AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Dingwall Designer Guitars / エレキ・ベース
ナットとブリッジを斜めに設置し、指板上に扇状(=fan)にフレットを打つことによって各弦で異なるスケールを出し、すべての弦のテンションを均一に近づける画期的なシステム、ファンド・フレット(Fanned Fret)。これをいち早くベースに導入&応用し、同システムをベース・シーンに広く喧伝したのがディングウォールだ。同社は、ファンド・フレット・システムの搭載を共通項にしつつ、プレイヤーのサウンド嗜好に合わせたラインナップを揃えている。ここでは、自身もディングウォールを愛用する瀬川信二による、代表的なモデルの試奏インプレッションをお届けしよう。
北米にて木材を調達し、中国で木工と塗装を行なったのち、カナダにて組み込みとセットアップが行なわれるコストパフォーマンス・シリーズが、Combustion(コンバスチョン)だ。ボディはスワンプ・アッシュ、ネックは5ピースのメイプル、指板は写真のメイプルのほかパーフェローも選択可能で、4〜6弦モデルが用意されている。スケールは、5弦から、37/36.25/35.5/34.75/34インチ。ピックアップはディングウォールFD-3N、プリアンプはEMGの3バンドを搭載している。2ピックアップもしくは3ピックアップが選択可能で、2ピックアップの本器のピックアップ・セレクトは、フロント・シリーズ/フロント&リア・シリーズ/フロント&リア・パラレル/リア・シリーズとなる。
【SPECIFICATIONS】
■ボディ:スワンプ・アッシュ ■ネック:メイプル ■指板:メイプル ■スケール:B弦37、 E弦36.25、A弦35.5、D弦34.75、G弦34インチ ■フレット数:24 ■ピックアップ:オリジナルFD-3N×2 ■プリアンプ:EMG ■コントロール:ボリューム、ロータリー・ピックアップ・セレクター、ベース、ミドル、トレブル、アクティブ/パッシブ切り替えスイッチ ■ペグ:ヒップショット ■ブリッジ:オリジナル・セパレート・タイプ ■価格:¥212,000
廉価版というレベルではない
ディングウォールでは入門用という位置付けのモデルですが、楽器の完成度として廉価版というレベルではないですね。ファンド・フレットの特徴でもあるローBの鳴りはしっかりありますし、アタック音のレンジがすごく品がいい。EMGプリアンプを搭載しているからか、見た目のわりにスタンダードな音がする印象で、そこからコントロールの設定でJB方向にもPB方向にもどちらにも行けますよ。弾き心地もほかのモデルに引けを取らないし、この値段でこのクオリティはすごい。
Combustionシリーズをもとに製作される元ペリフェリーのアダム“ノリー”ゲットグッドのシグネイチャー・モデル、NGシリーズは、アルダー・ボディ、5ピース・メイプル・ネック、メイプル指板の組み合わせ。ピックアップはCombustionと同様にFD-3Nを搭載しているが、プリアンプはノリー用にカスタムされたダークグラスエレクトロニクスのTone Capsule(ハイ・ミッド2.8kHz/ロー・ミッド500Hz/ベース70Hz)を採用している。3ピックアップを搭載した本器のピックアップ・セレクトは、リア/リア&センター・パラレル/センター/リア&センター・パラレル+フロント。
【SPECIFICATIONS】
■ボディ:アルダー ■ネック:メイプル ■指板:メイプル ■スケール:B弦37、E弦36.25、A弦35.5、D弦34.75、G弦34インチ ■フレット数:24 ■ピックアップ:オリジナルFD-3N×3 ■プリアンプ:ダークグラスエレクトロニクス ■コントロール:ボリューム、ロータリー・ピックアップ・セレクター、ベース、ロー・ミッド、ハイ・ミッド、アクティブ/パッシブ切り替えスイッチ ■ペグ:ヒップショット ■ブリッジ:オリジナル・セパレート・タイプ ■価格:¥250,400
よりアグレッシブなサウンドが狙える
Combustionをもとに3ピックアップになり、プリアンプはダークグラスで、現代的なロック・バンドでしっかりベース・ラインを聴かせようとしたら、この楽器のほうがいいです。よりアグレッシブなサウンドが狙える設定ですね。でも、フラットな状態ではいわゆるエレキ・ベースの音がします。どの楽器もまずはそこから入れるというのがディングウォール全体の特徴かもしれないですね。あと僕はこの3ピックアップというのが好きで。しかも全部のピックアップをオンにした音。タッチする場所によるニュアンスの選択肢が増え、繊細なのにものすごく強い音が出せるんです。ファンド・フレットの良さが出やすい気がするんですよ。それがCombustionに載っているというのはすごいですよ。フィンガーランプ代わりにも使えるのもこの3ピックアップの良いところです。
