特有のちょっと粘るようなダークなアタックが適度な温かみを出音全体にもたらすのだが、そこにこの1.576kHzを押し上げるEQのおかげで、倍音の輪郭を形成している底に沈んだ中域の靄(もや)から心地よくギター・サウンドのおいしい部分を解放してくれる。ピンポイントで、このほんの少し硬いサチュレーションだけを操作できる感覚はほかにはない。まさに、歪みの可能性がトーン・スタックにこそあるということをまざまざと見せつけた傑作だ。
音を出した瞬間、長年培ってきたオーバードライブ・ペダルの概念をすべてぶっ飛ばされた。こんな歪みは過去のどこにもない。まったく新しいオーバードライブの形と言っていい。もともと「アンプライク」が売りだったOD-FIVE 2シリーズだが、この新モデルは巷の同種のペダルでよく聴かれるような、安直なボワボワした飽和を良しとしない。歪みは一見硬さを感じさせるが間違いなく音の芯そのものが図太く、まさにモダン・アンプのピークにある鉄の棒のような鈍い光沢を放つザラつきを鮮明に浮き立たせている。まるで“サグ”を思わせる特有の暴れ感の中に、リミッティングとはまた異なるしっかりと存在感を残した密度の高いピークが綺麗に並んでいる。しかも、ピッキングの強弱に関わらず、ピックが弦から離れるまではクリアなレスポンスが一切揺るがない。なんと力強いサウンドだろう。前ヴァージョンのサウンドすら否定しかねないこの挑戦……まったくもって恐れ入る。
アルミ削り出しの美しい見た目に惹かれて手を出したが、中身は異常に硬派なサウンドで一気にお気に入りに。SOUND FROGのペダルは初めて試奏したが、特に高域のバランスが本当に抜群。軽めのサウンドに聴こえがちだが、音量を上げればしっかりとコシのある濃い色彩が出てきて、独特のまろみというか輪郭に張り付くような「音を保つ力」がちゃんとある。一番気に入ったところは、ビンテージのフェンダー・アンプでもしっかり使えること。近年のオーバードライブ・ペダルは出来の良いものほどマーシャル系とは完璧にマッチするが、逆にブラック・フェイスのツインやツイード期のものは軒並み変な“帯域被り”が発生して、どうしても耳障りな部分ができてしまう。だがこのペダルは、うちの暴れん坊5D3ツイード・デラックスですら合わせると蕩けるようなクランチを放つ。素晴らしい個性だと思う。
図らずも国産ペダルばかりになってしまったが、それもこれも国内のペダルの充実ぶりが目につくからだ。特に、今年は真の意味で「新しいサウンド」に触れる機会が多かった気がする。小手先のコンポーネントを交換して出音に変化をつけるのでなく、回路やトーン・スタックを含めたすべてにおいてあらゆる方面からオリジナルのものを目指そうという気概が感じられたことは嬉しい収穫だった。
一方で、「トランスペアレント系」ばかりを持ち上げる風潮も鎮火しつつあり、クリーンやクランチの味付けだけではなく、“しっかりとドライブした領域”で勝負しようとするメーカーが増えたのも良い兆候だ。ビンテージの再現や発展系はそれはそれで意義のある仕事だとは思うが、海外はともかく、少なくとも今の日本ではプレイヤーの耳も肥えてきて、一聴してネタバレするようなTSやCentaurの焼き直しで満足するような人も減った気がする。オーバードライブというカテゴリーは、今後まったく新しい時代に入ろうとしているらしい。メーカーは単に耳触りの良いサウンドを目指すのではなく、存在そのものがその時代のワン・アンド・オンリーになるような純血の個性を目指してほしい。
エフェクターの世界では、ビンテージとモダンの境目に当たるのが1990年代なのではないかと。そして、その時期に作られた製品には、過渡期ならではの魅力があるんです。古さと新しさを兼ね備えているというか。例えば、1995年製の本機。ご存知のように、ビンテージのTS808の復刻を目指したシリーズの初期型ですが、その音色はTS808ともシリーズの後継機種ともまったく異なる質感。歪み方は無骨で、増幅率が高く、音色がとにかく甘い。どんな設定でも使えるような器用さは持ち合わせていません。ただし、ギター側のボリュームを絞ったり、弾き手が少しだけ工夫を施すと、途端に極上の響きが取り出せます。それは万人が納得する優等生なチューニングではなく、弾き手の技量を計る気骨ある設計が許されていた時代の名残り。そう捉えるとロマンを感じません(笑)?
