AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
HISTORY HS-LC&HS-LS
ブランド設立25周年を記念して、フル・モデルチェンジを行なったHISTORY。前回の特集では、ラインナップの中核をなす「HSシリーズ」から、STタイプのHS-SVとHS-SV/Mの2機種を紹介したが、今回はLPタイプのHS-LC、HS-LSの2機種をピックアップ。多数のギター教則本&DVDでお馴染みのギタリスト宮脇俊郎氏による試奏&インプレッションとともに、その魅力を余すところなく紹介する。
HISTORYがフル・モデルチェンジにあたって大切にしたのは、良質な素材の使用、確かな技術に裏付けられた品質のさらなる向上、そして即戦力クオリティを実現する丁寧な出荷セットアップだ。今回紹介するHS-LCにおいても、HISTORYの強いこだわりが随所に見られる。
まず、素材に注目すると、ボディ・バックには良質なアフリカン・マホガニーを、ボディ・トップにはヘリテイジウッド・ハード・メイプルを採用している点がポイントだ。トップ材のヘリテイジウッド・ハード・メイプルとは、伐採、運搬や保管の過程で湖に沈んでしまった材をサルベージしたリアル・ビンテージ材。現代の技術により、ようやく引き揚げと乾燥が可能になった古いメイプル材で、もともと年輪が詰まった良材が、時間の経過とともに繊維質であるセルロースの結晶化が進み、さらに鳴りの良い材となっている。また、新たに伐採したものではないので環境に優しいという副次的なメリットもある材だ。こうした良材を使いつつ、近年のLPタイプのモデルにみられるチェンバー加工を施さないことで、豊かでありながら低音域が引き締まったソリッドなトーンを生み出す。
HS-LCは、WRD(ワインレッド)、BLK(ブラック)の2色展開で、WRDのモデルにはボディ・トップのヘリテイジウッド・ハード・メイプルの表面にカーリー・メイプルの化粧板を貼ることで、フィニッシュを通して自然な杢が透けて見える仕様となっており、所有する喜びを高めている。ネック材もアフリカン・マホガニーで、指板材には高級材のエボニーを採用。エボニーは、黒々としたルックスのみならず、その硬さに由来するピッキング・レスポンスの良さ、サウンドの明瞭さも特徴だ。
その他、比較的重量のあるロトマチック・タイプのペグ、セラミック・マグネットのオリジナル・ピックアップ、アルミ製のテイルピースもサウンドに大きく影響する部分。特にペグとピックアップは、甘く太いサウンドのLPタイプの中でも、HS-LC特有の引き締まったロックなトーンを形成する要因となっている。
電装系にはCTSのポット、スイッチクラフトのジャック、オレンジドロップのコンデンサーなどU.S.A.製の信頼の高いものを採用。また、弾きやすさに関わるナットの精緻な仕上げや、ジェスカー・フレットをバインディングの上に出して丁寧に仕上げている点も見逃せない。さらに、前後のピックアップをそれぞれコイルタップでき、一般的なLPタイプに比べて幅広い音作りが楽しめる。
非常に重量バランスの良いギターですね。意外と、LPタイプのギターってバランスが難しいんですよ。ボディが重すぎたり、軽すぎたりして、座って弾く時に左手でしっかりと支えないといけないものもありますが、このギターはバランスが良いので弾いていて楽です。重量は約4.3kgということですが、数字以上に軽く感じますね。
それと、僕は大きくビブラートをかけるので、LPタイプのモデルは1弦の端までしっかりとフレットが打たれているオーバーフレット・バインディングのモデルじゃないと弾けないんです。そうじゃないモデルは、わざわざ直してもらっているくらい。でも、このHS-LCは最初からオーバーフレット・バインディングになっていて仕上げも丁寧だから、とても弾きやすいですね。
コイルタップ仕様になっているのもポイントです。特にタップしてミックス・ポジションにした時の音は、僕の大好物です! どちらかと言えばモダンな仕様のモデルですので深い歪みもイケますが、個人的にはクランチが心地よく弾けました。ピッキングのタッチに対する反応も良いので、機会があればガンガン使っていきたいギターだと感じました。
いわゆるカスタム・タイプのHS-LCに対し、こちらはスタンダード・タイプのHS-LS。HS-LCとは細部まで異なる仕様となっているので、その違いと魅力を紹介しよう。
