AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Breedlove
オレゴン州の工場で、1本1本手作業で製作されるアメリカ製ブリードラブのシリーズがリニューアル。ボディ・シェイプごとに異なるエキゾチック・ウッドを使った最上位のレガシー、シトカ・スプルース&インディアン・ローズウッドというスタンダードな組み合わせのプレミア、さらにオール・マホガニーのフロンティア、マートル・ウッドを用いたオレゴン、そしてアメリカ製では最も求めやすいUSAという5シリーズがラインナップ。今回この新しいシリーズから厳選した6モデルを、ブリードラブを長年愛用するカイ・ペティートに試奏&インプレッションしてもらった。
レガシー・シリーズは、ボディ・サイズによって使われる木材が異なる。最も大きなボディ・サイズのコンチェルトには、良質なアディロンダック・スプルースをトップに、サイド&バックには貴重な単板のコア材が使われ、低域から高域までバランスの良い出音が印象的だ。ピックアップには、ピエゾとコンデンサー・マイクを組み合わせて使えるL.R.バッグスのアンセムがマウントされ、ライブにも重宝する。
Specifications:
●トップ:アディロンダック・スプルース単板 ●サイド&バック:コア単板 ●指板&ブリッジ:アフリカン・エボニー ●ネック:ホンジュラス・マホガニー ●スケール:25.5インチ ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス アンセム
このボディ・サイズなのにローが締まっていて弾きやすい。それからミドル・レンジもふくよかですね。コアのサイド&バックのせいか、音のバランスもすごくいい。音の力強さはありますが、荒過ぎず音の輪郭もハッキリしています。中域から上がクリアに鳴ってくれるので、フィンガーで弾いても音が立ちますし、ピックでも煩わしい感じはしないですね。それから音量に余裕があるので、頑張って弾かなくていい点も好きですね。ただ力強く弾いても、その入力に負けずに反応してくれるので、思い切り弾いても大丈夫です。歌の伴奏にも合いますが、音にパワーがあってバランスも良いので、ソロ・ギターでインストも弾いてみたくなりますね。
ナチュラル・シャドウと名づけられたフィニッシュが印象的なレガシー・シリーズのコンチェルティーナ。ボディ・サイズは最も小さく、12フレット・ジョイントかつスロッテッド・ヘッド仕様だ。スケールも0.5インチ短い。こちらはシトカ・スプルース&ココボロという組み合わせ。ココボロは、ハカランダの代替材としても近年人気で、豊かな倍音感と重厚さを生み出し、サイズを超えたレンジ感を実現している。
Specifications:
●トップ:シトカ・スプルース単板 ●サイド&バック:ココボロ単板 ●指板&ブリッジ:アフリカン・エボニー ●ネック:ホンジュラス・マホガニー ●スケール:25インチ ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス アンセム
このサイズは、自然と手が伸びる魅力がありますよね。女性でも弾きやすい。まずサイズからイメージする音よりも、ふくよかに鳴ってくれることに驚きました。上も下も出ますし、音量も申し分ない。ついレギュラー・チューニングでブルースやジャズが弾きたくなりますが、ドロップもいいですね。すごく音楽的な音だと思います。これはココボロのおかげでしょうか。この杢目も美しいですね。温かみを感じる音ですが、しっかりと前に音が飛んでくれるのは、設計の良さですね。とても完成されたギターという印象です。音の立ち上がりも速く、輪郭がハッキリとしています。振れ幅の広いギターだと思いますが、特にシンガーの方にはオススメです。
プレミア・シリーズは、トップにシトカ・スプルース、サイド&バックにインディアン・ローズウッドというスタンダードな組み合わせが特徴と言えるシリーズ。カッタウェイがつけられたボディは、中間となるコンサート・サイズだ。ピックアップに関しては、プレミア・シリーズ以下は、L.R.バッグスのエレメント・アクティブ・システムVTCとなる。材の相性が抜群なのか、広がりのある豊かな倍音が印象的だ。
Specifications:
