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- 2024/11/16
Gamechanger Audio / PLASMA Pedal
キセノン・ガスを充填したプラズマ管に3400Vの電圧を放出することで歪みを作ってしまうという、おもしろい機構を持つPLASMA Pedal。2018年1月、世界最大の楽器展示会であるNAMM Showでプロトタイプがお披露目され、同年のSUMMER NAMMで正式にプロダクト・モデルとして発表、「SUMMER NAMM 2018で最も注目された製品」として表彰された経歴を持つ。それもそのはず……アイディアはもちろんだが、その筐体中心部分に収められたプラズマ管から放たれる放電のインパクトと、実際のサウンド、そのすべてに注目が集まったと言えるだろう。
ブランドはGamechanger Audioという名称で、4人のチームで構成されており、ラトビアに拠点を置いている。このPLASMA PedalもINDIEGOGOというクラウドファウンディング・サイトで資金を調達し、見事に実現に至った。
さっそくチェックしてみよう。まずはずっしりと重量感を感じる筐体に安心感を覚える。アルミ・シャーシなどではなく、オリジナル筐体を採用している点は構造から起因することだと思うが、オリジナリティという点では絶対にはずしてほしくないポイントだ。コンパクトで高さがあるので、ペダル・ボードに収めた際にも使い勝手が良さそうだ。
コントロールはシンプルで、一般的な歪みペダルと変わらない印象。個性としてはクリーン・ミックスを装備している点だろう。クリーン・ミックスは完全なドライ・サウンド(ギター・ダイレクト)か、EQ回路を通過するサウンドかを選択できる。クリーン側に振り切ると、いわゆるプリアンプ・クリーン・ブースターとしても使用可能。このサウンドはヨーロッパ・ブランドならではのレンジ感があり心地良い。ベースで使う場合もEQを通過するモードが使いやすいだろう。キーボードの場合はEQはオフしたほうが良いかもしれない(もちろんお好みでオンにしてもOK)。
EQは低域と高域の調整だが、LOWは600Hzをブースト/カット(±9dB)、HIGHは1.5kHzをブースト/カット(±10dB)ということで、このあたりはギター専用というよりも幅広い楽器に対応する意図が見て取れた。周波数特性も20Hz-22kHzとワイド・レンジで、ドラムやキーボードに使ってもおもしろい効果が得られると思うので、ぜひ試してほしい。
DRIVEはボリューム的な動作を行ない、ゲインをVOLTAGEツマミで調整する。このVOLTAGEはキセノン管の放電量(電圧)をコントロールし、独特なゲート感と合わせてクラッシュ・サウンドからシンセ・ベースのようなサウンドを生み出すことができる。VOLTAGEをフルにすると一瞬制御不能になるが、その音はまさにイナズマのような強烈なフィードバックだ。この状態でギターをスイッチング奏法してみると、とてもおもしろい効果が得られるだろう。また、動画ではワウ・ペダルと組み合わせてみたが、このバリッとした独特の質感がアナログ・シンセの重厚なサウンドを連想させると感じた。
いわゆる「普通のディストーション/ファズ」とは言えない歪みの音色だが、トランジスタやダイオード・クリッパで作り出す歪みとは、ひと味もふた味も違う音の感触。FETのフルレンジ・ドライブに近い感触もあるが、いずれにせよ3400Vのプラズマ・パワーが、この個性を生み出していると考えるべきだろう。
ベースに使ってもおもしろいサウンドが期待できるのはもちろんだが、ギター側のコントロールをいじってみると、PLASMA Pedalだけでは得られない新しい音が発見できる。前後に接続したエフェクトによっては、さらにおもしろいサウンドになるだろう。
すでにスタンダードなオーバードライブ、ディストーション・ペダルを持っている皆さんであれば、次に手に入れるべきはこういった個性的なモデルかもしれない。ファズ・ペダルに近いテイストがあるが、AC駆動のビンテージ・アッパー・オクターブ・ファズでも、ここまでアヴァンギャルドなサウンドは得られないだろう。オールド・ペダルの焼き直し的な解釈ではなく、新しいチャレンジで製作された楽器だけが持つ強烈な個性。使いこなすのは簡単ではないかもしれない。
それでも、この強烈な歪みとゲート効果(そしてプラズマの美しさ)は魅力的だ。ぜひとも新しいプレイ・スタイルで、聴たこともないサウンドや楽曲を生み出してほしい。
価格:オープン
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。
【使用機材】
使用ギター:Fender / Jaguar
使用ギター:Gibson Custom Shop / Les Paul Standard
使用アンプ:Fender / '68 Custom Deluxe Reverb