アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
Martin
好評連載Martin Times。連載開始から約2年半、今回で第30回目を迎えました。ということで今回は特別企画! 2月1日(金)に渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて行なわれた斎藤誠氏のライブ、『MARTIN CLUB JAPAN ★ デジマート・マガジン Presents 斎藤誠LIVEアコースティック2019「そうだ ステージの上でレコーディング、しよう。」』の模様を動画&レポートでお届けします。お馴染みの柳沢二三男氏(g)と片山敦夫氏(k)をメンバーに迎え、公開レコーディングを行なった本ライブ。当日用意されたギターの詳細とともに、ライブの模様を少しだけお楽しみください。
去る2月1日、マーティンの日本総代理店である黒澤楽器店と、リットーミュージックが運営するデジマート・マガジンの共同企画で、『斎藤誠LIVEアコースティック2019「そうだ ステージの上でレコーディング、しよう。」』と銘打ったスペシャル・イベントが、東京・渋谷のduo MUSIC EXCHANGEで開催された。
いつもの『Martin Times~斎藤誠が弾く!』ではスタジオでの試奏動画をご覧いただいているが、今回は第11回でもゲスト出演していただいた柳沢二三男氏と、斎藤氏のバンドでもお馴染みのキーボーディスト片山敦夫氏を迎え、観客を入れたライブの状況で、いつもより多くのマーティン・サウンドを体験していただこうという贅沢な企画である。
このイベントのためにそろえたギターは、斎藤氏がOM-28 Makoto Saito Custom、1928年製0-21、1965年製0-18、000-17E Black Smoke、000C-16SGTNE(以上、本人所有)、00-18 Custom、OM-28 Marquis Madagascar、000-45ECJM、D-28 2018、D-18 2018の10本。
柳沢氏がHD-28V、HD12-28、D-41 Ambertone、000-42ECJMの4本。ふたり合わせて計14本である。ライブ形式ではあるが、ナイロン弦の000C-16SGTNE以外の音はすべてマイクのみで収録してあるので、それぞれのギター本来のサウンドをお楽しみいただけるだろう。
マーティンのドレッドノートとしてはD-28よりも下位機種になるが、斎藤氏が「干し草の匂い」と形容する個性的なサウンドゆえにD-28と人気を二分するのがこのモデル。2018年の仕様変更により、ルックス的にも味わいのあるギターに生まれ変わっている。
マーティンというブランドを超えて、あらゆるアコースティック・ギターを代表するモデルと言っても過言ではないほどの人気と知名度を誇るローズウッド・ボディのドレッドノート。本器は最も基本的なスタンダード・シリーズのモデルで、2017年にビンテージの雰囲気を色濃く残す仕上げに仕様変更されている。
1969年に初登場したD-41は、D-28のトップとサウンド・ホール周辺にパールのインレイを施し、指板のバインディングとスタイル45と同じヘキサゴンのポジション・マークを採用したモデルだった。本器は2018年に新しくスタンダード・シリーズに加えられたモデルで、深い色合いのアンバートーン仕上げはオプションとして選択できる。
2016年に黒澤楽器店がエリック・クラプトンの来日ツアーのスポンサーを務めたことを記念して、15本限定で生産されたモデル。トップ材のアディロンダック・スプルースはスタイル45の標準であるプレミアム・グレード、ボディ材はマダガスカル・ローズウッドだが、川の流れのような曲線で張り合わせた3ピースのバックのセンター材にはブラジリアン・ローズウッドが使われた珍しいデザインとなっている。
2011年に黒澤楽器店がエリック・クラプトンの来日ツアーのスポンサーを初めて務めた記念に製作されたモデルのプロトタイプ。エリックが1992年のMTVアンプラグドで使用した1939年製の000-28は、後にスタイル42仕様にコンバートされたもので、アコースティック・ギター・ブームが再燃するきっかけにもなった記念すべき1本だった。本器はそのギターを再現したモデルである。
今回のイベントで使用された唯一の12弦モデルで、2018年の仕様変更に際してHD-28ベースとなり、ヘリンボーン・パーフリングが施されてビンテージ感あふれるルックスとなった。パフォーマンス・ネックの採用により、快適な弾き心地で12弦ならではの豊かな響きが堪能できる。
