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【Yebisu303のMachine Live解体新書】第5回 アナログ・モデリングで魅せる“エレクトロニカ”の音像

電子楽器

デジマートをご覧の皆さん、こんにちは! Yebisu303です。NAMM Show 2019の新製品情報も出そろい、何を買おうか迷っているという方も多いのではないでしょうか? 私はKORGのminilogue xdがとても気になっています……。それでは今回もハードウェア機材を用いたライブ・パフォーマンスの可能性を探求していきましょう!

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Electronica(エレクトロニカ)とは

 2000年前後に最も脚光を浴びた音楽ジャンルで、どちらかと言えば“クリック、グリッチ、カットアップ、マイクロ・サンプリングといった表現手法を多用した音楽全体をゆるく束ねるための概念”と表現したほうが適切かもしれません。また、Apple PowerBook G3や、Nord Modular、Max/MSP、Reaktorなどのハード/ソフト両面による技術向上も重要な役割を果たしました。

 これらのムーヴメントを通して、その後のダンス・ミュージックの潮流も大きく変化しました。クリック(ハウス/テクノ)、マイクロ・ハウス、フォークトロニカなどの新たなジャンルが生まれ、現在もそれらの手法が生み出した質感や空間処理は、ジャンル問わずさまざまな音楽スタイルに息づいています。

 代表的なアーティストとして、海外はオウテカやボーズ・オブ・カナダ、マウス・オン・マーズ、ファンクストラング、ボラ、国内は池田亮司、レイ・ハラカミ、AOKI takamasaなどが知られてます。

Mouse On Mars『Actionist Respoke』

 そのほかのオススメをSpotifyプレイリストにまとめてみましたので、興味がある方は是非こちらもチェックしてみて下さいね。

機材紹介

Nord / Nord Drum 3P

yebisu303-5-1.jpg 6チャンネルのモデリング・パーカッション・シンセ音源、パッド、キック用のトリガー入力、MIDI入出力端子を統合した電子ドラムの最新機です。ブランド名がNordになる前の電子ドラム音源ddrumシリーズの遺伝子を受け継ぎながら、さらにコンパクトで演奏しやすくなっています。

 音源部は“トーン”、“ノイズ”、“クリック”の3セクションで構成され、それぞれの音作りとミキシング・バランスの調整により、実に幅広い音色を作り上げることができます。

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Yamaha / reface CS

yebisu303-5-2.jpg

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 個性豊かな5種類のオシレーターを搭載したアナログ・モデリング・シンセです。本物のアナログ音源のような温かみのある音色から、フィルタの自己発振を活かしたパーカッシブな音色まで自由自在に作り込むことができます。4種類のエフェクターとオシレーターとの相性も良く、よりいっそう音色に彩りを添えてくれますよ。

 パネルに配置されたスライダーには適度な重さがあり、ノブと違ってセッティング値が把握しやすいのも大きな利点ですね。

 また、refaceシリーズのために開発されたミニ鍵盤「HQ Mini」は、ミニ鍵盤なのにとても弾き心地が良く、さらにスピーカー搭載で単3乾電池6本で駆動するので、場所を選ばず演奏を楽しむことができます。また、AUX IN端子にスマートフォンを接続して音楽を再生させながら演奏することもできちゃいますね。

reface CSNord Drum 3Pを使ったパフォーマンスをご覧ください!

マシン・ライブの心強い相棒“Ableton Live

 今回の動画では、Ableton LiveをMIDIシーケンサーやエフェクターとして使用しています。Ableton Liveには、タイムライン上にオーディオやMIDIデータを並べて曲作りができる“アレンジメント・ビュー”のほかに、オーディオやMIDIデータで作られたクリップをリアルタイムに再生できる“セッション・ビュー”が用意されています。セッション・ビューは、曲の構成をアドリブで変えたり、フレーズの差し替えができたりするので、Ableton Liveはコンピューターを使ったライブ・パフォーマンスにとって欠かせない存在となっています。

Ableton Live 10のアレンジメント・ビュー画面

Ableton Live 10のセッション・ビュー画面

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 またハードウェア音源をコントロールするためのMIDIシーケンサー、ミキサー、組み合わせ自由なエフェクターとしてAbleton Liveを使用することで、マシン・ライブの自由度を飛躍的に向上させることができますよ。ちなみに今回はオーディオ/MIDIインターフェースとしてRME Fireface UCを使用しています。

