AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
DENON / DP-450USB
DENONが10余年ぶりに発売したレコード・プレーヤー=DP-400とDP-450USB。DENONが民生用レコード・プレーヤーの発売を開始した1970年代の設計思想に基づくS字型トーン・アームが特長で、“これからレコード・リスニングを始めたい”と望んでいるビギナー層にも扱いやすい設計となっている。両者の違いは録音機能の有無。DP-400はシンプルなレコード・プレーヤーだが、DP-450USBでは本体にUSBメモリーを挿し、再生中のレコードをWAV/MP3フォーマットで録ることが可能だ。この企画では、DP-450USBのレビューと付属するチェック・ディスクの制作ストーリーを通して、製品の魅力を掘り下げていく。
USBメモリーへの録音機能を備えたレコード・プレーヤー。MM型カートリッジ(レコード針)が付属し、フォノ・イコライザーを搭載するため、パワー・アンプなどがあればすぐに使用できる。トーン・アームはS字型で、再生が終わると自動でリフト・アップされる仕組み。またターンテーブルの回転も止まるため、レコードやカートリッジの破損を防いでくれる。
DP-400とDP-450USBは“デノンのコンパクトHi-Fi”をコンセプトに掲げるデザイン・シリーズから発売されたレコード・プレーヤーだが、単なるエントリー機と見過ごせない特別な仕上がりになっているそうだ。外観はデザイン・シリーズならではの都会的かつ高級感あるもので、ここでレビューするDP-450USBについては、外部USBメモリーへのダイレクト録音機能を搭載するなど、現代のライフ・スタイルにフィットしている。
まずは技術的な面を見ていこう。回転数は33 1/3と45、78の3種類に対応。駆動方式はベルト・ドライブだが、ターンテーブルの下に速度センサーを設置してモーターの動作を制御するという機能を新搭載し、回転精度を高めている。トーン・アームは1970年代の設計思想に回帰し、スタティック・バランス型(カウンター・ウェイトの位置で針圧を調整する方式)のS字型を新開発。名機DP-5000を参照して設計されたそうだ。アームの有効長、オーバー・ハング、オフセット角などのバランスを最適化したことで、トラッキング・エラー(レコードの溝に対する針先の角度のズレ)を抑制。トーン・アームとヘッド・シェルに関してはユニバーサル・タイプのものを採用し、付属のMM型カートリッジ以外にも、さまざまなカートリッジを取り付けて使える。
本体内にはMM型カートリッジ対応のフォノ・イコライザーを備え、フォノ入力の無いアンプなどに直接接続可能。アンプやミニ・コンポを持っていれば、購入してすぐにレコード再生を楽しめる。また、フォノ・イコライザーをリア・パネルのスイッチでオフにすれば、フォノ入力を持つ機器との併用も可能だ(MM型以外のカートリッジを使用する場合など)。このフォノ・イコライザーの音質向上のために電源回路も見直したそうで、供給する電圧は同ブランドのDP-300Fの3倍。また、低ノイズFET&バイポーラー入力オペアンプでも高音質化を図っている。
ブラックのシャーシは、特殊表面処理が施されているため美しい光沢仕上げで、硬度が高く傷が付きにくい模様。つややかな塗装は現代的なリビングなどにもなじみやすいだろう。ターンテーブル(プラッター)はアルミ・ダイキャスト製で、それを取り付けるためのベースも金属製となっており、剛性を高めている。センター・スピンドルの機械精度を上げることにより、ワウ・フラッターを0.1%(WRMS)に抑制しているのも特徴だ。
それでは実際に使ってみよう。まずは内蔵フォノ・イコライザーをオフにし、普段使用しているプリメイン・アンプMfCINTOSH MA6900のフォノ入力につないでレコードをかけてみる。その出音は低域がタイトで、やや中域に寄ったカジュアルな印象だ。ポップスのドラムではスネアが前に出て聴こえ、超高域は緩やかに絞られている。この価格帯のプレーヤーとしては落ち着いた音で、派手な感じには作られていないので、CDなどのデジタル・メディアの音に慣れた人は新鮮に感じるのではないだろうか? 操作性や設定の容易さも含め、レコードのビギナーに適したプレーヤーだろう。
次にフォノ・イコライザーをオンにし、アンプのライン入力に接続。音の傾向は同じだが、筆者のアンプのフォノ・イコライザーよりさらにタイトな印象。情報量は少し減るものの、筆者のアンプはハイエンドな機種なので、価格差を考えるとDP-450USBのフォノ・イコライザーはおおむね良しと言えそうだ。
続いては、USBメモリー(別売)へのダイレクト録音機能をチェック。フロント・パネルのUSB端子にメモリーを差し込み、レコードの曲が始まる前に録音ボタンを押して、曲が終わったらもう一度押す。それだけの簡単な操作で次々とデジタル・データに変換できる(USBハード・ディスクへの録音は不可)。記録形式は16ビット/44.1kHzのWAVか192kbps/44.1kHzのMP3のいずれかを選択可能で、それぞれに専用の録音ボタンが用意されているため、操作を間違えにくい親切な設計だ。また、MP3の録り音を編集できるMac/Windows用ソフトMusiCut for Denonが製品サイトから無償ダウンロードできるので、曲頭や曲終わりのノイズをカットしたり、選曲したものをまとめてオリジナルのアルバムを作り、それをスマートフォンなどに入れて楽しむことも可能。現代のライフ・スタイルに合う便利な機能である。
