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- 2024/11/16
オルガン
キーボード・プレイヤーなら、必ずと言っていいほどその音色を弾く機会があるオルガン。幅広いジャンルの中で、時には楽曲を引っ張り、時には強力な存在感を放ち、時には全体を包み込み、オールマイティに活躍してくれる楽器である。ここでは注目の6機種を一気にレビュー! 現代の最新オルガンの実力はいかほどなのか? 購入の参考にしてほしい。
価格:オープン・プライス(市場予想価格:288,000円)
問)鈴木楽器製作所 053-461-2325
まず特筆すべきは、VASE Ⅲ音源による仮想トーンホイールと、トランジスタ(波形合成)、さらにはパイプ・オルガンまでに至る、極めてナチュラルな音質だ。筆者は上位機種のXK-5、XK-3cを所有しているが、それらと比較試奏した上で、十分に現場に持ち出せるクオリティと言えるサウンドの濃密さを実感した。ポップス/ロックのアンサンブルでよく耳にするドローバー左3本を中心としたベーシックなセッティングはパワフルに響くし、バラードなどで重宝する高域寄りのセッティングには、オルガン・シンセにありがちな“ハイの無駄な鋭さ”がなくアンサンブルに馴染みやすそうな印象だ。B-3mk2やXK-5などで採用されている多列接点ではなく単接点の鍵盤ではあるものの、キー・クリックの質感に関しては幾多の現行オルガンの中でも秀逸であると評したい。昨今のライブ・シーンでは1人でも持ち込み可能な小型のレスリー・スピーカーや、外付けのロータリー・エフェクターを使用する奏者も増えているが、本機に内蔵されているレスリー・シミュレーターは再現度が高く、ドライブの歪み具合も気持ち良いので、普段レスリーやエフェクターを運んでいる肩凝り気味なユーザーにとっては、機材の持ち込み・接続のシェイプアップに貢献してくれるかもしれない。
レスリー以外のエフェクトにも言及しておきたい。平常的に利用するであろうリバーブ部は深みのある奥行きを演出してくれるし、マルチ・エフェクト部においては、ディレイやモジュレーション系がひととおりそろっているので好印象である。何よりオルガンとエクストラ・ボイスそれぞれのセクションに別系統でかけられるのが便利である(リバーブに関しては全セクション共通の1系統)。パーカッションやコーラス・ビブラートは、特にジャズ寄りのプレイヤーから重要視される機能セクションだが、ビンテージ的な温かみが魅力的で、おのずと使用したくなる。また、例えば上級者が気にしそうな“仮想レスリー・スピーカーを狙うマイクの角度・距離”など、メニュー画面でエディットできるパラメーターの膨大な数にも、本家ハモンドならではの充実ぶりを見た。
フィジカルな部分で最も触れる部分となるドローバーもしっかりした作りで、上下鍵盤+ペダル鍵盤の分が搭載されている。ドローバー・レジストレーションも視認性が良い印象で、演奏中の操作感もストレスなく快適である。
上記で触れてきた音色や操作性といった、まずオルガンを演奏する上でのベーシックな要素に触れてみるだけでも、オルガンの王様である同社ブランドの現在進行形のプロダクトとして恥じることのない完成度を感じ取れるのではないだろうか。
エクストラ・ボイス・セクションには、ピアノ/エレピ/クラビ/ストリングス/ブラスなどキーボードを演奏する上で、使用頻度の高い音色がラインナップされている。オルガンに特化した製品であるにもかかわらず、それらの音質は他社のPCM音源に負けない響きを持っている。その上、2系統使える仕様なので、例えば“上鍵盤でストリングス・下鍵盤でピアノ”といった別音色を演奏することが可能である。ライブのステージ上で鍵盤の台数を少なくしないとセッティングが組めない場合などに救いの手となる素晴らしい機能ではないだろうか。11ピン出力と別系統のアウトプットで演奏できるのも、レスリー使用者にとっては使い勝手の良いシステムである。
MP3/WAV形式のオーディオ・ファイルをUSBメモリーから再生可能なミュージック・プレイヤーを搭載しているのも、伴奏再生や模範演奏を聴きながらの演奏などのシチュエーションが想像できるし、オルガンという楽器の既成概念に囚われない柔軟な対応と言える。
