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- 2024/11/16
TASCAM Series 208I / Series 102I
TASCAMからMac/Windows/iOSに対応する新たなUSBオーディオ/MIDIインターフェース、Seriesが発売された。業務用の音響機器ブランドとして40年以上にわたり培った設計ノウハウを惜しみなく注いだというシリーズで、アナログ4イン/8アウトのSeries 208Iと2イン/2アウトのSeries 102Iの2機種をラインナップしている。今回は、Series 208Iをサウンド・エンジニア葛西敏彦氏とアーティストOkada Takuroに試していただき、インプレッションを語ってもらった。
TASCAMの設計ノウハウを注いだUSBオーディオ/MIDIインターフェース。Series 208IとSeries 102Iの2機種をそろえる。機器そのもののスペックはもちろんバンドル・ソフトも充実しており、STEINBERG Cubase LE(DAW)、Cubasis LE(iPad用DAWアプリ)、IK MULTIMEDIA AmpliTube TASCAM Edition(ギター/ベース用アンプ・モデリング&エフェクト)、IZOTOPE Neutron Elements(ミキシング用プロセッサー)、IK MULTIMEDIA T-RackS TASCAM Edition(マスタリング用プロセッサー)を無償で使用することができる。
SPECIFICATIONS:
◎共通項目
▪接続:USB 2.0 ▪ビット&サンプル・レート:最高24ビット/192kHz ▪等価入力ノイズ・レベル:-129dBu以下(内蔵マイクプリ) ▪周波数特性:20Hz~40kHz(0/-0.8dB、88.2/96kHz時) ▪全高調波ひずみ率:0.0016%(マイク・イン)
◎Series 208I
▪ヘッドフォン出力:最大45mW+45mW(1系統につき) ▪外形寸法:296(W)× 65(H)× 160(D)mm ▪重量:1.6kg
◎Series 102I
▪ヘッドフォン出力:最大18mW+18mW(1系統につき) ▪外形寸法:186(W)× 65(H)× 160(D)mm ▪重量:1.1kg
REQUIREMENTS:
■Windows:Windows 7/8.1/10、2GHz 以上のデュアル・コア(x86)CPU、2GB 以上のRAM
■Mac:macOS 10.12~10.14、2GHz 以上のデュアル・コアCPU、2GB 以上のRAM
■iOS:iOS10~12
葛西氏の拠点=studio ATLIOで行った今回のチェック。Series 208IをAPPLE Mac Proに接続し、ほかの業務用オーディオ・インターフェースと比較しながら進めた。まずはライン・アウトL/R(ライン・アウト1/2)をモニター・スピーカーにつなぎ、葛西氏が最近手掛けた作品を再生。「素直な方向の音で、奇麗な感じですね」と氏は話す。
「ボーカルの“顔の部分”(2kHz辺り)がちょっと前に出ている分、ハイエンドはやや控えめに感じられますが、中域〜低域はしっかりと聴こえてきます。14インチ径のサブウーファーもきちんと鳴っていたので、ローエンドまで再現されていることが分かりました。また、サブウーファーをオフにしても下の方が十分に見えており、仕事にも使えるなと。ハイエンドの空気感を調整したいときなどは、経験則を踏まえつつ音作りする必要もあるでしょうが、音楽に必須の帯域はしっかりと出ているので何の問題も無い。フロント・パネルのノブで出力音量を調整できるのも便利で、かなり上げることだってできます。それにこのノブ、指が触れるところにゴムが付いていて、感触がすごく良いんです。よく使う操作子がこういう仕上げになっているのは好印象ですね」
出力系と言えば、ライン・アウト1&2と同じ信号が出力されるヘッドフォン・アウトもスタンバイ。「2つ用意されているので、ホーム・レコーディングのときなどにDAWを操作する人とミュージシャンの2人が同時にモニタリングできて良いと思います」と葛西氏。音質に関しては中域に寄った傾向だと言うが、それを受けてOkadaがこう語る。
「確かに、上の上の方まで聴こえる感じではないけれど、音楽的に気持ち良いところが凝縮されていますね。だから演奏のモニタリングにはちょうど良さそうだし、むしろこのくらいのレンジで聴きたいなと。また、録り音をエディットするときなどは全体像をとらえやすく、ディテールに過敏にならなくて済みそうなので、作業がはかどると思います」
続いては入力部をチェック。方法としては、Okadaの楽曲の本チャン用プロジェクト(既に完成しているもの)を使用し、そのエレキギター、アコースティック・ギター、ボーカルをSeries 208I経由の音に差し替える形で録音。主にプレイバックの音を元にインプレッションを語っていただいた。まずは、3本のオンマイク+1本のオフマイクで収めたギター・アンプの印象を葛西氏に伺おう。
「色付けの無い方向ですが、音の“芯”はしっかりと感じられます。フラットな周波数特性を突き詰めた結果、聴こえ方がシャープになり過ぎている機器もあったりしますが、そういったことが無いんです。音楽的に気持ち良く感じられる部分がしっかりとあって、欲しいところがきちんと鳴っている感じ。先日TASCAMのModel 24というアナログ・ミキサーを使い“中低域に存在感のある音だな”と感じたところなんですが、Series 208Iの入力部はその印象に似ています」