DP-450USBは、例えば“好きなアーティストがアナログ盤を出しているから、ぜひ聴いてみたい”といった層から“ときどき、好きでレコードを購入する”という層まで、さまざまな人に手軽に楽んでもらえるだろう。
CDの登場によって、レコードの売り上げは2000年代にいったん底を打ったが、2010年代に入りレコード復権の兆しが見られ、日本でも20~30代の若年層を中心に人気が高まってきている。レコードを“新鮮”もしくは“味わいがある”などと感じてカジュアルに楽しむのは、すてきなことなのではないだろうか。
DP-400とDP-450USBを購入の上、キャンペーンに応募すると7インチの『デノンオリジナル・サウンドチェックディスク』がもれなくもらえる(2019年1月7日購入分まで対象)。チェック・ディスクとは、オーディオ・システムから音源が正確に再生されているかどうかを確かめるためのレコード。スイープ音などを収録する場合もあるが、『デノンオリジナル~』はtoeやthe HIATUSのドラマー柏倉隆史のドラム・ソロと、toeのサポート・キーボーディスト中村圭作との未音源化セッションを収めている。録音~マスタリングを手掛けた美濃隆章氏、カッティングを担当した日本コロムビアのエンジニア陣に取材し、制作工程に迫った。
“チェック・ディスクの機能を果たしつつ音楽としても楽しめるもの”……こういったコンセプトから出発した『デノンオリジナル~』。最終的には、柏倉のドラム・ソロ曲と中村圭作のピアノなどを含むフル・バンド曲が収録されることとなったが、音響面のポリシーはどのようなものだったのか? 美濃氏に尋ねてみると「定位の確認などがやりやすいよう、個々の音を奇麗に聴き取れる形で録りました」との答え。
「また、レコードにはCDよりも上の帯域まで入るはずなので、なるべくワイドな周波数レンジが得られるようにもしたんです。レンジ感は、あくまで耳でジャッジしましたが、AVID Pro Toolsのレートを32ビット/96kHzと高めにしたり、30kHzくらいまで入るマイクプリをドラムのトップや金モノに使うなど、ツールの面も工夫しました」
美濃氏が作った2ミックスは、32ビット/96kHzのファイルで日本コロムビアに納品された。カッティングに携わったのは、実作業を手掛けた田林正弘氏とテクニカル・サポートの冬木真吾氏だ。「より高い品質を目指し“ハーフ・スピード・カッティング”を行なったんです」と冬木氏。通常の半分の回転数でカットする手法で、現在では珍しい。「国内では、弊社を除いては、ほぼどこもやっていないと思います」と冬木氏は言うが、どのような恩恵があるのか? 田林氏が語る。
「ハーフ・スピードで切ると高域の再生精度が上がるんです。ただその分、全体のバランスが変わり、細く聴こえてしまうこともあるため、EQなどによる補正が必要になります」
2ミックスは自社製のDAWに読み込まれ、ハーフ・スピード・カッティング向けのEQ(RIAAカーブ)が施された。カッティングは通常、高域をブースト&低域をカットした状態で行なわれるが、今回はハーフ・スピードだったので、普段とは違うRIAAカーブを作る必要があったそう。その処理の後はいったんオーディオに書き出し、MAGIX Sequoiaにインポート。APOGEE Rosetta 200でD/Aしてからカッティング・マシンに送出した。冬木氏がこう続ける。
「半分の速さで回っている盤に2ミックスをオリジナルのテンポで切ると、元の速さで再生したときに倍速で聴こえてしまいます。なのでSequoiaからは1/2倍速で再生する必要があったのですが、タイム・ストレッチでテンポを変えると、どうしても音に悪影響が出てしまう。そこで、再生のクロックを半分にしたんです。DAWもRosetta 200のクロックも96kHzから48kHzに変えて再生したのですが、デジタルのハーフ・スピード再生はこの方法が安全で、音への影響が少ないと思います」
完成まで幾度もテスト・カッティングを行なったという。「アナログ・レコードの特性上、元のミックスの音をそのままカッティングするというのは、すごく難しいんですよ」と田林氏。
「そういうわけで、一度カッティングしたラッカー盤を聴いて、自社製のアナログ卓でアウトボードEQを触りつつ、最終的な音に追い込みました。EQの設定が決まったら、Rosetta 200→卓/アウトボード→カッティング・マシンというルーティングで、再びカットしたわけですね。ハーフ・スピードなので、例えば4kHzを変えたければ、EQ上では2kHzをいじらなくてはならなかったんです(笑)」
大変に興味深い手法で作られた今回のチェック・ディスク。DP-400/DP-450USB購入者は、制作プロセスに思いをはせながら、そのサウンドを味わってほしい。
本記事は、リットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2018年12月号』の記事を転載したものです。表紙特集は、EDMにおけるサビ=ドロップ作りにフォーカス。音楽プロデューサーbanvoxが手掛けた楽曲を元に、Masayoshi Iimori、MONJOE(yahyel/DATS)、Nor、浅倉大介が競作! 付録の中小規模スタジオ冊子(東京編)も必見です!! ぜひチェックしてみてください!
価格:¥70,000 (税別)
価格:¥58,000 (税別)
山田ノブマサ
ラブサイケデリコ、福山雅治、moumoonらを手掛けるレコーディング・エンジニア。オーディオ愛好家でもあり、普段からレコード鑑賞を楽しんだり、ハイレゾ音源に注力したamp’box Labelを主宰するなどしている。