筐体のデザインについて記述すると、全体の落ち着いたカラーリングは、長らく使用する上で飽きることのない色味であり、ほかの鍵盤と並べる場合もレイアウトが組みやすい印象である。2段鍵盤のオルガン・シンセとしては重量が16.9kgと軽量化されている上に、本体背面に設置されているハンド・ホールのおかげで可搬性が高いというのも、指を大事にすべき鍵盤奏者にとって有り難い部分である。
文:平畑徹也
[Specifications]
●鍵盤:61鍵×2●音源:【オルガン・セクション】VASEⅢ音源×2(デジタル・トーンホイール、トランジスタ・オルガン、パイプ・オルガン)、手鍵盤(パイプ・オルガン除く)同時発音数61音、ペダル鍵盤(パイプ・オルガン除く)同時発音数8音、パイプ・オルガン同時発音数63音【エクストラ・ボイス・セクション】VASEⅢ音源/同時発音数63音●オルガン・セクション:ドローバー=アッパー9列、ロワー9列、ペダル2列、オルガン・タイプ=手鍵盤6タイプ(B-Type1、B-Type2、Mellow、Vx、Farf、Pipe)、ペダル鍵盤7タイプ(Normal、Muted、Synth1、Synth2、Finger、Pick、Slap)、パーカッション=オン、ボリューム・ソフト、ディケイ・ファースト、サード・ハーモニック、コントロール=アッパーオン、ロワーオン●エクストラ・ボイス:セクション数=手鍵盤2セクション、インストゥルメント=6グループ(A.Piano,E.Piano,Keyboard,Wind,Other,Library)●エフェクト:ビブラート&コーラス、オーバードライブ(4プログラム)、マルチ・エフェクト(8プログラム、オルガン/エクストラ・ボイス独立)、イコライザー、内蔵レスリー(2ローター、デジタル・レスリー)、リバーブ(11プログラム)、マスター・イコライザー●外部端子:オーディオ・ラインアウト(L、R)、MIDI(IN/OUT)、レスリー11ピン(1または3チャンネル対応)、フット・スイッチ、ダンパー・ペダル、エクスプレッション・ペダル、ヘッドフォン●外形寸法:944(W)×454(D)×170(H)mm●重量:16.9kg
価格:オープン・プライス(市場予想価格:225,000円/6D 61、255,000円/6D 73)
問)ヤマハお客様コミュニケーションセンターシンセサイザー・デジタル楽器ご相談窓口 0570-015-808 or 053-460-1666
ノードのオルガンと言えば、中域が少し強めの、太くてパンチのあるサウンドで、特にレコーディングでは存在感があると言う印象だが、Nord Electro 6はそのミッドがちょうど良い感じにまとまっている。筆者的にはさらに弾きやすいサウンドに仕上がっているという印象だ。ドローバー1本1本のサウンド・バランスが取れていて非常に鳴りが良く、フル・ドローバー時の音圧はすごい迫力。ロータリー・シミュレーターもとても自然で、気持ち良い! クリックの強さやロータリーの回転速度も変えられるので自分の好みの音作りができる。
オルガン・タイプもハモンド・オルガン系、パイプ・オルガン、ヴォックス系、ファルフィッサ系と、大きく分けて4種類が用意されており、さまざまなジャンルやライブで活躍できるだろう。特にパイプ・オルガンはいわゆる従来のイメージのサウンド“PIPE1”に加え、プリンシパル・パイプ・セクション(金属製のパイプを束ねたものでパイプ・オルガンまたはチャーチ・オルガンの大もとになったもの)を忠実に再現した“PIPE2”を搭載。なかなかパイプ・オルガンを弾くことのない筆者でもそのサウンドの違いがよく分かり、楽器を通して勉強できるような感覚になった。
ウォーターフォール鍵盤はオルガンには欠かせない形状ではあるが、オルガニストである筆者のように、日ごろ軽いタッチのオルガンを弾いている人にとっては、鍵盤が多少重いという印象。とは言え、本機にはピアノやエレピなどさまざまな音色が内蔵されているので、それらを弾き分けるキーボーディストにとっては、扱いやすい鍵盤なのではないだろうか。ちなみにピアノ・セクションでは4種類のタッチが選べるようになっている。
