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- 2024/11/16
Bose / S1 Pro Multi-Position PA system
数年前から自前でPA機材を用意し、音場作りと真剣に向き合ってきたクラムボン。ボーカル/キーボードの原田郁子のこだわりも相当なもので、自身が運営に携わる東京・吉祥寺の多目的スペース“キチム”にもボーズのPAスピーカー・システム、L1 Compact systemを導入している。そこで今回、カフェ、ギャラリー、ライブハウスなど、さまざまな顔を持つキチムで、同社の新たなPAスピーカー・システム、S1 Pro systemを体験していただいた。L1 Compactのテクノロジーを継承し、新たなコンセプトのもと開発されたS1 Proは、原田の目にどのように映ったのだろうか。
同社の定評あるPAスピーカー・システム、L1 Compact system/F1 systemのテクノロジーを継承し、新たなコンセプトのもと開発。4つの設置ポジションそれぞれで最適なサウンドを鳴らすことが可能となっており、PAスピーカー、フロア・モニター、楽器用アンプ、さらにはメインのミュージック・システムとしても活用できる。軽量かつ小型で可搬性に優れ、ミュージシャンのライブ活動を多角的にサポートしてくれる。全国の楽器店で試奏可能だ。
──L1 Compact systemをクラムボンで使用するようになったきっかけは?
酒蔵や洞窟といった、ライブ施設として使われていないユニークな会場でツアーをやるようになったころに、L1 Compactを購入しました。“あなたの町で、クラムボンのライブを観るとしたらどこがいいですか?”とお客さんたちから面白い会場を募集して、“ドコガイイデスカツアー”というツアーをやったんです。たくさんの町を回るためにはやっぱりコストを抑えたかったので、ハイエース1台にすべての機材、楽器、メンバー3人と最少人数のスタッフが乗れるようにしました。なので、“コンパクト”ということは私たちにとってとても重要だったんです。メイン・スピーカーとサブウーハー、モニター・スピーカーはL1 Compactというシステムでした。
──L1 Compactを選んだ理由はなんだったのでしょうか?
PAの西川(一三)さんとメンバーのミトくんが、当時販売していたスピーカーをいくつか試聴して選んだのですが、“サイドのカバー・エリアが広いこと”が決め手でもありました。ベースとドラムの間に1台、ドラムとキーボードの間に1台置いて3人で2個。生音と外音に溶け込みながら、補強してもらっていました。
──その後、こちらのキチムで使うようになったそうですね。
そうですね。このキチムのサイズ感だと、L1 Compactで外音を出しても十分網羅できるので、ほぼすべてのイベントで使っています。一番好きなところは、音が空間に馴染むこと。ステージと客席が分かれてなくて、生音も伝わって来るくらいの距離感で、親密な空間をつくることができる。この場所とL1 Compactはとても相性が良かったと思います。
──今回試したS1 Pro systemはどうでしたか?
いや〜、すごいですね。ここまでコンパクトになっちゃいましたか! コンパクトな上に軽い!って、移動の多い使い手としてはこんなに助かることはないです。持ち運びが楽で、スタンドを使えば高さが調節できて。さらに、縦にしたり、横にしたりして床に置いて傾けることもできて、メイン・スピーカーとしても、モニター・スピーカーとしても使える。それからバッテリーでも使用できるってすごいですね。痒いところに手が届くというか、すごく考えられていると思います。
──音質的にはいかがでしたか?
今回は、左右に1台ずつ置いて試しましたが、聴こえ方は素直な印象ですね。始めはミッド・ローの膨らみが気になるかなと思ったのですが、調整していくごとに自分の耳も慣れて、スッキリまとまってきました。今日はノードNord Stageのピアノやエレピで試させてもらいましたが、生ピアノらしい音色やアナログ・シンセ系の太い音も聴いてみたいです。楽器がもともと持っている音の性質がデフォルメされずにそのまま自然に鳴ってくれそうだなと思いました。このS1 Proは、50人くらい入るスペースをカバーできるとのことですが、そのくらいの小さな空間でこの音が味わえるのは贅沢ですよね。
──機能面など、ほかにどんなところが気に入りましたか?
ミキサー(T8S ToneMatch Mixer)を自分の手元に置いて、バランスの調整ができるというのもいいですね。例えばスタッフと一緒には回れないくらいの規模で、弾き語りで現地に行ったとき。自分も昔経験したことがあるんですが、雰囲気の良い会場なんですけど、行ってみたら音響設備が壊れていたりしてて、それに対応してくれる詳しい方もいない。開場時間が迫っていて、現地にあるもので何とかするしかない。“さて、どうしよう”と。そういうことがあっても、演者本人が操作できると、時間も短縮できるし、精神的にもだいぶ違ってきますよね。あと、Bluetoothワイヤレス接続にも対応しているということで、こちらもL1 Compactにはなかった機能ですね。例えば、開場中はBGMをiPhoneから流しておいて、ライブが始まるときに自分の手元で音量を下げるなんていうこともできますね。
──今、お話に出た8チャンネル・ミキサーのT8S ToneMatch Mixerの使い心地などはいかがでしたか?
難しくないのが、助かります(笑)。任せられるスタッフがいないとき、EQやレベル、エフェクターをライブしながらでも自分の手元で操作できるのはいいですね。セッティングをシーンにメモリーして呼び出すこともできるので、例えばライブでその日やる曲順ごとに作っておけば、切り替えながら演奏できる。カジュアルに、クオリティの高い音場を作り出せるのは、心強いです。
──PAシステムに困っている人は多いと思いますがどんな人にS1 Proをお勧めしたいですか?
飲食店などの小さなスペースを弾き語りしながら回っている方とか、逆にキチムのようにときどきライブやイベントを開催しているけれど、普段は飲食店を営業しているようなお店にも、音響設備としてもしS1 Proが入っていたら、さまざまな状況に対応できるんじゃないかなと思います。気持ち良く演奏してもらえるような環境を整えておいて、アーティストがいいライブをする。会場に来てくれた方とともに音楽を楽しむことができたら、こんなに嬉しいことはありません。
アーティストのために設計されたコンパクトな8チャンネル・ミキサー。イコライザー、ダイナミクス、エフェクトはすべてチャンネルごとに独立して設けられているため、自在にミキシングすることが可能だ。さらにボーカルや楽器のナチュラルな音色を引き出すボーズのToneMatchプロセッシングと、それに統合されたzEQを使うことで、思い描いた音質をその場で仕上げることができる。S1 Proをはじめとした同社のPAスピーカー・システムと組み合わせれば、細部まで入念に作り込まれた高品質サウンドが実現できる。
本記事は、リットーミュージック刊『キーボード・マガジン 2018年10月号 AUTUMN』の特集記事を転載したものです。
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原田郁子
1995年にクラムボンを結成し、歌と鍵盤を担当する。ソロ活動も行っており、これまでに4枚のソロ・アルバムを発表。他アーティストへの楽曲提供やゲスト参加、数々のCMソングも歌唱。2010年には写真家の妹らと吉祥寺に多目的スペース“キチム”をオープンさせる。クラムボンとしては2015年にメジャー・レーベルを離れ、以降音源はツアー会場や活動に賛同してくれる商店に直接流通する形で販売している。最新作は『モメント e.p.3』。