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- 2024/11/16
Line 6 / Helix
さまざまなトップ・アーティストにLine 6 Helixシリーズの魅力を伝えてもらう本連載だが、今回は番外編として、Helix / HXシリーズの開発責任者であるエリック・クライン(Eric Klein)氏への特別インタビューをお届けしよう。名実ともにHelixのエキスパート=達人である彼に、同シリーズの開発秘話、2019年にアップデートされ大きな話題を呼んだファームウェアVer.2.80について、そして今後のHelix / HXシリーズの展望について話を聞いた。
──Helixシリーズは多機能なデジタル・プロセッサーでありながら、直感的に音作りができる操作性の高さも兼ね備えています。シリーズを設計するうえで、特にこだわった部分があれば教えてください。
例えば“80:20の法則”というものがありますよね。つまり、8割の人たちがさまざまな機能を満遍なく使う中で、2割の人はうんとこだわる傾向が世の中にはあります。問題は、その2割を満足させようとすると、残りの8割が混乱するという点です。そこで我々は、いくつかの機能に関しては表面上は隠しつつも、こだわりを持つ、そのわずか20%の人たちの気持ちをくじかないようにすることを狙ったんです。例えばディレイを使いたかったら、スイッチひとつでそのブロックに飛べて、そこでいろいろと調整できます。ペダル・ボードのような感覚ですね。リバーブの調整方法も同様です。ところが、そのサウンドにMIDIコマンドをアサインしたいとなると、それはあえて、わかりにくくしているんです。MIDIに興味のないユーザーにとってシンプルにしておくために、メニューの中に隠しているわけです。
操作性で言えば、Helix Floorのノブは上下左右、回転、プッシュ・ボタンという6つの機能が、この1つの中に隠れているんです。実はボタンをたくさん並べたほうが安く上がる場合があるんですが、こうして見た目をシンプルにした方がとっつきやすいと考えたわけです。我々は、Helixはユーザーが何かを思いついた先からどんどん実行するための“道具”だと捉えています。ショートカットや動作のルールをいくつか覚えれば、それが叶うんです。一方で、Helixを使ったことがない新しいユーザーの皆さんは、GarageBandの下にPro Toolsが隠れているものを想像してください。その気になれば使える特徴的な機能がたくさんあるけれども、それによって興味のない人を威圧するものではないんです。
──Helixのリリースから4年経ちますが、近年ではHX Stompなどシリーズを拡張しています。それら“Helixファミリー”に対し、市場からはどんな反響を得られていますか?
Helixシリーズは、モデリングを好むギタリストの層から大きな支持を得ています。それは音にこだわるタイプの人たちのことで、彼らは週末にライブをやったりスタジオでプレイしながら、インターネット上で音作りについて熱心に情報交換しています。ですが当社としては、その層を広げ、違うタイプのこだわりを持ったギタリストにも注目してもらえる製品作りをしていきたいと考えました。例えば、Helixには興味を示さず、むしろペダル・ボードやアンプにこだわるユーザーたちですね。その結果生まれたのがHX Stompです。ややこしいモデラーだとは感じさせない、コンパクトで洒落たストンプ・ボックスを目指したんです。おかげさまで売れ行きは好調ですね。というのは、モデラーを好まない人たちもHX Stompをペダルとして見て使ってくださっているんです。実際、我々も“たまたまモデリング機能を兼ね備えているペダル”としてデザインしたわけですしね。実はHX Stompは紙の模型から始まったんですよ。ノブなどをテープで止めた5〜6種類の案を、社内のあちこちでいろいろな人に見せて、開発まで持って行ったのです。
一方で、とかく新製品が出ると古い製品がそれに食われてしまいがちですが、HX Stompが発売されてから、Helixの売り上げはむしろ伸びたんです。理由はいくつか考えられます。ひとつには、それまでHelixの存在に気づかなかったか、あるいは存在は知っていても興味を示さなかった人たちが、HX Stompの出現でHelixにも注目してくれた。もうひとつ考えられるのは、HX Stompを購入した人たちが、“もっと大きなHelixなら、もっといろんなことができる”と思ってくれたのではないかということ。中にはペダル・ボードを丸ごとHelixに取り替えた人もいるんですよ。
──Helix/HX 2.80ファームウェア・アップデートの大きなポイントは、HelixとHXを同一システム内に統合したことです。この狙いは何なのでしょうか?
