AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Bose / S1 Pro
軽量かつコンパクトなサイズで高音質ということで、多くのミュージシャンから注目が集まっているポータブルPAシステムのBose“S1 Pro”。ボーカルやギターだけでなく、ウクレレでも相性は抜群なのだ。今回はサウンドメッセin大阪2019の本誌主催ステージでSweet Hollywaiiansの松井朝敬&高田マリオを招き、その実力を検証してみた。
ボーズから登場した“S1 Pro”は、高音質かつ実用性に優れたポータブルPAシステムで、多くのミュージシャンから絶賛されている。本体には3chの入力があり、ch1、2にはマイクや楽器を直に差せる。もちろんウクレレの優しい響きも美しく出力する。ch3はBluetoothにも対応し、外部音源を流す際にも便利だ。なお、“Bose Connect”アプリを使うことで、2台のS1 Proを連携可能。本体には質の高いリバーブ&EQも内蔵する。さらに“ToneMatch”は、楽器に合わせた最適なEQをワンタッチで得られ、状況によって手軽に音作りが行なえる。場所を選ばず使えるバッテリーも標準装備し、最長11時間使用可能。アレイ・システムを用いたスピーカー配列で、今回のような会場でも実力を発揮する。なおオプションで、S1 Proを背負って運べる“S1 Pro Backpack”(価格:15,000円)もある。
サウンドメッセin大阪の会場である南港ATCホールに特設されたAGM(アコースティック・ギター・マガジン)ステージは半オープン・スペースのため、演奏に足をとめて聴き入る人たちもいる反面、近隣のショップ・ブースでエレキ・ギターを試奏している音や、他のメーカーのブース演奏がまわり込むという、ミュージシャンにとってはタフな演奏スペースであった。ここでBose S1 Proの実力を検証しようというわけである。S1 Proはほぼ初見の松井朝敬と高田マリオを招き、ウクレレとギターをラインでそれぞれのチャンネルに直で入力して、演奏することに。ふたりの後方にスタンドを立てて、ひとり1台という状況で、各々の楽器のレベルを整えていく。サウンドチェックで楽器を取り替えながら、音出ししてみると。
高田 ギターとウクレレを持ち替えてみましたが、どちらも自然なレンジ感で違和感がないですね。アコースティック楽器用のアンプを使って似たようなことをやったことがありますけど、アンプのクセがあるので案外簡単にはいかないんです。
松井 モニターで返しているわけではないので、最初、高田の音が聴き取りにくいかなと思ったけど、やっているうちに慣れてきましたね。水平のカバーエリアが広いせいなんでしょうか。演奏に集中できますね。
ステージから降りて客席後方まで移動してみると、ステージ上で鳴っている音の質感とほぼ同じ状態で聴こえている。普通はここまで離れて聴こえていれば、“ステージ上は音が大きく耳が痛いサウンドなのでは?”と思ってしまうが、音圧はあまり変わらない印象。この音の直進性は、S1 Proのアレイ・システムによるものだろう。ちなみに2台とも充電式バッテリーで行なった。
松井 充電のバッテリーでここまで音量や音質に遜色がないのは驚きますね。普通もっと音が痩せたりしそうだけど、ウクレレでもギターでも問題ない。プリアンプなどの外部機器を何も使わずにこれだけのサウンドが出せるというのは、パワーがあってレンジが広いからなんでしょうね。軽くてコンパクトだし、このまま「お疲れさまでした!」って持って帰ってもわからなそうですね(笑)。
結果、約1時間のステージをPAエンジニアなしの状態で演奏をこなした。この場ではいろんなシチュエーションで試せなかったので、後日、松井に時間をかけて試してもらった。
松井 プリアンプなしで、ウクレレとギターを直でつなげて20坪弱の部屋で試奏しました。ウクレレはマーティン・スタイル3コンサートに2nd Factorのコンタクト・ピエゾ(貼り付けタイプ)、ギターはSumi工房のアーチトップにディアルモンドのマグネティック・ピックアップ1100というジャズ・ギターのセッティングです。
まずS1 Proは7.1kgと軽く、電車の網棚や飛行機の座席上の荷物置き棚にも収まる小ささで、取りまわしはこのクラスのポータブル・アンプの中では際立っています。充電式でも使えるので、コンセントの位置を気にせず設置できるのもメリット。広く音が届くようPAシステムとして利用するにも、フロア・モニターとして利用するにも、お家に持ち帰っても場所を選びません。
必ずしもスピーカー・スタンドは必要ないと思いました。もちろんあれば有利ですが、音飛び、遠達性は抜群です。置き方でEQが自動で調整されるので、専門的な知識がなくても十分に最善のサウンドを作り出すことができます。高域の印象がとても良く、ふくよかな低音とのミックスも演奏するのに気になりませんでした。とてもアコースティックな印象です。高域(TREBLE)と低域(BASS)はツマミで調整ができます。私は柔らかい音が好きなので、少し高域をカットしました。ウクレレのピーキーになりやすいアタック音も、指先が弦に触れた時のノイズも改善できます。リバーブも艶っぽいところにかかるので、目盛りを上げ過ぎなくても効果が得られます。低く調弦されたギター、6弦E音をB♭まで下げても音が暴れずアコースティックで弾いているような再現性がありました。また、ToneMatchでギターやマイクに合ったイコライジングが得られます。もちろんオフの状態でも十分に「使える」音です。プリアンプやミキサーを通して音を作ってからつなぐ場合はオフで、直の場合はオンにするのも良いと思います。カフェでのライブやオープンマイク、演者が何人もいるのにリハーサルの時間も転換の時間もない時には、最短で最善のセッティングが作れるでしょう。
とても素敵なPAシステムです。小さいですけど、このクラスでは考えられないくらい「良い音」で大きな音が出ます。大きな音にしたら、音色が……バランスが……ダイナミクスが……などの悩みはありません。印象は直感的でとてもアコースティック、これがS1 Proの魅力です。
今回はイベント内での使用のため、MC用のマイクは通常のPAからの出力でトークを行ない、楽器の音のみをS1 Proから出力した。松井、高田ともにウクレレとギターをそれぞれ1本ずつ用意していたので、ひとり1台のS1 Proで楽器別に2chを使用した。それぞれの楽器の出力に合わせてゲインとトーンの補正をしておいて、あとは楽器を持ち替えるだけというシンプルな手法だが、どの楽器も埋もれることなく、自然にライブができた。通常のライブではPAエンジニアが細かく調整するわけだが、アコースティックな空間を作り上げておけば、あとは演奏者同士の音のバランスで成り立つ、という典型的な例となった。
本記事は、リットーミュージック刊『ウクレレ・マガジン Vol.21 Summer 2019』の記事を抜粋・転載したものです。キヨサク(MONGOL800/UKULELE GYPSY)によるウクレレ・バイヤーズ・ガイド2019や、レジェンドの人物像&魅力に迫る新連載・イズラエル・カマカヴィヴォオレの特集など、ウクレレの最新情報が満載です。ぜひチェックしてみてください!
価格:¥78,000 (税別)
Sweet Hollywaiians
戦前のジャズ、ブルース、南国音楽などを現代に再現するストリングス・バンドSweet Hollywaiians。2002年より活動を開始し、日本国内だけでなく海外でもツアーなどを行ない高い評価を得た。2017年に活動休止しているため、今回は主要メンバーの松井朝敬と高田マリオのふたりでの出演となった。