●トップ:シトカ・スプルース単板 ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド単板 ●指板&ブリッジ:アフリカン・エボニー ●ネック:ホンジュラス・マホガニー ●スケール:25.5インチ ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス エレメントVTC
これはスゴい。1弦がこんなに鳴るとは、驚きましたね。コンチェルトとは違う感じのミッド・レンジが気持ちいい。これはまさに、フィンガーピッカーに最適なモデルですね。すごくリアルで生々しい響きで、倍音感がとても豊か。音の響き方が美しく、何を弾いても気分を良くしてくれるので、ギターを手放したくない(笑)。音に包まれている感じで、今までのブリードラブにはなかったタイプです。これはレコーディングで使って、コンデンサー・マイクで録音してみたいですね。もちろんピックアップとの相性も良いので、ライブでも使いたいですが、あえてコンデンサー・マイクも立てて演奏してみたい。おそらく余計なリバーブはいらなくなると思いますよ。
オレゴン州を代表する木材であり、ブリードラブが特にこだわりを持って使っているのがマートルウッド。日本では、それほど馴染みはないが、インパクトのある杢目が出る個体もあり、さらに明瞭かつバランスの取れたレンジ感もあるため、個人製作家も注目している。このマートルウッドをサイド&バックに採用したのがオレゴン・シリーズだ。ネックにはメイプルが組み合わされる点も特徴と言える。
Specifications:
●トップ:シトカ・スプルース単板 ●サイド&バック:マートルウッド単板 ●指板&ブリッジ:アフリカン・エボニー ●ネック:イースタン・ハードロック・メイプル ●スケール:25.5インチ ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス エレメントVTC
音は締まりつつもボリュームがあって、個性的な響きだと思います。クリアで飛び散らず、バランスもいい。それから単音が太くて、ハイ・フレットのプレーン弦でも細くならないので、ソロを弾きたくなりますね。同じボディ・サイズのプレミア・シリーズに比べて、音に落ちつきがあり、こちらの方がウェットな印象を受けますね。でもハイが響かないわけではなく、どの帯域も鳴ってくれます。音の反応も速いので、ジャズにも合いそうです。これまで弾いてきたどのモデルもそうですが、ピッチがすごく良くて、弾きやすいのも魅力です。先ほど弾いたプレミアとは3万円しか違わないので、ぜひ店頭で弾き比べて音の好みで選んでほしいですね。
フロンティアは、指板&ブリッジ以外はホンジュラス・マホガニーで製作されるシリーズ。さらにどのボディ・サイズも、ノンカッタウェイ仕様となる。今回、試奏したこのモデルは、12フレット・ジョイントのコンチェルティーナだが、ヘッドはスロッテッドではない。マホガニー・ボディは軽量で、乾いた倍音豊かなサウンドが得られ、思わずブルースでも弾きたくなる。歌の伴奏には、特に相性が良さそうだ。
Specifications:
●トップ:ホンジュラス・マホガニー単板 ●サイド&バック:ホンジュラス・マホガニー単板 ●指板&ブリッジ:アフリカン・エボニー
●ネック:ホンジュラス・マホガニー ●スケール:25インチ ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス エレメントVTC
レガシー・シリーズのコンチェルティーナよりも乾いた、爽やかな音の印象ですね。小ぶりなギター特有の丸みを帯びたトーンではないので、それが好きではなかった人にはぜひ弾いてほしい。すごく音の立ち上がりが良くて、倍音も豊かです。それにハイのサラサラした抜けの良いトーンもいいですね。ロー感も申し分なく、単音も太いと思います。それにお決まりですが、ブルースも弾きたくなります。ただ、音は暴れずにクリアで、これは今日弾いたブリードラブのギターに一貫しています。それからフィンガーで弾いても、フラットピックでも大きく弾き方を変えなくてもいい点がスゴいですね。ぜひ初心者の方にも、こういうギターがあると知ってほしい。
