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- 2024/11/16
YAMAHA/FP9
ヤマハが満を持して発表したフット・ペダルのフラッグシップ・モデル=FP9シリーズ。多彩な調整機構を備えたモダンなスペックでありながら、ヤマハらしいシンプル設計で、各パーツの精度を極限まで追求。抜群の演奏性と安定感を誇り、その近未来的なデザインも含め、次世代モデルとして、国内外で高い注目を浴びている。ここでは日本屈指のツーバス・ドラマー、青山英樹によるレビューと共に、その実力をチェックしていこう!
5月25日に満を持して発売されたヤマハ・フット・ペダルのフラッグシップ・モデル、FP9。筆者の第一印象は“洗練されたルックスがカッコいい!”でした。ピカピカに輝く鏡面仕上げの大型のフット・ボード、黒と金色の精悍なビーター、ヤマハのバイク・レーシング・チームのイメージ・カラー=ブルーのパーツを節々に採用したメカニカルなフォルムなど、スピーディかつパワフルに動いてくれそうな、その雰囲気に惹きつけられました。高級感の漂うフット・ボードに“本当に足の乗せちゃっていいの?”という思いがよぎると同時に、やはり楽器はまず見た目のカッコ良さが大切だと再認識しました。ちなみにデザインもヤマハ発動機のバイクをモチーフにしているそうで、こういう試みも初だそうです。
FP9のラインナップは、シングル・ペダルが、チェーン・ドライブ(ベルトにつけ替え可能)のFP9Cと、ダイレクト・ドライブのFP9Dの2機種。ツイン・ペダルはダブル・チェーン・ドライブのDFP9Cと、ダイレクト・ドライブのDFP9D、さらに左利き用のダブル・チェーン・ドライブのDFP9CLの3機種で、合計5機種となります。このFP9はフラッグシップ・モデルとしての位置づけであり、従来のフット・ペダルのラインナップはそのまま継続されて、その上位機種として君臨する形です。
節々に革新的なアイディアが盛り込まれ、未来的でメカニカルなルックスのFP9ですが、実際に踏んでみると、自然で癖のないスムーズなアクションと全体バランスの良さなど、歴代のヤマハ製ペダルと共通した特徴と魅力が感じられ、その伝統はしっかりと継承されていると感じます。ルックスはレーシング・マシンのようですが、決してパワーとスピードに特化したピーキーなペダルではなく、初心者からプロフェッショナルまで気負いなく踏める高精度なペダルという印象。また調整機能もたくさんありますが、その多くは段階的に設定する仕様となっているため、変化を判断しやすいのもポイント。ペダルを演奏者の好みに寄せる作業を直感的に行なうことが可能です。そして調整次第では、今までにラインナップされている各モデルの特色を、この1台で再現可能な幅広さも備えている印象で、その点もFP9がフラッグシップたる所以だと感じます。
数々の革新的な機能が搭載されています。ここではその特徴的なスペックの中から、特に注目すべき5つに的を絞って解説していきたいと思います。
FP9はチェーンのカムやダイレクト・リンクの接続部分をスライドさせることで踏み心地を調整することができます。まずチェーン・ドライブのカムはC1が最も均一なアクションが得られる、いわゆる“真円カム”の状態。C2~C3となるに従って“偏芯カム”の度合いが増し、踏み始めの軽さと加速感が加わる調整となります。ダイレクト・ドライブのリンク部はD1からD3にスライドするに従って、初動時の踏み応えが増し、同時に加速感もアップ。全体の調整バランス次第では、本当に爆発的な加速感を得ることも可能でした。
FP9のトレード・マークである青いパーツは高精度に加工されたパーツを示します。ペダルの心臓部とも呼べるシャフトの回転部分の青いパーツには、ボール・ベアリングが挿入されており、それを平面加工処理されたフレームに正確に設置することで、左右のベアリングとロッカー・シャフトを高精度で1列に配置することを可能にしています。それによってボール・ベアリングのガタツキを防止すると同時に、シャフトのスムーズな回転運動を実現。実際にFP9を踏んでシャフトの驚くほどスムーズな動きを実感すると、この部分の精度が大きく貢献していることを実感して納得します。
スプリングの調整ボルトを上向きにすることで、座った状態でも簡単にテンションの調整が可能になりました。しかも調整ノブは90°回転ごとに“カクン”という軽い手応えと共にロックが掛かるため、緩み防止の増す締めをする必要もなく、どのくらいノブを回したかを感触で把握することも可能。演奏の現場で、その日の体調などに合わせて微調整したいと感じたときに、フープから外すことなく手軽に行えるのは本当に便利ですし、これならばライブ中でも調整できるでしょう。またスプリングの調整部分がスウィングする構造になっているため、スプリングの伸縮も実にスムーズ。個人的には特に動き出しの柔らかさに効果を感じました。
ヒンジ部分は高精度に加工された青いパーツで、両側からシャフトを支えることで安定性を向上。スムーズなペダル・ワークに貢献しています。実際に手で動きを確認してみてもまったく余計なブレを感じられませんでした。またフット・ボードのヒール・ポジションを低く設定することで、フット・ボードの実用域が広がり、かなり手前側まで足を乗せてコントロールが可能となっています。このあたりは踏み位置を広く活用できるロング・ボードのメリットを生かした設計となっています。
黒と金色の精悍なルックスが印象的で、これはバイク・タイヤのホイールをイメージしたデザインということです。大きさや形はヤマハの伝統を感じさせるオーソドックスなもので、フェルトは固めな印象。明確なアタックが得られるので、高速フレーズのツブ立ちもしっかりと発音されます。フェルトの下部には専用のウエイトを取りつけられるのもポイントで、同梱されているアルミ(3g)、ブラス(9g)の2種類をチョイスして演奏のフィーリングやサウンドの幅を広げることができます(装着は1枚ずつ)。実際に使用してみると、演奏時の感触はもちろんですが、それ以上に音の太さやアタック感に大きな変化が表れることに驚きました。
●今回はダブル・チェーン・ドライブとダイレクト・ドライブ、両方を試してもらいましたが、それぞれの感想を教えてもらえますか?