マニュアルでフィジカル・ドローバーを操作できるのは自由な演奏にはやはり欠かせない。“デュアル・オルガン”機能で簡単にスプリットしてアッパー、ロワーのセッティング変更もできるなど操作性も良好だ。また、各鍵盤にはデフォルトのドローバー・セットと“プリセット”という2つのドローバー・セットがあり、プリセット・ボタンをオン/オフすることで、プログラム関係なく2種類の音色が瞬時に得られる。こういったいろいろな操作が、ビンテージ・オルガンのようにできるのはオルガニストにとってはとても嬉しい。さらに、外付けのロータリー・スピーカーの速度切り替え用ハーフ・ムーン・スイッチ(別売)も嬉しいアイテムだ。その人の演奏スタイルによってフット・コントローラー、ハーフ・ムーン・スイッチの切り替えを選ぶこともできる。
インスピレーションが湧く楽器というのはプレイヤーにとって本当に理想であるし、そういう楽器が相棒になっていくのだと思う。いろいろなスタイルのオルガン・プレイができる優れものの1台と言えよう。
とにかくピアノとエレクトリック・ピアノの音色のポテンシャルが実に高く、ずっと弾いていても飽きないほど。同時発音数も120と十分過ぎるのでいろいろな奏法ができるはずだ。サンプル・シンセ・セクションには、ストリングやブラスなどのオーケストラ系、ベース、パッド、リード系、ボイス系などがひととおり入っているので、もはや活動の場所は選ばないと言っても良いかもしれない。
また、エフェクトと言えば欠かせないリバーブや、シンセ・サウンドには欲しい時があるフランジャー/パン/コーラス/ワウなども、Nord Stage同様にそろっている。オルガンにもディレイをかけたりと、独自のサウンドが作れそうだ。さまざまなジャンルで使えるオルガン・サウンドから、ピアノとサンプル・シンセが混ざった音色まで、十分なプリセットがバンクA〜Oにプログラムされているが、P〜Zが空いているので自分の作った音色をプリセットできる。
これだけの数の音色をストックできてもライブで使う時にはチョイスして並び替えることが多く、これに時間を割くことができない現場もある。そこで便利なのがプログラム、ページを簡単に並べられるオーガナイズ機能。音色名をリスト化して見ることができ、音色1つでも、4つを同時にでもスムーズに移動させられる。こういった操作を含め、全体的に直感的にコントロールできるのも、本機種の使いやすいポイントだ。
文:大高清美
[Specifications]
●鍵盤:61鍵/73鍵、ベロシティ・センス付きセミウェイテッド・ウォーターフォール鍵盤(Nord Electro 6D 61/73)●プログラム:416(4プログラム×4ページ×26バンク)●オルガン・セクション:C2D B3トーンホイール・オルガン・シミュレーション、B3ベース、Vox、Farfisaモデル、パイプ・オルガン・モデル×2、物理ドローバー×9(6D 61/73)、パーカッション・コントロール、ビブラート/コーラス・コントロール、デュアル・オルガン・モード、マニュアル・オルガン・モード●ピアノ・セクション:最大時発音数120ボイス、6カテゴリー(グランド、アップライト、エレクトリック、デジタル、レイヤー、クラビネット/ハープシコード)●サンプル・シンセ・セクション:最大同時発音数30ボイス、アタック/ディケイ/リリース、ローパス・フィルター●エフェクト:エフェクト1(トレモロ、パン、ワウ、リング・モジュレーター)、エフェクト2(フェイザー×2、コーラス × 2、フランジャー、ヴァイブ)、オーバードライブ付きチューブ・アンプ・シミュレーション、スピーカー・シミュレーション3タイプ(JC、Twin、Small)、ロータリー・スピーカー・シミュレーション、コンプレッサー、3バンド・イコライザー、ディレイ、リバーブ(3アルゴリズム)●接続端子:オーディオ出力(L、R)、モニター入力、ヘッドフォン出力、サスティン・ペダル入力、コントロール・ペダル入力、ローター・ペダル入力、MIDI(IN、OUT)、USB(タイプB、USB-MIDI機能)●外形寸法:6D 61=900(W)×296(D)×97(H)mm、6D 73=1,066(W)×296(D)×97(H)mm●重量:6D 61=8.1kg、6D 73=9.2kg
価格:230,000円(61鍵)、255,000円(73鍵)※ボリューム/エクスプレッション・ペダル、キーボード・スタンド付属
問)コルグお客様相談窓口 0570-666-569
オルガン部は“CX-3”、“VOX”“COMPACT(ファルフィッサ系)”の3タイプを搭載。タッチ式ドローバーはそれぞれ中心部が凹んでおり、どのドローバーを触っているかが指先の感覚で分かりやすく、プレイ中の操作も積極的に楽しめる。
