AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
エレキ・ギター(ジャンク)
世に魅力的な新製品は数あれど、ジャンク楽器漁りとその修理に熱を上げる愛好家はなぜか多い。この連載は、ジャンク・ギターの修理を自らのライフワークとする“こいち”が、皆さんをジャンク沼へと誘うために、修理の様子を詳細にレポートしていくというもの。第1回目は、鮮烈な広告ビジュアルで昭和のギター・シーンにインパクトを与えた通販ギター、Tomson SPLENDORシリーズを取り上げる。症状が重すぎて逆に敷居が上がった気がします(by編集)。
【注意】
ジャンク・ギターの購入、及び修理の際は、個人の責任において、細心の注意を払って行なってください。当コーナーで示した修理内容や方法はあくまで参考であり、あらゆる人と環境、ギターに適応するものではございません。ジャンク・ギターの購入、修理において万が一の事故が発生した場合も、こいち氏、及びデジマート・マガジン編集部、デジマートで責任を負うことは出来かねますので、何卒ご了承ください。
こいち
ジャンク楽器に目がない。壊れた楽器をパズルや知恵の輪としか見ていない。難題を解いた時の快感が忘れられず、ズルズルと今に至る。
助手
ブログ「こいち時間」の看板娘兼助手。楽器・機材の耳年増。ハンダづけされた部品を外す時に手伝ってくれたりする。
ジャンク・ギターが必要になった
いくらでもタンスの肥やしになってるじゃないですか
症状が軽くて、簡単に直せて、見た人が「俺もやってみよう!」となる、ジャンク界隈が活性化するような良い塩梅の撒き餌が必要なんだ
シーンが盛り上がると、センセー的には競り合うライバルが増えてしまうわけですが
大丈夫。悔しくない。ちょっとうらやましく思うくらい。欲を言えば一切手をつけずに「再生する時間が取れないので~」とオークションに放流してほしい
未練タラタラじゃないですか
お、MGタイプだ
商品説明は話半分として、雰囲気が良い感じですね
ポチー!
早っ
届いたぞ。余っていたダンボールを再利用するこの感じ、昔の●●(※検閲)ハウスみたいで懐かしいな~!
いきなり危ない単語で古参アピールしないでください
今まで個人ブログで自由にやっていたことも、場所が変われば制約が増えるのだ
早速、状態の確認から
ボディ側はデジマート掲載時の商品説明にもあった通り、ピックアップのON/OFFのスライド・スイッチ破損がおもな症状になる
カバーに隠れてましたけど、ブリッジのネジも3箇所ないですね
商品説明にはなかったけど、ネック側は2弦のペグ・ブッシュとナットもない
ジャンク品にありがちですけど、細かい部分は写真で判断してくださいということですね
そうなんだよ。こういうジャンク品を販売する場合は、半端に状態を記載するほうが危ない。「説明と違う」といくらでもクレームを付けてくる輩がいる。こちらも店舗側の面倒さを汲み取って、たとえ手元に届いた現物が想像以上に酷かったとしても、文句を言わない気持ちが大事だぞ!
わざわざ写真を撮影して、商品説明まで書いて、デジマートに出品していただきありがとうございます!
トラスロッドのナットもないじゃん! 説明と違うじゃん!
早速言ってる……!
大丈夫。問題ない
センセー、そういうの好きですもんね
うむ。むしろ商品説明にない問題箇所があったほうが嬉しい
破損しているのはピックアップON/OFF用のスライド・スイッチのみで、ピックアップ、ボリューム類、ジャックは問題ない模様
それでも初回から重すぎる症状のジャンク・ギターで幕開けしてると思いますよ
ブリッジ下の弦アースは外れちゃってますね
前のオーナーが金色に塗り替えた時、もとに戻さなかったんだろうなあ。ほかにも使われているネジの統一感がないので、塗装した後にしばらく放置していてネジもなくしてしまったのかな?とか、店頭吊るしの新品にはない、これまでのドラマを感じられる痕跡を発見するのが楽しい
あくまで“MGタイプ”なのでピックガードの形は全然違うんですね
補修用の部品を調達するうえで、ムスタング用のスライド・スイッチを購入すると泣きを見ることになるトラップだ。たぶんジャガー/ジャズマスター用のスライド・スイッチが適合するんじゃないかなあ
そしてこれが、記事のコンセプトとパーツの入手性から完成形を考えた結果、買ってきたものになります
ロータリー・スイッチでピックアップを切り替える方式にしたんですね
件のスライド・スイッチを探したけど見つからなかった。使われているコントロール・パネルが都合よくジャズ・ベースと共通サイズなので、いっそのこと4つ穴タイプに変更したほうがザグリや穴あけが不要になるかなと思って軌道修正してみた
これは7弦ギター用のナットですね
投げ売りされてたし、弦ピッチは同じだったので加工して使っちゃおうかと
ナットやトラスロッド・ナットに関しては、ジャンク置き場から同等品が出土されたけど、「予算をかけずに買い物はする」というコンセプトに反する気がするので、今回も活躍の場はありません
ピンポイントで必要なものが出てくるもんですね
こうやって誰にも必要とされないジャンク・パーツを捨てない重要さを、ちょこちょことアピールしていきたい
欲していたペグ・ブッシュもジャンク置き場から出土したそうですが……
もう買い物を済ませてある都合もあるので使いません!
