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- 2024/11/16
モジュラーシンセ用ケース
ここ最近、世界規模で大きな盛り上がりを見せてるモジュラー・シンセ。興味はあるけど何から始めていいか不安……”、“どんなことができるのか全く見当もつかない……”などと悩んでいる方も多いはず。そんな悩みを解消すべくスタートするのが新連載「galcidのモジュラー学園」。日本を代表する女性モジュラー・アーティストgalcidが、モジュラー・ビギナーズに“使えるテクニック”を伝授します!
みなさん、こんにちはっ! galcidのLenaです。galcidは電子音楽のソロ・ユニットでモジュラー・シンセとリズム・マシン、Roland TB-303というビンテージ・ベース・マシンといった新旧織り交ぜた機材を使ってライブや音楽制作をしています。
下の動画は2019年8月22日に瀬戸内芸術祭のイベント「DOMMUNE SETOUCHI」に参加した際のライブ映像です。こちらを見ていただければ、どんな感じでライブしているかが分かると思います。
最近はユーロラック・モジュラーを使っているミュージシャンも増えて、特に海外ではモジュラーを取り入れたバンドも増えてきていますよね〜。私は2017年からユーロラック・モジュラーを使い始めています。この連載ではダンス・ミュージックに役立つモジュラー・シンセの使い方について紹介していきますよ〜。
1回目のテーマは、「モジュラー電源とケース」。私もそうでしたが、これからモジュラー・シンセを始めようとする場合って、ケースのサイズはどうするか、電源は十分なパワーがあるかなど、いろいろ悩みどころがありますよね。
モジュラーを始めるって言ってるのに楽器(モジュール)じゃなくてケースから?と思うかもしれませんが、モジュラーやるなら電源とケースから!と言っても過言ではないのですよ。最近はかなりケースも種類が増えてチョイスができるようになった感じです。それでは早速digっていきましょ!
ひと昔前のモジュラー・シンセと言えば、スタジオで据え置きになっていて、電話交換機のような巨大ボックスのイメージがありました。このサイズのモジュラー・シンセは、基本的に持ち運ぶことを想定して作られていなかったのですが、ドイツのメーカー“Doepfer”のモジュラー・シンセが登場したことによって、一気にコンパクト化が進みます。
そのきっかけとなったのが“ユーロラック”という規格の定着です。これはDoepfer A-100シリーズで採用していた“サイズや電源などの規格”でしたが、ほかのメーカーもこの規格に追従するようになり、多くのユーロラック規格のモジュラー・シンセ(以下、ユーロラック・モジュラー)が発売されるようになりました。
そんなこんなで、1つのメーカーが用意した箱に同じメーカーのモジュールを入れるのではなく、さまざまなメーカーのユーロラック・モジュラーを自由にチョイスして組み合わせられるようになったわけです。
ユーロラック・モジュラーの高さは128.5mm、これは19インチ・ラックの“3U”に当たります。横幅は“HP”(Horizontal Pitchの略)という単位が用いられ、1HPは5.08mm。これはケースのマウント・ネジ1個分に相当します。ちなみに“84HP=19インチ”という計算になります。
このサイズは、もともと医療機器や計測機器などで使われていた規格をDoepferが楽器に応用したことが発端のようで、現在のモジュラー・シンセの主流になっています。
ユーロラック・モジュラーは、+12V / -12V / +5Vという3種類の電圧が使われます。これらはバス・ケーブルを経由して供給されますが、どの電圧を使ってどのぐらい電流が消費されるかはモジュールによって異なります。購入する際は販売サイトで必ずチェックするようにしましょう。
昔は電源とケースを組み合わせて購入することが多かったのですが、最近のケースには電源が付いているので、初心者でも選びやすくなりました。もし電源がコネクタが不足した場合でも、電源モジュールやバス・ボードを追加することができます。
ちなみに、モジュールをケースにマウントする時にコネクタのピンを上下逆に挿したりしてしまうと、煙が出てモジュールをダメにしてしまうことがあります。コレ、本当に心臓に悪いです(笑)。私も体験してるのですが、音の挙動がおかしくなってだんだん焦げ臭くなってくるんですよ。
最近のモジュールは差し込みミスを防止するためのツメがついていたり、いきなりショートする前に挙動がおかしくなって私たちに「間違ってるぞ信号」を送ってくれたりと、いきなりモジュールが吹っ飛ぶようなことはほとんどなくなりましたが、せっかくのモジュールを台無しにしないためにも、取り付けには十分注意しましょう!
ユーロラック・モジュラーのケースの横幅は、大きく分けて84HPと104HPの2種類あって、それらが1段、2段……となって、より多くのモジュールを収納することができます。素材もさまざまで、軽量のアルミケースから、重厚な木製のものまで多彩に用意されています。また、折りたたみ可能なもの、据え置き型として使いたいもの、ライブ用として使いたいものなど、用途によっても選べるようになっています。
ちなみに、私がライブで使っているユーロラック・モジュラーはこんな感じです。海外のツアーなどの移動も考えて、なるべく最小限のセットになるように心がけています。
2段の84HPに1Uのスペースが付いているIntellijelのケースを2つ。そして同社の1段の104HPに1Uのスペースが付いているケースの下部分にドリルとサンダーを使ってDIYで穴を開けてスタンドを挿して使っています。
このケースについてワークショップでなどでよく質問を受けますが、「アイデアもすごいけど穴を開ける勇気がすごい」とよく言われます(笑)。ちなみに1Uのスペースには、最近出回っている1Uサイズのミニ・モジュラーをマウントできるようになっています。 このセットだと、いつでも自由にセパレートできるし、電源もパワーも十分、アルミで軽量なので申し分ナシです!
