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- 2024/11/16
Martin / OMC-16E、D-16E、DSS-17、000JR-10
好評連載Martin Times。第35回目は個性的なルックス/仕様を持った2019年モデルの新作4本、OMC-16E BURST、D-16E NATURAL、DSS-17、000JR-10をご紹介。今回もお馴染み斎藤誠氏の演奏でお楽しみください!
今回ご紹介する新製品は、マーティンの本格的なラインナップの中でも比較的お求めやすい価格帯でありながら、いずれ劣らぬ個性的なモデルだ。
まずは、渋い色合いが魅力のカッタウェイ・モデルOMC-16E Burstと、16シリーズでありながらボディにイースト・インディアン・ローズウッドを採用したD-16Eの2本のエレアコ。そして17シリーズの新顔で、オール・ブラックの仕上げに白のバインディング&ピックガードのコントラストが精悍な雰囲気を醸し出すスロープショルダーのドレッドノートDSS-17 Black Smoke。さらには、000をひとまわりコンパクトなサイズにした取り回しの良い000JR-10で、特にお買い得感の高いモデルである。
これらのモデルに共通する最大の特徴は、上位モデルに使われているものと同様の樹種の材を採用し、マーティンならではのサウンドや弾き心地を維持しながらも、低価格を実現しているところにある。上級者が用途に応じて選ぶにも適している一方で、ギターを通じて音楽ファン層のすそ野を広げようという、マーティンの地道な努力がうかがえるラインナップにもなっている。
スタイル16は本来、トップ材がスプルースのレギュラー・モデルの中では最もシンプルなモデルだったが、装い新たなラインナップには意欲的な仕様のモデルがそろっている。カッタウェイ付きのOMで、さらにトップも含めたボディにはオバンコールというアフリカ産の材を用いたこのモデルは、その中でも最もユニークな1本だと言えるだろう。トップのグロス仕上げに音の暴れを抑制する効果があるせいか、オール・マホガニーのスタイル15に比べて、ややダークなサウンドが持ち味のエレアコである。
【Specifications】
●トップ:オバンコール ●サイド&バック:オバンコール ●ネック:セレクト・ハードウッド●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:X・ブレイシング・スキャロップト ●ピックアップ:フィッシュマン・マトリックスVTエンハンス ●価格:¥330,000(税抜き)
トップも含めたオール・オバンコールというのがとても珍しいですが、それを知らずに音を出してみた限りでは、そんなに不思議な感じはないですね。OMだから僕にとって馴染みがあるし、マーティンならではのバランスの良さもありました。デモ曲は指弾きからストロークになるような構成にしましたが、予想通りどちらの奏法でも弾きやすかったですね。倍音が出過ぎていないせいか、アンプに通した時のサウンドもバランスが取れているし、OMなのにふくよかな低音がしっかり出ていて、プリアンプのエンハンスに頼らなくても済むぐらいです。ハッキリした杢目にバーストというルックスは好みが分かれるかもしれませんが、個性的な1本なのは間違いないですね。
こちらも16シリーズとなるドレッドノートのエレアコだが、ボディの厚みが000と同じで、通常のドレッドノートよりも2cm近く薄いところがユニークだ。この“薄さ”は、特にストラップをかけての立奏時にピッキングする手が遠くならず、手や腕の負担が軽くなるというメリットがある。また、指板もブリッジもエボニーで、本来なら20番台以上のモデルで使用されるローズウッドをボディ材に採用しているのも特徴。そのためドラムスの入ったバンドでも埋もれない、重量感のあるパワフルなサウンドが得られるようになっている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm) ●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:フォワード・シフテッド・X・ブレイシング・スキャロップト ●ピックアップ:フィッシュマン・マトリックスVTエンハンス ●価格:¥300,000(税抜き)
これはボディの薄さがハッキリわかりますね。おかげでピッキングの位置がすごく体に近いし、D-28みたいな普通のドレッドノートほど低音が出ない分、ストロークで細かいことをやっても聴こえてきます。デモはエディ・コクランの曲を意識した「サマータイム・ブルース、秋」というタイトル(笑)。ピックのストロークで弾いていますが、ジャカジャカやりたくなるギターなんですよね。バランスの良さもさすがマーティンという感じです。ライブハウスでソロの弾き語りをやっていると、もう少し低音が欲しくなることもありますが、そんな時にはエンハンスで補えばいいし、これはもう本当にライブ向きのギターです。