“Eternity”は、派生モデルがたくさん存在するため、製品として評価を下すのが難しいオーバードライブのひとつ。ハンドメイドの初期型、PCB基板化が計られたバージョン、そして異なる外観を持つ数多くのバリエーションたち。それぞれに独自の個性を宿していると言われています。それもあって、あまり深入りしたくなかったんですが、ハンドメイド版の限定リイシューである本機と出会って考えが一変。3コントローラーの正統派TS系であるものの、ノスタルジー漂うクラシックな感触は皆無。レンジは広く、増幅はリニア。少しだけ削がれた低域と持ち上げられた中域が、原音の波形を優美に再構築します。その曲線はまるでスーパー・モデルのボディ・ラインのよう。パーフェクト・ビューティーとも言える色気を備えた極上のオーバードライブなんじゃないでしょうか。
優秀なオーバードライブが巷に溢れている昨今、少しぐらい音が良いだけでは抜きん出た存在になれないのが現実。その競争率の高さは団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)の大学入試に匹敵するレベルでしょう。人口が極めて多いために壮絶な受験戦争が繰り広げられたあの時代です。そんな中、突き抜けて高い偏差値をマークするのが本機。それもそのはず、父はアイバニーズ、母はVEMURAMという優良家系。そんな一家に生まれた息子が凡庸なわけはありません。それぞれの家系から遺伝子を受け継いだ結果、「神童」とも形容できる個性を宿しています。「チューブ」を「スクリーム」させるというモデル名に、これほど似合うTSは過去に例がありません。弾けば一瞬で血統の確かさを実感できる優秀さ。「ヤツには敵わない」。誰もがそう認めざるを得ないのでは?
2010年代も終わりを迎えようとしているのに、結局TS系ばっかりじゃん、と。「いまさらかよ!」と失笑されそうですが、本人的にはチューブ・スクリーマーの影響下から離脱するべく、全力で突っ走ってきたつもりなんですよね。ビンテージTS系→ブティック系TS→脱TS系→アンプライク系と逃れてきたんですが、気がつくと、なぜか再びスタート地点に戻ってきているというラビリンス。というのも、弾いた瞬間に「おっ!」と感じる製品は、TS系であることが多くて。それでも、そう感じるのは自分が歳を取って保守化が進んだせいかも?という恐怖から、また全力疾走に戻るという悪循環。ああ、オレはいつまで同じことを繰り返せば良いんだろう(笑)。来年、2020年もオーバードライブ探しの旅に、終わりが来そうな気配は皆目ありません。日々、デジマートの検索結果とにらめっこだなあ(笑)。
オーバードライブの名機として名高い「One Control / Honey Bee OD」。Silver Bee ODは、そんなHoney Beeを発展させたペダルとなっている。トーンが2バンドになったほか、ゲインの最大量もUPしており、よりワイルドなサウンドが作れるようになった。Honey Bee ODと言えば、演奏のニュアンスに如実に反応するレスポンスの良さが魅力的だが、単体ではあまりゲインが高くないことや、そのダークなサウンドから、やや使いどころを選ぶ印象があった。Silver BeeはそんなHoney Beeのレスポンスそのままに、セッティングによってミッドを強調したゴリゴリの音色から、レンジの広いモダンなサウンドまで、幅広い役割をこなせるようになっている。Honey Bee ODという伝説的なオーバードライブの系譜は、ここで一つの完成を迎えたと言って良いだろう。
PPSE'79はVin-Antiqueという新鋭ブランドのペダルだ。TS系の回路をベースに非対称のクリッピングを使用することで、鋭いエッジの感じられるサウンドが作れるようになっている。近年のJロックで聴けるジャキジャキとしたキレのあるバッキング・サウンドを生み出すには最適のペダルだ。驚くべきはハンドメイドでありながら、なんと9,800円という価格。果たしてこの値段で本当に採算が取れているのか、無用な心配をしたくなってくる。学生など予算が限られているギタリストにとって、これほど頼もしいオーバードライブはないだろう。
この秋、BOSSからリリースされたばかりの新型ペダルOD-200。歪み専用のマルチ・プロセッサーである本機は、12種類もの歪みモードを切り替えることで、幅広い音作りが可能だ。その中でも個人的に一番グッと来たのが【OverDrive】というモード。これは同社が誇る非対称クリッピングの名機をベースにしつつ、最新のデジタル技術によってオリジナルを超えたサウンドメイクが可能となっている。デジタル・プロセッサーならではの3バンドEQによって、低域をファットにしたり、エッジを強調したりと、まさに万能と言って良いサウンドメイクが行なえる。もう歪みに関してはこれ1台で何でもできてしまうんじゃないかと思わせるペダルだ。
■参考記事:【製品レビュー】BOSS / OD-200 & MD-200