システム図

今回はAbleton Liveをメイン・シーケンサーとエフェクターとして使用。オーディオ素材は一切使用せず、MIDIでNord Drum 3P、reface CSを演奏させている

ドラム音色だけではもったいない!? 
Nord Drum 3Pでエレクトロニカ・サウンドを演出する方法

 今回楽曲で使用している音源はNord Drum 3Preface CSのみ。エレクトロニカらしいカットアップやグリッチ感は、実はNord Drum 3Pの音源だけで構成されているんです!

パーカッションの用途だけにとどまらないシンセ音源としての魅力

 Nord Drum 3Pは、6チャンネル構成で、同時に6つの異なるサウンドを出力できます。また、トーン・ピッチをMIDIノートでコントロールすることができるので、各チャンネルと、Ableton LiveのMIDIトラックのMIDIチャンネルを一致させることで6パートのモノフォニック・シンセとして演奏が可能です。

Ableton LiveのMIDIトラック1〜6をNord Drum 3Pのそれぞれのチャンネルに割り当てる。Nord Drum 3Pの構成→ Ch1:キック、Ch2:スネア、Ch3:ハイハット、Ch4:サブベース、Ch5:リード1、Ch6:リード2

Nord Drum 3Pの打ち込みはベロシティ調整が命!

 Nord Drum 3Pを使っていて強く感じたのは「ベロシティの強弱に対しての音色変化が抜群に気持ちいい」ということです。音量変化はもちろんのこと、倍音の付加、ノイズ・パートにかかるフィルターの周波数やディケイ(音の余韻)の変化、トーン・パートのピッチ・ベンドなど、多くのパラメーターの変化が有機的に組み合わさり、まるで生き物のように音色が変化してくれるのです。ベタ打ちで直線的なグルーヴを刻むのも良いですが、細かなベロシティの揺らぎをシーケンスに与えることで曲の説得力が格段にアップしますよ!

MIDIトラック(キック、スネア、ハイハット、ベース)のピアノ・ロール画面。Nord Drum 3Pの音色変化を活かすためにベロシティの変化を細かく付けている

プリセットをリズミカルに切り替えてカットアップ・グリッチ感を演出!

 動画の0:48付近からの展開で聴くことができる波形を細かく切り刻んだようなフレーズは、Nord Drum 3Pのプリセットを切替える時に起こる音切れを利用しています。サンプル波形をカットアップしたかのような質感がとても楽しいです。ちなみに後述しますが、プリセットの切替えはAbleton Live側からのプログラム・チェンジを送って操作しています。

 お気に入りのプリセットを複数(最低4〜5個)用意する際は、以下のポイントに気をつけてください。

  • 各チャンネルの音量バランスは可能な限り均一に整える
  • キックはチャンネル1、スネアはチャンネル2……というように、使用するプリセットの各チャンネルの音色をあらかじめ統一する
  • メロディを演奏させるチャンネルに関してはトーン・ピッチの値をすべて12の倍数で設定する(60を基準に調整するのがオススメ)

 それでは、続いてAbleton Liveからプログラム・チェンジを送る方法について紹介しましょう!

Ableton Liveからプログラム・チェンジを送るためのティップス

 今回、Nord Drum 3Pへプログラム・チェンジを送るための専用MIDIトラックを1つ用意しました。このトラックに切り替えたいプリセットの数だけMIDIクリップを作り、プログラム・チェンジを設定していきましょう。

クリップ・ビューのNotesセクション「Pgm Change」の一番下の「Pgm」にNord Drum 3Pで使用したいプリセットと同じ番号を入力

 プログラム・チェンジを設定は、MIDIクリップをダブル・クリックすると画面下に表示されるクリップのプロパティ(クリップ・ビュー)で行ないます。MIDIクリップの再生を切り替えることでプリセットが切り替わるという仕組みです。

