AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Bose / S1 Pro
デジマート・マガジンでも多くのミュージシャンに体験してもらい、大きな反響を呼んでいるボーズのポータブルPAシステム“S1 Pro”。それぞれ異なる楽器やスタイルでそのクオリティを実感してもらったが、今回は日本屈指のセッション・ギタリストであり、近年はメジャー・ソロ・アルバムをリリースするなど、さらに活動の幅を広げている小倉博和に使用レビューを願った。以前よりボーズの愛好者であり、“L1 Compact”をライブで愛用している小倉に、S1 ProとL1 Compactを組み合わせた独自のライブPAシステムを構築してもらい自身の楽曲を演奏いただいた。その驚くほど高音質なライブを聴けば、ボーズのPAシステムがいかに優れているかがよくわかるはずだ。早速動画からチェックしてほしい。
今回の収録では、基本の音作りをアウトボードで行ない、2台のS1 Proからステレオ出力している。さらに両サイドには、バック・トラックを鳴らすためのL1 Compactも2台用意。合計4台のボーズ製スピーカーを使用したライブPAシステムで、自身のアルバム『GOLDEN TIME』から「秋-Harvest Season-」を演奏してもらった。
ボーズから新たに登場した “S1 Pro”は、本体の質量が7.1kgと、簡単に持ち運べるほど軽量コンパクトなポータブルPAシステム。出力は60Wながら、そのサウンドにはかなりの迫力があり、小規模なライブハウスであれば、これ1台で十分だろう。本体には3チャンネルの入力があり、Ch1、Ch2はマイクや楽器をダイレクトに挿せるXLR/フォーン・コンボ端子となる。Ch3は3.5mmのミニ・ジャックとBluetoothにも対応可能。効きの良いEQ、質の高いリバーブも付き、音作りも容易だ。さらに“ToneMatch”と名付けられた機能は、楽器に合わせた最適なEQがワンタッチで得られる。加えて驚いたのは、設置ポジションを本体が感知し、自動的に音質を補正するオートEQも搭載している点。さらに当初はオプションだったバッテリーも、2018年7月6日より標準装備になった。バッテリーは、通常使用で最長11時間使用でき、野外ライブなどさまざまなシチュエーションでも重宝する。
──2台のS1 Proをお使いですが、どのように使用していますか?
おもにライブで、専用のライブ・システムでサウンドメイクした音を出力するのに使っています。大きなステージではモニターとして使いますし、今日の取材場所、ネイバーのようなライブ・ハウスでは、ギターのメイン・スピーカーとして活用しています。今日みたいに、もともと使っていたL1 Compactと合わせ技で使うことで、幅広いシチュエーションでライブができるようになりました。S1 Proはバッテリー駆動もできるから、設置の自由度もあるので、かなり重宝していますね。自宅では、直接プラグインして使っています。
──S1 Proの印象を教えていただけますか?
初めて使った時、こんなポータブルPAがあったらいいなと、ずっと思ってきた製品がついに出たと感じました。これが7万円台で買えるのが、かなり驚きです。同様の製品はあったと思いますが、S1 Proはその中でもずば抜けていますね。とにかく音がいい!
──たしかに今日の演奏を聴いても、その音質には驚きました。
おそらく、6インチ・ウーハーの前に2.25インチのスピーカーを3個配置する独自のアレイ・システムが、音質や音像の良さに繋がっていると思う。高域と低域のスピードがそろっていて、指向性がハッキリしていて、クリアな音像が得られます。それにエンクロージャーの材質がすごく良くて、中高域に艶を生んでくれます。スピーカー・ユニットの取り付けも強固で、フレーム自体の剛性が高くて、箱鳴りもコントロールされています。だから豊かで音が散らばらない、締まった低域が出て気持ちいいですね。よく考えられた設計だと思います。
──だからこそ、小倉さんがお使いの貴重な1939年製マーティン000-42のサウンドも美しく再生されるんですね。
S1 Proは、アコースティック・ギターの繊細な音の特徴を、プラグインしただけでも再現してくれます。それにレンジ全体で、ブーミーなピークがないから、フラットで密度の濃いサウンドが出ますね。
──S1 Proを使うのは、今回のようにアコースティック・ギターがメインでしょうか?