2019年に登場したオーバードライブを振り返ってみると、少しづつだがエフェクター業界が変化しているのを感じる。大きな傾向の一つが、国内ビルダーの大躍進。今回紹介したVin-Antiqueをはじめ、KarDiaNやCRAFTROSなど、新進気鋭のエフェクト・ビルダーが、SNSや口コミを通じて徐々に勢いを強めている。それらのブランドのプロダクトは、どれも既存のものとは少し違った視点やアプローチによって、独特のサウンドや魅力を持っているものが多い。
これまで、こだわりのオーバードライブと言えば海外のブティック・ブランドが中心だったが、最近はプロのペダルボードにも、国内ビルダーのペダルが並んでいる光景をよく目にする。エフェクター大国である日本において、徐々に評価を受けている国内ブランド。今後どのような驚きを見せてくれるのか楽しみだ。
ちょうど去年あたりから「VOX / ULシリーズ」のアンプを手に入れようと目論んでいて……ジョイ・ディヴィジョンのバーナード・サムナーがUL730をライブで使ってて「やっぱ良いなー」とか、ZEP(レッド・ツェッペリン)の1st/2ndのレコーディングでUL4120を使っていたと聞いて「あのトランジスタ・プリのショボい感じの音がやっぱりカッコいいいなー」とか。結局UL4120のヘッドが手に入ったんですけどコンディション最悪でまともな音にするのに苦労した(苦労したのは魚頭くんだけど)。そんな折、UL730の音を再現したというマニアックすぎるペダルが入荷したと聞いて試してみたら、けっこう良かった。ULシリーズは、もともとソリッドステート・プリ+チューブ・パワーアンプなので、そのプリ部分に忠実に作ってある印象。もちろん実際のアンプの音より歪むし、使いやすくリチューニングされているけれど、むしろそれが良い感じ。低音スッキリでレス・ポールでZEPを弾いてもカッコいい音がします。
デジマート製品レビューを担当させてもらったので……と言うわけではなく……とにかくさすがBOSSというか……そのクオリティ、使い勝手、新機能に驚いたペダルです。まず驚いたのがBOSSのペダルにケンタウルスやTS808のサウンドが収められていることですね。時代はボーダレスだなぁと。もちろんモデリング界隈では、ずいぶん前にその種の線引きは崩壊していますが。それでも2つのペダルのスタッキングが内部で行なえたり、ブースターを前後のどちらにでも配置できるなど、あのサイズにあそこまでユーザビリティを詰め込んだのはすごいと思います。やりすぎ/難しいという声もありましたが、BOSSがすごいのは、しばらく使っているとなんとなく使えるようになってくるところですよね。「こうしたいなー」と考えて「できないかなー?」っとマニュアルをめくると「あ、できるじゃん」みたいな。プリセットの音も良くて。でも名前こそO(VER)D(RIVE)ですが、実際にはディストーション要素にかなり力が入っている印象です。
お店(Hoochie’s)で「PRS / SILVER SKY」のプレゼンテーション・イベントを行なったんですが、その際に某プロ・ミュージシャンの方が「じゃあこれ、必要ですよね?」と言って貸してくれたビンテージのTS10 2台なのですが、これがのけ反るほど良い音で……実際にのけ反りました。僕もその昔4〜5台くらい持っていたハズなのですが、こんなに音が良い個体には巡り合わなかったと思います。当時の自分の音創り/周辺機材との相性?などといろいろ考察するのですが、答えはわからず。こうなったら「同じペダル2つもいらないでしょ?」と言って強引に譲ってもらうしかない!と思い、現在商談中です(笑)。スポンジーでありながら音に芯がしっかりと感じられ、何よりブースト具合の心地よさが本当に素晴らしい。これなら価格10倍のビンテージTS808と比べても一歩も引けを取らないですね。まさか今になってTS10が欲しくなるなんて……エフェクターってほんと、タイミングですよね。
個人的には今年、オーバードライブにもこんなに個体差があるんだなぁとか「あんなに定番のペダルも常にブラッシュアップ/アップデートしているんだなぁ」とか“目から鱗が落ちる”ことが多々ありました。個体差に関してはアタリ・ハズレとか、そんな話じゃなくて「鮭の網の中に鮭児が入っていたー!」……そういったノリで、同じような音なのにまったく雰囲気が別物の個体が存在することを改めて思い知らされました。そりゃ同一個体を10台買うわ……と。もちろんハズレのペダルがあるわけではなくて、全部同じ音なのに「こいつ別物!」というペダルがあるということですね。
また、某社のベストセラー・ペダルが「実は中身2019年仕様なんです」みたいな話も聞いて試してみたら本当に使い勝手が良くなっていたり。オーバードライブは常に進化して、常に輪廻を繰り返しているんだなーと。なので新製品とか古いものとか関係なく、常にいろいろ試しているところです。昨今の製品は大体すごく良いですよね。ほとんどが良い音なのですがほとんどが同じような音なので、非常に買いづらい/選びにくい。だから古いペダルに走ってしまうのでは? 個体差を探してしまうのでは?という風にも感じます。求む個性。