AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
TORAIZ SQUID
世界トップ・シェアのDJ機材を開発するPioneer DJが立ち上げたブランド=TORAIZ。今回、同ブランドから登場したハードウェア型の16trシーケンサー=SQUIDは、USBをはじめ、MIDI、CV/Gate、クロック、DIN Syncと多彩な接続端子を備え、DAWとの連携はもちろん、アナログ・シンセやモジュラー・シンセなどを操れる1台。スピーディで直感的にフレーズを生成する機能も多数備えており、ユーザーのクリエイティビティを大いに刺激するシーケンサーとなっている。テクノ~ヒップホップまで対応する気鋭ビート・メイカー、O.N.OにこのSQUIDを使って実際にパフォーマンスを行なっていただいた。
SQUIDはシーケンス・フレーズを作成/加工することができるハードウェア・タイプの16trシーケンサー。プロジェクトは128個まで作れ、各プロジェクトは最大16trで構成。各トラックあたり最大64ステップ×64パターンが作成できる。パネル右側の4×4のパッドは16ステップのノート打ち込みのほか、記録したパターンの呼び出し、トランスポーズなどのパラメーター操作でも活用。リアルタイムにパッドをたたいての演奏もできる。
SQUIDは音源は内蔵していないため外部音源とつなげて使うのだが、MIDI対応シンセにつなぐための2系統のMIDI出力端子のほか、USB MIDI(パソコン上のDAWソフトや音源など)、クロック、DIN Sync(かつてのROLAND TR-808など)といった豊富な入出力端子を装備。さらにCV/Gate出力端子も搭載しており、モジュラー・シンセとの接続も可能となっている。まさにシステムの中核を担うMIDIシーケンサーである。
今回は札幌の音楽シーンをリードするミュージック・カフェ/バー“PROVO”の一角にて、O.N.Oのパフォーマンス動画を収録した。TORAIZのアナログ・シンセAS-1(ベースで使用)、リズム・マシン/サンプラーSP-16(ビートで使用)、そしてO.N.Oが持ち込んだパソコンのソフト音源(上モノやサンプル・ビートで使用)をSQUIDのシーケンスのみでコントロール。また後半部では、全体にかけたフィルター・プラグインのカットオフをSQUIDからのMIDI CCでコントロールする様子も確認できるだろう。約10分間のパフォーマンスの中で主要機能をフル活用してもらったので、ぜひ動画でその効果をチェックしていただきたい。
16パッド上に打ち込んだシーケンスは、通常、1段目左→右、2段目左→右、3段目左→右……とパッド上を流れ、そこにアサインされている単音が再生されていく。その再生方向を変えることで、1つのシーケンス・パターンから複数の新しいフレーズを簡単に生み出せるのがこの機能。動画では下記のように何度も使用されている。
00:53~ ドラム・フレーズを入れ替えてブレイクビーツのように
04:26~ シンセ・フレーズの再生順を変化させる
09:36~ ピアノのサンプル・フレーズを入れ替えて新しいパターンに
3:06~ 通常、16パッドには鍵盤のように半音ごとにピッチ違いの単音が並ぶため、スケールからディスコードしたパッドを鳴らしてしまうこともある。しかしSQUIDでは指定スケール内の音しか鳴らないように設定できる。直感的にパッドをたたいてフレーズが作れるだろう
3:28~ パネル左にあるスライダー操作によってトリガー・タイミングをリアルタイムに変化させる機能。動画は“タ・タ・タ・ター・タ・タ”という上モノ・シンセにかけてノリを変えている
4:11~ HARMONIZERは単音をコード(和音)化してくれる機能(24種類のコードを用意)。任意パッドの音階をルート音としてコードを作成、コードは好きなものを1〜6のHARMONIZERボタンに割り当てておくことができる。動画では、自動的にアルペジオ演奏をするARPEGGIATOR機能を使い、HARMONIZERのコードからアルペジオ・フレーズを生み出している
5:32~ 任意パラメーターをランダム化するRANDMISER機能。ここでは上モノのピッチをランダマイズ。5:45にてランダマイズを解除して元のフレーズに戻している
5:52~ シーケンス・パターンの再生速度に周期的な変化を加えることで、独特なグルーブを生み出せるのがSPEED MODULATION機能。動画では上モノ・シンセにかけることで、発音タイミングが早くなったり遅くなったりと、パフォーマンスのアクセントになっている
7:46~ シーケンス全体のテンポを変更するのも容易。ここでは117BPMから96BPMまで落として、横ノリなビート感へと変化させている