青山 僕はベルト・ドライブの(FP)720しかほとんど踏んだことがないので、それと比べての感想になってしまうんですけど、チェーンは癖がないというか、意外なほどすんなり踏めましたね。ダイレクトは前のモデル(FP9500D)を試したことがあって、720を使っている人間からすると“ちょっと返りが速いな”って正直思っていました。でもFP9はいろいろと調整できるので、踏み心地を720に近づけてみたら、これも意外に踏めちゃいましたね。どちらも良いんですけど、個人的にはチェーンの方が好みかな。
●撮影中に、チェーンとダイレクトで踏み位置が変わるとおっしゃっていましたよね?
青山 変わっていましたね。720ともまた違うんですよ。720は“しなり”があるので、後ろ側の内側を踏むんですけど、チェーンは真ん中あたりで、速いフレーズになるとちょっと後ろになるというか。そのあたりは動画を見てもらうとわかるんじゃないかと思います。やっぱり造りが頑丈なので、自分が求めるポイントが必然的に変わっていったんだと思います。
●サウンドの印象はどうですか?
青山 ビーターがフェルトなんですけど、結構硬いので、音量もパキっと出てくれますね。でも優しい感じの音楽にもマッチすると思います。本当にこの1台で何でもできちゃうんだなって。ちょっとビックリですね。
●ヤマハのラインナップにあるペダルのニュアンスが全部出せるからこそ、フラッグシップ・モデルなんだそうですよ。
青山 なるほど。確かに今までのペダルの全部良いとこ取りしてきました、みたいな、そんなニュアンスがありますよね(笑)。それでいて1つ1つのパーツがしっかり頑丈で、壊れないという安定感もあって。良いですね。(FP9は)動きも軽いし、ノイズもないし、頑丈で壊れないという感じがします。
●ツイン・ペダルの感想は?
青山 何と言っても左側ですよね。普段は左側も720のツイン・ペダル(DFP-750)使ってるんですけど、やっぱり右側との差がどうしても気になっていたんです。DFP9はジョイントの部分が改良されてて、右足と変わらないような軽さと踏み心地が得られて、これはすごいなと思いました。今までとは違った感じで速いフレーズもできるんじゃないかと思います。
●では最後にFP9導入を検討しているドラマーにメッセージをお願いします!
青山 ダイレクトもチェーンもそれぞれに良さがあるので、とにかく楽器屋で踏みまくってほしいですね。今までのヤマハのペダルの歴史が詰まっていて、何でもできるようなペダルなので、とにかく1回踏んでみて試してみてください。すごく良いペダルです。ぜひ、一緒にドコドコしましょう!
本記事は、6月25日発売のリットーミュージック刊『リズム&ドラム・マガジン 2019年8月号』の特集を転載した先行公開記事になります。表紙特集は、華やかな多点キットから重厚なドラミングを放つD'ERLANGERのTetsu。さらに恒例の誌上コンテストの課題曲発表や、KREVA×白根佳尚によるスペシャル対談、リハスタの個人練1時間を使ったトレーニング・メニューを紹介する特別企画など、盛りだくさんの内容。FP9特集では、河村"カースケ"智康、玉田豊夢ら5人のトップ・プロによる試奏レポートも掲載しています。本記事と併せてぜひお楽しみください
価格:¥37,000 (税別)
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青山英樹
1986年生まれ。06年にプロ・ドラマーとしてデビューして以降、アニメ・ソング、声優、アイドル、Jポップなど、さまざまなジャンルのライブ/レコーディングで活躍。現在も緒方恵美、Little Black Dress、ANIMAX MUSIXらのライブ・サポートの他、2020年に20周年を迎えるJAM Projectのアニバーサリー・プロジェクトへの参加など、精力的な活動を展開している。最新情報はTwitter(@aoyama_hideki)にて発信中。父は故・青山純氏