AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Martin / 00-45、OM-40、D-18
好評連載MARTIN TIMES。23回目となる今回も、前回&前々回に引き続きマーティンのカスタム・モデルを紹介します。今回は、マーティン社がレギュラー・モデルとは異なる自由な発想でデザインしたユニークなモデルの登場! ワタナベ楽器、三木楽器、平野楽器 ロッキンが仕入れたマーティン渾身のギターのサウンドやルックスを、お馴染み斎藤誠氏の演奏でお楽しみください。
個性豊かなカスタム・マーティンをご紹介する企画。第3弾となる今回は趣向を変えて、楽器店や個人のオーダーによるものではなく、マーティン社がレギュラー・モデルとは異なる自由な発想でデザインしたユニークなモデルを取り上げよう。これらは、毎年恒例のファクトリー・ツアーで本社を訪問した、日本の各ディーラーが仕入れたものである。
創業70年を越える京都の老舗ワタナベ楽器店に入荷したのは、指板の豪華なインレイが鮮やかな12フレット・ジョイントの00-45で、古き良き時代のパーラー・ギターの香気を湛えた逸品。楽器販売190年の歴史を誇る大阪の老舗三木楽器の入荷モデルは、OM-40という少々珍しい型番もさることながら、ダークな雰囲気を帯びたその装飾にはメタル系のセンスが感じられる。そして、地区唯一のギター&ベース専門大型楽器店として知られる愛知県の平野楽器 ロッキンは、マーティンとしては異例のカラーリングを施した現行17シリーズのデザインを採用し、しかもスロープ・ショルダーという珍しいD-18をゲット。
マーティン社は老舗であり、定番のモデルに根強い人気があるが、こうした自社企画のカスタム・モデルを見ていると、そこには旺盛な実験精神やユーモアが感じられる。今回は、そんなマーティンの意外な側面を楽しんでいただければ幸いだ。
日本のギター・ファンの間では森山良子の愛器としても知られる00-45だが、本器は通常仕様でさえ豪華なスタイル45の装飾に加えて、指板全体に“ツリー・オブ・ライフ”と呼ばれる華やかなインレイが施されている。古風なスロッテッド・ヘッドのトーチ・インレイと相まって、きらびやかでありながらあくまでも上品な外観を持った1本である。トップ材のアディロンダック・スプルースもボディ材のグァテマラン・ローズウッドもプレミアム・グレードで、見た目も素材もカスタム45の名にふさわしいものになっている。
[ワタナベ楽器の詳細はこちらから!]
【Specifications】
●トップ:アディロンダック・スプルース ●サイド&バック:グァテマラン・ローズウッド ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:24.9インチ(632.5mm) ●ナット幅:1 7/8インチ(47.6mm) ●トップ・ブレイシング・パターン:ゴールデン・エラX・スキャロップト ●価格:¥1,400,000(税抜き)
これは指弾きしたくなるギターだったので、最初から最後までずっと指弾きの曲を選びました。もちろんピックでのストロークも素晴らしいんですが、フワーッとしたアルペジオを聴いてもらうほうが個性は引き立つと思ったんですよね。音の立ち上がりが速くて余分な雑音やサステインがないので、鳴らした音の太い部分が全部聴こえます。それがまた遠鳴りの良さにもつながっていると思いますし、タッチの変化やミュートといった演奏の細かいニュアンスも明瞭に再現してくれますね。ショート・スケールだけれどしっかりしたテンション感があるのは、スロッテッド・ヘッドと、ブリッジ・ピンとサドルの距離が短いピラミッド・ブリッジの相乗効果でしょうか。
スタイル40という珍しい型番は過去にも存在しているが、本来はボディ上の指板の周囲にインレイがない仕様なので、装飾の点ではスタイル42に近い。とはいえ、このモデルの個性は既存のデザインを基本としながらも、本来はパール・ホワイトの部分をブラックに変更し、ダークな雰囲気を醸し出しているところにある。指板とブリッジにはフィギュアド・ブロンド・エボニーという明るい色の材を選択し、ダークなインレイを引き立てている。トップにはイタリアン・アルパイン・スプルースを、サイド&バックにはココボロをそれぞれ採用。
[三木楽器の詳細はこちら!]
