AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
KORG / EK-50
好きな曲を演奏したい、オリジナル曲のアイディアを練りたい……そんな思いがありながら、“コードの押さえ方がマスターできない” “機械や打ち込みが苦手”という状況に直面している人は多いのではないだろうか。そういったお悩みを解決し、低価格ながら初心者でも気軽に本格的な演奏が楽しめる自動伴奏機能付きキーボード、コルグEK-50が発表された。プロからも好評を得ているPa(Professional Arranger)シリーズの本格的な伴奏スタイル/サウンド・クオリティはそのままに、機能やインターフェースを徹底的にシンプルにし、初心者でも非常に扱いやすくなっている。演奏はもちろん、作曲のアイディアを素早く記録しておくのにも便利に使用できる1台だ。
本機はいわゆる“自動伴奏機能付きキーボード”というカテゴリーの製品だ。伴奏パターンを選択・再生し、鍵盤左手側(ロワー/Lower)でコードを演奏すると、コードに合わせて伴奏が変化、それをバックに、右手側(アッパー/Upper)で通常の演奏を行なう、というのが基本的な使用方法だ。
もちろん、左手でコードが完全に押さえられなくても大丈夫。“ワン・フィンガー・モード”を使えば指1本から和音を演奏することができる。しかも、メジャー・コードはルート音のみ、マイナー・コードはルート+左側の黒鍵を押さえることで演奏するという、とてもよく考えられた仕組みになっているのに加え、通常の三和音のように3本の指を使って演奏すれば(Fingered 3と呼ぶ)テンションも含めた複雑なコードも演奏可能だし、ピアノでバッキングを行なうときのような、両手で弾いたコードを認識させることもできる。
伴奏パターン(スタイルと呼ぶ)数は280におよび、ポップスやロックはもちろん、ジャズ・ラテン系、ワールド・ミュージックまで、主要なジャンルはほぼ入っていると思ってもらってよいだろう。Paシリーズを継承しているので、伴奏のゴージャスさ、音の良さも折紙付きで演奏すること自体が楽しい。あらかじめ用意されたパターンだけでなく、USBメモリー経由でユーザー領域にスタイルの追加が可能というのも楽しみだ。
さらに“バリエーション・ボタン”によってシンプルな伴奏から複雑な伴奏まで変化を付け、演奏の盛り上げ/下げを調節することができる。曲の始めと終わりを付け加えるイントロ/エンディング・ボタンなどを使用すれば、伴奏に音楽的な変化を演出することができる。また、アンサンブル・ボタンを使えば、右手のメロディ演奏を“ハモらせる”ことができ、ゴージャスな演奏が簡単に行なえる。バリエーションは4段階、イントロ/エンディングはそれぞれ2タイプずつ用意されているので(同価格帯の製品の中では多い方だと感じる)より音楽的な演奏が期待できるだろう。
ライブ中など、好みのスタイルを素早く切り替えて使いたい場合に便利なのが、セット・リスト機能。これは“スタイル”を、テンポや音色など編集した内容も含めて40個(4ボタン×10バンク)まで登録することができるというもの。セット・リストのバンクを選択→Writeボタン+登録したい番号のボタンを押すだけという簡単操作なのがうれしい。
さらにユニークなのが“ミュージック・スタイル”という機能だ。これは、あらかじめ64の楽曲(どこかで聴いたような曲!)のそれぞれに合ったスタイル/テンポ/音色がプリセットとして用意されているというもの。スタイル名=曲名になっているので、初めての人はここから知っている曲を見つけて弾いてみると、本機の持つ機能をとっつきやすく理解できるのではないだろうか。
