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【#_SUPERCOMBO_ の機材夜話】 第1回 Roland SPシリーズの魅力

ROLAND / SP-404シリーズ

音楽ユニット#_SUPERCOMBO_(スーパーコンボ)のMEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABOとDJ 1,2が、クラブ・ミュージック・カルチャーからの視点で音楽制作ツールを語る新連載がスタート! 記念すべき第1回はRoland SPシリーズ。初代BOSSブランドで発売されたSP-202からSP-404SXに至るまで、同シリーズが20年以上のロング・セラー商品となったその魅力について2人が語ります。

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さまざまなシチュエーションで活躍するサンプラー

MEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO(以下、ABO) ── SP-404SXは今年の9月でちょうど10周年。しかもSPシリーズは、BOSSブランドから発売されたSP-202から数えると、20年以上も続くロングセラー・サンプラーなんだよね。SPシリーズって、まず1つに効果音ポン出し用サンプラーとしての需要がある。レゲエのセレクターが、ホーンやピュンピュン・マシンの音を鳴らすための機材っていうイメージも定着してたよね。

DJ 1,2(以下、1,2)── 僕がSP-404を買った楽器店では、効果音や音ネタがたくさん入ったメモリー・カードをサービスしてくれたよ。こういった販売店のサポートもSPシリーズをクラブ・シーンに定着化させる後押しになったのかも。それにSP-404は電池駆動できてコンパクトだから置き場所に困らないしすぐに音が出せる。その後継のSP-404SXでは、パッドもバンクも増えて、カテゴリーごとに音をまとめやすくなった。音楽での用途以外にも舞台やラジオ番組など、いろんな現場で使われているよね。

BOSS SP-303
初代SP-202からエフェクト数が圧倒的に増え、パターン・シーケンサーが搭載された。現在発売中のSPシリーズのベースとなった機種

Roland SP-404
3つのエフェクトが追加され電池駆動にも対応。パッド数も増え、SPシリーズのブランドをさらに高めた

Roland SP-404SX
記録メディアにSD/SDHCカードを採用し、32GBまで対応。記録フォーマットも16ビット/44.1kHzのWAV/AIFFになり高音質化を実現した

ABO ── SPシリーズはSP-808や、SP-606、SP-555といったそれぞれに特徴を持った機種も発売されたけど、結果的にSP-303の基本機能を継承するSP-404を経てSP-404SXにつながった。サンプラー、エフェクター、パターン・シーケンサーを、ここまで機能的かつシンプルに落とし込んだ電子楽器って、ほかに見当たらないんだよね。ロングセラー商品になった理由もここが大きいと思う。もちろんハイエンドな電子楽器と比べると機能は少ないかもしれないけど、それはそれって割り切って使えるところが良い。

1,2 ── そうだね。例えばSPシリーズのパッドはベロシティ非対応なんだけど、SP-404SXはパッドの反応が特に良くなったから、フィンガー・ドラムにもオススメできる。フィンガー・ドラムって実はベロシティはフル・レベルで叩いていることが多いよ。音に強弱を付ける場合は、音量を小さくした状態の同じサンプルを別のパッドに割り当てて、叩くパッドで音量を変えるようにすれば良い。この方がわかりやすいかも。

ABO ── ベロシティが効かないところを逆手にとって自分のモノにするっていうのは、すごくヒップホップ的だよね。

Rolandならではの多彩な内蔵エフェクト

DJ 1,2所有のSP-404(限定カラーGold/Black)。ノブは、カラフルなChroma Capsにカスタマイズされている

1,2 ── SP-404の内蔵エフェクトは、外部からの音声入力に対しても使えるから、単体のマルチ・エフェクターとしてもかなり有能。以前はSP-404で効果音を鳴らしていたけど、DJソフトにはサンプラー機能が搭載されてからは、エフェクターとして使うほうが多いかな。DJFX LOOPERっていうエフェクトは、3つのツマミでループの長さや再生方向、再生スピードを調節できて、BPM LOOPERより音が複雑に変化するのがおもしろいね。

ABO ── 僕が使っているSP-303も、最近は楽曲制作時のエフェクターとして使うことが多くなった。よく使うエフェクトはTAPE ECHO、LO-FI、VINYL SIM、FILTER、OVERDRIVE……ほとんど使うか(笑)

1,2 ── DAWのプラグイン・エフェクトがあるのに、SP-303のエフェクトを使う必要あるの?

