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- 2024/11/16
ASTURIAS / DOUBLE TOP
九州の久留米市に本拠を置くアストリアスは、1962年にクラシック・ギターの工房としてスタート。それ以来、音の良さは言うに及ばず、安定した品質と弾きやすさを追求してきた老舗で、今ではアコースティック・ギターも高く評価されています。そのアストリアスが今回、ダブルトップにセミ・レイズド・フィンガーボードという、モダンなコンセプトを取り入れた新しいクラシック・ギターを開発したのでご紹介しましょう。
ギターの音の要となるトップ材には、軽量でしかも剛性が強いという、相反する特性が求められます。天然の材で伝統的な方法で作られたクラシック・ギターを超えるレスポンスと音量を実現するには、選び抜かれた材の単板を超える性能を持つトップ材が必要ですが、それを人工的に作り出したのがダブルトップです。極薄に仕上げた2枚の板を、中空部分を設けたうえで張り合わせてトップを軽量化することで、弦の振動に対するレスポンスの向上と音量の増大を図ろうというわけです。ダブルトップのギターを最初に作ったのはドイツ人ルシアーのマティアス・ダマンで、最初は中空部分を作るためのスペーサーにも木を使っていましたが、1995年にハニカム構造を持つNOMEX(ノメックス)というシートを採用し、より高性能なダブルトップを完成させました。板材を極薄に仕上げ、不要な振動を起こさないようにNOMEXをぴったりと挟んで接着するには、高い技術が必要です。アストリアスの技術があればこそ、実現できた方式だと言えるでしょう。本器のボディ・トップは、NOMEXを挟み込んだ極薄のウエスタン・レッドシダーで、ダブルトップならではのレスポンスの速さやガット・ギターとは思えないほどの音量感と奥行きを実現しています。なお、サイド&バックは単板のインディアン・ローズウッド、指板はエボニー、ブリッジはハカランダを採用し、トータルのサウンド・バランスも非常に良好です。
現代曲のような新しい音楽では、12フレットよりも高い音を使うことも多いのですが、伝統的なクラシック・ギターにはカッタウェイを付けないのが普通なので、ハイ・ポジションを弾くのに苦労します。これを解決するために考え出されたのが、レイズド・フィンガーボードです。1985年にアメリカのルシアー、トーマス・ハンフリーがミレニアムと呼ばれるモデルで最初に採用したレイズド・フィンガーボードは、ボディ・エンドからネックにかけてトップを傾斜させることで、結果的に12フレット以上の指板部分がトップから持ち上げられる(レイズド)形になっています。アストリアスの本モデルの指板は極端なレイズドではないので“セミ・レイズド”と呼んでいますが、ハイ・ポジションの演奏性の向上ははっきりと実感できるでしょう。さらに、ダブルトップ構造と相まって、ハイ・ポジションにおける高音弦の鳴りも際立っており、各弦の音量バランスの良さもポイントと言えます。
ダブルトップもレイズド・フィンガーボードも、もともとはコンサートでもPAやアンプを使わず、高度なテクニックを要求する現代曲を演奏する機会の多いクラシックのギタリストのために考え出されたものです。とはいえ、レスポンスや音量、ハイ・ポジションの演奏性の向上は、マイクで音を拾ったりピックで単音のソロを弾いたりするポピュラー系やジャズ系のギタリストにとっても、大きなメリットになるでしょう。
価格:¥500,000 (税別)
河野智美
こうのともみ●東京都出身。クラシカルギター・コンクール優勝のほか、東京国際ギターコンクール、アジア国際ギターコンクールなど国内外のコンクールで入賞した経験を持つ。CD『白い軌跡』、『祈り Oración』のほか、ジャズ・クラシックをコンセプトにした『Luxe リュクス』、初のオール・バッハ・アルバム『The BACH』をリリース。日本各地以外でも、ロシア、韓国、中国、タイ、イタリア、オーストリア、ボリビア、スペインに招かれコンサートやマスター・クラスを行なっている。昭和音楽大学非常勤講師。