AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Coo’s クマザキ楽器
日本各地に点在するという、ハマったら抜け出せない機材の沼スポット。自他共に認める機材好きで1日に5回デジマートを見る男が、全国の沼を訪ねて歩く連載、それが「ニッポン沼めぐりっ」! 今回は、岐阜県下呂市のCoo's クマザキ楽器に突撃です!
おかげさまで、この連載の評判が良いらしい。中年男性が楽器店へ赴き、在庫を眺めて「すげえ」か「欲しい」か「これいくらですか」しか言わない記事が良いのかどうか、私自身には不安しかないが、とにかくありがたい。
今回の行き先は、下呂温泉だ。非常に有名な温泉地だが、実際に行くのは初めて。東京からはまず新幹線で名古屋に出て、そこから特急ワイドビューひだに乗って約1時間半、下呂駅で下車だ。
……下呂で、下車。アタック強めな語感ですな。
下呂駅から2〜3分歩くと、大きな川に出る。飛騨川だ。
水質が、信じられないほどきれいで思わず見とれる。こんなところに楽器店があるなんて、本当だろうか……。
ん? 帽子になんか止まってる!?
川の近くには、チャールズ・チャップリン(映画俳優、コメディアン)の像があったので、記念撮影! なぜ下呂温泉にチャップリンなのか、由来を調べたが「観光客が映画について語らいながら温泉街を散策できるように設置された」とのこと。うん? それならもっと岐阜にゆかりのある映画人の方が……よく分からない。
旅の疲れ、そして温泉街の散策で、小腹が減ってきた。聞くところによると、この辺りは「鶏(けい)ちゃん焼き」というのが名物らしい。
どことなくファンキーな香りのする「喫茶 軽食 鶏ちゃん ジーニョ」という店を見つけ、イン。さっそく鶏ちゃん焼きをいただくとしよう。
これが鶏ちゃん焼きだ!
タレに漬け込んだ鶏肉と野菜を焼いて食べるのだが、店ごとに味付けが異なるらしい。ここは甘辛いタレで、締めに麺を投入するスタイル!
うっ、うまい!
鶏ちゃん焼きを堪能した際に、店主から少し話を聞く。意外にも下呂温泉は音楽が盛んらしく、花火ミュージカル、サンバ・パレードなど、音楽を絡めたお祭りが行なわれ、その際にはこれから伺う「Coo’s クマザキ楽器(以下、クマザキ楽器)」さんが活躍しているという。ほほう?
ジーニョを出たものの、取材のアポイントまで時間がある……ということでウロウロしていたら、温泉たまごとアイスクリームが合体した温玉ソフトと、温かいほんわかプリンなるものを発見! こんなものが、果たしてうまいのか? まぁ時間もあるし、食べてみるか……。
まずは温玉ソフトから。温泉たまごをぐちゃぐちゃに混ぜてから食べるという……。大丈夫かいな?
ぴっかーん! この顔! もう美味しいか、美味しくないか、分かるでしょう。考えてみればアイスクリームの原料にはたまごが使われているし、合わないわけがないのだ!
続いて、ほんわかプリン!
またしても、この顔!
あったかいプリン、うまっ!
いやー、いろいろ食べたな、しかし。これじゃ友人・知人から「井戸沼さん、デジマートでやってる食レポ、面白いですね」と言われてしまうのも仕方がない。
が、この企画はそうではない! 本来は楽器店めぐりなのだ。それをこれから証明すべく「クマザキ楽器」に向かう。
じゃーん! あったー! 「クマザキ楽器」! 温泉街のど真ん中から意外と近いよ。歩いて2〜3分で着きます。私の場合は寄り道ばっかりしていたからな。
うわー、広い!
都内の楽器店では、この広さ、
このゆったり感はないぞぉー!
よし、じゃあいろいろ見ていくか!
まずはお目当のギター・コーナー!
じゃーん! ん? あれ? 意外と、なんというかコンパクトだな……
で、では、アンプ・ウォール!
ぱっと見、あっと驚くようなアンプは見当たらないが……
じゃあじゃあ、エフェクター・コーナー!
厳選された品ぞろえ、なのか?
これはどうしたことだ?
今までの「沼めぐりっ」の店とはずいぶん雰囲気が違うぞ?
私 ── えーと、すいません。率直に言って、意外とギターが少ないんですね?
熊崎さん ── 地方の楽器店は、いま本当に厳しいんですよ。特にギターが。特にここ数年はひどい状況で……だからギター・コーナーを縮小したんです。今はネットで買っちゃう人も多いから「ギターは触って、確かめて買うものですよ」とアドバイスしているんですが、そうすると地元で買わずに東京まで交通費をかけて買いに行ってしまうんですよ……。
えっ……
私 ── そ、そうなんですか……。エフェクターも、正直点数が少なめですよね?
熊崎さん ── エフェクターも厳しいですね……。なんとか状況を変えようと、思い切って高価なエフェクターをいくつか仕入れたこともあったのですが、それが万引きされてしまって……。
んなにぃーっ!?