トラディショナルなJB/PBをモチーフにしたSUPER JとSUPER Pは、ディングウォールのラインナップのなかで唯一、全体のスケールが短め(4〜5弦がラインナップし、5弦モデルは5弦から35/34.25/33.5/32.75/32インチ)。これはデザイン上の問題もあるが、伝統的なベースはサステインが短い代わりにパンチがあり、その部分を意識したためだそう。結果としてG&D弦の温かみが増したという。写真のSUPER PJはアルニコ5を使用したPタイプとJタイプのFDVピックアップを搭載したモデル。ボディはアルダー(スワンプ・アッシュも選択可能)で、ネックと指板には今年のNAMMショウ・モデルとなるウェンジを採用している(通常はメイプル・ネック。指板はメイプル、パーフェロー、エボニー、ジリコテも選択可能)。
【SPECIFICATIONS】
■ボディ:アルダー ■ネック:ウェンジ ■指板:ウェンジ ■スケール: E弦34.25、A弦33.5、D弦32.75、G弦32インチ ■フレット数:22 ■ピックアップ:オリジナルFDV PJ ■コントロール:ボリューム、ロータリー・ピックアップ・セレクター、トーン ■ペグ:ヒップショット ■ブリッジ:ディングウォール・デザインド・ヒップショット・カスタム ■価格:¥456,000
当たりの楽器を持ったときに感じる音の太さがあります
僕は長年SUPER PJを使っていますが、本器は指板とネックにウェンジを使っているのが今までのモデルとの最大の違いで、重心がちょっと低くなり、当たりの楽器を持ったときに感じる音の太さがあります。SUPER JとSUPER Pというモデルは、フェンダー的なニュアンスがありながら、弦ごとのバランス、デッド・ポイントなどの弱点を克服した、個人的に理想的な楽器で、楽器による制約をほとんど気にしないで自分の演奏ができるのが素晴らしい。モノに使われるというよりはモノを使うという感覚ですね。あと、SUPER PJとSUPER Pのいいところは、JBタイプのネックの握りでPBの音が出せるところ。こんなに楽で軽くてPBの音がする楽器って、ほかではないと思います。さらにウェンジを使用することでビンテージ楽器の持つ自然で必要なローがしっかりと出ています。
ランボルギーニからイメージを取り入れたという流線形のボディを持つD-Birdは、ボディ材にはマホガニー、ネック&指板、ヘッドストック、ピックガードにウェンジを使用。現在、4弦モデルのみのラインナップで、スケールは他のディングウォール同様4弦から36.25/35.5/34.75/34インチだ。FDVの3ピックアップ仕様で、セレクターはリア/リア&センター・パラレル/センター/リア&センター・パラレル+フロント。
【SPECIFICATIONS】
■ボディ:マホガニー ■ネック:ウェンジ ■指板:ウェンジ ■スケール:E弦36.25、A弦35.5、D弦34.75、G弦34インチ ■フレット数:20 ■ピックアップ:オリジナルFDV×3 ■コントロール:ボリューム、ロータリー・ピックアップ・セレクター、トーン ■ペグ:ヒップショット ■ブリッジ:オリジナル・セパレート・タイプ ■価格:¥488,000
選択肢を減らすことでクリエイティブになるのを楽しめる
見た目はギブソン系ですが、サウンド・コンセプトはまったく違って、ワルの顔をしているのにサウンドはめちゃいい子ちゃんっていうズルい楽器(笑)。ボディは薄くて軽いけど、しっかりとロー・エンドが詰まっている。これもファンド・フレットの楽器の魅力ですね。36.25インチのE弦のレスポンスの良さは、通常の4弦ベースでは経験したことのないものでしょう。低音弦をスラップで強く叩くと弦が暴れて音がぼやけたり細くなったりしがちですが、強烈に弾いてもちゃんと受け止めてくれる。低音域での高速リフも半音階がはっきりと聴き取れます。シンセ・ベースいらずというか。発音が速いから速弾きをしてもついてくるし、オールマイティ感たっぷりですが、僕はハイポジのデザインにメーカーの意思を汲み取ってます。普通に弾くとG弦17フレットのCまでしか弾けない見た目重視のカッタウェイには、あなたが持ってるのはベースですよね?って言われてる気がする。選択肢を減らすことでクリエイティブになるのを楽しめる、そんな素敵な楽器です。
