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- 2024/11/16
リズムマシン
デジマートをご覧の皆さん、こんにちは。Yebisu303です。NAMM Show 2019で発表された新製品も徐々に発売され始め、すでにお楽しみ中の方も多いのではないでしょうか? それでは今回もハードウェア機材を用いたライブパフォーマンスの可能性を探求していきましょう!
1990年代中盤頃、Juan Atkinsによって提唱されたテクノのサブ・ジャンルで、4つ打ちのマシン・ビートを基調としながらもフュージョンやジャズからの影響を色濃く感じさせる叙情的なコードワークやリフが特徴的です。
Mike Banks(Mad Mike)やJeff Mills率いるUnderground Resistanceをはじめ、主にアメリカはミシガン州のデトロイト在住(または出身)アーティストによって制作されていましたが、その概念が広まるにつれてストックホルム在住のAril Brikha、アムステルダム在住のJoris Voorn、ベルギー・シャルルロワ在住のFabrice Ligなど、世界各地から「デトロイトテクノ第2世代」とも呼ばれるフォロワーが現れ、活躍の場を広げていきました。
ほかの代表的なアーティストとして、海外ではDerrick May、Carl Craig、Vince Watson、Ian O’Brien、Kirk、Degiorgio、国内ではHiroshi Watanabe、7th Gate、Paranoia 106などが挙げられます。
オススメ曲をSpotifyプレイリストにまとめてみましたので、興味がある方は是非こちらもチェックしてみて下さいね。
ドイツの名門シンセサイザー・メーカー、JoMoXが満を持してリリースしたドラムマシンのフラッグシップ・モデル。同社のドラムマシンXBase 888/999と似た外見ながら、MBase直系のアナログ・キック、MBrane11を丸ごと搭載したアナログ・パーカッション、PCM系パーカッション、サンプラー、FMシンセといった6音源が11の各専用トラックに割り当てられており、1台完結でも非常に完成度の高いトラックを作り込むことができます。また、各パートのインディビデュアル・アウト、コンピューターとのMIDI通信用のUSB端子、DIN SYNC信号も出力可能なMIDI OUT/THRU端子などを搭載し、さまざまなシステム構築にも対応。定番ビンテージ機材との同期も難なくこなしてくれます。まさに同社がこれまで世に送り出してきた全製品のノウハウを結集した小さなプロダクション・スタジオと言えるでしょう。
2VCOのモノフォニック・アナログ・シンセサイザー。同社の人気シンセminilogueの単なるモノフォニック・バージョンではなく、ベースやリード・サウンドをよりパワフルに鳴らすため再設計された12db/octの2ポール・フィルターや、より高速な周期で変調できるようになったLFOが特徴です。
シーケンサーもminilogueから大幅に進化し、16個のSTEPボタンの操作によって音符・休符はもちろん、前後の音程を滑らかに変化させるスライド効果も素早く入力できます。またELECTRIBEシリーズやvolcaシリーズでおなじみのモーション・シーケンスで最大4系統までのパラメーターを記録可能。リアルタイムでの記録だけではなく、任意のSTEPボタンを押さえながら記録したいパラメータのつまみを回して設定していく、いわゆる「パラメータ・ロック」的な使い方もできます。
プリセットには、電子音楽界の異才Aphex Twinをはじめとしたサウンド・デザイナー陣によるサウンドとシーケンスが収録されており、本機のポテンシャルを存分に感じることができます。実は、私もいくつかのプリセット・サウンドを手がけています(!)。
一般的に音作りが難しいというイメージが強いFMシンセを再考し、より気軽に音作りを楽しむことができるように設計されたグルーヴ・マシン。FMシンセとしての音源のパラメータは16個まで厳選され、音作りをする上で何を触ればいいか分からなくなってしまう…という局面はほとんどありません。
また、従来の減算方式のシンセに慣れ親しんだ人ならすぐに扱えるアンプやマルチモードフィルターと、それぞれに対応するADSRエンベロープが搭載されているので「音のカドを落としたい」「音色にアナログシンセサイザー的な温かみを加えたい」といった欲求をすぐ形にすることができます。さらに、512もの膨大なプリセット・サウンドが内蔵されており、SEARCH機能によって使いたい音色にすばやくアクセスできるので即戦力になること間違いなしです!