このモデルに使われていたと思われる金属プレートがたくさん出てきましたよ
やめて!
それでは足らなかった部品をさくさく取り付けていきます
トラスロッド・ナットは潤滑と防錆、保湿も兼ねて、特製蜜蝋ワックスをネジ部に塗って取り付けまーす
購入したペグ・ブッシュは取付径が合わなかったのでタケノコ・ドリルで10mmに拡張後、プラスチック・ハンマーで叩き入れました
楽器を叩くことに気が引ける人はクランプで圧入してください
7弦用のナットを6弦用に加工します
素直に新品を買っていれば必要なかった作業ですね
ナット底面と側面が、もとの接着剤でガタガタだったので整えます
これは自作の棒ヤスリになります
指板にまで金色の塗料が付いていますね
前々のオーナーが全体をパーツごと金色に塗ってしまって、次のオーナーが頑張って指板の塗料をヤスリで落としたような気がする。指板とフレットをまとめて番手の細かいスチールウールで磨いてしまおう!
金属磨きとウエス(不要な布)でさらにピカピカにします
指板ごと磨いていいんですか……?
面倒だしね……。もちろん指板の木部に汚れが溜まっていくので、気になる人は歯ブラシなどで洗うなりしてください!
椿油で保湿します
入門用のコピー・モデルかと侮っていたら、指板がめちゃくちゃいい雰囲気ですね
うんうん、昨今の安ギターに使われているような、青みがかったローズウッド指板より全然良いと思う
続けてボディ側の作業!
これは使用期限がほぼ切れている瞬間接着剤を、木部のネジ穴に流し込んで使い切ろうとしている写真ですね
低価格帯のギターは柔らかい木材がボディに使われていることが多いので、ネジ穴がバカになりやすい。何度も分解されていたであろうこの個体も、例に漏れず空転する箇所があるし、こういう簡単フィニッシュでもその場しのぎなりに効果があるのよ……
破損していたスライド・スイッチはただの端子台にしたいので、接点を外して組み立て直してみた
生かさず殺さず
ピックアップの位相をチェックしまーす
予想通りというかフロントとリアともに同じものが載っていますね
一応儀式としてピックアップ周りをいじる際にはチェックしたい項目だね
高価なピックアップへ自分で交換しつつ、フェイズ・アウト・サウンドに違和感を覚えながら「値段が高いものはこういう音なのか~」と無理やり納得している状況をよく見かけますもんね
端子台と化したスライド・スイッチの足に両ピックアップの配線を置いて、4芯シールド線を這わせました
買ってきたロータリー・スイッチのシャフトが長いので金属ノコで切断
穴の径も合わないのでリーマーで広げます
一般家庭になさそうな道具のオンパレードですけど、近所のホームセンターで手に入るのでご了承ください
次はロータリー・スイッチを含めた配線だ
【ロータリー・スイッチ構成】
1.フロント・ピックアップ
2.フロント+リア(パラレル)
3.リア・ピックアップ
4.フロント+リア(シリーズ)
初回にしては複雑な気がします
こればっかりはやりすぎた感もある。4箇所選べるスイッチが3つ入っていると考えるといいかも
ピックアップ・セレクターをよくあるトグル・スイッチにせず、あえてロータリー・スイッチにした心は?
見た目がJBタイプみたいでかっこいいでしょ
センスあると思われたかった?
うむ
ホームセンターで簡単に手に入る、頭が平らな皿ネジの使用許可をお願いします
カバーで隠れて見えなくなるところなので、許可します
やったー
頭が丸皿のネジを使わないとエレキ・ギターに見えませんもんね
これは低価格帯のギターにありがちな、ボディ側の穴がきつすぎて座金の意味をなさない状態
ひと回り大きい径のドリルで穴を広げまーす
ネック・ジョイントのネジもひとつ違うものが混ざっていますね
ネックとボディを外しての発送だったので、スルッと入る場所を探すしかないわね
ネック・ポケットには厚紙のシムを4枚ほど入れてみた
角度がついたおかげでブリッジ・ミュート時、ネジの先が邪魔にならなくなりましたね
4枚も入れたのは始めてかもしれん
ナットはそのまま弦を張ると6弦側に寄ってしまいますね
ペグ・ポストの位置が適切な直線上にないのは仕方がない。瞬間接着剤で固定します
6弦3フレットだけ高さが足らなくて音が出ませんね……
致命的だけど、フレットすり合わせやフレット交換は今回のコンセプトから外れるので、フレットを軽く抜いたあとに、ちょうどいい高さに打ち込んで瞬間接着剤で固定してしまいまーす
荒業……!
オマケとしてホームセンターで購入した材料でアーム・バーを作ってみました
アームの受け側は5mm径のネジが適合するので、いろいろと遊べそうですね
企画のコンセプト上、当初は接点不良やジャックの断線程度の、軽い症状の個体を探していたはずなんだけど……
いざ蓋を開けてみれば大層重い個体が届いたものですね
これもジャンクあるある。聞いていた話が違っても楽しめるくらいの余裕を持ちたいものだ。そして少しでもデジマートでのジャンク販売が増えてくれると嬉しいな
ジャンク・ギターの争奪戦の火蓋が切って落とされた
良いものは全部わたしがいただく!
余裕とは……!