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- 2024/11/16
ESPカスタム・オーダー・ギター
「室長が、カスタム・ギター作ってるらしいぞ」
「室長って、なんだっけ?」
「ほら、いただろ、ギ●ー博士みたいな格好で、実験して失敗したりうまくいかなかったりする人だよ」
「ああ、なんかいたね」
……ちょちょ、大事な点はそこじゃなく、カスタム・ギターのところです! しかも、作ってるらしいじゃなく、作ってます! どんな話か、説明していきますね。
2018年、春。
私は、公園に行って鯉に餌をやったり、空き地に行って蟻の巣に棒を入れたりして日々を過ごしていました。デジマート地下実験室が前年の暮れに突然休載となり、その後、復活の様子もなく事実上の打ち切りになっていたからです。
そんなある日、1本の電話がかかってきました。
デジマート・マガジン編集部(以下、デジマガ)「室長、ご無沙汰しております。お元気でしたか?」
私 「いや、まぁ元気といえば元気ですけど……どうしたんですか?」
デジマガ「先日、たまたまESPさんと話をしていたら、『室長は元気なんですか? 何かご一緒できることがあれば……』とのことでして。久しぶりに、ESPさんと実験をしませんか?」
私 「ええー、ESPさんが! それはありがたいなぁ……。でも、実験といっても、もうねぇ……。じゃあ、こうお伝えください、『ESPさんで、これまでの実験結果を盛り込んだ世界で1本のカスタム・ギターを作らせてください。それで、その様子を公開しましょう』って。うははははは」
後日。
デジマガ「室長、あの話、決まりました」
私 「ええええええええっ?」
え、ええ? 決まったの? じゃあカスタム・ギター作る? 作っちゃおうか!? よし、作っちゃえ!! それじゃあカスタム・ギター製作、始めるよー!
この日、ESPの方々とデジマート・マガジン・チーム、そして先日まで蟻と戯れていた私で、初回顔合わせ。その場で、恐る恐る、切り出してみる。
私 「あのー、実は私、カスタム・ギターって作ったことないんですけど……」
ESP「はい、大丈夫ですよ」
私 「事前に聞いておきたいんですが、これはやっちゃダメとか、これはできないとかがあれば、教えて下さい」
ESP「できないことは、何もないんです。何でもできますよ」
な、何もないだとぅ? 信じられないけど、THE ALFEEの高見沢俊彦さんのギターを作っているメーカーだもんなぁ。説得力、ある。でも、なんでもできると言われると、それはそれでちょっと困るかも……。
ESP「だからこそ、室長がどんなギターを作りたいのか、はっきりとしたイメージや、きちんとしたゴールを持つことが大切なんです」
そうか、いくら技術的には「なんでも作れます」といっても、こちらの頭の中がクリアになっていないと無理だよなぁ。少し、時間をくださいということで、この日は解散。
世の中には、本当に良いギターがたくさんありますよね。その中で、カスタム・ギターを作る意味ってなんだろう? 例えば、自分が大好きなギブソンES-335。素晴らしいギターだと思います。大好きなフェンダー・テレキャスター。これも素晴らしいギター。でも、当然ですが、どれも私のために作られたギターではないんですよね……。そうすると、どこかで「自分をギターに合わせる」ところが出てきます。特に弾き心地に関してはそうで、例えばネック・グリップ、スケール長、コンター形状、フレットの高さ・太さなんかは、慣れに頼っているところがあります。……逆に言えば、カスタム・ギターではそういったところを詰めていけばいいのかも。
もうひとつ、音色に関してはすでに存在しているギターで結構満足しているんですが、何を弾いても「もうちょっと、こうだといいよなぁ」という感覚があるのも事実です。実際、今までビンテージも含めて少なくとも50本以上のギター(ちゃんと数えたこと、ありません……)を買って、売ってを繰り返してきたわけですが、100点満点というギターには出会ったことがありません。もしかすると100点満点は永遠に取れないのかもしれませんが、あとちょっとの差を埋めて限りなく100点に近づくには、私の場合、もうオーダーしかないのかもしれません。
最後に、見た目。自分の好きな形にできるというのは、やっぱりカスタム・ギターの醍醐味ですよね。でも、かっこいいデザインはすでに出尽くしている気もするし……。うーん、悩む。こうして、悶々とした日々が過ぎていきました。
この日はESPダイレクト・ショップに伺い、店長の榊原さんと仕様を詰めます。最初に少しお話をして、それからオーダーシートを見てびっくり! 正直、こんなに決めなきゃいけないことがあるの?とビビりました。
ですが、こちらにとっては初めてのカスタム・オーダーでも、向こうはプロです。悩んでいるところにはアドバイスをくれますし、わからないところやお任せでいいやっていう部分は、そう言ってしまえば、そこは最適なパーツや仕様を提案してくれます。それよりも、自分の好みをはっきりと伝えることの方が大事みたいです。そう思うと気が楽になり、「面倒臭い」が「楽しい」に変わってきました! 実はこの仕様決め、カスタム・ギター製作の最も楽しいところのひとつかもしれません。私もどんどん図々しくなり、ナットは第25回『ナットを交換するとギターの音はどう変わるのか?』実験で好みだと判明したブラスを、コンデンサーは第33回『コンデンサーを交換するとギターの音はどう変わるのか?』実験で好きになったJupiterを、そしてネック・グリップは第43回『ネックの太さでギターの音はどう変わるのか?』実験で最高の音だった角材に近いグリップでなどなど、好きなことを言わせていただきました。
さらに、音的にはESPの隠れ名器THROBBERが好みに近いことをお伝えしました。ちなみにTHROBBERとは、ソリッド・ギターの扱いやすさを持ちながら、ESP独自のSound Reservoir(サウンドリザーバー)というホロウ構造を取り入れ、独特のエア感やアタック感を実現したモデルです。これが、一般的なセミアコに比べれば幾分タイトでありながら、シンライン系のギターよりは芳醇という、非常にニッチなところを狙ったモデルなんですが、私的にはストライク・ゾーンど真ん中! ズバリ、名器だと思います。が、しかし、見た目に関しては個人的にダブル・カッタウェイが好きだから、THROBBERとは違ったオリジナル仕様のカッタウェイとオリジナル形状のホーンにしたいなど、言いたい放題。それをさらりと受け止める榊原店長、さすがプロ中のプロです!