まず外観は、HS-LCに比べて、ヘッド周りのバインディングやインレイなどの装飾がすっきりとまとめられ、クローム・パーツが搭載されたシンプルな印象だ。カラー・バリエーションも鮮やかなTBL(トランスルーセント・ブルー)とVCH(ビンテージ・チェリー)の2色で、ラッカー仕上げの独特の風合いを楽しめる点は、シックな印象のHS-LCとは雰囲気が異なる。
当然、音も異なる。セラミック・マグネット・ピックアップを搭載し、モダンなハイゲインにもよく合うHS-LCに対し、HS-LSはアルニコ2マグネットのピックアップを搭載し、よりブルージーでビンテージ・ライクなサウンドとなっている。また、HS-LSは指板にグラナディロ材を用いている点もサウンドに大きく影響している。グラナディロ材はローズウッドと同じマメ科の材で、インディアン・ローズよりも固く、豊かな中域を持ちながらレスポンスが良いのが特徴。さらに、ヘッド角が18度とややきつめに設定され(HS-LCは14度)、ペグには軽量なクルーソン・タイプが採用されている点も、サウンドに影響を与えている。
そのほか、ヘリテイジウッド・ハード・メイプルのボディ・トップとアフリカン・マホガニーのボディ・バックをチェンバー加工なしで仕上げているボディ構造や、アルミ・テイルピース、U.S.A.製の電装系、そしてコイルタップ機能を搭載している点は2機種に共通する部分だ。また、ナットの精緻な仕上げ、フレット周りの丁寧な処理、ヒールレス・ディープ・ジョイントなど、弾きやすさに関する部分もHS-LC同様、プロが即実戦で使えるレベルとなっている。
僕自身は、ピッキングのニュアンスをとても大切にしているのですが、このHS-LSもHS-LC同様にとてもレスポンスが良いので、弾いていて楽しかったです。サウンドは、HS-LCよりは少しマイルドに感じたのですが、それはピックアップや指板材による違いかもしれません。ただ、僕の場合は手元のボリュームやトーンを少し下げて自分の音になるように自然と調整してしまうので、皆さんはご自身で試奏していただいた方が、その違いがより明確に分かるかと思います。
それにしてもこの価格でこの仕様、音、弾きやすさというのは本当にすごいことですよね。国産の比較的手の届きやすい価格のLPモデルを入手すると、結局テイルピースをアルミに替えたり、電装系を全部替えたりしないと自分の理想どおりに使えないのですが、HSシリーズはすべての仕様を徹底しているので、交換の必要がないのがありがたいです。最初からこれを買っちゃえば即、使えますからね。それに、鳴らないギターにいくら手をいれても鳴らないんです。これは生音からすでに綺麗に鳴るので、本当に気持ち良く演奏できました。
今回弾いた2本は、どちらもウッディな響きを持った良い音だと感じました。材にこだわっているのはもちろん、塗装にも相当こだわったからこその響きだと思います。ピッキングのニュアンスがとても出しやすいギターなので、弾いていて楽しかったですね。それから、コイルタップ機能が付いていて、音色のバリエーションが広いのも良かったです。特にミックス・ポジションでカッティングすると、たまらない音がしますね。弾きやすさという面でも、ナットやフレットの処理が良く、楽に演奏できるのでオススメです。変な色が付いていない、素直な音のLPタイプのギターを探している人は、ぜひHS-LC、HS-LSを試奏して、その魅力を体感してほしいと思います!
価格:¥226,800 (税込)
価格:¥205,200 (税込)
宮脇俊郎(みやわき・としろう)
1965年生まれ。兵庫県出身。ビートルズで音楽に目覚め、ギターを手にする。東京学芸大学卒業後にギタリストとしての活動をスタートし、1999年より自ら主宰するギター・スクールを立ち上げる。これまでに多数のギター教則本&DVDのほかに「ポピュラー・ピアノ入門」、「なるほどベース理論ゼミナール」など、ギター以外の教則本も制作。近年は台湾、中国北京・蘇州・上海でライブ&セミナー、デモ演奏を開催するなど海外の活動にも力を入れている。2017年7月より、世田谷区下北沢にギター教室を移転。エレキ・ギター、アコースティック・ギター、ベース、音楽理論、ピアノ弾き語りなどのレッスンを実施中。2018年からはオンライン・レッスン「宮脇俊郎オンラインアドリブ塾」を開講している。