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  • 次世代の多重録音アーティストと味わう、ポータブル・レコーダー新時代の予感

ReN × iZotope SPIRE STUDIO

iZotope / SPIRE STUDIO

  • 取材:山本諒(ギター・マガジン) 解説:伊藤大輔 撮影:ほりたよしか 動画撮影・編集:熊谷和樹 撮影協力:Studio Bpm

録音エンジニアや宅録好きにはお馴染みのオーディオ技術開発メーカーiZotopeから、“SPIRE STUDIO”なるレコーダーが登場した。片手に収まる大きさでスタジオ・クオリティの8トラック録音が可能、しかもミックスまで簡単にできる画期的アイテムとして、今、ミュージシャン界隈でザワついている逸品だ。独自の多重録音スタイルで話題のシンガー・ソングライターReNとともに、このマシンの真価を問う。

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ReN × iZotope SPIRE STUDIO

iZotope SPIRE STUDIO

音はプロ級、操作は抜群。注目の8トラック・レコーダー

iZotope SPIRE STUDIO / 価格:オープン・プライス(市場実勢価格45,000円前後)

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 DAWのプラグイン・メーカーとして知られるiZotopeにとって、初の実機として作られたのがこのSPIRE STUDIOだ。同社が長年培ったデジタル技術を駆使しながらも、昔の8トラックMTRのように簡単に使えるレコーダーというコンセプトのもとに開発されている。

 入力はスタジオ・クオリティの内蔵マイクに加えて2系統のXLR/TRS入力を装備し、2chの同時録音が可能。また、特筆すべきは録音/再生ボタンの下にあるSoundCheck機能だ。録音時の音量で10秒間演奏すれば、レベルを自動調整するのみならず、録音環境(ギターとボーカルなどであればそれに)に最適化される。そのためラフに録っても、最新のデジタル技術により自動的に補正されるので、優れた音質で録音できるわけだ。

 視覚的にわかりやすい本体のデザインも見逃せない。筐体上部に録音(●)と再生(▶)のボタンがあり、1プロジェクトに対して最大8トラックのダビングが可能。SPIRE STUDIOのみでも録音&再生ができるが、推奨するのは無料アプリとの併用だ。さらに機能が拡張し、パンチインやエフェクト機能、録音トラックのトリミングやミキシング、SNSツールへのシェアも行なえる。

 従来のアプリを併用した製品といえば、多機能ゆえに扱いにくいこともしばしば。だが、現代の演奏者が必要な機能のみ搭載することで、SPIRE STUDIOは抜群の扱いやすさを実現している。それゆえ、米国ではミュージシャンへのギフトとしても好まれているそうだ。デジタル録音が苦手な人にこそ使ってほしい、画期的な逸品である。

背面にはマイクや楽器を入力するXLR/TRS入力を2系統用意。ファンタム電源を装備し、コンデンサー・マイクにも対応する。マイクプリは高品位メーカーのGRACE DESIGN社製。ヘッドフォン・アウトもあり

SPIRE STUDIO・各部の解説

1. LEDタッチ・パネル
SPIRE STUDIO本体のみを使って録音する時に欠かせないのが、タッチ・センサーを搭載したLED液晶パネル。録音レベルやヘッドフォン・レベルの操作ができるほか、重ね録りしたテイクは自動で色が割り当てられ、聴きたいテイクをタッチして▶ボタンを押せば簡単にプレイバックできる。テイクの表示部分を長押しすると、ミュート/解除の操作も可能だ。

2. 録音ボタン
潔さを感じる大きさの録音ボタン。押せばすぐに録音スタート! クリックなどが欲しい場合はアプリからコントロールできる。

3. 再生ボタン
録ったあとで再生ボタン(▶)を押せばプレイバックができる。タッチ・パネルの項でも解説したが、テイクを重ねた場合は、聴きたいテイクをタッチして再生ボタンを押せばOK!

