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- 2024/11/16
NUX / Solid Studio I.R. & Power Amp Simulator
ハイ・コストパフォーマンス&ハイ・クオリティの機材を次々に発表し、注目を集めるNUX。新たに登場したSolid Studio I.R. & Power Amp Simulator(以下:SS)をご紹介しよう。このSSは一見するとエフェクターのように見えるが、実際には8種類のスピーカー・キャビネット、8種類のマイクロフォン、3つのマイキング設定、3種の真空管を選択できるパワー・アンプ・シミュレーターだ。コンパクト・サイズでありながらラック・サイズの機材に引けを取らない……いや、ある意味ではラック・サイズの製品を凌駕するような機能/サウンドを備えている。シンプルなツマミを操作するだけで、マイキング、マイク、スピーカー、パワー・アンプのキャラクターなどを変幻自在に操ることができる。
SSはコンパクトなペダル・サイズに、ギタリストからの人気のある「往年の名機」と評価されるギター・アンプ、キャビネット、真空管の種類、さらにサウンドメイクに重要なマイクロフォンの選択と、その設定までシミュレートしている。特に経験がものを言うステージやスタジオでの「ギター・サウンドを決めるマイクロフォンの選択」、そして「マイキング」については長年リサーチしたということで、高い音質というだけでなく、とても使いやすく仕上がっていると言えるだろう。ギタリストの「鉄板サウンド」から、リアル・アンプでは難しい組みわせを生み出すことも可能になっている。
以下、内蔵されているキャビネット、マイクの種類だ(カッコ内はオリジナル・モデル)。
【Cabinets】
・JZ120(Roland / Jazz120)
・DR112(Fender / Deluxe Reverb 112)
・BS410(Fender / Bassman 410)
・A212(VOX / AC30 212)
・TR212(Fender / Twin Reverb 212)
・1960(Marshall / 1960A 412)
・GB412(Celestion / Greenback 412)
・V412(Celestion / Vintage30 412)
【Microphones】
・DYN421(Sennheiser / MD421)
・S57(Shure / SM57)
・U87(Neumann / U87)
・R122(Royer / R-122)
・R121(Royer / R-121)
・C414(AKG / C414)
・C3000(AKG / C3000)
・B52(Shure / Beta52)
SSの特筆すべき点はサイズでも機能でも値段でもない。最も注目すべき点はサウンドだろう。その秘密はSSが採用しているIR(インパルス・レスポンス)の解像度「2048サンプル/46ms」にあった。
現在IRの品質は、その解像度(測定値)とms(ミリセカンド)で表わされる。ちなみに1024/20msというのが現在のスタンダード値とされているらしい。そして、市場で高い評価をされているデジタル・アンプやプロファイラー・アンプでは、2048/40msを採用しているという。さらにもっと高品質を求めれば、50msという長い時間でのキャプチャーも可能とのことだが、これは「現実的なサウンド・欲しいサウンドにならない」とNUXは言う。現実的なサウンド=ギターらしい音になるか/ならないか、ということになるだろうか。
つまり、いたずらに高品質/高サンプリングにこだわらず、あくまでサウンドにこだわって検証した結果、NUXでは2048/46msを採用したということだ。2048/40msでは味わえない低域のパワー感に、その質感を感じた。
このIRは既にデジタル・エフェクターの中では広く一般的に使われており、リバーブのプリセットなどに活用されているだけでなく、今回のSSのようにスピーカー・シミュレーターのプリセット的に扱われていることでお馴染みかもしれない。今後、IRのデータが確実に楽器市場で活用されるのは間違いないが、実は既にIRデータが無償/有償で配布・販売されている。SSではこういった外部IRをNUXから無償で提供されるSS専用のエディターでコンバートし、SSのプリセットとして使用することも可能なのだ。これを考えると、SSは小サイズでありながら、かなりの拡張性を含んでいると言えるだろう。
さらに注目してほしいのが、独自のIR生成モードだ。つまり、好きなアンプからIRファイルを作ることができる。キャプチャーに関してはある程度の制限があるが、自分でIRデータを生成できるのはかなり魅力だと言えるだろう。
基本的にはパワー・アンプ(もしくはアンプのリターン端子)にSSのアウトプットを接続。そしてスピーカーの前にセットしたマイクロフォンからの信号を(マイクプリなどを通して)SSのインプットにつなぐ。準備はこれで終わり。ほんの一瞬(42ms)の「ピュン!」という音だけで、パワー・アンプ/スピーカー/マイクの特性がキャプチャされてしまうのだ。IRキャプチャの行程はぜひ、動画で確認してみてほしい。
こうして作り上げたIRデータはSS内部での使用はもちろん、外部プロファイラーやモデリング・アンプなどで使用することも可能。現在こういったデジタル・アンプを愛用している皆さんにも注目してほしいポイントだ。
昨今のハイクオリティなオーバードライブ/ディストーション・ユニットを愛用する皆さんであれば、それらのペダルとSSを組みわせるだけで、今回の動画のようなサウンド・クオリティを持ったライン・サウンドを楽しむことができる。もちろん、チューブ・プリアンプやプログラマブル・プリアンプをSSに接続すれば、さらに高品質なアンプに仕上げることができるだろう。SSはミキサーへの出力はもちろん、ヘッドフォン・アウトも用意している。自宅での練習やイヤモニ用のサウンドとして、ヘッドフォン・アウトからの信号は役に立つだろう。
もはや本格的に「アンプをエフェクト・ボード内に置く」という発想が一般化してきたとも言えるだろう。発想だけでなく、実際のサウンドの説得力が、ほんの5年前とは比べ物にならないレベルにある。このSSはこれからさらに、広く、浸透するであろうIRデータのセルフ・キャプチャーを可能にしただけでなく、10〜20代の皆さんでも体験できるプライス・レンジで登場したということも含めて、本当に画期的な機材だと言える。それだけでなく、ギター・プレイヤーが求める狙った音/音質にフォーカスをきっちり合わせて作られていることが素晴らしい。多くの人に経験してほしい機能とサウンドを持っている1台だ。
価格:¥23,000 (税別)
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。
【使用機材】
使用ギター:Crews Maniac Sound / Aristoteles V2.
使用アンプ:Marshall / JVM210H
使用キャビネット:Marshall / 1960A
使用ペダル:NUX / Cerberus
使用ペダル:Ibanez / TS808