1934年に製作されたD-28を参考に、1996年から発売されたビンテージ・シリーズの1本。型番のHは、この頃のマーティンのデザイン的な特徴であるヘリンボーン・パーフリングを意味している。斎藤氏の先輩である桑田佳祐氏愛用のモデルでもある。
標準的なクラシック・ギターとほぼ同じサイズのモデル。軽やかで乾いたサウンドが持ち味のマホガニー・ボディに、太くてパワフルなサウンドが特徴のアディロンダック・スプルースのトップを組み合わせることで、よりオールマイティなギターに仕上がっている。
斎藤氏が愛用するマーティンの中では最も新しいモデル。アメリカーナと呼ばれる1920~30年代の音楽で使われていたギターをイメージして、2016年に登場した17シリーズの1本だ。通常はライト・ゲージの弦を張っているが、このイベントでは強めのフィンガー・ピッキングを想定してミディアム・ゲージを張っていたという(しかしながら、本番では使用されなかった)。
マーキスはかつて、最上位のオーセンティックに次ぐ高級シリーズのローズウッド・ボディ・モデルを意味していた。斎藤氏のOM-28 Customによく似た仕様の本器では、希少なブラジリアン・ローズウッドに最も近いとされるマダガスカル・ローズウッドが使用されている。ジョン・メイヤーも愛用。
2003年製の本器も斎藤氏所有の1本。ナイロン弦のサウンドが欲しい時のために2004年に手に入れて以来愛用しており、ファンにはお馴染みのギターである。使用感たっぷりの外観からも、その活躍ぶりがよくわかる。スティール弦に比べて音量が小さいので、今回のイベントではピックアップの音も混ぜていた。
斎藤氏が初めて所有するマーティンとなった記念すべき1本。マホガニーのボディは00や000よりも幅が狭い分、やや厚みを持たせてあるのが特徴だ。フィンガー・スタイルで弾くと、軽やかでありながらほど良い深みのあるサウンドが得られる、通なモデルだと言えるだろう。
今回のイベントではソロの弾き語りで使用された斎藤氏所有の1本。いわゆるゴールデン・エラの初期にあたる1928年に製作された。スタイル21はローズウッド・ボディのモデルとしては最もシンプルな仕様だが、現在では珍重されるブラジリアン・ローズウッドとアディロンダック・スプルースが普通に使われていた、古き良き時代の貴重な生き証人である。
2005年に製作されたこのギターは、記念すべきデビュー盤『LA-LA-LU』のタイトルを愛称とした、彼とマーティンの関係を象徴する文字通りの特別モデルだ。サイドとバックに稀少なブラジリアン・ローズウッド、トップにはプレミアム・グレードのアディロンダック・スプルースを使用しているのが最大の特徴。多忙を極めるプロである氏が長年にわたって鳴らし込むことで、パワフルなポテンシャルが遺憾なく発揮されている。
イベントは2部構成で、第1部ではMartin Timesの呼び物となった感のある黒澤楽器店の福岡司氏と斎藤誠氏の対談が公開トーク・ライブの形式で行なわれた。この第1部のために、いつもMartin Timesの収録で使用している特設スタジオのセットをステージの上手側に再現している。馴染みのある舞台環境のおかげか、息の合ったふたりの対話も“舌”好調。観客も緊張するであろうライブ・レコーディングの第2部に向けて、リラックスした雰囲気を作り出す役割も果たしていた。
インターバルを挟んで、いよいよレコーディングの本番に入る。プログラムは斎藤氏のソロから。いつもの気の置けない雰囲気のMCは、自らの緊張もほぐそうとしているかのような印象だ。いくら経験を積んでいても、レコーディングはやはり緊張するのだろう。1曲目はメインで愛用するOM-28 Makoto Saito Customで「飛ばせドライバー」を、次に0-21(2カポ)に持ち替えて「夢のリスト」を披露した。
3曲目から柳沢氏が登場。「イヤでもたのむよ」では斎藤氏がOM-28 Marquis Madagascar(2カポで変則チューニング)、柳沢氏がD-41 Ambertone。「Delicate(やわらかVer.)」では斎藤氏が000C-16SNGTE、柳沢氏が000-42ECJM。「悲しみが遠くなってった」では斎藤氏が0-18、柳沢氏が000-42ECJMという組み合わせでそれぞれ演奏。オクターブ奏法を交えた美しいサウンドのバッキングは、“000使い”である柳沢氏の面目躍如といったところだ。