カナダ・メイドではあるが、シンプルなスペックによりコストパフォーマンスに優れたモデルをラインナップするAfterburnerシリーズ。Afterburner Ⅱはセミ・ホロウ・ボディをフィーチャーしたモデルで、ウォルナットのチェンバード・ボディ・バックに、フィギュアド・ウォルナット・トップが組み合わされる。ネックは5ピースのメイプルで、指板はウェンジ。スケールは6弦から37/36.25/35.5/34.75/34/33.25インチだ。ピックアップはFDVが3基で、セレクターはリア/リア&センター・シリーズ/リア&フロント・パラレル/フロント。6弦ベースながらパッシブ・モデルが標準となる。
【SPECIFICATIONS】
■ボディ:フィギュアド・ウォルナット(トップ)、ウォルナット(バック) ■ネック:メイプル ■指板:ウェンジ ■スケール:B弦37、 E弦36.25、A弦35.5、D弦34.75、G弦34、C弦33.25インチ ■フレット数:24 ■ピックアップ:オリジナルFDV×3 ■コントロール:ボリューム、ロータリー・ピックアップ・セレクター、トーン ■ペグ:ヒップショット ■ブリッジ:ディングウォール・デザインド・ヒップショット・カスタム ■価格:¥492,000
甘いジャズ・ギターやガット・ギターのようにも響きます
ファンド・フレットの効果でハイC弦もローB弦も同じテンション感で弾けます。理屈でわかっていても弾いてみると本当に納得。また、ホロウ・ボディのせいか、甘いジャズ・ギターやガット・ギターのようにも響きますね。ハイポジでのキツめのヴォイシングもきれいに響きます。普通セーハでコードを押さえる場合、手の角度に無理が出てきたりもするけど、フレットが斜めなことで自然に押さえられる。サウンドも演奏性もファンド・フレットの利点がわかりやすい楽器です。速弾きをしても軽やかな音でしっかりついてくるし、ジョイント部分のヒールがないからトップの音を中指で押弦できるほど。この楽器は指板を満遍なく使えと言われているように感じます。あと、普通6弦ベースだとやっぱりアクティブにして使うのがデフォルトになりがちですが、パッシブの魅力がしっかり出ています。個人的に6弦ベースは卒業したつもりでしたが、これはクラっときますね。
ディングウォールの上位機種となるZ(ズィー)シリーズは、ボディ材はスワンプ・アッシュだが、高密度のものを低音弦側に、低密度のものを高音弦側に配した“デュアル・デンシティ”構造になっているのが特徴。ピックアップはオリジナルのFD-3を搭載する。プリアンプの標準はグロッケンクラングだが、本器はダークグラス製をチョイス。セレクターはリア/リア&センター・シリーズ/リア&フロント・パラレル/フロントで、各ピックアップのシリーズ/パラレル切り替えスイッチも相まって音作りの幅は広い。ストラップ・ピンは、電池ボックス付近に設置されたロック・タイプも使用可能で、スケールの長さによるロー・ポジションの遠さを感じずに演奏可能だ。
【SPECIFICATIONS】
■ボディ:スワンプ・アッシュ ■ネック:メイプル ■指板:エボニー ■スケール:B弦37、E弦36.25、A弦35.5、D弦34.75、G弦34インチ ■フレット数:24 ■ピックアップ:オリジナルFD-3×3 ■プリアンプ:ダークグラスエレクトロニクス ■コントロール:ボリューム(兼アクティブ/パッシブ切り替えスイッチ)、ロータリー・ピックアップ・セレクター、ベース、ミドル、ハイ・ミッド、シリーズ/パラレル切り替えスイッチ×3 ■ペグ:ヒップショット ■ブリッジ:オリジナル・セパレート・タイプ ■価格:¥656,000
弦のバランスの良さが飛び抜けて良く、メーカーの本気を感じる
弦のバランスの良さが、ほかのシリーズと比べても飛び抜けて良くて、下から上まで本当にストレスなく使えます。メーカーの本気を感じる。あらゆるレンジにちゃんとローが付いてきます。ピックアップのシリーズ/パラレルの切り替えスイッチは、ひとつ切り替えただけでもわりと印象が変わるので、パッシブでも音作りの幅は本当に広い。そのうえでアクティブ回路を足して、自分が目指す音作りに応えられるコントロールが付いていると。楽器の作りから回路まで、自分の出したい音がはっきりあったり、積極的に音を作りたい人にはこれ以上優秀な楽器はないでしょう。よく5弦ベースを選ぶ際に“4弦ベースの延長で使いたい”と言いますが、その答えのひとつがここにあります。ここまで新しいコンセプトと今までのスタンダードの橋渡しができる楽器だったとは。恐るべしですね。