ABO ── やっぱりコレでしか出せない音質があるんだよね。例えばTAPE ECHOは、さすがテープ・エコーの元祖RE-201を作ったメーカーだなって思う。ミックスダウンの時にほかの音とぶつからないように帯域を空けてあげると、音が立ってオケの中に埋もれない感じになるのね。そこが扱いやすい。

1,2 ── ちなみに、SP-404にはSP-303のエフェクト群に3つ(SUB SONICとBPM LOOPER、DJFX LOOPERの)が追加された。SP-404SXは、エフェクトが名称が一部変更されただけで、エフェクトの種類は変わってない。ただしSP-404SXは、DJFX LOOPERとVOICE TRANSがトップ・パネルでダイレクトに選べるようになっている。

SP-404トップパネルのエフェクト・セクション。FILTER+DRIVE、PITCH、DELAY、ISOLATOR、VINYL SIMはエフェクト・ボタンで瞬時にかけられる。MFXのエフェクトはノブでエフェクト番号を選択する

SP-404SXトップパネルのエフェクト・セクション。エフェクト・ボタンで瞬時にDJFX LOOPERが選べるようになった

SP-404/SP-404SXがもたらしたビート・ライブへの貢献度

ABO ── SP−404以降のSPシリーズは、多彩なエフェクトが搭載したことに加えて、大容量記録メディアに対応したことで、ビート・ライブといわれるパフォーマンス・スタイルに大きく貢献したことは間違いないよね。

1,2 ── しかも、SP-404SXなら32GBまでのSDカードが使えて、ステレオで48時間もサンプリングできるようになった。120パッド(=12パッド×10バンク)それぞれに1曲まるごとサンプリングしても、内蔵メモリにまだまだ余裕がある。

ABO ── この進化は新しいニーズを開拓したと思うよ。サンプリング、ビートメイキング、ライブが1台だけでできてしまう。以下の動画はフランスのビートメイカー、クライオのSP-404SXを使ったパフォーマンスなんだけど、楽曲をシームレスにつなぎながらもエフェクトを多用したり、リアルタイムに音ネタをかぶせたりと、非常に自由度の高いライブになってる。

Khryo SP-404 Lofi Live Set Le Mellotron

ローファイ・ヒップホップとSPシリーズの相性

ABO ── SPシリーズを使ったビート・ライブはジャンルを問わないけど、さっき紹介したクライオのようにローファイ・ヒップホップのライブが盛り上がっている。ちなみにローファイ・ヒップホップっていうのは、音がローファイなヒップホップっていう意味合いではなくて、音楽性はnujabes(日本のヒップホップDJ/トラックメイカー)やJ・ディラ(1990年代後半から2000年代前半に活躍したヒップホップ/R&Bプロデューサー)からの影響が大きい。インターネットから生まれたコミュニティと言ったほうがいいのかな?

1,2 ── うん、ひとつの音楽ジャンルという説明では不十分かと。しかもYouTubeから生まれたコミュニティなんだよね。

ABO ── SpotifyやApple Musicのように、YouTubeも最先端音楽シーンの情報源として活用されていて、そこから音楽をキュレーションするYouTubeチャンネルがブランド化していった。ローファイ・ヒップホップを代表するYouTubeチャンネルの1つが、このChilledCowなんだよね。

lofi hip hop radio - beats to relax/study to

1,2 ── ChilledCowは、beats to relax/study toと書かれていて、女の子が勉強しているアニメーションと、曲が24時間エンドレスでライブ配信されている。勉強しながら聴くための需要と、YouTubeライブに実装されたチャット機能とが相まって、10代や20代前半の学生が集まってコミュニティ化していった。

ABO ── ここのチャットには、不眠症で寝られないんだとか、学校に行っていないんだとか書き込まれていて、このYouTubeチャンネルが悩める学生の癒しの場になってることが最近わかってきた。僕はもっとカラッとしたコミュニティだと思っていたんだけど。

1,2 ── ちなみに、ローファイ・ヒップホップの音楽性に影響を与えた本のアーティストnujabesは、自身が楽曲を提供したアニメ「サムライチャンプルー」で世界的に知られるようになった。日本アニメの影響力を感じるよね。

ABO ── ローファイ・ヒップホップのビートメイキングにもSP-404/SP-404SXがよく使われている。SPシリーズは、パターン・シーケンサーが搭載されたSP-303の頃からすでにビート・メイカーに使われるようになっていた。その背景には、2000年代の初めにSP-303だけでアルバム作ったヒップホップ・アーティストのマッドリブの影響もあると思う。

1,2 ── マッドリブのビートは、サンプリング・ネタありきなところもあるけど、ああいうサウンドにするためにはSPシリーズのエフェクトは欠かせない。ピッチ落としたりローファイにしたり。

ABO ──レコード盤の回転ムラのように音程が安定しない感じも、VINYL SIMというエフェクトを使えば簡単に出せる。ISOLATORを使って、高域と中域をカットして2ミックスの中からベース部分だけを抜き出したり、それを何回もリサンプリングして音を太くさせたりとか、そういうハードウェアの制限された機能の中から生み出されるアイデアっていうのも面白いよね。こういったテクニックはローファイ・ヒップホップのビートメイキングにも生かされているはず。

1,2 ── ローファイ・ヒップホップには、さっきも話に上がったnujabesやJ・ディラからの影響と思われる独特なビートの揺れがあってこれを打ち込みで再現するのは意外と難しい。しかし、SP-404のクオンタイズ機能を使えば、跳ねたリズムは簡単に作れる。さらにSP-404SXに搭載されたシャッフル・クオンタイズ機能を使えば、裏拍の跳ね具合まで調節できるのね。これを使うとまさにローファイ・ヒップホップの揺れ方になる。今の若いビートメイカーが、こういう機能をサラっと使って自分のビートにしているのを見て驚いたよ。

