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- 2024/11/16
Martin / Modern Deluxe Series
好評連載Martin Times。第31回目は久しぶりにいつものスタジオに戻ってきました! 2019年のNAMM Showで発表されたばかりの新シリーズ、Modern DeluxeのD-18、D-28、000-28、OM-28をご紹介! 今回もお馴染み斎藤誠氏の演奏でマーティン・ギターのサウンドをお楽しみください。
前回は特別編として、斎藤氏のライブ・レコーディング・イベント『斎藤誠LIVEアコースティック2019 そうだ ステージの上でレコーディング、しよう。』のレポートをお送りしたが、今回はいつもどおりの形式で、新たに発足したモダン・デラックス・シリーズの4本をご紹介しよう。
ラインナップはD-28、D-18、000-28、OM-28という最もポピュラーなモデルで、ニカワの接着剤を始め、ウッド・バインディング、ゴールドのオープン・ギア・タイプのペグ、通常よりも硬質な金属を使用したゴールド・フレット、チタン製トラスロッド、カーボン・ファイバー製ブリッジ・プレート、リキッド・メタルと呼ばれる金属製のブリッジ・ピン、わずかに非対称のネック・グリップ、長年弾き込んだサウンドを再現するビンテージ・トーン・システム(VTS)加工を施したシトカ・スプルースのトップなどの共通仕様が特徴となっている。全体として見ると、伝統的な製法や外観で作られたギターに最新技術を盛り込んだのがモダン・デラックス・シリーズだと言えそうだ。どれもマーティンを代表するポピュラーなモデルだけに、新しいコンセプトが実際にどう反映されているかがわかりやすいだろう。
マホガニー・ボディのスタイル18は、もともとローズウッド・ボディの20番台よりも廉価なモデルとして発売されたが、独特な温かみのあるサウンドを好む人も多く、28と並ぶ定番モデルとしての地位を確立している。デザインはシンプルそのもので、バインディングもヒール・キャップも本来は黒だが、このモデルではどちらもインディアン・ローズウッドを使用し、ひそかな高級感を醸し出している。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:ジェニュイン・マホガニー ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:フォワード・シフテッド・X・ブレイシング・スキャロップト ●価格:¥600,000(税抜き)
ドレッドノートの広いダイナミック・レンジを生かすためデモはドロップDチューニングの曲にしましたが、28に比べて音がスッキリしていて散らばらないし、低音も整理されているから、ドロップDでもまとまった音になっていると思います。音程感も明瞭に出てくるタイプのクッキリとした音ですね。もちろん低音がないわけでもないし、音が腰高なわけでもなく、太さはちゃんとあります。D-28と同様に巻弦とプレーン弦のバランスが従来とは少し違って、スタンダードのD-18よりもクセというか、干し草の匂いは少ないかもしれませんが、その分オールマイティに使えるし、ピッキングのニュアンスでいろいろと料理できるギターだと思います。
Xブレイシングがフォワード・シフテッドのスキャロップ、パーフリングがヘリンボーンということで、スタンダード・シリーズのHD-28に近いモデルと言えそうだ。ただし、VTS加工のシトカ・スプルースや、木材よりも軽量で剛性の高いカーボン・ファイバー製のブリッジ・プレート、従来のプラスチック製よりも鳴りが良くなるというテスト結果が報告されているリキッド・メタルのブリッジ・ピンなどの効果も加わり、よりパワフルな鳴りが期待できる。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:フォワード・シフテッド・X・ブレイシング・スキャロップト ●価格:¥710,000(税抜き)
デモ曲はザックリしたものが良いかなあと思って、ザ・バンドの「The Weight」的なストロークと銘打ったものを用意しました(笑)。個人的に今回の4本の中では一番気に入りましたね。Dはなかなか自分と性格が合わないといつも言っているし、しかもローズウッド・ボディということで躊躇していましたが、このギターの場合は低音が出すぎなくて、プレーン弦や3、4弦の音がハッキリ出るというバランスが好きなのかもしれません。スタンダード・シリーズのD-28は男っぽくて少しくぐもった感じの音という印象ですが、これはもうちょっと“ガリッ”という成分があります。ベース・ラインもクリアに出るし、無理なく弾けるギターですね。
