AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
HISTORY HS-SV&HS-SV/M
1994年のブランド設立から25周年を迎えたHISTORY。一貫して「ギタリスト/ベーシストに本当に優れた理想の楽器を使ってもらいたい」というポリシーを持ち、進化と改善を続けているブランドだ。今回は、誕生25周年を記念してフル・モデルチェンジを行なったラインナップの中核をなす「HSシリーズ」から、HS-SVとHS-SV/Mの2機種をピックアップ。多数のギター教則本&DVDでお馴染みのギタリスト宮脇俊郎氏による試奏&インプレッションとともに、その魅力を余すところなく紹介する。
ブランド誕生25年を記念して、フル・モデルチェンジを行なったHISTORY。ここでは、新しいモデルの詳細に触れる前にブランドの進化の歴史を振り返ってみよう。HISTORY設立当初の1990年代は、ラインナップに中国・韓国製の低価格モデルも含まれており、まだブランドの方向性を模索していた時代だった。それが2001年のブランド・ロゴ変更から商品ラインナップの体系が確立され、2005年頃からは高額オリジナル・モデル(GHシリーズ)への取り組みも始まり、より独自性を持つブランドへと舵を切っていく。2008年にはカラー・オーダーやコンポーネント・オーダーといった個別対応にも着手。さらに2014年にはトップ・ギタリストの渡辺香津美シグネイチャー・モデルを開発するなど、アーティスト・リレーションを強化し、プロ・ギタリストからの意見や要望を製品開発に反映させてきた。
現在のHISTORYは、良い楽器を創るというギター・ブランドの本質を徹底して追求している。特に大切にしているポイントは、良質な素材へのこだわり、確かな技術に裏付けられた品質のさらなる向上、即戦力クオリティを実現する丁寧な出荷セットアップだ。それにより、どの製品もネックを握った瞬間に手に伝わる心地良い振動と程よいグリップ感、すべてのポジションで感じられるピッチの良さと和音の豊かな響き、押さえやすく最適な状態に調整された弦高、そして自然なサステインを実現している。
近年、多くのプロ・ギタリストがHISTORYを使用しており、その多くが市販品をそのまま使っているという事実が、プロが現場で使える即戦力クオリティを持っていることを証明している。もちろんHISTORYの各モデルは、その扱いやすさから初心者も安心して使用できるギター/ベースであることは間違いない。
今回のフル・モデルチェンジでより鮮明になった、HISTORYの良質な素材へのこだわり。STタイプのHS-SVにおいても、素材の良さが大きな特徴だ。ネック材にはリアル・ビンテージ・ウッドである「ヘリテイジウッド・ハードメイプル」が採用されている。これは、伐採、運搬や保管の過程で湖に沈んでしまった材をサルベージしたもの。現代の技術により引き揚げと乾燥が可能になったビンテージのメイプル材で、年輪が詰まった良材が、時間の経過とともに繊維質であるセルロースの結晶化が進み、さらに鳴りの良い材となっている。また、新たに伐採したものではないので、環境に優しいという副次的なメリットもある材だ。HS-SVはこの材を採用し、Uシェイプで仕上げている。指板材には高級材のグラナディロを使っている点もポイント。ローズウッドと同じマメ科の材で、インディアン・ローズよりも固く、エボニーのようにレスポンスの良い材だ。ヘリテイジウッド・ハードメイプルとの組み合わせで、明瞭かつ芳醇なトーンを生み出す。
アルダー2Pのボディは、しっとりと半艶に仕上げられたトップ・ラッカー塗装で、ビンテージ・ライクな風合いに仕上げられている。フィニッシュは3トーン・サンバースト、ブラック、ビンテージ・ナチュラルの3色展開だ。電装系は、CTSのポット、CRLの5ウェイ・スイッチ、オレンジドロップのキャパシター、スイッチクラフトのジャック等、USA製でまとめられ、見えないところまで抜かりはない。ピックアップは各弦のバランスを調整したトールDタイプのオリジナル・モデルで、出力はやや高めだ。鳴りに影響するブリッジ駒、トレモロ・ブロックはスティール製で、STらしいトーンの形成に影響している。
このように、サウンドに関係する部分に徹底的にこだわり、同時に現代的な弾きやすさについても重視している。最もこだわっている点は、ナットの仕上げの良さだ。新たに無漂白の牛骨を採用、手作業でナット溝深さを調整し、弦毎の誤差を0.5mm以下の単位まで追い込んでセットアップしている。これにより、ロー・ポジションのピッチの良さ、押弦のしやすさが向上し、初心者であってもFのコードでつまづくようなことはないだろう。指板のラジアスは250mmR、22フレット仕様で、フレットにはジェスカーのFW47095-NSを、ネック・ジョイントにはハイ・ポジションが弾きやすい「ファスト・アクション・ジョイント」を採用している。また、2トーンでありながらフロント・トーンとミドル/リア・トーンとなっており、リアにもトーンが効く仕様も実用的だ。
スペック面に関して非の打ち所がないが、HS-SVの本当の魅力はシンプルに、「しっかりと調整されて弾きやすく、音が良い」──この点に尽きるだろう。
