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- 2024/11/25
Blackstar / Studio 10
Blackstarから登場した真空管アンプのStudio 10シリーズ。EL34、6L6、KT88という3モデルをラインナップしており、モデル名のとおりパワー部に使用されている真空管がそれぞれ異なっている(プリ管は全モデル共通でECC83)。今回は製品レビューでもお馴染みの村田善行氏に3台の弾き比べをしていただき、それぞれのサウンドの違いを検証。ぜひ自分に合うモデルやパワー管の特徴を見つけてみてほしい。
上質なクリーンから怒濤のハイゲインまで、幅広いサウンドのアンプ設計を手がけるBlackstarから登場したStudio 10シリーズ。全3モデルがラインナップされたこのシリーズは、プレキシ系クランチ、アメリカン・ブラック・フェイス系クリーン、そしてモダンなヘヴィ・クランチ~オーバードライブという、ギターの歴史的にも象徴的なサウンドを、それぞれ異なる真空管(パワー管)を搭載したコンボ・スタイルのアンプで再現している。
各モデルに採用されたパワー管は、EL34(ブリティッシュ・クランチ)、6L6(アメリカン・クリーン)、KT88(モダン・ハイゲイン)となっており、10W出力とは言え、真空管アンプらしいスピード感とダイナミクス、そして自然なコンプレッションを生み出す。いや、むしろ10Wとは思えないパワフルなサウンドや、ピッキング/フィンガリングへの追従性、ダイナミックな“チューブ・アンプのレスポンス”は、”シミュレーター・ボケ”したギタリストを十二分に刺激するだろう。
Studio 10はいずれのモデルもボリューム、トーン、そしてリバーブというシンプルなコントロールで、各モデルが持つ“クラシック・トーン”を素早く簡単にセットアップすることが可能。ギター側のボリュームやトーンなどの操作にも非常にリニアに反応するので、アンプをある程度“HOTな”セッティングにしておけば、演奏中にクリーン〜なめらかな歪みまで自由にサウンドメイクができる。これは上質な真空管アンプならではの特性だろう。
さらにコントロール・パネルにはBOOST(EL34)、またはDRIVE(6L6)、OVERDRIVE(KT88)というプッシュ・スイッチが用意されている。これはゲイン回路の前段に配置されたBlackstar HTペダルを模したブースター(EL34)、オーバードライブ(6L6)、オーバードライブ(KT88)をアンプ・サウンドに加えてくれるスイッチで、各アンプにそれぞれ適したペダルが選ばれているのがうれしい。この回路のオン/オフは付属のフット・スイッチや外部スイッチャーなどでも操作できる。
Studio 10シリーズはトーン回路にもこだわりがある。EL34モデルと6L6モデルではハイ・カット・スタイルのシンプルなトーン回路を採用しているが、KT88ではBlackstarが特許を持つISF(Infinite Shape Feature)コントロールを搭載。このISFは、ツマミを半時計回りにまわすとアメリカン・トーン・スタックとなる。ローがスッキリし、トレブルが強調される印象だ。時計回りにまわすとブリティッシュ・トーン・スタックとなり、ロー・ミッドからハイ・ミッドにピークを感じる。このように、細部に渡り各モデルに特徴を生かすデザインが施されている。
さらに、このStudio 10シリーズにはアンプをドライブさせた際のパワー管の特性を生かしたスピーカー・エミュレート・アウト(ライン・アウト)が用意されている。このセクションはパワー・ステージの後段に配置されているので、真空管アンプならではの挙動を録音機材にダイレクトに送ったり、より大きな会場でこのアンプを使用する場合に、このエミュレーテッド・アウトの信号をマイキングの代わりにPAに送ることで、いわゆる“音被り”のないタイトなギター・サウンドPAから大音量で鳴らすことも可能だ。さらにスピーカー・アウトをバイパスして、この端子にヘッドフォンをつなぐことで、ロード・ボックスなしでヘッドフォンを使用することも可能だ。もちろん、レコーディング・アウトとしても使用できる。
また、プリアンプ後段には信号レベルを+4dB/-10dBで切り替えられるエフェクト・ループも用意されている。もちろん、このエフェクト・ループに接続したエフェクト・サウンドを踏まえて、ライン/ヘッドフォン・アウト、エミュレーテッド・アウトに送ることが可能だ。
どのモデルも弾いていてとても気持ちの良いサウンドでした。単なる“真空管が異なるアンプ”ではなく、それぞれのアンプがしっかりとしたキャラクターを持っており、例えば6L6ではアメリカン・アンプ直径のブルース・ロックなサウンドが、どんなセッティングでも手に入ります。さらに音作りがとても簡単で、本当にストレスがない。この動画を見て“良い音だな”と思ったら、間違いなくそのサウンドが得られるので試していただきたいですね。
EL34は、やはりハムバッカー搭載のギターで、ギリギリに歪み出すあたりの絶妙なクランチ・サウンドがたまらないです。ハイ・ミッドの個性的なサチュレーションは、70年代ロックが好きな方、そしてインディー・ロック的なギター・サウンドを求める方にはマストなアンプになるのでは。リバーブの塩梅も素晴らしく、ブリティッシュアンプならではの使い勝手の良さがあって、レコーディングで大活躍しそうですね。
KT88は余裕のあるサウンドで、90年代オルタナティブ以降のヘヴィ・ドライブとクリスタル・クリーン、両方の特性を備えています。アンプをクリーン・セッティングにしておいてペダルで音を作り込んでもいいし、アンプ直でよりダイナミックなヘヴィ・ドライブを作っても満足できるはずです。ボリュームを上げていくと、“ブンッ”というローの迫力が出てくるのですが、この音が欲しくてKT88搭載のアンプを求める人も少なくないのではないでしょうか。全体的にブリティッシュ・ブティックな響きが感じられるアンプだと思います。
どのアンプも10W出力ということと、シングル・エンドのチューブ・アンプだということを忘れてしまう高いクオリティですね。これまではシングル・パワー管のアンプだとどうしても“物足りない”感が否めなかったのですが、このStudio 10シリーズはそういったストレスを感じさせません。低音もリッチ。さらにカバリング・レザーの質感や、全体的に上質な雰囲気を感じさせるシンプルなデザインなども相まって、リビングに置いても映えるアンプだと思います。そういった“質感”がサウンドと相まって、ギターを楽しむ30代以上のミュージシャンにはグッとくるのではないでしょうか。また、純粋な音の良さと使い勝手から、楽器マニアはもちろん、レコーディング・アンプとしても多くのミュージシャンの心を掴むアンプだと言えると思います。
価格:¥92,500 (税別)
価格:¥92,500 (税別)
価格:¥92,500 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。