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- 2024/11/16
UTSU工房ペニーレーン
日本各地に点在するという、ハマったら抜け出せない機材の沼スポット。自他共に認める機材好きで1日に5回デジマートを見る男が、全国の沼を訪ねて歩く連載、それが「ニッポン沼めぐりっ」! 今回は、茨城県笠間市のUTSU工房ペニーレーンに突撃です!
この連載も、今回で4回目。なんとなくこの企画がおもしろ珍道中っぽく受けとられているなってのは、うすうす感じているんで、先に結論を言っておこう。
今回も感動した。
いつもしてるんだけど、今回は感動のタイプが違う。今回の「UTSU工房ペニーレーン」(以下、「UTSU工房」)を訪問した後は、良い映画を見た後のような気持ちになったんだ、本当に。
素晴らしい店だった。
というわけで上野から特急ときわに乗り、友部駅からタクシーで「UTSU工房」に向かった。皆さんが行く際には、車で行くことを強くおすすめする。お店には10台ほど停められる駐車場が用意されているからだ。
ともかく、「UTSU工房」に着いた。で、びびった。
こ、これ本当に楽器店ですか?
美術館じゃないの?
中庭から見ると、こんな感じ。
咲き誇るバラ!
実は、取材にあたって「今の時期はバラがきれいなので、ぜひ来てください」(取材時は5月下旬)と言われていたのだ。おお、これを見せようとしてくれたのかぁ! でも「バラがきれいだから、おいで」なんていう楽器店、ほかにある?
〜サービス・カット〜
「バラと井戸沼」
門のところには、3PUのレス・ポール・カスタムを元にしたオブジェが!
入り口も、楽器店とは思えない!
入り口から入って右手には、ギャラリーとカフェが!
とりあえず、カフェで軽食をいただく。
あまりにも美しい空間に迷い込んで我を忘れそうになったが、食が現実と私をつなぎ止めてくれた。
実は、「UTSU工房」とはここまで紹介したギャラリーとカフェの「ノブズギャラリーカフェ」と、楽器店の 「ペニーレーン」を合わせた全体の呼称。
いよいよ、ここからが……
ペニーレーン!
臆することなく入る。ずうずうしいだけが取り柄だからな。
おっほー!
うぎゃー!!
ぼーぜん……見とれた。それから、気づいた。
この店、楽器店なのにBGMがない!
じゃ、順番に見ていこう。入り口付近には、軽いジャブっぽく、いわゆるジャパン・ビンテージ系が、そして奥には重量級のリアル・ビンテージが並ぶ。
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突然ですが
ここでクイズ!
▼まず最初は、このトラ杢のモデル、なーんだ?
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答え。フレッシャーでした。
では次ー!
▼いわゆる「ギター殺人者の凱旋」仕様のモデル、なーんだ?
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答え。フェルナンデスでした。
これは、90年代のトーカイ。しかし、なんでトーカイのアーチはこんなにも美しいのか。
こっちのPUカバーが程よく退色したなかなか男前なストラトは、Squier。国内で製作していた頃の個体。お隣はMinister。
Minister、ミニハム(?)、ダイヤモンド・ホールが素敵!
アンプも古いのがいろいろ。個人的には、このミュージックマンが気になった。12インチ1発って、使い勝手が良さそう!
ビンテージ・パーツ棚をのぞいてみる。うわー、結構いろいろあるぞ。残念ながらNot For Saleもあるみたいだけど。
こちらは重量級のビンテージ! 57年のレス・ポール・スペシャル、59年のストラトキャスター(リフィニッシュ)、69年のレス・ポール・カスタムなどが! 比較的お手頃な1980年のストラトキャスターは、本来のブラック・パーツをホワイトに変更(オリジナル・パーツはすべて残っている)、アッシュ・ボディに薄くトラ杢が入っている珍しい個体。
たまらず、69年のレス・ポール・カスタムを試奏! めちゃくちゃいい音!
これ、持って帰っていいすか?
あ、だめ? ですよねー!
ベーシストの皆さんは、こちらをご覧あれ!
フェンダー・ジャパン最初期のJVシリアルのテレキャスター・ベース、同じくJVシリアルのジャズ・ベース(フレットレス)、バーニーのEBベース、ミニ・サイズのフェンダー・ジャパンのジャズ・ベースとか、珍しいものばかり!