【Specifications】
●トップ:イタリアン・アルパイン・スプルース ●サイド&バック:ココボロ ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:フィギュアド・ブロンド・エボニー ●ブリッジ:フィギュアド・ブロンド・エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX・スキャロップト ●価格:¥1,197,000(税抜き)
マーティンでは見たことのない色とルックスで、装飾のアバロンもブルーの部分が多いものを使っているような感じがします。ヘッド・プレートは杢目に凝ったブック・マッチで、ココボロの杢目もコーヒーにミルクを入れたような複雑な模様になっています。全体的なデザインはちょっとゴシックな雰囲気も感じるので、メタルの人がアコースティックなものをやる時にこのギターを使ってもカッコ良いんじゃないでしょうか。あと、この個体はセットアップも最高に決まっていて、指板に指が吸い付くような弾き心地です。デモ曲では指弾きが途中でピック弾きのストロークに替わるものを選んだのも、このギターがものすごく弾きやすかったからです。
現CEOであるクリス・マーティンIV世のアイディアを基に製作される、“CEO”と呼ばれるモデルに通ずる要素を持った1本。ブラックのカラーリングは現行の17シリーズに似通った雰囲気を持つが、仕上げはサテンではなくフル・グロスとなっている。マーティンのロゴもCEO自身のデザインによる純正だが、丸みのあるスロープ・ショルダーのボディを持つこのD-18は、ある意味“マーティンらしからぬマーティン”と言えそうだ。CEOモデルにふさわしく、トップにはアディロンダック・スプルース、ボディにはジェニュイン・マホガニーと、用材は第一級である。
[平野楽器の詳細はこちらから!]
【Specifications】
●トップ:アディロンダック・スプルース ●サイド&バック:ジェニュイン・マホガニー ●ネック:ジェニュイン・マホガニー ●指板:イースト・インディアン・ローズウッド ●ブリッジ:イースト・インディアン・ローズウッド ●スケール:24.9インチ(632.5mm)●ナット幅:1 11/16インチ(42.9mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX・スキャロップト ●価格:¥483,000(税抜き)
しかしまあ、よく作りましたね(笑)。ロゴまではさすがに似せていませんが、斜めにすることで“それっぽい”雰囲気を出しているんでしょうか。ネックの握りもすごくコンパクトな感じで、そこまでやるかと思いましたが、こちらはフル・シックネスのVシェイプなので、厚みと幅のバランスなんでしょう。音がとても太くて、スロープ・ショルダーの効果なのかどうかはわかりませんが、某メーカーの(笑)音色に似たところも感じられるんですよ。それで、ちょっとこの荒くれたサウンドに合わせて、デモ曲にはブギーを選びました。とはいえ、ロング・スケールでボディをちゃんと鳴らしきっているあたりは、さすがにマーティンのドレッドノートですね。
今回はバリエーションの幅がものすごかったですね。00-45は日本だと森山良子さんのイメージが強いですが、今はああいう小ぶりなギターのアルペジオでフワーッとした歌を聴かせる弾き語りのアーティストが少ないんですよね。この手のギターが人気の中心的な位置にいないのはそういうところにも理由があると思いますが、45に限らず、こういうギターで弾き語る女性アーティストがもっと増えてほしいですね。で、僕が持っていた0-21もこれに近い感じで、ものすごく私的な音楽を一緒に作ってくれているような気持ちにさせてくれるんですよ。OM-40はとてもモダンな演奏性で、指にもやさしい。90年以降に出てきたようなブランドの新しいコンセプトのギターも、ただ否定するんじゃなく、ちゃんと研究してるんだろうなと思わせるところがあります。僕のメインのOMとは全然違っていて、スタジオ録音でコンプレッサーをかけたみたいに、強く弾くと良い感じに音がつぶれてくれるんですよ。あとはオーセンティックみたいなギターを好む人とはまったく違う人たちも視野に入れているところがおもしろいですね。スロープ・ショルダー・ボディのD-18はジミー・バフェットが弾いている写真を見たことがありますが、こんなモデルも作るというマーティンの懐の広さというか、視野の広さを感じました。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したのをきっかけに音楽界デビューを果たす。
1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポート・ギターを始め、数多くのトップ・アーティストの作品への楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。
2018年4月18日、MARTIN GUITARのラジオCMでお馴染みの斎藤誠の新曲「It’s A Beautiful Day」がニュー・シングルとしてリリースされた。また、本人名義のライブ活動の他、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務め、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンド、卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!