実機のコルグCX-3は電子式ロータリー内蔵だったが、当然本物のレスリー・サウンドとは一線を画していた。しかし、本機のロータリー・スピーカー・シミュレーターは怒涛のごときあのレスリー・サウンドをDSPにより見事に再現。ロータリー設定は固定だが“絶対このスピード感!”というようなグラデーションに仕上がっており、グリッサンド後はファスト/スローを切り換えて盛り上がるしかない! 左側のベンダーがロータリー・スイッチになるのだが(フット・スイッチでも操作OK)、これが絶妙なタッチ&フィールとなっている。“ロータリー・オン!"のアクションが、ステージ映えすること間違いなしだ。さらにシンセ・リードなどのベンダーとして機能する場合は、ギターライクなチョーキング、特に繊細なビブラートにこの上なくフィットする。
さて“VOX”サウンドだが、弾けばすぐに“あの世界”へ誘うほどの存在感で、PCM系シンセのそれとは次元が全く違う。PCMシンセのヴォックス系サウンドは耳にうるさいことも多いが、本機のサウンドはモデリングだけあって、優しくも激しく素朴で烈情、複雑で深みのある激動の時代を象徴する屹立としたサウンドだ。どんな楽曲でも、そのメッセージ性を支配するだろう。ドローバーについても、実機を知らなくとも触ればすぐにサウンドの変化が理解できるはずだ。
“COMPACT”はイタリア製の小型オルガンとして有名な楽器、ファルフィッサ系のサウンド。ドローバーは各音程のタブレット・スイッチになる。実機同様に左鍵盤1オクターブはマニュアル・ベース(コード)として機能、独立したベース・プレイが可能となる。さらに“MTB”(マルチ・トーン・ブースター)ボタンをオンにすると、一番右のドローバーがカットオフ的な働きになる。甘いトーンから鋭いサウンドまでプレイしつつ、ドローバーとは違った演奏が楽しめるのも実機に忠実だ。VOX同様に激動の時代を蘇らせてくれるCOMPACTは、アンダーグラウンド&サイケな雰囲気にピッタリ。ちなみにビブラート/コーラス&ロータリーは3種のオルガン共通に使用可能である。
本機のウォーターフォール鍵盤は、角を丸く削られておりグリッサンド時に手が痛くないのが嬉しい。またオルガン・キー・トリガーは鍵盤の浅い位置で発音させる機能で、トリルや装飾音符が演奏しやすくなる。
エフェクトが充実しているのも本機の魅力。オルガンはもちろん、そのほかの内蔵音色に存分に活用できるはずだ。まず、パネルの左端のツマミ“VALVE DRIVE”はコルグとノリタケ伊勢電子の共同開発による“Nutube”を利用した真空管エフェクト。ノブを回し倍音を付加することで音像が俄然太くなる。基本的にオンがお勧めだ。
右端のエフェクト部には、コーラス、フェイザー、フランジャー、コンプレッサー、ドライブ、ワウの6種がスタンバイ。エフェクト・ボタンを押しつつ、ノブを回すとそれぞれ別のパラメーターが変化する(モジュレーション系ならスピードなど)。コンプレッサーはアタック速めでレトロ感が欲しいアップライト・ピアノなどと相性が良い。歪み系のドライブはジョン・ロード風なオルガンほか、シンセ・リードにかければ派手なソロにぴったりくるだろう。ヴォックスのお家芸でもあるワウは付属フット・ペダルがワウ・ペダルとなりクラビなどに使うとバッチリだ。
マスター・エフェクトのディレイはモノやステレオなど4種類を搭載。タップ・ボタンでロング・ディレイも設定可能だ(タイム変調OK)。別のパラメーターではフィードバックを設定する。リバーブは5種搭載、クリアなデジタル・リバーブからモノラルのスプリング・タイプもある。こちらは、別パラメーターではタイムを設定する。音色のレイヤーやエフェクトの設定は16シーンごとにメモリー可能だ。
文:近藤昭雄
[Specifications]