9:27~ パターンの一部をループさせる“リズミック・コントロール”や、ノートの出力確率を変える“トリガー・プロバビリティ”といった機能でグルービーな演出が可能。動画の中でも多用されている機能だが、特にここはピアノ・サンプルがスタッター的に鳴っていて分かりやすいだろう
予期せぬ“偶然”で無限にフレーズ作りができる
最初にSQUIDが出るという話を聞いたときは、“このご時世でハード・シーケンサーなんて久しぶりだな。それもPioneer DJから!”と驚きました。もちろん僕はハードウェアで育った世代なので大歓迎でしたね。しかも実際に使ってみたらトリッキーな機能のかたまりですぐに気に入りました。
SQUIDが素晴らしいのは、“鍵盤の考え方から離れられる”ということ。キーボードが弾けなくてもパッドをたたいて直感的にフレーズが生み出せるし、面白いのはフレーズを加工してどこまでも行けてしまう。テクノやヒップホップを問わず、コラージュ感覚でダンス・ミュージックを作る人って多いと思うんですよ。予期せぬ何かが起こる偶然が楽しい。SQUIDはそういう“偶然待ち”ができる久しぶりの機材ですね。
触っていて面白かったのはSPEED MODULATION。これはフレーズの発音タイミングを変える機能で、ミニマルなど少ない音数の音楽で使うと効果的でしょうね。それからRUNNING DIRECTION。フレーズ内の再生順を変えられる機能ですが、単にそれだけなら他のソフトでもできる。SQUIDがすごいのは、その変化を記録しておいて、それを元にまたRUNNING DIRECTIONで加工していける……もうエンドレスですよ! しかもSQUIDが優秀なのは“今のはあんまり良くないな”と思った変化のときは、TIME WARP機能で16小節前まで戻れてしまう。最初にスケールを決めておけば音楽的に破たんせずに作っていけるので、あり得ないピッチで変なフレーズにもならない。賢いんですよね。そうやって作ったフレーズはMIDIとして記録されるから、どんどんトライできますよ。あと、INTERPOLATIONはピッチ/ゲート/ベロシティをランダムに生成してくれるので、行き詰まったときに押してみると何かが起こる。運試し的な機能で面白いです。
今回のパフォーマンスではSQUIDのシーケンス×16トラックを使って10分ほどの楽曲を組み立ててみました。しかも機能を分かりやすく説明するために、1トラック(1パッド)あたり1小節のシーケンスしか組んでいません。いわば1小節フレーズをループさせて、それらを16個抜き差ししながら変化させていくだけで、これだけのものが作れるという部分を見てほしいですね。
SQUIDはハード機材ですが、実はDAWと組み合わせて使うのも面白い。ソフトだけで作っていると、マンネリの壁にぶつかったりするので、SQUIDでフレッシュな感覚になって新しいフレーズが作れる。Aメロ/Bメロ/サビみたいな音楽的な作り方をしている人も、予想外のフレーズ作りに生かせると思います。ハードだけに操作は体に染みつくと直感的に行なえて、僕は実質2週間くらいでマスターできました。あくまでシーケンサーなのでMIDIの知識は必要ですが、シンセをディープに使いこなせる人はもっと深いアイディアが出る。これ自体に音源は入っていないけど、使い手のアイディア次第でいかようにも面白いことはできそうですね。作曲だけでなく、ライブでも十分使える機材だと実感しました。
本記事はリットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号』と連動したものです。誌面上ではTORAIZ SQUIDをクリエイターMASAHIRO KITAGAWA氏が徹底レビューし、より詳細な使い方をご案内しています。また今号のサンレコでは、アメリカ/UKを中心に盛り上がりを見せる“ダーク・ポップの姫”ことビリー・アイリッシュを表紙巻頭で特集。彼女の実兄でありトラック・メイカーである、フィニアス・オコンネルにダーク・ポップ制作についてインタビューを行ないました。特集は約50Pにわたる「一生モノの歌録り用コンデンサー・マイク~新定番のハイグレード20機種から選ぶ」。文字通り一生モノの高価なマイク20本を詳細レビューしています。さらに、小冊子として『セルフPAビギナーズ・ガイド』も付いてきます!
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O.N.O
現在までにTHA BLUE HERBおよびソロ・プロジェクトで合わせて12枚のアルバムを発表し(7月3日にTHA BLUE HERBの5枚目のニュー・アルバム『THA BLUE HERB』をリリース!)、シーンの中枢を鋭くえぐる独自の楽曲群を生み出し続けるクリエイター。豊かなインスピレーションによって"O.N.Oビーツ"を紡ぎ出し、その卓越したライブ・パフォーマンスが全国各地のフロアビート・ジャンキーたちを熱狂させている。