4. New Songボタン
新しい曲を録音する時は、これを押すと新規プロジェクトをスタートできる。最大で8トラックまでの録音が可能だ。

5. Volumeボタン
ヘッドフォンのボリュームを調整する時はこのボタンを押し、LEDのインジケーターをタッチしてコントロールできる。

6. Soundcheckボタン
SPIREのイチオシ機能がこれ。ボタンを押してわずか10秒で歌声や鳴っている楽器の特性を解析、さらに録音場所の音の反射や環境音を解析してリダクションしてしまう。自動でリミッターもかかるため音が割れることもない。iZotopeの技術力を感じさせるボタンだ!

7. スタジオ品質の内蔵マイク
歌とアコギを録ったり、バンドのリハを録るのに活用できる、筐体正面に設置された内蔵マイク。無指向性タイプで、録音スタジオでよく使われるボーカル・マイクの名機をコンセプトにしている。その再現性/音質は有能なエンジニアですらブラインド・テストで間違えるほど。

8. 前面のヘッドフォン端子
SPIREの文字下にあるのはヘッドフォン・アウト。高音質のアンプが搭載されており、わりと大きな音量の環境下でも、しっかりとモニタリングできる。

9. SPIREアプリ
iPhone/Android専用無料アプリ“Spire Music Recorder”でさらに便利な機能が扱える。各種楽器用のエフェクト、パンチ・イン、録音したトラックのトリミングやミキシング、クリック機能のほか、録音データのSNSへのシェアも可能だ。また、録音データはWi-Fi経由でiOSデバイスへも転送されるため、編集やアップロードなどはiOSデバイスのみでも操作できる。

ReN、SPIRE STUDIOと対峙

 それではReNに本機の能力をチェックしてもらおう。“ルックス”、“サウンド”、“操作性”、“スピード感”の4つに分けて語ってもらった。

#1 About LOOKS
すごく“やる気が出る”ルックス

 なんかこう、メカが好きな男の子の心をくすぐるというか。周囲の液晶が光る感じとかもいいですよね。テンションが上がります(笑)。すごく“やる気が出る”ルックスなんですよ。このSPIREってボタン類も少ないから、フッと思いついた瞬間にパッとやる気になれる。あとは、サイズ感が好きです。この大きさなら、とりあえずバッグに押しこんでおいてもいいじゃないですか。ツアーに持っていって滞在先で録ったりしたいですね……あ、今気づきましたけどこれ、バッテリー駆動ですね(笑)。コンセントいらずで使えれば最高なのにな……と思ってたので、これはうれしいです。

#2 About SOUND
ノイズがないから“うまく”聴こえる

 ビックリしたのが、自分の部屋で内蔵マイクを使って歌を録った時。環境ノイズを勝手に消してくれて、雑音が乗らないんです。おかげで歌が“うまく”なったように聴こえますし、自分が聴きたい声で録れたんですよね。ギターの音に関しては、まず内蔵マイクでエアー録音した音はもう、めちゃくちゃ良い。音が完全にクリーンなので、“あー、気持ちいいなぁ”って。SPIREに直接挿したライン録りも試したんですけど、アプリ内の“Acoustic Shaper”ってエフェクトを足した音が好きでした(※写真下)。エレキをつないでも良い感じでしたよ。ラインの音でこんなにいい広がりが出るのか! と思って。曲のアイディアが何もない時でも、この音に浸りながら弾くと何か出てきそう、というか。僕としてはそういうとこが一番うれしかったかな。

ReNのフェイバリット“Acoustic Shaper”のエフェクト画面。その右はエレキ・ギター用のアンプ・シミュレーター“Verb '65”、“Tube 30”

#3 About PLAYABILITY
楽。欲しい表現がすぐできる

 楽。このひと言に尽きます。触り始めて10分くらいでだいたい把握できました。本体のボタンも少ないですし、書いてある機能そのまま押せばすぐ録れるというか。僕は曲のデモを録る際、機械の操作に労力を持っていかれたくないので、すぐ録れるのは最高ですね。アプリに関しても、スマホを持ってる人なら誰でも使えるレベルで、ハードルの高そうなミックス作業も視覚的にできちゃいます。しっかりと“音像”として把握しながらミックスできるから、感覚的なんです。とにかく全体的に、必要最小限の指の動きと回数で、欲しい表現がすぐできるように設計されている印象ですね。

(左)ビジュアルミキサーの画面。上下が音量、左右がL-Rの配置となっており、録ったテイクを好みの場所へ置くだけだ。楽器のアイコンを割り当てられるのも非常にわかりやすい(右)録音画面はiOSのボイスメモを彷彿させるデザインで、直感的に操作しやすい仕掛けがされているのがニクい!