 Nord Drum 3Pのプリセット切り替えは非常に高速ですが、数ミリ秒のロード時間が存在するため、プログラム・チェンジと同じタイミングのMIDIノートは音色が切り替わらないという現象が起こります。Ableton LiveのTrack Delayを使ってMIDIノートの発音の前でプリセット切替えが完了するように補正すれば回避できます。

セッション・ビュー右下の「D」ボタンを点灯させるとTrack Delayパラメータが表れる。プログラム・チェンジ専用MIDIトラックのDelay値を「-10ms」に設定

フォロー・アクション機能を使ったプログラム・チェンジのオートメーション化

 Ableton Liveのフォロー・アクションを使うと、簡単に説明すると隣り合った上下のクリップをどのように再生させるかを設定することができます。これを上下に隣り合ったプログラム・チェンジ用のMIDIクリップに適応させると自動的にNord Drum 3Pのプリセットが切り替わるようになります。

 フォロー・アクション「↓ Next」を選択すると、このクリップの再生が終わったタイミングで次(直下)のクリップが再生されます。この時、クリップとクリップが隣接していることが条件です。1スロットでも間が空いていると続けて再生されないのでご注意を!

クリップ・ビューのLaunchセクションのFollow Actionのプルダウンから「↓ Next」を選択する

 さらにプログラム・チェンジ専用のMIDIクリップの長さを調整し、ループする周期を意図的にNord Drum 3PのMIDIシーケンスとずらすことで、演奏フレーズはそのままに音色だけがポリリズミックに変化していくという動きになり、数小節のループ・フレーズであっても飽きのこない変化が楽しめますよ!

 Ableton Liveのクリップ・ローンチに関する設定は非常に奥が深いので、興味がある方はAbleton公式のリファレンス・マニュアルもご参考ください。

reface CSで音の隙間を活かすパッド・サウンドを作り込む

 reface CSはパッド系の音色でコード感あるパートを担当しています。気持ちの良い音色ですが、リリース(音の余韻)を伸ばしたままで演奏すると、Nord Drum 3Pで作り込んだ音のすき間がすべて埋まり、曲全体の緊張感が薄まってしまいますので、下記のように、A(アタック)とD(ディケイ)は遅め、S(サスティン)は最遅、R(リリース)を最速に設定してみました。

今回使用したreface CSのADSRの設定。A(アタック)とD(ディケイ)は遅め、S(サスティン)は最遅、そしてR(リリース)を最速に設定

 こうすると、音は鍵盤を弾いてからゆっくりと立ち上がり、鍵盤を離した瞬間に発音がすぐ途切れる、という音の起伏ができあがります。

 そして、Nord Drum 3Pで何かしらのドラム音色がトリガーされるのと同じタイミングで、reface CSに送っているノート情報が途切れるようMIDIシーケンスを組むことで、パッドの浮遊感と音の隙間を活かしたリズムの面白さを両立することができます。

 曲の展開に応じて、Ableton Live側でCompressorを立ち上げてNord Drum 3Pのレベルに反応するサイドチェインを薄くかけてみるのも面白いですよ。ぜひお試し下さい!

Ableton Liveの複数のエフェクトを1つのノブで操作する

 Ableton LiveのデバイスAudio Effect Rackには、複数のオーディオ・エフェクトのパラメーターを簡単に操作できるマクロ・コントロールという機能があります。動画では、全編に渡ってローパス・フィルター、リバーブ、ディレイなどを組み合わせたマクロを作成し、Ableton Live専用コントローラーPush 2のノブで操作しています。マクロは操作する手が足りなくなりがちなマシンライブにおいて心強い味方になってくれます。


 いかがでしたでしょうか? 2機種ともほとんど手で演奏しないというかなり変わったパフォーマンスでしたが、既成概念にとらわれない活用方法を編み出すのもハードウェアで遊ぶ楽しみの一つだと思います。それではまた次回お会いしましょう!

Yebisu303の「Machine Live解体新書」

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製品情報

Nord / Nord Drum 3P

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Ableton / Live 10シリーズ

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Ableton / Push2

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プロフィール

Yebisu303
トラックメイカー。20代後半よりトラック制作を開始。無類のハードウェア機材愛好家でもあり、日々マシンライブを行う傍らで演奏動画をYouTubeへ投稿している。アナログ・シンセサイザー"KORG monologue"のプリセット製作を担当。

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