さらにさらに、ボディには貴重なコア材を使いたいと言ったところ、なんと今回は特別に、ESPの工場で材を選ばせてもらえることに!! くううう、この時ほど地下実験室をやって良かったと思ったことはありません!
やってきました、ESP新東京工場! この日は工場長の小林さん直々に工場内、そして秘密の木材倉庫を案内してもらえるという幸せ! 早速内部を見せていただくと、あるわあるわ、お宝の山です! フィギュアード・メイプル、キルテッド・メイプル、リンバウッド、エボニー、ウェンジなどなど、希少材、それもめったにお目にかかれないほど見事な杢や色味のものが倉庫で眠っております。
そして目当てのコア材も、すんごいのを発見!! これだーっ! これですこれです、これでお願いします!! さらにネック材、指板材も選ばせていただき、もう大満足です! ……ところで、木材倉庫、そしてギターの製作現場を見せていただくと、当たり前なんですけどギターは木で出来ているということを強く感じます。つまり、植物とはいえ命を貰って出来ている楽器なんですね、ギターって。いやぁ、ありがとう、大事にしなければなぁと心から思ったことも付け加えておきます。
材も決まって、再びESPダイレクト・ショップにお邪魔しました! 今回は、ギターの図面を見せていただきました。ダブル・カッタウェイのオリジナル・シェイプなんですが、ES-335好きの私としてはカッタウェイのホーンの形状にこだわっておりまして、この手のギターにしては丸みのある、大きなホーンが特徴です。あー、はやく実物が見たい、ワクワクする!
そして、気になる値段についても、思い切って聞いてみました(通常のカスタム・オーダーでは、もちろん、もっと早い段階で値段の相談が出来ます。しかも、見積もりまで、相談は全て無料だそうです。今回は、あえて値段を聞かずにここまで言いたいことを言わせてもらいました!)。榊原店長いわく、「うちはお高いですよ」とのこと。その言葉の裏には、“夢の1本を一緒に作っているんだ、安い夢見てどうするんだ”という心意気があるようです。「これなら、むしろ安いですよー」とか言いつつふっかけてくるより、よほど良心的ですね。で、えーとおいくらなんでしたっけ? 価格を聞いて思わずマスクに手をかけてしまいました。
な、なんですとーっ!?
以下、次回に続く……
室長の“夢のギター”完成に合わせて、2018年10月19日から3日間、東京ビッグサイトで開催される「2018楽器フェア」のESPブースにて、お披露目イベントの開催が決定しました! 実際どんなギターになったのか? 気になるサウンドやプレイアビリティは? などなど井戸沼室長の超絶デモ演奏とESP 榊原伸英店長との対談を交えながら、製作の過程とカスタム・オーダーの魅力に迫ります。イベントの詳細は、後日このページでもお知らせしますので、お楽しみに!!
◎日時:2018年10月19日(金)16:00〜
◎場所:2018楽器フェア ESPブース
※イベントは無事終了しました、たくさんのご来場どうもありがとうございました(2018年10月22日追記)
心から満足できるギターがほしいけど、カスタム・オーダーはハードルが高い……と考えているプレイヤーは多いと思います。ですがいざ相談してみると、最初は漠然としていた考えをESPのスタッフが親身になって一緒に形にしていってくれるので、カスタム・オーダーの門戸の広さと、夢を実現するプロセスの楽しさと自由さを実感できるはずです。もちろん予算に合った提案もしてくれるので、興味がある方は、まずは気軽に無料の見積もり相談をしてみることをオススメします。
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井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。