#4 About SPEED
パソコンいらず。世代的にもうれしいです

 “スピード感”に関してはいろいろあって、まず直感的に使えて素早く録れること。ミスしたところを直すパンチ・イン機能もスピーディにできて、範囲の長押しだけでパパっとできます。あと、アプリからすぐSNSへアップできたり、メールですぐ送れる“速さ”もとても現代的です。つまりパソコンを経由しなくていいわけですよね? 世代的には、パソコンよりiPhoneのほうが圧倒的に使ってますからうれしいですね……パソコンを立ち上げて、データを書き換えて、っていうだけで労力がかかりますから。このシェア機能は、アーティスト同士で共同作業する時にいいと思います。送った音源の続きの作業を相手方ができるわけですよね。“ボーカル乗っけて返してよ”みたいな。

SPIREアプリのシェア画面。音源のサイズ(拡張子)も調整可だ

TOTAL IMPRESSION

ある人にとっては脅威になるし、ある人にとっては最高の仲間になる

 完全に偶然なんですけど、このSPIREのことは前から知ってて、アプリだけ入れてたんですよ。僕はずっと、自分がパッと浮かんだアイディアを“素早く”、“思い描いたそのままの音”で録れるものが欲しかったんです。例えると、スケッチブックを広げて、とりあえずサッと絵を描く……みたいな感覚が理想で。そんな時にネット上でこれを発見して、ずっと気になってました。で、こないだマネージャーが突然貸し出し用のデモ機を持ってきて、プレゼントみたいに渡してきた時は“えっ!”と思って(笑)。僕はこれまで曲のアイディアを録る際、iPadを使っていたんです。でもマイクの感度が良すぎるのか、空調の音とかすべての雑音が入りすぎちゃう。それで録音用のアプリもいろいろ試しましたが、結局使いづらいのが多い。それで悩んでいた僕にとっては、願ったり叶ったりな製品でした。

 SPIRE STUDIOはまず、とにかく簡単。録音のために本当に必要な機能だけを残して、あとは削ぎ落としているからだと思います。実際に使ってみて“これはいらない”と感じる機能や装備は、ひとつもなかったですね。しかも、Soundcheckの機能みたいに、音量とかEQを“勝手に決めてくれる”のも好印象でした。普通のRECなら、エンジニアさんと一緒にものすごく時間をかける“音決め”をわずか10秒でやっちゃうというのは、本当に画期的なことです。このSoundcheck機能は、大きい音が出せない夜にレコーディングする時とかも使えますよね。野外で録ってみたりって時もいい感じに音を調整してくれるだろうし……なんか、これ1個持ち歩いてれば、どこでもスタジオになっちゃうというか。“手軽にスタジオを持ち運べる”って考えたら、すごい時代だなと思います。

 僕はタイプ的に、“良い音で録りたいけど、そこに労力はかけたくない”という面倒くさがりなんですけど、そんな人にはもってこいのアイテムだと思います。やっぱり曲を作る時って、家のソファにどんと座って、物腰を軽くしてやりたいじゃないですか。“あー今日疲れた、でも曲浮かんだからギター弾くか”って時に、SPIREをバンって置いて、Soundcheckもしていい感じに録ってくれたらもう……“お前よくやってくれるわ、本当に助かるわ……”って感じになりますよね(笑)。最高のパートナーになりうるだろうし、現時点での最強のツールだと思います。

 これ、たぶんですけど、例えばこのSPIREでレコーディングした音を世間の人に聴かせたとしても、スタジオ録音との音質の違いがわからない人がほとんどじゃないのかな? 細かいところで見ていくと、もちろんPro Toolsとかにはかなわないんですけど、ある意味でエンジニアさんにとって脅威となるツールかもしれないですね。まだ知らない人がいっぱいいるマシンですけど、自分が独り占めしたい思いもありつつ(笑)、もっと広がればいいですよね。

SPIRE TOPICS!