●鍵盤:61鍵/73鍵、セミ・ウェイテッド・ウォーターフォール鍵盤、ベロシティ対応●音源:モデリング・トーンホイール・オルガン音源、モデリング・トランジスター・オルガン音源、モデリング・エレクトリック・ピアノ音源、アコースティック・ピアノ音源、モデリング・アナログ・シンセ音源、PCM音源●ORGANパート:3タイプ(CX-3、VOX、COMPACT)、ドローバー、パーカッションON/OFF、スプリット、ビブラート/コーラスON/OFF、ロータリー・スピーカーON/OFF●E.PIANOパート:3タイプ(TINE、REED、FM)●PIANOタイプ:3タイプ(GRAND、UPRIGHT、E.GRAND)●KEY/LAYERパート:6タイプ(KEY、BRASS、STRINGS、LEAD、SYNTH、OTHER)●プリセット:150●シーン:16(USBストレージ・デバイスに最大100セットまで保存可能)●インサート・エフェクト:CHORUS、PHASER、FLANGER、COMP、DRIVE、WAH●マスター・エフェクト:DELAY(4タイプ)、REVERB(5タイプ)●入出力端子:AUDIO OUTPUT(L/R/XLR)、AUDIO OUTPUT(L/MONO、R/フォーン)、ヘッドフォン、DAMPER(ハーフ・ダンパー対応)、ROTOR SPEED、CONTROL、MIDI(IN、OUT)、USB(TYPE A)、USB-MIDI(TYPE B)、DC IN●外形寸法:61鍵=939(W)× 350(D)× 86(H)mm 、73鍵=1,103(W)× 350(D)× 86(H)mm、●質量:61鍵=7.2kg、73鍵=8.4kg
価格:92,500円
問)銀座十字屋ディリゲント 03-6264-7820
Numa Compact 2xのオルガン・セクションは、同社のオルガンの上位機種Numa Organ譲りのトーンホイール・オルガン・モデリングが採用されている。またステージ・ピアノながら9本のフィジカル・ドローバーも装備されているし、鍵盤もセミウェイテッド・アクションなのでかなりオルガン音色が弾きやすい印象だ。
まず音色、ドローバー部分から見ていこう。前提としてトーンホイール・オルガンは8フィート(ドローバー3)の基音とそれに対する倍音の全9本のドローバーの音量の組み合わせで音を作っていくが、本機の各ドローバーは音量変化が非常に分かりやすく、音を作りやすい印象を受けた。音質そのものは非常にクリアなものを感じるが、その反面ドローバーを多く出した時に各倍音が滲み合うようなサウンドが、アナログ・フィールに近いものを感じてとても気持ち良い。フィジカルのドローバーの場合、プリセットを変えると現在のドローバー位置とプリセット上での設定値にズレが起こってしまうが、画面上に現在の設定がグラフィックでも表示されるので、あまり困ることもないだろう。詳しくは後述するが、例えばスプリットを利用してそれぞれに違ったドローバー・セッティングを割り当てて演奏(例えば右手はコンピング、左手はベース、など)といったこともできる。
トーンホイール・オルガンではお馴染みのコーラス/ビブラート(2種類ずつ)、パーカッション(3rd/2nd、スロー/ファスト)も装備。どれも効きが良く、初心者でも違いが分かりやすいと思う(キーボード・マガジン 2019年4月号付録CDの音源を参照)。また、パーカッションの音量や、キー・オン/オフ時に鳴るクリック音量をグローバルの設定で変更可能で、より演奏しやすくカスタマイズできるのも嬉しい。
オルガンと言えば、ロータリー・スピーカーだが、エフェクト“FX2”セクションにシミュレーターが用意されている。STICK2でスロー/ファストの切り替えが可能。音はこの価格帯にしてはかなり本格的な印象で、クリアでありつつ、ファストにした時の空気がかき回される感じなども、よく再現できている印象だ。エフェクト“FX1”にはドライブが用意されており、使用するとギター・アンプで歪ませたような激しいサウンドを得ることもできる。ただしツマミはアマウントしかないので、それとドローバーの設定のバランスに少しコツがいるかもしれない(こちらも音源を参照)。また本機にはFXオートセットという、エフェクトを操作した結果がそのプログラム上に自動保存される便利な機能も用意されている。
本機はオルガン以外の部分ももちろんスペックが高い。まずサンプル部分は1GBメモリーによって高品位な100音色が用意されている。ピアノだけでなく、エレピ、ストリングス、ブラスなど、ライブ・パフォーマンスに欠かせない音色は網羅されている印象だ。
シンセ部分は同社のアナログ・モデリング・シンセSledgeのエンジンを搭載しており、ナチュラルかつパワフルなサウンドが楽しめる。特筆すべきなのが、ドローバーがシンセ・パラメーターのコントロールも兼ねており、カットオフやレゾナンス、エンベロープなどをリアルタイムで変化させていくことができること。これにより大胆なシンセ・パフォーマンスも可能だ。