ABO ── SP-404/SP-404SXは、これまで打ち込みの玄人じゃないと難しかったヒップホップのノリを民主化していったと言っても良いよね。これによって世界中のいろんなビートメイカーがローファイ・ヒップホップに参入しやすくなったと思う。

HOW TOはみんなで共有する時代へ

1,2 ── そういえば、ローファイ・ヒップホップは学生たちのコミュニティっていう話があったけど、ローファイ・ヒップホップ・クリエイターが集まるフォーラムもあるんだよね。ABO君もそこのフォーラムのアカウント持ってるんだっけ?

ABO ── うん。初めて知ったのは2017年だったかな? アカウントを取得する時に「サンプラー、SPシリーズを作ったのは?」という質問があるんだけど、「E-mu」って答えたら全然次に進めなくて(汗)。あ、そうか!と気づいて「Roland」と入力したらあっさり登録できた(笑)。

1,2 ── そうか、今の時代SPといえばRolandだよね(笑)。

ABO ── このフォーラムのおかげで、SP-404/SP-404SXは、ローファイ・ヒップホップ界隈で多用されていることを早い時期に知ることができた。ほかにもチュートリアルやサンプル・ネタ交換、FAQ、ビート・バトルなど、いろんなスレッドが立ち上がっていて、活発に議論されている。おもしろかったのがローファイ・ヒップホップらしいビートを作る時、何からサンプルするか?っていうスレッドに「YouTubeでイタリアン・イージー・リスニングって検索するのさ」って書かれてあったこと(笑)。

1,2 ── なるほど、そういうところからネタを持ってくると、ああいうサウンドになるのか(笑)。

ABO ── 参考になる動画がYouTubeもプレイリスト単位で共有されているから、ここ見てれば苦労自慢みたいなのがなくなるよね。スタート地点はみんなフラットで音楽始めようぜっていう感じを受ける。YouTubeネイティブ世代の若い子たちにはHow Toは共有するものっていう感覚が完全にあるから、これから段違いにスキルが高くなっていく気がする。こういうフォーラムで美味しい情報しか見ていないということを否定的に捉える人もいるかもしれないけど、僕は良いことしかないと思う。

人の数だけSPシリーズの愛し方がある

ABO ── こうやってあらためて振り返ってみるとSPシリーズが音楽シーンに与えた影響って大きいよね。

1,2 ── ヒップホップに限らず、ほかのジャンルのクリエイターやミュージシャン、音効さんなど、人の数だけSPシリーズの愛し方があると思う。いろんなバリエーションに対応できる振り幅の広さが、SPシリーズが今も支持されている理由なのかなと。

ABO ── それって、Rolandスピリッツだと思うんだよね。ユーザーに使い方をゆだねる余地を与えているというところが。過去に販売されていたTR-909やTB-303も、新しい使い方が編み出されてダンス・ミュージックのレジェンド機材になった。同じようにSPシリーズも、製品の仕様と新しい価値創造が良い形にハマってムーブメントが生まれた。だからここまでロングセラー商品になったんじゃないかな?

DJ 1,2(左)とMEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO(右)

#_SUPERCOMBO_ の機材夜話

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プロフィール

MEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO( #_SUPERCOMBO_ )
1984年生まれ。1998年より地元でDJ/トラックメイカーとしての活動をスタートし、2002年に上京。さまざまなアートに触れる日々を送りつつ、活動を本格化させる。2008年から新木場ageHaで約2年間に渡って開催されていたパーティ「Cloudland」では毎月2,3時間のロング・セットを行なうレギュラーDJを務めたことで、シーンに独特な存在感を示す。サウンド・クリエイターとしてもダンス・トラックのみならず、美術作品のための音響製作や、パフォーマンス・ガールズ・ユニット「9nine」のライブ音源制作、ファッション・ショーや映像作品のための音楽/音響制作、ゲーム音楽やアニメ劇伴なども手がける。

DJ1,2( #_SUPERCOMBO_ )
日本を代表するターンテーブリスト。ヒップホップ・カルチャーの根付く街、青森県三沢市にて、14歳から独学でDJを始める。その後DMCを始めとする多数のDJバトルに出場し、華やかな戦歴を残す。2003年には19歳という若さで、世界3大DJ大会の1つのITF Japan finalにて優勝。日本代表としてドイツ・ミュンヘンにて行なわれた同大会の世界大会に出場する。その確かなスキルは、玉置浩二、Def Tech、MIYAVIなど、多数の著名アーティストから絶大な信頼を得て、ツアーDJとして選び抜かれる。近年ではNHKへの出演や楽曲提供、海外でのイベント出演等、ターンテーブリストとしての活躍の場をさらに広げている。まさにオールラウンド・プレイヤー。

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