「大は小を兼ねる」といって、あまり大きなケースを選んでしまうと、ライブやツアーなどで持ち運びが大変なので注意したいところです!(特に女性は悩みどころかも?)
私も海外公演の時は、重さやスーツケースを併用したときの大きさ、持ち運びなどにも気を遣います。精密機器なので、空港で荷物を預けるわけにはいきませんからね。(と、言いながら私は預けていますが、これはまたいつかお話しするとして……)
私個人としては、ライブなどで頻繁に持ち運びする場合のケースは、いろいろなバランスを考えて「電源の容量が大きくて、中くらいサイズ」がオススメです。
たくさんの演者が出演するフェスやイベントでは、転換時間が短い場合もあります。そんな時に備えて、パッチングをした状態で閉められる「フタ付きのケース」を選んでおくと便利です!
これさえあれば、会場に行ってフタを開けて電源を挿し、アウトプットをつなげるだけ! ゼロからパッチングするライブ・パフォーマンスの場合ならフタは必要ないかもしれませんが、フタがあるとライブ・セッティングの幅が広がって使い勝手が良くなると思います。
友人のリチャード・ディヴァインは、フタなしケースでモジュラーを日本に持ってきて、お手製のパッチング表を見ながら「これ、最低1時間は掛かるんだよね、マジ、パッチしたままにできるフタがないとキツイわ〜〜!」って言いながら必死にパッチングしていました。確かに毎回パフォーマンスする前にこの複雑なパッチングをするのは大変だよなぁ……と思いながら眺めてました。
どのような用途においても気をつけたいのは「ケースが、使いたいモジュールの奥行きに対応しているか」ということです。最近のユーロラック・モジュラーはとても薄型にできているので、必然的に奥行きが小さいケースが増えてきました。これは可搬性やスペースを考えた時にとても助かるのですが、初期のDoepferのモジュールなど、奥行きがあるものがまだたくさん出回っています。こういったモジュールを使用する場合はケースに収まらない可能性があるので、購入の際に必ず確認しましょう!
また、ケースに電源のバス・ケーブルがいくつ付いているかを確認しておくのもポイントです。単純計算して、例えば84HPのケースに2HPのモジュールだけをセットした場合、バス・ケーブルの数は「42個」も必要になってしまいます。
もちろん、パワフルな電源に変えれば、バス・ケーブルを分岐して増やすこともできますが、あまり多く入れるとケースの中がグチャグチャになるので気をつけましょう。自分が入れたいモジュールの数を想定して、少し多めのバス・ケーブルが付いているのが理想ですね。
ケースには電源ユニット(または電源ユニット)の電流許容量があります。各モジュールの消費電流の合計がそれを上回らなければ問題ありません。
しかし、多くの電力を消費するモジュールとは知らずに、適当にマウントしていったら動かなくなってしまったということもあるので、油断禁物です。ケースの電流許容量と各モジュールの消費電流の合計は、必ず把握しておきましょう。
[例1]
▲ この場合、各モジュールの消費電流の合計は、ケースの電流許容量の範囲内なので問題ないということになりますね。
[例2]
▲ -12Vを使用する各モジュラーの消費電流の合計が、ケースの電流許容量を越えちゃってます。これだと動作しないモジュールが出てくるはずです。こんな場合は、電流許容量が大きい電源付きケースに買い換えるか、あるいは電源モジュールを足すということで解決できます。
とは言っても、なるべく初めから失敗しない買い物をしたいですよね。しかも多くのモジュールの消費電流をいちいち計算するのは大変です!
実はこういう問題をシュミレーションしながら解消できる便利なWebサイトがあるんですよ。
海外モジュラー・シンセのポータル・サイトmodulargrid.netでは、モジュラー・シンセの情報がいち早く更新されるため、ガレージメーカーから大手メーカーまでのユーロラック・モジュラーが検索できます。
特に便利なのが「My Modular」というページ。ここではユーロラック・モジュラーのセットアップのシュミレーションができるのです。モジュールを仮想的に組み合わせて、ケースにきちんと収まるかグラフィカルに表示され、さらに消費電流の合計やケースに必要な奥行きなどが一目瞭然なので、モジュールの購入にとっても役に立ちます!
また、製品情報ページには、製品に関連するYouTube動画や、スペックなどが掲載されていますし、さらには世界中のユーロラック・ユーザーのセットアップなども公開されているのでとても参考になります。
このWebサイトを有効的に使って自分だけのセットアップを作ってみてくださいね!
それではまた!
galcid
Lenaによるソロ・ユニット。 モジュラー・シンセとTB-303、リズム・マシンを使いこなした「完全即興スタイルのライブ」を行なう。2016年の1stアルバム『hertz』(DetroitUnderground)は 発表されるやいなやカール・ハイド(Underworld)、スロッビング・グリッスルを始めとする世界の名だたるアーティストたちから賞賛を得た。Boiler RoomやMutek.jpなどの電子音楽に特化したイベントに出演しながら国内外でライブを重ね、2018年には坂本龍一氏によるSpotifyのSKMT Picksにも選ばれた。2019年よりacidセット別名義lenacidとしてもEPをSchmerレコーズよりリリースし活動を開始。10月にはDetroitUndergroundよりambient作品、11月にはドイツのForce Inc.よりEPアルバム、年末に2ndアルバム、年明けにはドイツの老舗エクスペリメンタル・レーベル、ミルプラトーよりEPアルバムをリリース予定している。