また本機は、アッパーとロワーの2パートが用意されており、各パートのボタンのオン/オフ、スプリット・ボタンのオン/オフ程度のいくつかの操作で簡単にレイヤー/スプリットの設定ができる。
そして、全く無駄のないボディ部分も非常にスタイリッシュである。重量は7.1kgと、ステージ・ピアノとしてはクラス最軽量。内蔵スピーカーも付いているので、いろいろなシチュエーションで便利に使えるだろう。USB端子はMIDI/オーディオの送受信が可能。またMIDIコントローラーとしての使用時は、USBバス・パワーで電源も供給できる(安定した供給が可能な場合)という、本当に至れり尽くせりのスペックだ。別売で、専用ソフト・ケースも用意されている。
文:大迫杏子
[Specifications]
●鍵盤:88鍵 TP/9 Pianoセミウェイテッドアクション●音源部:最大同時発音数=128音、2パート(Lower+Upper)、音色数=100音色、トーンホイール・オルガン(Numa Organ 2相当)、シンセ・エンジン(Sledge相当)●エフェクト:FX1(ドライブ、コーラス、フェイザー、フランジャー)、FX2(ロータリー、トレモロ、パン・トレモロ、ディレイ)、リバーブ(ルーム、ホール、プレート、スプリング)、ストリングス・レゾナンス(すべてのピアノ音色にてコントロール可能)●スピーカー・システム:10+10Wデジタル・アンプ内蔵、L/Rステレオ・フルレンジ・スピーカー●入出力端子:オーディオ出力(L/R)×2、ヘッドフォン出力、ペダル(サステイン/エクスプレッション)、MIDI(IN、OUT)、USB(Type-B、オーディオ/MIDI高速転送)●外形寸法:1,270(W)×230(D)×100(H)mm●重量:7.1kg
価格:オープン・プライス(市場予想価格:45,000円)
問)ヤマハお客様コミュニケーションセンターシンセサイザー・デジタル楽器ご相談窓口 0570-015-808 or 053-460-1666
reface YCは、オルガンに特化したキーボード。操作は伝統的なトーンホイール・オルガンに準じ、9本のドローバー(スライダー)は、16’、5 1/3’、8’、4’、2 2/3’、2’、1 3/5’、1 1/3’、 1’の各フィートにアサイン、それぞれクリック付きで0〜6の7段階に調節できる。
パーカッション・スイッチは、オン/オフと、4’、2 2/3’との切り替え、パーカッションの減衰時間は1〜5の5段階に調節可能。ビブラートも同様に0〜4の5段階に設定できる。さらに、ゆったりとピッチが揺れるコーラスと速く揺れるビブラート切り替えスイッチを装備。効き味は、スキャナー・ビブラートというよりもLFOによるピッチ変化に近いだろう。
ドローバーのサウンドには、H、V、F、A、Yの5モデルを用意。モデル名は特に明かされていないが、それぞれ頭文字とサウンドから用意に想像できる。“H”はハモンド・タイプだろう。クリック・ノイズの効いたエッジの立ったサウンドだ。B-3/C-3より、コンボ・オルガン的で、弾力の感じられるコンパクトなサウンドになっている。
“V”はヴォックス・タイプ、“F”はファルフィッサ・タイプ。いずれも元の機種は異なる波形をブレンドできるのだが、本機では、Vはサイン波をメインに矩形波を少し混ぜたようなサウンド、Fはニー・ペダルをいっぱいに倒したようなブライトなサウンドとなっている。いずれもこれらのオルガンの典型的なサウンドで、的を射たセレクションだと言える。
残る2つは国産オルガンで、いずれも希少なサウンド。“A”はエーストーン・タイプで、Fよりもさらに荒くブライト。深くかかるビブラートをオンにすると、60年代グループ・サウンズが蘇る。そして、“Y”はヤマハYCシリーズ。フルート系のサウンドを再現していて、この機種独特の涼しく抜けの良い音色が楽しめる。70年代初頭のエレクトーンのサウンドにも近い。
エフェクトでは、オルガンには欠かせないロータリー・スピーカーを装備している。レバーで4段階に切り替え、オフ、ロータリー・ストップ/スロー/ファストが選択可能。さらにリバーブをかけたり、ディストーションにより歪みを加えることもできる。アンプで歪ませるオーバードライブというよりはコンパクト・エフェクターに近く、派手にかかるのが特徴だ。