内蔵音色の充実ぶりも特筆すべき点だ。プリセットは実に702種類以上も用意されており、音色のバリエーションが不足して困るようなことはまずないだろう。また、アッパーは音色を同時に3つまで使用できるので、レイヤーしたり音色を切り替えたり、充実したプリセットをさらに活用することができるほか、ロワーとアッパーをスプリットして異なる音色で演奏することもできる(これらの組み合わせは“キーボード・セット”としてプリセットも多数用意されている)。さらに大変便利なのが“STS”(Single Touch Setting)という機能。これは、選択したスタイルに合わせておすすめの音色を自動的に選んでくれるもので、音色選択の手間が省けるだけでなく、音色から曲のアイディアや演奏のインスピレーションが広がるはず。また、どの音色で演奏中でもボタンひとつで瞬時にグランド・ピアノの音色に戻す“グランド・ピアノ”ボタンも新たに装備されている。
ここまでおもにリアルタイムの演奏性を中心に見てきたが、本機にはソング・モードも用意されており、演奏を録音/再生したり、デモ・ソング(18曲内蔵)を楽しむことができる。基本操作はスタイル・モードで演奏時にレコーディング・ボタンを押すだけと非常にシンプルで(MIDIデータで記録される)、終了したらソング・モードに移動すると“ユーザー・ソング”として自動保存されるという流れだ。レコーディングを繰り返すことでアッパー・トラック上に音を重ねていくことも可能なので、オリジナル曲のアイディアを記録しておく際など本当に便利だと感じた。ループ再生機能も備えており、ライブでのちょっとしたパフォーマンスにも使えそうだ。また特筆すべきは、ソング・モードではUSBメモリー内のSMFファイルだけではなく、MP3、WAVファイルも再生できること。練習でもライブ・パフォーマンスでも役立つだろう。
もうひとつ、本機で特筆すべきはシンプルで分かりやすいユーザー・インターフェース。まず、ダブル・クリックやシフト・ボタンの併用を採用したことによって大幅にボタン数が減り、直感的に操作しやすくなった。例を挙げると、バリエーション1/2ボタンは緑に点灯させると“バリエーション1”に、もう一度押して赤色に点灯させると“バリエーション2”となる(イントロ/エンディング・ボタンなどでも同様)。アッパーおよび伴奏側の音量を調節したいときは、該当のパートまたはモードのボタンを押しながらダイヤルを回せばいい。パネルに四角で囲んだ文字で表示されているメニューに関しては、シフト・ボタンを押しながら操作することで選択される。少ない操作子でも簡単に目的の機能を実行できるよう、細かな工夫がとても行き届いているのだ。さらに、主要なスイッチはLED自照式を採用しており、従来の機種より格段に視認性が良くなっている点も見逃せない。
なお、ソング機能のところでも触れたが、本機ではさまざまな項目を変更した際など、基本的に変更点は自動保存されるシステムになっており(各設定は簡単な操作で外部USBメモリなどにバックアップ可能)、徹底的に初心者に優しい設計がなされている。反面、スタイルの詳細な編集や音色のエディット機能は用意されていないのだが、高度なエディット機能はライト・ユーザーを惑わせがちだったのも確か。これらのメニューを潔くなくし、メニュー階層をシンプルに削ぎ落としたことで、とても分かりやすくなっている点は本機の大きな美点と言えるだろう。
最後に、そのほかのポイントをまとめて見ておこう。まず、内蔵ステレオ・スピーカーはバスレフ型で10W×10Wというかなりパワフルな出力となっている。これは同価格帯の他製品に比べると圧倒的に大きい。演奏が迫力ある音で楽しめ、カフェのような場所での演奏など、ちょっとしたライブだったら外部アンプやスピーカーの用意をしなくても事足りるだろう。ライン出力、ヘッドホン端子、USB/MIDI端子も装備。オーディオ入力も1系統備えられており(3.5mmステレオ・ミニ端子)、タブレットなど外部機器をつないで音を本機から出すことも可能。さらに、乾電池駆動(単3×8本)にも対応しており、電源が用意しにくい場所でのライブもできるのがうれしい。ACアダプターおよび譜面立ても付属している。
いかがだっただろうか。シンプルなだけでなく、同価格帯の他製品に比べ、ハイ・スペックでより音楽的な演奏が実現可能な本機。自動伴奏機能はキーボード・マガジン読者の中には馴染みの薄い方も少なくないと思うが、いわゆるワークステーションとはまた違った切り口で、ライブから音楽制作まで幅広く役立てられる1台だ。これを機会にぜひチェックしてみてほしい。
価格:¥48,000 (税別)