1991年発売、モノラル16チャンネルに4系統のセンド・リターンを備えたリーズナブルなアナログ・ミキサーです。S/N比や操作性の良さではVLZ4シリーズなどの現行機種にはかないませんが、このミキサーを通すことで低音にガッツが生まれるとの評判が広まり、現在でもテクノ・ハウス系プロデューサーの間で根強い人気を誇っています。チャンネル・ミュートやソロ・ボタンも備えているので、ライブ・パフォーマンスのお供としても最適ですね。
ハードウェア主体のライブ上でもっとも大事なポイントは、すばやく操作できるように、機材がセッティングされているかです。Alpha Baseはもちろんチャンネルごとに音量の調整が行なえますが、複数トラックのボリュームを細やかにコントロールするためには、やはりフィジカルなミキサーが欠かせません。キック・ハイハット・クラップ・ライドシンバルなどの抜き差しが多いトラックはインディビデュアル・アウトから、そして残りのトラックはミックス・アウトから出力し、それぞれをミキサーにまとめてボリューム操作することで、快適に曲の展開を組み立てることができます。その際のボリューム操作には、ノブではなくフェーダー搭載モデルが欠かせません。
また、Alpha Baseには便利なパート・ミュート機能が搭載されています。本体左上に並んでいる16のロータリー・エンコーダーのうち左上から11つが各パートに対応していて、押し込む度にミュート/ミュート解除が切り替わるという仕組みです。モードや階層の切り替えに依存しない固定の機能なので、ミックス・アウトから出力させているパートのうち、特定の音源だけをミュートしたいといった場合にも、安全な操作が行なえます。動画の中では、5:09付近でリムショットをミュートするために使用していますよ。
Alpha Baseに搭載されているFMシンセは6ボイス・4オペレーターと豪華な構成です。同機のシーケンサーはピッチの上げ下げを設定してメロディを作っていく方式ですが、今回は複雑なコードを打ち込みたいのでDigitoneのシーケンサーを活用します。
Digitoneのシーケンサーは、1つのトリガーに最大8和音まで入力可能なので、Alpha Baseの6ボイスをお好みのコード・ワークで演奏できます。動画の中では、1:00付近からベル系の音色でエモーショナルなリフを鳴らしていますよ。
曲作りやライブの仕込みでドラム・マシンを使っていると、特定のパートだけ違和感があるので差し替えたい、という場面がよくあります。そんな時、Alpha Baseの「マルチモード」という便利なキット編集機能が役に立ちます。Alpha Baseは、通常のキット(シングルモード)ではすべてのパートが同じキット番号として保存されますが、マルチモードではこれを元に自由な組み合わせでキットを構築し、新たなキットとして保存することができます。
もちろん、シーケンスを走らせながらリアルタイムに特定パートの音色を切り替えることも可能です。使い方によっては、キックやハイハット、スネアなどの音色を1つずつ切り替えていき、最終的に全く別のキットへ変化させるといった使い方もできちゃいます。
「トラックの中にベースラインを入れてみたが、なんとなく迫力に欠ける…」という時、特定の帯域が存分に鳴らされていないことが多いです。この場合、超低域~低域(50~150Hz)と低域~中低域(150Hz~350Hz位)で2種類のベース・サウンドを使い分けることでトラックに重厚さを与えることができます。
ただし、お互いの帯域が被ると低音が膨らみすぎてしまったり、逆位相で音がぶつかりあった結果低域がスカスカになる…といった結果に繋がりかねないので、以下の点に気をつけることが重要です。
動画では、Digitoneによる重心低めのベースと、monologueによるレゾナンスを効かせたベースをそれぞれに鳴らしていますよ。
Digitoneのシーケンサーは非常に柔軟なスケール(パターンの長さ・分解能)設定を行なうことができます。
特定のトラックのみパターンの長さを変えるということも可能ですが、例えば、長さを2倍にした場合、打ち込めるSTEP数の分解能は1/2になってしまい、細かい打ち込みができません。
つまり、16分音符で打ち込んだフレーズは長さを2倍にすると8分音符で演奏されることになります。このように、長さは2倍にしたいけど16分音符のフレーズで外部音源を鳴らしたいという時は、マイクロタイミング機能を駆使すれば実現可能です!
やり方は、まず同じMIDIチャンネルを設定したMIDIトラックを2つ用意します。そして打ち込みたいフレーズのうち、16分音符の表拍をトラック1、裏拍をトラック2に打ち込みます。さらに裏拍を担当するトラック2に打ち込んだすべてのトリガーを、TRIGキー + 右カーソルキーで1/2ステップだけ後ろにずらします。
こうすることで、基本的には8小節・64STEPの長さのループでありながら、通常よりも2倍の密度のシーケンスを打ち込めるので、実質128STEPのパターンを構築することができます。
動画の中ではこのテクニックを使い、3:00付近からmonologueのシンセ・ベースをDigitoneのシーケンサーで演奏しています。
私がハードウェアでライブをする際に意識しているポイントは
の2つです。
そして、これらのポイントを意識しながら、今回のパフォーマンスでは
という動作を並行してトラックのテンションを徐々に上げていくという流れを、冒頭から2分ほどの間に作っています。
テクノというジャンルはミニマリスティックな構造を持ちながら、ある程度予測可能な展開・音色変化を適切なタイミングで組み込むことによってリスナーに快楽や陶酔感を味わせる機能性を持っています。
これらの特性を最大限に利用することが上達の近道ではありますが、いきなりゼロから展開を考えるのはなかなか難しいものです。特に、初めは展開を作るどころか「リズムが何回繰り返されたのか分からなくなってしまった」という状態に陥りがちです。
まずは好きなトラックの構造や展開を解析して(DAWに音源のデータを貼り付けてからドラム音源で展開をなぞってみたり、耳で聞き取りながら紙に展開を書き出してみるのもいいでしょう)、手持ちの機材で再現してみるのがオススメです。
ある程度数をこなすことで自分の中に引き出しが作られ、どの機材を使っていても自然と展開を繰り出せるようになりますよ。とにかく練習あるのみです!
約半年間、6回に渡ってお送りしてきた「Yebisu303のMachine Live解体新書」今回で最終回となりますが、楽しんで頂けましたでしょうか?
実際の音楽ジャンルに即したスタイルで、機材毎の特性を上手く利用してトラック制作や現場でライブする楽しさを知ってほしい……という目的から始まったこの連載、みなさまの音楽活動や機材選びで少しでもお役立て頂けましたら、これ以上うれしいことはありません。
それでは、またどこかでお会いしましょう!
Yebisu303
トラックメイカー。20代後半よりトラック制作を開始。無類のハードウェア機材愛好家でもあり、日々マシンライブを行う傍らで演奏動画をYouTubeへ投稿している。アナログ・シンセサイザー"KORG monologue"のプリセット製作を担当。