reface YCを実際に手にしてみて驚かされるのは、そのしっかりした作りだ。コンパクト・キーボードにありがちな安っぽい感じは微塵もなく、適度な重さと堅牢さを兼ね備えたボディ、しっとりとした操作感のスイッチやドローバーにはとても高級感がある。
キーボードは、ミニ鍵盤だが、弾き心地はとてもいい。ボディは、剛性高く適度な重さも与えられているので、ハードな演奏にも十分に対応できる。さらに標準鍵盤では不可能な音域の広いボイシングも可能で、単に省スペース化した、という以上のメリットが感じられる。音域は3オクターブ37鍵。オクターブ切り替えスイッチで、上下に2オクターブ拡張でき、7オクターブをカバーする。なお、4’以上のドローバーは最高音域で、16’は最低音域でオクターブを折り返して発音する。
本機は左右2基のスピーカーも装備、さらに電池駆動も可能なので、いつでもどこでも簡単に音を出して楽しめる。もちろん必要ない時にはスピーカーをオフすればいい。ライン出力すると、コンパクトな外観からは想像できない、しっかりとしたサウンドに驚かされるだろう。特に、たっぷりとした低音は、この機種ならではの個性だ。
また、コンパクトさを生かして、打ち込み用のデスクトップ・キーボードとしても活用できるだろう。MIDI IN/OUTもしくはUSBでパソコンなどの端末との接続でき、ローカル・オフ(鍵盤と音源の内部接続を切り離す)にも対応している。
キーボーディストなら、いつも手元に置いておきたくなるような、頼もしくチャーミングなオルガン、それがreface YCだ。
文:高山博
[Specifications]
●鍵盤:37鍵HQ(High Quality)MINI鍵盤●音源方式:AWM音源(Organ Flutes)●最大同時発音数:128音●音色数:5●エフェクト:ロータリー・スピーカー、ディスト—ション、リバーブ●アンプ/スピーカー:アンプ出力=2W×2、スピーカー=3cm×2●接続端子:OUTPUT (L/MONO、R)、PHONES、FOOT CONTROLLER、AUX IN、USB(TO HOST)、MIDI(ミニDIN IN/OUT)●外形寸法:530(W)×175(D)×60(H)mm●重量:1.9kg
価格:オープン・プライス(市場予想価格:380,000円)
問)鈴木楽器製作所 053-461-2325
実機をゆっくり触ったのは今回が初めてだが、まず作りの重厚感に圧倒される。鍵盤は5オクターブ61鍵だが、さらにハモンド独自のプリセット・キー(プリセット音色の呼び出しに使用する黒白反転鍵盤)1オクターブ分や、4セット+ベース用1セットのドローバー、B-3に範をとったコントロール類などが余裕を持ってレイアウトされた堂々たる筐体は、専用機らしい圧倒的な存在感を放っている。また、別売のロワー鍵盤XLK-5と組み合わせて2段鍵盤にすれば、遠目に見るとB-3そのものと言った風合いだ。
音作りの基本はまさにB-3で、ドローバーのレジスターとパーカッション・タブレット、コーラス/ビブラートという基本から、3種のエフェクト(オーバードライブ、マルチ・エフェクター、リバーブ)、独立した3バンドのイコライザー、そして最後にレスリー・スピーカーのシミュレーター、という具合に味付けをして行く形になっている。もちろん、11ピン・コネクターを装備しているので、本物のレスリー・スピーカーを接続可能だ(テスト機はオプションの半月型スピード・コントローラーまで備えていたので雰囲気満点である)。
また、最新のモデリング音源ならではの特技として、音源タイプを切り替えることができるのも特筆したい。ハモンドだけでも4種(A-100、B-3、C-3、Mellow)、さらにヴォックス・タイプとファルフィッサ・タイプという2つのトランジスタ・オルガン音源、それにパイプ・オルガンのモデリングまで搭載しているのだからちょっと驚きだ。
音色のメモリーは、本物のようにプリセット・キーを使うだけでなく、200種のパッチとして内部に記憶できる。使いやすい液晶ディスプレイとコントロール・キーでエディットもストレスなく、好みのパッチをプリセット・キーにアサインして瞬時に呼び出すことも可能だ。ちなみに初期状態では、プリセット・キーは本物のB-3と同様、最低Cキーがオール・キャンセル(ミュート)、最高BとB♭キーが盤面どおりリアルタイムのドローバー・セッティングとなっている。調子に乗って派手なグリッサンド・ダウンをカマすと、プリセット・キーに触れていきなり音色が変わるという“B-3あるある”まで実機と同じだ(笑)。