スロープショルダーと呼ばれる丸みを帯びたボディを持つドレッドノート。ブラックで統一感を持たせた仕上げ、アイボリーのピックガード、ボタンがクリーム色のオープンギア・ペグなどによる組み合わせが、マーティンには珍しい雰囲気を醸し出している。スキャロップのXブレイシングとマホガニーのボディ材が相まって、昨今流行りの古き良きアメリカーナにピッタリの豊かな響きが楽しめる1本に仕上がっている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:マホガニー ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:ローズウッド ●ブリッジ:ローズウッド ●スケール:25.4インチ(645.2mm) ●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:X・ブレイシング・スキャロップト ●価格:¥330,000(税抜き)
何度も言うけれど僕もBlack Smokeの000-17を使っているんですが、まずルックスが最高ですよね。でも、ドレッドノートはやはりスロープショルダーのボディのほうが似合います(笑)。このギターはとにかくイナタいサウンドが良いんですよ。音量は000よりも全然デカくて、さすがはドレッドノートという感じです。推奨弦はレトロのライト・ゲージということで、フォスファー・ブロンズ弦に比べてサステインが若干短い感じですが、その分、低音弦のフレーズが明瞭になるようですね。デモにはブルースっぽい曲を選びました。どうしてかと言うと、このギターを構えて上から眺めていると、そういう気持ちにさせてくれるんですよ。
すでに発売中のドレッドノート・ジュニアと同様、通常の000よりもひと回り小さなボディを持つモデルで、スケールも24インチ(約610mm)と、通常よりも2cmほど短くなっている。ボディ材はマホガニーによく似たサペリを使用。スキャロップXブレイシングとの相乗効果で、コンパクトなボディでありながら軽やかさと豊かさを両立させた本格的なサウンドが特徴である。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:サペリ ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:FSCサーティファイド・リッチライト ●ブリッジ:FSCサーティファイド・リッチライト ●スケール:24インチ(609.6mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:X・ブレイシング・スキャロップト ●価格:¥95,000(税抜き)
これは今回のイチオシかもしれません。こんなにコンパクトなサイズなのに音がデカいんですよ。オール木材でこの値段というのは、がんばってますね。最近のトーク・ライブでよく弾いているドレッドノート・ジュニアは見ただけでも特殊な感じがしますが、これはもともとあったサイズのギターだと言ってもおかしくないぐらい。可愛らしいルックスだけども、とにかく鳴るギターで、バランスも良くてレコーディングでも使いたくなるぐらいです。デモはいろいろなパターンのピック弾きを盛り込んだ曲で、ガッツのある弾き方にも繊細なピッキングにも使えるのがよくわかると思います。デモではやっていないけれど、レスポンスが良いので指弾きでもイケますよ。
今回はマーティンの中ではそれほど高価でないモデルを弾かせてもらいました。なので、初心者の方でも購入対象にできたり、ルックスがユニークなギターが勢ぞろいでしたね。どれも装飾がシンプルでしたが、安いんだからという諦め感がまったくなくて、むしろ夢が広がるような、いずれ劣らぬ個性派のモデルばかりだったという印象です。
スタイル16の2本はどちらもエレアコとして使った時の音が良かったですね。OMCはピックで軽いストロークをしても1本1本の弦がしっかり鳴るのが良かったし、ボディの薄いD-16Eは弾きやすくて即戦力の使い出のあるギターだと思います。
スロープショルダーのDSS-17は、マーティンらしからぬルックスにはとりあえず目をつぶって(笑)、このレトロな雰囲気を楽しめば幸せになれるでしょう。誰が持ってもカッコ良く見えるギターだし、男っぽさを狙いたい人には特にオススメできます。個人的に特筆すべきは000JR-10と、ボディの厚さが000と同じというD-16Eかな。とりわけ000JRは、予算の少ない人にとっては心強い選択肢になる1本だと思います。
あと、これは余談になりますが、DSSと000JRに標準で張ってあるレトロ弦は輪郭の太い音で、ベースラインがくっきり出るし、巻弦の高い音もしっかり聴こえるのが良かったですね。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西 慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したことをきっかけに音楽界デビューを果たす。
1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポート・ギターを始め、数多くのトップ・アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。
2018年4月18日、MARTIN GUITARのラジオCMでお馴染みの「It’s A Beautiful Day」をニュー・シングルとしてリリース。また、本人名義のライブ活動のほか、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務めており、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンドや卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!