Android版もリリース!

 これまではiPhoneやiPadでしか使えなかったSPIRE STUDIOだが、2018年10月よりAndroid版もリリースされた! 通常のSPIREアプリをAndroidスマートフォンにインストールすれば使用可能だ。詳しくは公式HP(www.spire.live/jp)にて。

SPIRE STUDIO展示/販売店舗一覧

 全国18店舗にて、本機を展示/販売している店舗を紹介。気になる人は足を運んで試してみよう!
Rock oN渋谷店 ☎︎03-3477-1756
・Rock oN梅田店 ☎︎06-6131-3077
イケベ楽器店パワーレック(渋谷)  ☎︎03-5456-8809
イケベ楽器店PowerDJ’s池袋 ☎︎03-5956-6588
島村楽器 新宿PePe店 ☎︎03-3207-7770
島村楽器 名古屋パルコ店 ☎︎052-264-8316
島村楽器 仙台イービーンズ店 ☎︎022-264-9333
島村楽器 郡山アティ店 ☎︎024-926-6133
島村楽器 ミーナ町田店 ☎︎042-710-6088
島村楽器 福岡イムズ店 ☎︎092-736-5610
島村楽器 大宮店 ☎︎048-658-5260
島村楽器 宇都宮パルコ店 ☎︎028-611-2179
島村楽器 梅田ロフト店 ☎︎06-6292-7905
島村楽器 吉祥寺パルコ店 ☎︎0422-28-0560
・三木楽器 djs+(心斎橋) ☎︎06-4704-5555
宮地楽器 神田店 ☎︎03-3255-2755
ワタナベ楽器店 大阪店 ☎︎06-6374-1678
サウンドハウス ※販売のみ ☎︎0476-89-1111

本記事は、ギター・マガジン 2019年1月号にも掲載されています!

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 本記事は、リットーミュージック刊『ギター・マガジン 2019年1月号』の記事を一部転載したものです。今号では“音楽で世界を変えようとした男の知られざるギター美学”と題し、ジョン・レノンを大特集。ビートルズ時代からソロ期と幾多の研究がされてきた中、あまりやられていないだろう“ギター弾きとしてジョン・レノン”を徹底的に見つめる企画です。そのほかにも、FREE THE TONE特集・Part.1エフェクター編や、ALEXANDROS・白井眞輝へのインタビュー記事など多彩なコンテンツを収録。ぜひチェックしてみてください!

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製品情報

iZotope / SPIRE STUDIO

価格:オープン

【スペック】
●インプット:カスタムメイド内蔵コンデンサーマイク、XLR/TRSコンボジャック×2 ●アウトプット:3.5mmステレオミニジャック×2 ●マイク・プリアンプ:グレースデザイン社製マイク入力(48Vファンタム電源搭載)×2 ●WI-FI:802.11 b/g/n 2.4GHz ●サンプルレート/ビット深度:48kHz/24-bit ●内蔵メモリ:録音データ6時間分保存可能 ●バッテリー:リチウムイオン充電池(最大4時間連続使用可能)、5VDCアダプター ●外形寸法:11.07×8.74×12.29cm ●全重量:0.62kg ●動作互換性:公式HP(www.spire.live/en/support/tech-specs.html)参照
【問い合わせ】
タックシステム株式会社 https://www.tacsystem.com/support/inquiry/
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プロフィール

ReN(れん)
10代の時に単身で渡英してUK音楽に衝撃を受け、20歳から本格的な音楽活動を始める。2016年に1stアルバム『Lights』をリリースし、2017年夏には2nd『LIFE SAVER』を発表。並行して膨大な数のライブをこなし、ルーパーとギター1本のみで多重録音するスタイルで話題に。最新作は2018年8月リリースのEP「存在証明」。

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