実際に弾いてみての感想だが、とにかくリアルB-3に肉迫している!という印象だ。前機種のXK-3cが、とにかくひたすら真面目に追求していたのに微妙に手の届かなかった領域にガッツリ踏み込んだ、という感じがするのだ。実際、本機の発表時お披露目には東京・沼袋のオルガンジャズ倶楽部にオルガン・マニアやリスナーを集めて、あの河合代介氏の手による、B-3実機とのブラインド・フォールド・テストを実施したそうだ。正解率は半分強だったと言うから、もう“聴き手”にはほぼ判別つかないレベルと言って差し支えないと思う。
弾き手として1番印象深いのは、パーカッションのあり/なしでの挙動の違いがリアルB-3にソックリだ!と言う点である。言うまでもないが、パーカッションのアタック音はレガートでは発音されず、リトリガー(スタッカート)した時のみに発音される。デジタル機の再現だと、ここの境目が物凄くハッキリしていて、曖昧さが全くないのだ。本物のB-3は、手数の多いパーカッシブなコードワークで速弾きした時などに、多少音が残っていてもパーカッション音のアタックが絶妙に混じってくるのだ。この辺りは、多列接点を再現する新開発の仮想マルチ・コンタクト鍵盤が効いているのかもしれない。こう言った部分で楽器が楽器として活き活きしてくるのは、オルガン専用機冥利に尽きると言えるだろう。
冒頭にも述べたように、せっかくオルガン専用機を導入するならやはり、とことんこだわり抜いた作りの本機は(ちょっと贅沢だけど)大変に魅力的だと思う。
文:飯野竜彦
[Specifications]
●鍵盤:73鍵(61鍵+12プリセットキー)、ウォーターフォール・タイプ、仮想マルチ・コンタクト●音源:MTW Ⅰ(Modelled Tone Wheel Ⅰ)、同時発音数61(手鍵盤パート)、25(ペダル・パート)●ドローバー:アッパー2×9列、ロワー2×9列、ペダル2列、波形=アッパー&ロワー4音色(A-100、B-3、C-3、Mellow)、ペダル1音色●パーカッション:ボタン=オン、ソフト、ファースト、ハーモニック、設定=タッチ、ディケイ(ファースト、スロー)、レベル(ノーマル、ソフト)●エフェクト:ビブラート&コーラス、チューブ・プリアンプ、オーバードライブ、マルチ・エフェクト、イコライザー(バス、ミッド、トレブル)、内蔵レスリー(2ローター、デジタル、ボタン=バイパス、ストップ、ファースト)、リバーブ、マスター・イコライザー●キーマップ:ボタン=ペダル・トゥ・ロワー、スプリット、トランスポーズ、オクターブ・ダウン/アップ、ロワー、設定=カプラー・ハイエスト・ノート、スプリット・ポイント●パッチ:ユーザー・パッチ100、ファクトリー・パッチ100、アジャスト・プリセットA♯/B、フェイバリット=バンク10×キー10●接続端子:オーディオ・アウト(L/MONO、R)、ヘッドフォン、レスリー(11ピン、1又は3チャンネル対応)、MIDI IN(ペダル)、MIDI IN(ロワー/アザー)、MIDI OUT、USBトゥ・ホスト、H-BUS(トゥ・キーボード/ペダル)、レスリー・スイッチ、フット・コントローラー1、2、エクスプレッション・ペダル●外形寸法:1,186(W)×399(D)×128(H)mm●重量:15.7kg
本記事は、リットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2019年4月号 SPRING』の記事を転載したものです。今号では2019年4月に予定されているクラフトワーク来日公演を記念して、1981年の初来日からの日本公演を振り返るとともに、優れたメロディ・メーカーでもある彼らの楽曲の構造を分析していく特集企画を敢行。そのほか、幅広いジャンルの中でオールマイティに活躍してくれる「オルガン」にフォーカスし、現代まで受け継がれる普遍のサウンドを、多角的な視点から掘り下げているオルガン特集や、浅倉大介のライブ/セッティング・レポート、ABEDON(ユニコーン)、小川貴之(sumika)、ジョーダン・ルーデス(ドリーム・シアター)のインタビューなど盛り沢山の内容ですので、ぜひチェックしてみてください!
価格:オープン
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