アコースティック・ギターだけではなく、エレキももちろん、ライブではガット・ギター、バンジョー、ウクレレ、すべての楽器をアウトプットします。それぞれの楽器は、ボディの大きさや構造も異なるので周波数特性やピークも違っています。それらすべてをS1 Proだけで出力しても、無理なくリファレンスできます。これはスゴい。音作りにも素直に細かく反応してくれるので、いろんな楽器をストレスなくサウンドメイクできます。エフェクターのかけ過ぎもなくなりますね。
──なるほど。ストレスなく音作りができるんですね。
サウンドメイクは、なかなか手間がかかります。だからこそ、リファレンスで使うモニターは、とても重要です。そういう意味でも、S1 Proのサウンドは理想的です。かなり開発に時間をかけ、しっかり熟考されて発売されたことがよくわかります。
──音作りはギタリストの生命線とも言えますからね。
音を作るということは、自分のイメージと機材が深く向き合っていくことなんです。だから使う機材はとても大事。隅々まで整頓されている良い製品だと、サウンドメイクもそれに伴い、自分のイメージを超えていくことができます。それこそ、まさに音楽の作り手と製品を作るエンジニアのイメージが、化学変化を起こす瞬間だと思います。もっと言えば、ハード(楽器や音響機器など)が進めば、ソフト(音楽や演奏)も自然に進化していくもので、互いにそこを突き詰めていく中で、新しいアイディアが生まれてくるんだと思います。エレキ・ギターがロック・ミュージックを誕生させたように。
──すごく大切な視点だと思います。そういう意味では、ボーズの製品群はすごいですね。
ボーズ社は、昔からそういうことに優れていたと思っています。僕は、ずっと小さなボーズのスピーカーを使っていて、それを旅に連れていってギターを繋いで弾いています。もっと前は、ボーズのラジカセ(AWMS)を使っていました。まだ出たばかりの頃(藤井)フミヤくんとふたりで、“本当に、これはすごい”って驚きましたね。今でも大事にしています。
──機能性もそうですが、デザインも秀逸ですよね。
ボーズはデザインもそうだし、音質や機能面も妥協なく突き詰めることをやり続けている会社だと思う。僕らミュージシャンもそうありたいと思うわけで、だからこそ、そんな心意気が詰まった製品に触れた時には、“これ、これ!”っていう気持ちになる。ボーズはそれをすべての製品群でやっているのがスゴい。ある意味、ボーズ自体がアーティストとも言えますね。それはギター・メーカーで言えばマーティン社とか、僕の大好きな家具職人のジョージ・ナカシマもそう。もちろん僕自身も、常にそういう姿勢であり続けたいと思っています。今回、発売されたS1 Proは、まさにその姿勢がシンプルに結実した結果生まれた、理想の製品だと感じています。これからも、ライブを中心にずっと使っていきたいと思わせてくれるスピーカーです。
本記事は、リットーミュージック刊『アコースティック・ギター・マガジン 2018年9月号 Vol.77』の特集記事を抜粋・転載したものです。表紙巻頭では、世界の名だたるアコースティック・ギター製作家100人をピックアップ&紹介する「世界の名匠100」特集を展開。そのほかにも、新たなアコースティック・ギター構造Vクラス・ブレイシングを採用したギターを発表した「Taylor Guitars」の特集などを収録した注目の1冊となっています。ぜひチェックしてみてください!
価格:¥78,000 (税別)
小倉博和(おぐら・ひろかず)
ギタリスト/アレンジャー/サウンド・プロデューサーとして桑田佳祐、福山雅治、森山良子、大貫妙子を始め、日本を代表するトップ・ミュージシャンのレコーディングやライブなどに参加。アコギ・ユニット、山弦。小林武史、桜井和寿らとのbank band。武部聡志、スガシカオとのkōkuaでの活動でも広く知られている。2016年には、1939年製の貴重なマーティン000-42で弾かれたメジャー・デビュー作『Summer Guitars』をリリースし話題となった。