まず、音に関しては良い意味で非常にオーソドックスで、全帯域で音が鳴っている印象ですね。癖のあるギターは、結局どう弾いてもそのギターの音しかしないのですが、このHS-SVはピッキング次第で思った音を自在に出せます。それからグラナディロ指板を弾くのは初めてだったのですが、この指板によって中音域が豊かに存在していると感じました。弾き心地に関しては、フレットの高さもちょうどいいですし、フレットの端の仕上げがすごく丁寧で、スムーズに運指ができます。ブリッジはフローティングしてあるセッティングなのですが、チューニングが非常に安定しているのはセットアップがしっかりしている証拠で、とても真面目に作られている印象です。アンプからの出音も素直ですし、ピッキングのタッチに対する反応もいい。弾いていて、とても楽しいギターです。
HS-SVと同様、STタイプの理想を追求したモデルで、こちらはメイプル指板を採用。HS-SVに比べて、やや明るく、カラッとした音が特徴だ。このHS-SV/Mも、ネック材にリアル・ビンテージ・ウッドである「ヘリテイジウッド・ハードメイプル」を採用し、こちらはソフトVシェイプで仕上げている。
アルダー2Pのボディを、ラッカー・トップ塗装でしっとりと半艶に仕上げている点も同様で、こちらはキャンディ・アップル・レッドと、スノウ・ホワイトの2色展開。電装系、ピックアップ、ペグやブリッジなどのパーツ類はHS-SVとまったく同じ、信頼性の高いものばかりだ。そのほか、ジェスカーのフレット、フレット端の仕上げ、比較的フラットな指板のラジアス、ハイ・ポジションの演奏性と強度を両立したネック・ジョイントなど、現代的な弾きやすさに関わる仕様もHS-SVと同じだ。
ポイントのナットの精緻な仕上げも同様だが、ネック・グリップが異なるため、弾き心地はHS-SVとは異なる。その点の好みは個人差が大きいところなので、ぜひ店頭で手にとって試してみてほしい。このHS-SV/Mも、弾きやすさ、音の良さに関してはプロの折り紙付きで、実戦で即使えるギターであることは間違いない。
僕は、ギターを手にしてまず気にするのが、ネック越しに伝わってくる弦振動なんです。例えばロー・コードのAを弾いた時に、手に振動が伝わってくるのですが、今日弾いた2本には、それをすごく感じました。それが全然伝わってこないギターも、一般的には結構あるんですが、そういったギターは弾いていてストレスを感じます。このHS-SV/Mは、ネック裏だけではなく、ボディを通して脇腹や肋骨の辺りにも心地良い振動を感じました。こうした自然な振動は、「ヘリテイジウッド・ハードメイプル」のネック材の良さと、塗装の薄さが影響しているのだと思います。それが特定の帯域ではなく、全帯域で感じられました。こういうギターは音作りも一発で決まるので、楽ですよ。
このギターはゴリゴリのサウンドで使っても良いのですが、クランチくらいで、車に例えると「油断するとスピンするぞ」くらいの感じのところで、サウンドをピッキングでいかにコントロールするか──そういった楽しみ方ができるギターです。大人が楽しめるギターですし、ギターを始めたばかりの方にもぜひこういったギターを手にして、ギターの奥深い楽しみを速く覚えてほしいなと思います。
今回、HISTORYはフル・モデルチェンジをして、真正面から良いサウンドに挑んでいると感じました。基本的にはどちらのギターも「とてもオーソドックスで、良いサウンド」で、それを具現化できているのがすごいと思います。特に感心した点は、今回弾いたギターは2本とも、ナットの仕上げが丁寧かつ絶妙だったことです。ロー・フレットの音がビビらずに、Fのコードを押さえてもチューニングが安定していたのが印象的でした。ナットが高すぎるギターだとFを押さえた時にチューニングが上がってしまうことがあるのですが、この2本に関してはナットの高さが最適値に調整されているようです。試奏前に「出荷時のセッティング」だと聞いていたのですが、何の問題もなく弾けました。これならプロの現場でも即戦力になりますし、初心者がこういうギターで練習すると上達するのが早く、また耳を鍛える意味でも良いと思います。
どちらのギターも、オーソドックスと言っても懐古主義ではないところも良かったですね。弾きやすさに関しては、現代のレベルで使えるギターになっています。音の良さと弾きやすさ、その両方のバランスが取れたギターだと感じました。
価格:¥189,000 (税込)
価格:¥189,000 (税込)
宮脇俊郎(みやわき・としろう)
1965年生まれ。兵庫県出身。ビートルズで音楽に目覚め、ギターを手にする。東京学芸大学卒業後にギタリストとしての活動をスタートし、1999年より自ら主宰するギター・スクールを立ち上げる。これまでに多数のギター教則本&DVDのほかに「ポピュラー・ピアノ入門」、「なるほどベース理論ゼミナール」など、ギター以外の教則本も制作。近年は台湾、中国北京・蘇州・上海でライブ&セミナー、デモ演奏を開催するなど海外の活動にも力を入れている。2017年7月より、世田谷区下北沢にギター教室を移転。エレキ・ギター、アコースティック・ギター、ベース、音楽理論、ピアノ弾き語りなどのレッスンを実施中。2018年からはオンライン・レッスン「宮脇俊郎オンラインアドリブ塾」を開講している。