MCを挟み、Martin Times第11回目で柳沢氏をゲストに迎えて演奏した4曲をメドレーで演奏。斎藤氏の000-45ECJMと柳沢氏の000-42の組み合わせによるサウンドは、ギター・デュオとは思えないほどゴージャスで、マーティン40番台のポテンシャルの高さが再確認できた。
7曲目からは柳沢氏に代わりキーボードの片山氏が登場。斎藤氏は「教えてパパ」を0-18(3カポ)、「Your Time」をOM-28 Marquis Madagascar(変則チューニング)、「Be My Be My Be My」をD-18 2018(2カポ)で演奏。片山氏はそれぞれエレクトリック・ピアノ、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノのサウンドを選択していた。曲調やギターの種類に応じた音色やタッチのセンスが絶妙で、とりわけ音を散りばめるようなエレクトリック・ピアノによる“合いの手”は印象的だった。
10曲目からは再び柳沢氏が加わってトリオとなり、「夢で笑って」、「Paradise Soul」、「To My Old Friends 2」、「RAIN」、「思い出の宝物」の5曲を披露。柳沢氏は「夢で笑って」でHD12-28を使用した。当初、あとの4曲ではHD-28Vと000-42ECJMを曲によって持ち替える予定だったが、すべて000-42ECJMで通した。どちらも華やかなサウンドが持ち味だが、この日の柳沢氏は000-42ECJMをいたくお気に入りの様子だった。一方の斎藤氏が選んだギターは、低音域の押しが強い、もしくは高音域が控えめのサウンドが特徴となっているモデル。OM-28 Makoto Saito Custom、00-18(2カポ、1音下げ)、D-28 2018(2カポ)、000C-16SGTNEと持ち替え、柳沢氏のギターとうまい具合に周波数帯域の棲み分けができていたように思う。00-18を1音下げのチューニングで2カポにすると実質的にはノーマル・チューニングと同じ状態になるが、テンションが下がる分、コンパクトなボディでも重心が低い落ち着いたサウンドになる。このあたりの細やかな楽器選択には、アコースティック・ギターをよく知る彼らならではのセンスがにじみ出ている。
本編の最後は、この日が初公開となるスローなバラードの新曲「HARMONY~ときめきとサヨナラのシーン~」を演奏。斎藤氏のOM-28 Makoto Saito Customと柳沢氏の000-42ECJMの組み合わせ、そして片山氏のキーボードで、オーケストラのような広がりのあるサウンドを創り出していた。
レコーディングが無事終了した解放感もあってか、アンコールはいつものリラックスした雰囲気で「To My Old Friend」と「幸せの準備」、そして観客にコーラスの応援を頼んでの「It’s A Beautiful Day」を続けて演奏。斎藤氏はデビュー直後の1984年の曲には000C-16SGTNE、その他ではOM-28 Makoto Saito Customをセレクト。片山氏はすべてHD-28Vを使用し、ここでも個性の違う2本のギターが幅広いサウンドを生み出していた。
そして本日の最後を飾るのは、斎藤氏のソロ弾き語りによる「信じられない恋に落ちた」。ギターはOM-28 Marquis Madagascarで7カポだ。オルゴールのように可憐なサウンドは、ライブの熱気を心地良く冷ましてくれた。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西 慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したことをきっかけに音楽界デビューを果たす。
1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポート・ギターを始め、数多くのトップ・アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。
2018年4月18日、MARTIN GUITARのラジオCMでお馴染みの「It’s A Beautiful Day」をニュー・シングルとしてリリース。また、本人名義のライブ活動のほか、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務めており、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンドや卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!