もともとHelix RackとHelix LTは“Helix Common”という、より古いアーキテクチャで実行していたんです。一方で、我々がHelix Nativeを作ったときにはすでに、はるかに便利で簡単で開発が速いエンジンができていて、そのエンジンを我々は“Helixコア”と呼ぶようになりました。HX EffectsやHX StompもHelixコアに基づいていました。ところが問題は、Helixシリーズのアップデートをするたびに、Helix Commonに1回、Helixコアに1回ずつ、いちいちコーディングを2回しなければならなくなった点です。おまけにHelix Commonでできることには限界があって、両方を同時に更新したくても、ある地点に来れば、メモリ割り当ての不足が原因でHelixを更新できなくなるのが目に見えていたんです。その点、Helixコアは、メモリの問題を解消してくれて、今後も更新を継続できるようにしてくれたわけです。というわけで今は、Helix Nativeソフトウェアとともにすべてが同じコードベースにあるので、新しいモデルをひとつでも追加すれば、それが魔法のようにすべてに反映されます。また、新しい機能を追加するときにも、下地となるコード・ベースはすべてそこにあるので、あとはユーザー・インターフェイスの違いに気を配れば済みます。
──Ver.2.80で追加された、新機能のホットキーも話題です。
ホットキーは、私が9年前にPODに入れようと思っていた機能ですが、誰も興味を示してくれなかったんですよ(笑)。バンドをやっている友人たちの中には、MIDI信号をさまざまな機能にマッピングしてステージで活用している人たちがいます。ただし、それは彼らが通だからこそできることであって、ギタリストの大半はMIDIについて詳しくないし、わざわざ詳しくなろうとも思っていない。でも誰だってショートカット・キーは使えます。YouTubeやSpotify、ビデオゲームを楽しむときやPowerPointを稼働させているときに、みんながやってますよね。したがって、小難しい動作を、より簡略化されたショートカット・キー(ホットキー)などにしていけたら、より多くの人がより多くの機能を活用するに違いないと考えたわけです。例えば、ステージ上のテーブルにラップトップを置いて、そこに手を伸ばしてさまざまな操作をしている人もいますが、あまりステージ映えはしませんよね。しかし、そういったMIDIの仕組みを理解していない人でも、パソコンをしまって、Helixからすべてを操作できるとしたらどんなに可能性が広がるでしょう。
曲から曲への滑らかな移行、照明との連動、ビデオの再生……PowerPointを使ったプレゼンなどにもです。実際、1月のNAMMショウでVer.2.80の新機能を説明したときに、資料画像の切り替えなどにHelix Floorのフットスイッチを活用しました。とにかく今は、MIDI関連に限らず、いかなるソフトウェアも操作しやすくなりました。ホットキーの中にはYouTube用のテンプレートもあって、動画を再生しながら、Helix Floorのフットスイッチで再生速度を変更したり、10秒戻ったり先へ行ったり、スタート地点に飛んだりできます。しかも音声はプロセッサーを通じて聴こえてくるので、動画に合わせてジャムりたい人にももってこいです。それと、自宅でギターをレコーディングする場合、失敗したら演奏の手を止めてキーボードに手を伸ばし、録ったテイクを削除して、やり直すためにギターに手を戻す必要があり、それはすごく煩わしい動作ですよね。でも、HelixをPro ToolsやLogic、Cubaseなどのリモコンとして使えば、すべてを足元で操作でき、楽器から手を放さずに済むわけです。
──Helixは、ライン出力の音を極限まで作り込めるという点で、ベーシストやアコースティック・ギタリストにもアピールするものだと思います。エレクトリック・ギタリスト以外の需要についてはどのように考えていますか?
興味深いことに、アコースティック・ギタリストやベーシストは、特にスタジオでは、ベース・アンプや一部のペダル類を除くと、使うものがギターとたくさん被っているんです。例えばスタジオでアコースティック・ギターをレコーディングする場合、マイキングしたうえでマイク・プリアンプを通したりします。さらに、コンプレッションや少しのEQ、コーラスやリバーブもかけるかもしれません。そしてそれらは全部、Helixに入ってるんです。ベーシストの場合は、それがさらに顕著です。例えばロイヤル・ブラッドやデス・フロム・アバヴ1979などは、ベーシストがギタリスト的な役割も果たしながら強烈なサウンドを出しています。だったらTube Screamerのモデル(Scream 808)を取り除くのはもったいないですよね。もちろん、今後もベース用のアンプやエフェクトは追加していきますが、Helixはあくまでも、すべてのミュージシャンのための製品だと我々は捉えているんです。HX EffectsやHX Stompのユーザーには、ヴァイオリン奏者や管楽器奏者、シンガーもいます。また、Helixに搭載されているプリセットの中には、バンド・メンバー4人が同時にHelixを使えるように、ステレオ・パッドが4つ搭載されています。こうした多様性は今後も目指して行くつもりです。
──最後にユーザーへのメッセージをお願いします。
HelixならびにHXの製品を多くの方々にご愛用いただいて本当に感謝しています。当社としても、この調子で、独自のやり方に則って頑張っていくつもりです。これからも最高の製品作りができるよう、どうか皆さんもご意見をどんどんください。
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価格:オープン
エリック・クライン
Yamaha Guitar Group, Inc.所属。Line 6 Helixのプロダクト・オーナーを経て、現在は同社のチーフ・プロダクト・デザイン・アーキテクトのポジションを務める。“Mr.Helix”の異名をとる、Helixのエキスパート。