今回6モデルを弾きましたが、演奏性面ではどれも相当ハイレベル。Combustionでもディングウォールの利点は体験できますし、“ならでは”を追求しようとすると、その上のシリーズを触ってみることになりますね。
僕とディングウォールの出会いは10年くらい前、よく行く楽器屋さんでした。最初は、見た目から、“どうせおもちゃみたいな楽器だろう”と思って触ったのですが、驚くほど弾きやすいし、自分がジャズ・ベースで出したかった音がこんなに簡単に出るのはどうしてだろうと。あと、まわりの先輩たちが重い楽器を使って肩や腰を痛めて、なかにはリタイアしてしまう人もいたので、できるだけ軽い楽器を探していたんです。ディングウォールはファンド・フレットによって軽量でもローがしっかりしている。この軽さでこの音は普通の楽器じゃ絶対無理だなと思います。
ディングウォールは弦やポジションごとの音のばらつきが少ないので、良くも悪くもポジション選びの制限から解放されました。音楽の流れでいいポジションを選べばいい。そうなると音作りも変わり、普通のベースだとG線が一番いい感じに鳴るようにすると、ほかの弦がボケるなどの苦労がありましたが、そこからも解放されました。今ではほとんどEQをいじりません。ピッキングも、ほかの楽器だとポジションや弦ごとにタッチを変えないと粒が揃わなかったりして、そのうえで強弱などのニュアンスをピッキングでつけていた。普通に弾くだけでも気をつかうのが当たり前というか。ディングウォールは、楽器が限りなくフラットなので、音量やニュアンスの変化は自分だけの問題になり、おかげでピッキングの精度が自然と上がりました。
サウンドに関しても以前、竹内まりやさんのレコーディングのときに、新品のSUPER PJでライン録音したんですけど、なるべくほかのメンバーには楽器を見られないようにブースに入って。録り終わったあとに“こんな音のいいベースは初めて。何年製のビンテージなの?”と聞かれたことがありました。ほかのエンジニアの方にも“エレキ・ベースのサンプリング音源に使いたいほど理想の音”と言われたこともあり、周囲の雑音がまったく気にならなくなりました。見た目のインパクトで偏見を持たれる人も多いですが、弾いたら絶対に良さがわかる。ファンド・フレットって、ただのチューニングが良くなるやつみたいな話だけだと思っている人も多いですが、そうではないんです。懐古主義とは逆の新しい提示ですよね。ただ、それがすごく自然に成り立っているので、そのすごさというのは、ある程度ベースを知って技術がないとわからない部分はあるかもしれない。今まで味として放置していたマイナス面にしっかりとメスを入れてくれています。ディングウォールの印象として、リー・スクラーのお気に入りから始まり、現在は海外のヘヴィロックの人の楽器という印象が強いですが、純粋に完成度の高い素晴らしい楽器です。新しい楽器なので過去の憧れとは結びつくことはありませんが、その憧れを超えられる可能性を秘めた最もモダンなコンセプトを持つブランドと言えるでしょう。
本記事は、リットーミュージック刊『ベース・マガジン 2018年12月号』の特集記事を一部転載したものです。誌面ではディングウォールの歴史や創設者シェルドン・ディングウォール氏のインタビューなども掲載しています。表紙巻頭では、ニュー・アルバム『Sleepless in Brooklyn』をリリースした[ALEXANDROS]の磯部寛之を特集。そのほかにも、2バンド・ゲイン・オーバードライブの製作ノウハウを学べる機材特集『Vivieと作ろうオリジナル・エフェクター』、奏法特集『聴いて弾いて基礎からわかる “コード感"自由自在!』などを収録した注目の1冊となっています。ぜひチェックしてみてください!
瀬川信二
せがわしんじ●1975年6月13日生まれ。北海道出身。1993年より本格的にプロとしての活動を開始。2001年に上京してからは、鈴木康博、伊藤たかお、増田俊郎、EPO、伊勢正三、竹内まりや、加藤登紀子や植村花菜などのレコーディングやサポートを務める。2006年にはセンチメンタル・シティ・ロマンスの正式メンバーに。また数々の現場にて培ったテクニックと豊富な音楽知識を生かし、個人ベース・レッスンも行なう。写真で瀬川が抱えているのは、カスタム・オーダーしたSUPER P。