「中低域が充実しているのは、エレキギターにとっても良いことだと思います」とOkadaが続ける。
「クリーン・トーンをアンプ直で鳴らすと耳に痛い部分が目立ってしまうことがあるんですが、今回は全然気になりませんでした。それは中低域がしっかりしているからだと思います。アンプのリバーブも気持ち良く録れていて、モニター音とプレイバックの音にあまり差を感じないんです」
Series 208Iと102IにはDSPが搭載され、付属のコントロール・ソフトTASCAM Series Settings Panelで入出力音のミキシングやプロセッサーでの処理などが行える。「内蔵のEQやコンプが使いやすいですね」と葛西氏。
「オフマイクにかけて、どのくらい音をまとめられるか試してみたんです。ローカットとピーキングのEQで3ポイントほど処理し、コンプで軽くならしてみたら、もう出来上がっている感じで。音も良いと思うし、この価格帯でこのクオリティはすごいなと。また、かけ録りできるのも便利です」
アコギの録音についても「よく録れています」と話す。
「ザクッとした部分がちょっと前に出てくる気はしましたが、シャープ過ぎない印象で、ハイ上がりでもありません。楽器の音を素直に、クリアにとらえる方向だと思います。特にオンマイクの音への印象が良く、輪郭をカチッととらえるのに向いていると感じました」
歌録りは、ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクを1本ずつの合計2本で敢行。「各マイクのキャラクターの差まで、きちんと録れていますね」と、やはり高評価だ。
「中域がしっかりと入っていて、存在感のある音です。レンジが狭い感じとか、膜が一枚張ったような印象は無く、きちんと抜けてくる。ギターと歌に試してみて思ったのは、本チャン用のプロジェクトにサクッと録っても違和感なく聴こえるということ。作り込んだオケに“録ったまま”の音を入れてもそん色なく感じられるというのは、内蔵マイクプリやA/D部の素性の良さから来ていると思うんです。TASCAMは長年アナログ機器を手掛けてきたので、特にマイクプリなどの設計には強いのでしょう。ノウハウを感じる音です」
チェックを終えると、葛西氏はミュージシャンに向けて、このような使用例を提示してくれた。
「ボディがコンパクトなので、ホーム・スタジオで使う以外にも、リハーサル・スタジオなどに持って行ってプリプロやオーバーダブするような場面に生かせそうです。良い状態で録っておけば“あのときの録り音、本チャンで使おうよ”ということもできるでしょう。僕らエンジニアも、モバイル用のサブ機として一台持っておけばすごく便利だと思います」
Seriesの基本性能の高さが明らかになった今回のチェック。シリーズ機2種類を比べて、自身の用途/環境にマッチする方を選んでみてはいかがだろう。
来る9月12日(木)、御茶ノ水Rittor BaseでSeriesオーディオ・インターフェースとSeries 8P Dynaマイクプリのデモンストレーション・イベントが開催される。スカートこと澤部渡が観客を前にあらゆるパートを演奏し、Seriesオーディオ・インターフェースとSeries 8P Dynaを使ってレコーディング。その“一人多重録音”を通して製品のポテンシャルに迫る。エンジニアリングをサポートするのは、本企画に登場した葛西敏彦氏。トークも交えつつのセッションとなるので、奮ってご参加を。
▪出演:スカート、葛西敏彦
▪日時:9月12日(木)第1部=14:30開場/15:00開始、第2部=18:30開場/19:00開始
▪場所:御茶ノ水Rittor Base(〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-1 OCCビル B1F)
▪入場料:無料
■参加ご希望の方は以下フォームへのご入力をお願い致します。
https://tascam-series.peatix.com
本記事はリットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2019年10月号』の記事を転載したものです。今号のサンレコでは、ENDRECHERI(エンドリケリー)としてニュー・アルバム『NARALIEN』をリリースした堂本 剛を表紙巻頭で特集。彼のアイデンティティである“奈良人が鳴らすファンク”をテーマにした本作について、堂本 剛と録音&ミックスを手掛けたエンジニア福田聡氏にロング・インタビューを敢行しました。また特集では、DAWとして長い歴史を持つDigital Performerをフィーチャー。Digital Performerを長年愛用している作編曲家/キーボーディストの渡部チェル氏が新機能たちを解説するとともに、実際の曲制作での使用法も紹介しています。
価格:オープン
価格:オープン
葛西敏彦
レコーディングとPAの両方を手掛けるサウンド・エンジニア。これまでに蓮沼執太、スカート、大友良英、Okada Takuro、トクマルシューゴ、サニーデイ・サービス、バレーボウイズなど多くのアーティストを手掛けてきた。
Okada Takuro
マルチ奏者/作曲家。バンド“森は生きている”の解散後、映画音楽やプロデュースを手掛け、2017年にはソロ・デビュー・アルバム『ノスタルジア』をリリース。Mitski来日ツアー東京公演のゲスト・アクトも務めた。