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- 2024/11/16
Martin / Road Series、CTM D-45 〜the 68 Style〜
好評連載Martin Times。第33回目は2019年の新作Road SeriesからD-12Eと000-13Eを始め、ウッドストック50周年を記念したスペシャル・エディションのD-35 Woodstock 50th Anniversary、そしてクロサワ楽器で5本のみ販売されているCTM D-45 〜the 68 Style〜の合計4本をご紹介します。今回もお馴染み斎藤誠氏の演奏でマーティン・ギターのサウンドをお楽しみください。
アコースティック・ギターのメーカーとして最も古い歴史を持つマーティンは、取って置きの材を使用して美しい装飾を施した垂涎の高級モデルを世に問う一方で、高い品質を保ちながらも気軽に手に取れるモデルも提供してきた。今回は、その両極端とも呼べるモデルを中心にご紹介しよう。
まず、気軽に手にできるメキシコ製のラインナップの中でも、オール単板にこだわったロード・シリーズが一新された。型番が従来のロード・シリーズ専用のものから、10、11、12、13というスタイル名を使用する上位機種と同じ方式に改められたのと同時に、ニュー・モデルのD-12Eが加わり全機種のピックアップ・システムがフィッシュマンのMX-Tに変更され、チューナーも内蔵になった。今回は新しいD-12Eと、000RSGを新仕様にした000-13Eを取り上げる。
高級機種の代表は、フォーク/ロック・ブームがピークを迎えた60年代末の仕様をマニアックに再現したCTM D-45 〜the 68 Style〜で、材の質はもちろん、樹種にも一家言あるカスタム・モデルである。そして、今年はまさにその時代を象徴するイベント、1969年のウッドストック・フェスティバルの開催から50周年ということで、それを記念するスペシャル・エディションのD-35 Woodstock 50th Anniversaryモデルも併せてご紹介しよう。
ロード・シリーズに新たに加わったドレッドノートで、ボディ材にはマホガニーに近いサペリの単板を使用している。ヘッド・プレートにハイ・プレッシャー・ラミネートを使用するなど、本質的に音にはほとんど関係のない部分でコストダウンが図られている程度で、オール・グロス仕上げ、漆黒のエボニーを思わせるリッチライトの指板とブリッジ、オープン・ギアのペグなど、気分はビンテージのD-18と言えるほどの粋な仕上がりになっている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:サペリ ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:FSCサーティファイト・リッチライト ●ブリッジ:FSCサーティファイド・リッチライト ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:X・ブレイシング ●ピックアップ:フィッシュマンMX-T ●価格:¥190,000(税抜き)
オール単板でしっかり鳴っているし、ハイ・ポジションのコードもサウンドに厚みがあって、どのポジションでもバランスが良いですね。このシリーズの楽器だと、心置きなくガツガツ弾ける良さがあります。エレアコとしてきちんと作られているから、ライブをやればいつでも安定した音が出せるし、楽屋で生音で弾いても豊かなサウンドに浸れるという、まさにライブ向きのギターです。とくにこのドレッドノートは、サイズの余裕も出ていますね。デモ曲はアップテンポで、イントロの部分は動画のタイトル・バックでも使えるよう考えました(笑)。大きなボディの胴鳴りも聴いてもらえたと思います。000もそうですが、利用範囲の広いモデルですね。
新しいロード・シリーズのスタイル名は、10がオール・サテン、11がトップのみグロス、12がオール・グロスでスタイル18に近い装飾、13がオール・グロスで同じく28に似た装飾というのが、おもな区別となる。000-13Eは、ボディ材にシリスと呼ばれる材を使用しており、ローズウッドに似た色合いの仕上げや装飾と相まって、限りなく000-28に近い雰囲気を醸し出している。ピックアップ・システムは新たにフィッシュマンのMX-Tを搭載し、さらに視認性に優れて使いやすいチューナーも内蔵されている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:シリス ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:FSCサーティファイト・リッチライト ●ブリッジ:FSCサーティファイド・リッチライト ●スケール:24.9インチ(632.5mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:X・ブレイシング ●ピックアップ:フィッシュマンMX-T ●価格:¥215,000(税抜き)
マーティンは低価格帯のギターでもバランスが良いのが魅力で、この000も例外ではなく、単音でリードを弾くと、むしろ上位機種よりも気持ち良い感じさえします。リッチライトの指板の効果かもしれないですが、コンプレッション感とサステインがちょうど良いんですよね。弦高も低く調整されているし、これだけ弾きやすければ僕もライブで使ってみたいと思います。デモ曲は弾きやすさを前提に、前半がフィンガー・ピッキング・スタイルのものを選びましたが、思ったとおりでしたね。いろんなサウンドを聴いてもらいたかったので、後半はピック弾きです。それと、ロゼッタはパールのリングが入った新しいデザインで、こういう試みは大好きですね。