さりげなく置いてある、フェンダーの6弦ダブル・ネック、8弦ダブル・ネックのスティール・ギター!
ここで、店主の宇津一夫さん(だからUTSU工房なのね!)にお話を聞いてみた。なんか、めちゃくちゃ素敵なお店なんですけど?
もともとは、水戸でお店をやっていたんですよ。1980年代半ばからですね。それで1990年代にはよくアメリカでビンテージ・ギターを買い付けていたんですけど、その頃に行っていた店が素晴らしくて……2005年に故郷の笠間に戻って、店の設計から関わって“自分が行きたい店”を形にしました。── 宇津さん
なるほど、“自分が行きたい店”かぁ。店構えも品ぞろえも、確かにこだわりを感じるなぁ
何でもいいから売りたい、誰でもいいから売りたいと考えたとしても、すべての人に気に入られるなんていうことは無理なんですよ。それよりも、良いものや良いギターをたくさん見て自分の感覚を磨き、それをわかってくれる人に納得できるものをきちんと届けたいと思っています。
そういう考えもあって、BGMをかけないんですか?
そうですね。楽器店だからBGMが必要だと思い込むのではなく、僕は余計な音がない方がいいと思うので。ギャラリーの方では音楽をかけているんですよ。普通、逆ですよね(笑)。
素晴らしい! もう一つ、宇津さんのこだわりが詰まっているのが、“箱ものルーム”。アコギやセミアコ、フルアコを集めた別室で、全面板張り。
それがですね、在庫の前にまずこの部屋自体の音がめちゃくちゃいいんですよ! リバーブ感が最高で、ここで弾くとなんでも欲しくなる恐ろしい部屋!
色味が最高の64年シリアル/65年仕様のカジノ!!
かっこ良すぎる!!
1940年前後というカラマズー! 比較的低価格のブランドとはいえ、戦前アコギの尋常じゃないオーラが出てた!
この部屋で試奏したのは、ヤマキのメイプル・ネック、メイプル指板、メイプル・サイド&バックという珍品! どんだけ硬い音なんだよと思いきや、意外とふくよかでびっくり! いや、これ本当にいいですよ。
さらに宇津さんがこだわっているのが、しっかりとしたリペア。宇津さんが楽器業界に関わるようになったのは、水戸のペニーレイン立ち上げ前に、ヤマハの特約店に入ったことがきっかけ。そこでみっちりリペアの基礎を学んだそう。今の店舗ではカウンターの裏がリペアルームで、ここで塗装以外は何でもやる。塗装も、別室でやるとか。この日も常連さんが、リペアの相談に遠方から来ていて、何やら話し込んでいた。
世の中にはいろいろな楽器店があるけれど、ここまで一人の思いが凝縮された店って、初めて見たかも。冒頭にも書いた通り、感動しました。そして、楽器店はやっぱり面白いなって思った。
最後に、宇津さんと2ショット!
いやー、よかったわ、UTSU工房ペニーレーン。感動しすぎて、お腹が減ったよ。
ということで、ラーメンでも食べて帰ることに。
もちろん、ビールだって飲んじゃうよ。もうだいたい仕事、終わったから。興奮しすぎて喉が渇いたし。
むはー。今日は、なんだか飲んだら魂が抜けた感じ。
今回も、心もお腹もいっぱいになって、ミッション・コンプリート!
水深(ギターの品ぞろえ)★★★★
水質(店舗の美しさ)★★★★★
沼の面積(フロアの広さ)★★★
周辺状況(近隣の飲食店など)★★(カフェが隣接しているのは最高だが、ラーメン屋まで遠かった…)
判定:店主の思いが深い沼。皆も一度は訪問すべし。
UTSU工房ペニーレーン
住所:309-1621 茨城県笠間市手越62-6
電話番号: 0296-71-1035
営業時間:平日PM12:00~PM9:00 日祝AM11:00~PM7:00
定休日:毎週月曜日、第3火曜日
デジマート・ショップページ
https://www.digimart.net/shop/5212/
井戸沼尚也(いどぬま なおや)
日本で唯一の、沼鑑定士(自称)。
1日5回デジマートを見る、機材大好きのギタリスト/レビュアー/ライター/ワウペダル奏者。
インスト・ファンク・バンドZubola Funk Laboratoryのメンバー。
2019年3月より、ドラムとギターのみの変態インスト・バンド「Ragos」を始動。マスクをするとデジマート地下実験室の室長に似ているらしい。