フィンガー・ピッカーにファンの多い000は、今回のモダン・デラックス・シリーズの4本中、唯一のショート・スケール・モデルとなる。材の構成や最新技術で作られた部材を使用しているのもほかの3本と同じで、ブレイシングにシトカよりも弾性の高いアディロンダック・スプルースを使用するなど、地味な部分もグレードアップされており、000に新しい印象を与える1本に仕上がっている。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:24.9インチ(632.5mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:Xブレイシング・スキャロップト ●価格:¥710,000(税抜き)
000はショート・スケールなのでテンションがゆるいと思っていたら、このギターはけっこう張りがあって、それがとっても良かったですね。個人的に“000は2〜4弦の音が優しいギター”というイメージがあって、2月1日(金)のライブで柳沢二三男と一緒に000のECを弾いた時にもそう思っていました。でも、このギターは「プラウド・メアリー調」と題したデモ曲でストロークを弾いたら意外にパワフルで、テンション感も強めだし、自分のOM-28に近いような感じさえしたんですよね。指弾きだとさすがに000本来のまろやかな音が出ますが、ピックでアルペジオを弾いても太くて前に出る音がするし、音の大きさにはビックリしました。
カタログ上の基本仕様としては、オープン・ギアのペグも含めてほぼスタンダード・シリーズに近いモデル。とは言え、チタン製のトラス・ロッドは従来のアジャスタブル・ロッドに比べて60%も軽いということで、ドレッドノートと同じロング・スケールでボディがコンパクトなOMは、楽器を構えた時の重量バランスの違いがよくわかるはずだ。
【Specifications】
●トップ:シトカ・スプルース with VTS ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:Xブレイシング・スキャロップト ●価格:¥710,000(税抜き)
OMはテンションが強いから指弾きで音がハッキリ聴こえると想像して、デモはフィンガー・スタイル中心の曲にしました。実際に弾いてみると、このギターはとても鳴らしやすくて、その意味ではちょっと000寄りになった印象もありましたね。ボディのサイズも同じだし。もちろん000と直接比べれば、やはりOMのほうが弾くのに力が必要で、普通の人ならネックのスケール感からしても000のほうが弾きやすいかもしれません。とは言え、エッジの効いた音にはOMならではのものがあるので、普通のOMより弾きやすくなったこのギターは、みなさんにも試してもらいたいですね。指弾きのアルペジオで始まるデモ曲を選んだのも正解だったと思います。
チタンのトラス・ロッドがこれほど大きな違いを生むとは思いませんでしたね。特にD-18は持った瞬間に軽くてビックリしました。座って弾く時にはネックの重さが気になることがありますから、重量バランスも改善されると思います。この効果でレスポンスも速くなった気がしますね。D-28はロー・コードもあまり強く弾かなくても大丈夫な感じで、目立たせたいフレーズの時は少し力を入れるだけでバーンと前に出てくれますね。一方、馬力が上がった感じの000と、鳴らしやすくなった感じのOMは、互いに歩み寄っているような印象。スタンダード・シリーズの2018年モデルと比べて、音が前に出るようになっているのが共通していると思います。総じてどのモデルもパワフルで、プレイヤー自身も確認しやすい音になっている印象でした。ネックのグリップは平べったくて、わずかにVっぽいところもあって、今までに触ったことのないような感じがしましたね。新開発のパーツが今後マーティンのほかの楽器にどう生かされていくのか、すごく興味があります。リキッド・メタルのブリッジ・ピンは僕の000-17みたいに鳴りが地味な楽器で試してみたいし、僕の弾き方だとフレットがものすごく削れるので、ゴールド・フレットの耐久性も気になります。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西 慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したことをきっかけに音楽界デビューを果たす。
1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポート・ギターを始め、数多くのトップ・アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。
2018年4月18日、MARTIN GUITARのラジオCMでお馴染みの「It’s A Beautiful Day」をニュー・シングルとしてリリース。また、本人名義のライブ活動のほか、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務めており、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンドや卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!