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- 2024/12/04
音源モジュール
歴史的名曲のバック・トラックを、電子楽器やソフトウェアなどで完コピする連載「名曲完コピ倶楽部」。今回は音楽ユニット“ナナビット”で活動中のトガワヒカリ氏によるレイ・ハラカミ「OWARI NO KISETSU」です!
※音楽SNSアプリ“nana”にアップロードしています。なお、1コーラス分が90秒に収まるようにイントロを一部カットしています。
ドリーミーなテクノ・トラックを数多く残した故レイ・ハラカミ。DTM用マルチ音源Roland SC-88ProとDTMソフトOpcode EZ Visionを駆使して音を紡ぐその手腕は、半ば伝説と化している。アルバム『[lust]』収録の「OWARI NO KISETSU」は、細野晴臣の名曲『終りの季節』のカバー。原曲の印象とはまったく違う斬新なアレンジと、自身によるボーカルで話題となった。その後、矢野顕子とのユニット“yanokami"のアルバム『yanokami』には矢野の歌唱による同曲が収録されている。
ハラカミ氏は2003年にリリースされたアルバム『[lust]』以降、「サンプラーなどの音源には頼らずSC-88Proのみで楽曲を作っていた」とインタビューなどで語っていましたが、今となってはその制作過程を見ることは叶いません……。そこで氏の楽曲をSC-88proだけで再現することは、検証という意味でも価値があるのではないかと思い、代表曲「Owari no kisetsu」の完コピを試みることにしました。
ハラカミ氏の曲がSC-88proだけでできているなんて信じられない!という声をよく聴きますが、実際SC-88proのプリセットに触れると聴き覚えのあるサウンドが意外と簡単に出せることが分かります。音色はアタック/リリース/カットオフ/レゾナンス/ピッチ・モジュレーションなどが調整でき、コーラス/ディレイ/リバーブに加えて1系統のインサーション・エフェクトが使えるため、外部機材に頼らなくても十分な音作り可能です。
では実際に作成したトラックを見てもらいましょう。今回は、たかぼー氏が制作したフリーのMIDIシーケンサー・ソフト「domino」を使用しました。
トラック数はそれほど多くありません。実際にはもっと隠れた音があるのかもしれませんが、これくらいで「似てる」感は出せているかと思います。データ容量も35KB程度と大変軽いです。
この曲の完コピは、全体の音のバランスを確認しながら進めないと難しそうだったので、2小節くらいずつに区切って聴き取り、全パートを打ち込んだら次の小節へ進むという作業を繰り返していきました。この楽曲は途中に変拍子が入ったりしますが、オンビートなので拍がズレたままでもかまわず作業しました。
音源もエフェクトもすべてコンピューターで再現できる最近の制作環境では、DAWのプロジェクト・ファイルを保存すれば簡単にトータル・リコールすることができます。しかし、SC-88Proのようなハードウェア音源がDTMのメインで活躍していた頃は、シーケンサーにプログラム・チェンジ、コントロール・チェンジを打ち込んで音色設定や切り替えを行なうのが一般的でした。ここでは今回使用した音色やエフェクトのパラメーターについて紹介します。
ハラカミ氏のあの独特のダブ感を与えるディレイとしてPAN DELAY4を使用しました。適度なディレイ・タイムとフィードバック値を設定しています。
曲全体で使用しているエレピの音色です。イントロ部分は、イメージする和音を分解して再構築したところ、割とうまくいったという感触が得られました。ディレイもMIDIで書いています。原曲の音色に近づけるためにエフェクトやエンベロープの設定などを微調整しています。
これもハラカミ氏が好んで使っていた音色です。スロー・アタック、そして少し遅れてピッチ・モジュレーション。リバーブとコーラスで広げています。
ベース的な役割も兼ねる音色です。後述しますが、ベースとしては低音が足りない気がしたので別トラックでサイン波的な音色をオクターブ下で同時に鳴らしています。
裏打ちのアナログ・シンセのフィルターで作ったような音は、ウーリッツァーの音色でカットオフ&レゾナンスを調整してみました。
エレキ・ギターのような音色を、再びウーリツァーの音色で再現。スロー・アタックにして、インサーション・エフェクトでオーバードライブをかけています。
ピッチ・ベンドで音程を下げて、さらにローファイ感を出すためカットオフで高域を少しカットしています。
SC-88Proはドラムが2系統使えるので、ディレイをかけたいシンバル系の音色をこちらのトラックに集約します。冒頭でトラックをドラム・モード2に切り替えて、ディレイを設定しています。
途中で派手に入る残響ですが、ホワイト・ノイズで残響風の効果を出してみました。アタックやリリースを良いあんばいになるように調整してコーラスやリバーブで広げました。
ベースのサブ・ハーモニックです。コピーしたトラック3のノートを1オクターブ下げているだけですが効果があります。音量バランスは聴きながら調整しています。
ちなみに私が使用しているのは、SC-88PROからディスプレイやボタンを省いたSC-88ST PROというモデルです。できあがったトラックは、SC-88ST PROからハンディ・レコーダーZOOM H4nへダイレクトに録音しました。MIDIインターフェイスはMOTU Micro Liteを使用しています。
録音したデータはDAWに読み込んでモノラル設定を行ない、レベル・メーターTBProAudio mvMeter 2(フリー・プラグイン)でレベルを確認しながら付属のEQ、サチュレーション、そしてマスタリング用マキシマイザー・プラグインDOTEC-AUDIO DeeMMaxを使って音を決めていきます。
以上でトラックが完成しました。作業してみて、やはりハラカミ氏の音楽のカギは音の配列にあったように思いました。オリジナルどおり再現しようとするなら、とにかく正確に音を聴き取ることに尽きます。完コピにはオリジナルの楽曲制作やリミックスなどとはまた違った楽しみがあると思いますので、みなさんもぜひ挑戦してください。
トガワヒカリ
主に80年代後半のMIDI楽器を使いながら音楽制作・活動を行なう。PAオペレーターや録音なども活動中。ソロプロジェクト「ナナビット」として、アルバム『机上の空論』(WCAT-027)を2019年12月18日に発売。