許さんっっ!!(怒)
楽器やエフェクターの製作者がどういう思いで作っているか、それを楽器店さんがどれだけ苦労して売っているか。盗んだ奴はそういったことを全部踏みにじり、本当はいつかそれを手に入れるはずだった人のチャンスも潰したんだ。あー、これを書いていたら本当に涙が出てきたよ…………
熊崎さん ── いま楽器販売がそういう状態ということもあって、それで、うちはPA機器の販売やレンタル、オペレート業務中心にシフトしたんです。
なるほど、それで……
こちら充実したPA機器コーナー!
熊崎さん ── PAのオペレートといっても全部独学で身に付けたので、最初は大変でした。でも最近のPA機器がどんどん良くなっていることにも助けられて、今ではこの辺り一帯のお祭りやコンサートでPAを担当することが多いです。
あっ! それで!! さっきの鶏ちゃん焼きの店「ジーニョ」の店主も、熊崎さんと懇意にしているって言っていたもんなぁ!
熊崎さん ── 最近のものは、アンプにしろスピーカーにしろ、低価格でコンパクト、それでいて音質も良くなっています。ちょっと、実際に音を聞いてみますか?
といって、超々爆音でかけてくれたのが、TOTOの曲「Africa」のライブ・バージョン。
おおーっ、すっげえ!
本当にライブを見ているような臨場感!
スティーヴ・ルカサーがそこにいるのが見える!!
しかも、ここにあるスピーカー全部から音が出てるかと思ったらこんな小さなスピーカーから鳴っていた! ここからあれだけの音量が出るとは……
すごいなぁ、良い音、でかい音で聴く音楽は、やっぱり格別だ。
一瞬でご機嫌になった自分に、熊崎さんはこんな寂しいことを言う……。
せっかく遠くから来ていただいたのに……
こんな感じの店で申し訳ないです。
なにをおっしゃいますか! ここまで話して、自分はなんとしてもこの店の魅力を伝えたくなった。プロの沼メグラーの、腕の見せどころだっ! というわけで店内を再チェック!
アンプ・ウォールに古いAce Toneを発見!
お、これは初期型のYAMAHAのFG-180! 弾かせてもらっていいですかね?
私 ── これ、ギター自体もいいんですけど……弦、新品ですよね? 取材に来るということで、わざわざ張ってくださったんですか?
熊崎さん ── いやいや……在庫は少ないですけど、せっかく来てくれたお客さんが試奏するときに弦が古いと申し訳ないでしょう? 特にアコギは、ね。だから気をつけているんです。
……都心の店でも、古い弦を平気で張りっぱなしにしているところはある。こういうところに人柄が出るんだよなぁ。
弦のストックも、在庫数は多くはないが、多岐にわたる。ギターはもちろん、バイオリン、マンドリン、バンジョー、三味線、大正琴、二胡……
ほかにも、なんととなーく面白いポイントが点在!
こうしてみると、面白い店じゃないですか! 温泉街にあって、時がゆっくり進んでいるような……ちょっと地味ではあるけど、噛むほど味のある店なので、下呂温泉に行くミュージシャンは必ず立ち寄るべし! というか、ここに行くついでに温泉に行ったらいいんじゃないの??
最後に、熊崎さんと卓の前で写真を!
というわけで、取材終了。ふう、ちょっと汗をかきました。で、歩いていたら露天風呂を発見!
それじゃ、せっかく温泉街に来たんだし、ひとっぷろ浴びますか!
〜入浴シーンは割愛させていただきます〜
さて、仕事もほぼほぼ終了、締めのビールをプハーッといこうか。またしてもウロウロしていたら、「下呂牛乳ラーメン」というパワー・ワードを掲げた店にぶち当たる。入ってみますか。
下呂牛乳ラーメンは、名前のインパクトに反して普通にうまい。ビールだって、うまいよ。
だけど、やけに苦かった。
理由はわかっている。
地方の楽器店の苦しさを、目の当たりにしたからだ。ギターも、アンプも、エフェクターも……。
なんでだろう?
ギターって、なによりも
カッコいいはずだよね?
個々のメーカー、卸や代理店などの流通、楽器店、みんな必死に頑張っているんだと思う。
なにが足りないんだろう?
自分にできることは、なんだろう?
今回も、お腹はいっぱいになった。
でも胸の奥にモヤモヤしたものを抱えたまま、とりあえずミッション・コンプリート……。
水深(ギターの品ぞろえ)★☆
水質(店舗の美しさ)★★★
沼の面積(フロアの広さ)★★★★★
周辺状況(近隣の飲食店など)★★★★★
判定:厳しい干ばつに見舞われている沼。保護すべし!
Coo’s クマザキ楽器
住所:509-2202 岐阜県下呂市森1068
電話番号: 0576-25-2339
営業時間:平日9:00〜18:00 土曜9:00〜17:00
定休日:日曜日
デジマート・ショップページ
https://www.digimart.net/shop/5024/
井戸沼尚也(いどぬま なおや)
日本で唯一の、沼鑑定士(自称)。
1日5回デジマートを見る、機材大好きのギタリスト/レビュアー/ライター/ワウペダル奏者。
インスト・ファンク・バンドZubola Funk Laboratoryのメンバー。
2019年3月より、ドラムとギターのみの変態インスト・バンド「Ragos」を始動。マスクをするとデジマート地下実験室の室長に似ているらしい。