アメリカ製のシリーズの中で最もリーズナブルなのが、このUSAシリーズだ。トップはシトカ・スプルース、サイド&バックはホンジュラス・マホガニーで、両方とも単板と上位モデルと遜色ない。ボディには、極薄の“オープン・ポア”と呼ばれるサテン・フィニッシュが施されている。このフィニッシュの効果もあり、非常に軽量で鳴りも良い。ちなみにUSAシリーズもノンカッタウェイのみとなっている。
Specifications:
●トップ:シトカ・スプルース単板 ●サイド&バック:ホンジュラス・マホガニー単板 ●指板&ブリッジ:アフリカン・エボニー ●ネック:ホンジュラス・マホガニー ●スケール:25.5インチ ●ピックアップ・システム:L.R.バッグス エレメントVTC
音も太くてサステインも長いですし、平均点のすごく高いモデルだと思います。音のバランスも良くて、いい意味で音に変な主張がない。だからこそピックアップのノリも良さそうですし、ライブではとても使いやすいギターだと思います。音の立ち上がりも速く軽快感もあるので、コード・カッティングも気持ちいいですね。ガンガン弾きたい人にもオススメしたいです。このモデルが一番お求めやすいということですが、今回はどのグレードも素晴らしく、音やルックスの好みで選んでも後悔しないと思います。むしろ何本も弾いて、自分が納得できるモデルを探してほしいですね。
まずはハイ・クオリティなギターが、ここまでバリエーション豊かに登場したことに驚きました。さまざまなシリーズや価格があるにも関わらず、すべてにおいて平均点が高く、それぞれの個性もしっかりと感じられました。それに今回弾かせていただいた6本すべてから、インスピレーションを受けましたし、また新しい曲やフレーズが生まれるような可能性を感じました。
それから、ボディ・シェイプを3つに絞ったことは、カッコ良い決断だと思いました。それぞれのボディの特徴がわかりやすい。特にコンチェルティーナは、小ぶりなボディに対する音の固定概念を、いい意味で裏切ってくれました。コンサートは、これまでのブリードラブの良さや伝統を感じさせてくれながら、広がりのある倍音感など、さらなるサプライズもありました。コンチェルトは、以前のジャンボ・タイプとも違った印象で、何よりも抱えやすく心地好く演奏ができます。音に関しても、パワフルさは変わらずありましたが、さらに上品さがプラスされた感じです。3タイプのボディ、それぞれに良さがあって、すごくいいプラットホームができたと思います。
ブリッジ・トラス・システムに関しては、画期的なアイディアで僕も大好きでしたが、今回はそれを手放したことによって、新しい音作りができたことも印象的でしたね。サウンド・オプティマイゼーションという手法で木材の良さを最大限に引き出し、それが音にもハッキリ表われていたと思います。そういうチャレンジ精神が各モデルからは感じられ、改めてブリードラブに惚れ直しました。
今回弾いた中でも、特に衝撃を受けたのがプレミア・シリーズのコンサートでしたね。まるで倍音に包まれているような印象で、こんな可能性がまだあったんだと驚きました。これまでのブリードラブのタフネスさに加え、今回のリニューアルではわかりやすく、さらに音も進化しています。ぜひ何本も弾いて、価格ではなく音の個性や好みで選んでほしいですね。
本記事はリットーミュージック刊『アコースティック・ギター・マガジンVol.80 2019年6月号』の特集記事を一部転載したものです。誌面では、ブリードラブの代表トム・ベデル氏のインタビューや、ブリードラブ新シリーズを試奏できるショップも紹介していますので、ぜひチェックしてみてください!
価格:¥610,000 (税込)
価格:¥590,000 (税込)
価格:¥400,000 (税込)
価格:¥370,000 (税込)
価格:¥360,000 (税込)
カイ・ペティート
1982年神奈川県生まれ。14歳からギターを始め、2001年にバークリー音楽院に入学。翌年、“Gibson Jazz Guitar Contest”のバンド部門で優勝。09年にメジャー・デビュー。その後、3枚のアルバムをリリース。12年からはハーモニカ奏者の倉井夏樹とのデュオ、バンドSHAMANZのアルバムを発表し、それぞれフジロックにも出演。 現在では自分の活動に加え、小沼ようすけトリオや小沼ようすけ、石塚隆充とのAllendeのメンバーとしても活躍する。オープン・チューニングやベース弦を混ぜた変則チューニングをメインに、ボイスを取り入れた即興、独自のグルーヴ/世界観を展開中。