ジミ・ヘンドリックスからCSN&Yまで、フォーク/ロックの伝説的なアーティストが一堂に会した、1969年のウッドストック・フェスティバルの開催から50周年を記念した特別仕様のD-35。基本仕様はスタンダード・シリーズと同様だが、ネックはセレクト・ハードウッドではなくジェニュイン・マホガニーとなっている。最大の特徴はピックガードとヘッドに施されたインレイで、ネックにとまった鳩は、当時のポスターのデザインを踏襲している。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:フォワード・シフテッド・X・ブレイシング ●価格:¥620,000(税抜き)
これはもう、ウッドストックの特別モデルという名前を抜きにしても良いギターですね。ピックガードとヘッドのハトですが、僕も80年代ぐらいにこのデザインのTシャツを着ていたんですよ(笑)。純粋な楽器としてはもちろんD-35ですから、28とはまた個性の違ったサウンドが楽しめますね。デモ曲はピック弾きのアルペジオが中心で、巻弦の単音がブーミーにならずにカリッとした音で鳴ってくれて、相対的に高音弦の音が細く聴こえないという、D-35の特徴でもあるバランスの良さが表現できたと思います。指板にバインディングが付いているのも良いし、それでいてポジション・マークはドットというシンプルさも好きですね。
レギュラー・モデルの最高峰D-45は、ゴールデン・エラと呼ばれる1930~40年代に少数生産されたのみで、復活したのは1968年のことだった。本器は、その復活当時の仕様を黒澤楽器のスタッフが5本限定のカスタム・オーダーで再現している。材は68年製のオリジナルに最も近いイタリアン・アルパイン・スプルースとマダガスカル・ローズウッドのプレミアム・グレードを使用し、ブレイシングはフォワード・シフトではないノン・スキャロップ、ネックはスクエア・ロッドのフル・シックネスというマニアックな仕様である。
【Specifications】
●トップ:イタリアン・アルパイン・スプルース(プレミアム・グレード) ●サイド&バック:マダガスカル・ローズウッド(プレミアム・グレード) ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 11/16インチ(42.9mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:Xブレイシング ●価格:¥1,980,000(税抜き)
プレミアム・グレードの材だけあって杢目もキレイですね。ネックの太さも独得です。D-45はやっぱりロー・コードのストロークが気持ち良いですね。開放弦をペダル(編注:ルート音/一番低い音)で鳴らしたりすると豊かな倍音とサステインが生きるので、よりいっそうこのギターの良さがわかります。デモも6/8拍子でDのペダルのストロークを鳴らす曲を選んだので、ゴージャスな響きが堪能できると思います。しかし、悪いところが何もないギターというのも困ったもんですね(笑)。もちろん、この結果を予想してオーダーしたんでしょうけれど、マーティンがそれをちゃんと理解して、そのとおりのものを作ってくるというのがすごいです。企画大成功のギターですね。
今回は、バンドでかき鳴らすのに最適なモデルから最高級のものまで、さすがはマーティンと唸らせるようなバランスやクオリティを実現しているという、メーカーの幅広さが再認識できたと思います。メキシコ製のロード・シリーズはしっかり鳴っているし、仕上げもアメリカ製と区別がつかないほどの出来ですね。ピックアップはあと付けのものだとバランスを取ったりするのが大変なので、もともとエレアコとして作られているギターのほうが安心なんですよ。コストパフォーマンスという魅力以外にも、いろんな満足が得られるシリーズになったと思います。1969年のウッドストック・フェスは、当時小6だった僕にとってはリアルタイムのイベントでした。実を言うと、ちょうどその頃はロックよりも映画に夢中だったんですが、このフェスのことをもっと知りたかったという想いがありますし、その名前の付いたギターを欲しがる気持ちは僕にもあります。もっと若い世代の人たちの間にも、歴史としてのウッドストック信仰があるでしょうから、30代ぐらいの人が持つのも良いかもしれませんね。サウンドはD-35ならではのバランスの良さが魅力で、マイクの収音もやりやすいと思います。D-45はやはり一番リッチなサウンドで、この魅力に取りつかれた人はもう、これしかないでしょう。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西 慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したことをきっかけに音楽界デビューを果たす。
1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポート・ギターを始め、数多くのトップ・アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。
2018年4月18日、MARTIN GUITARのラジオCMでお馴染みの「It’s A Beautiful Day」をニュー・シングルとしてリリース。また、本人名義のライブ活動のほか、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務めており、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンドや卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!