セイモア・ダンカンが力を注ぐエフェクター部門の人気モデル
805 -Overdrive-

　セイモア・ダンカン……ピックアップ・ブランドとしての地位は確固たるもので、ギタリストやベーシストでその名を知らないという人はいないだろう。しかし一方でダンカンはピックアップだけでなく、過去にはブランド名義でギターやアンプも製作しており、マニアックな視点で開発された機材はマス・プロダクトでは作れない個性的なサウンドを持っていた。その確かなクオリティから、現在でもファンが多いことは意外と知られていない。

　そのダンカンだが、数年前からエフェクター周辺でもかなり活発な活動を展開している。オン・ボード・プリアンプをペダル型に再構築したようなシンプルなブースターから、ブルース・サラセノの父であるアレックス・サラセノが製作するDirty Boyペダルとのコラボで発売したファズ・ペダルなど、知る人ぞ知るコアなアイテムを生み出している。また、アナログ・ペダルだけでなく高品質なディレイなどもラインナップしており、「ピックアップ・ブランドがちょっとペダルも作ってみた」というような軽いノリでなく、かなり力を注いでいる部門だと見ることができるだろう。

　そんなダンカンのエフェクター・シリーズの中でも、ギタリストの間で特に好評なのがこの『805 -Overdrive-』（読み：エイト・オー・ファイブ）というオーバードライブ。モデル名から想像できるように、いわゆるTS系ペダルなのだが、かなり絶妙なチューニングが施されている。

Seymour Duncan / 805 -Overdrive-

電池の交換がしやすいようにホルダーが設置されているのもうれしい仕様だ

クリーン・ブーストからリード・トーンまでカバーするゲイン幅と
使い勝手の良い3バンドEQ

　まずは、TS系と言えば欠かせないクリーン・サウンドのミックス具合。特にハムバッカー搭載ギターでTS系ペダルを弾くとよくわかるが、歪みの中にクリーン・サウンドが混ざるようになっている。このクリーンをどの程度ミックスするか？というのは、けっこう重要なこと。805のクリーン・ミックスは歪みを上げていった際に違和感がないようにデザインされており、ロー・ゲイン・セッティングでもハイ・ゲイン・セッティングでも、音のキャラクターが変わらないのがうれしい。歪み具合も、クリーン・ブーストにも使えるロー・ゲインから、メタル・サウンドの中で際立つリード・トーンにまで対応する深いところまでカバーしてくれる。

ジャックは筐体上部にまとまっている。電源は9〜18Vまで対応

　さらに特筆すべきが3バンドのEQだろう。まさにエレクトリック・ギター・サウンドを知り尽くしたダンカンならではのチューニングだと言える。BASSは迫力を、MIDDLEは存在感を、HIGHは音ヌケを調整するというのは当たり前だが、この805のEQの利きは、特にミュージシャン寄りのチューニングになっていると言えるだろう。

　これによりブースター的な解釈で使用した際に非常に使い勝手が良く、スタンダードなサウンドメイクはもちろん、7弦ギター使用時や、ダウン・チューニングで音像をクッキリとさせたい時、深いドライブ・サウンドの中で「さらにもう一段ゲインをアップさせたい」という時に威力を発揮してくれるだろう。動画でも紹介しているが、ファズなどをブーストする場合でも非常に使い勝手が良い。

　また、ブーストの解釈はビンテージ・スタイルのギター／アンプと相性が良いだけでなく、昨今のハイ・ゲイン・ギター・アンプともすこぶる相性が良い。モダン・アンプは非常にワイド・レンジで深いドライブ・サウンドが簡単に得られるが、同時にレンジが広すぎて「音の芯」が見えづらいという特徴もある。しかし、先進的なギタリストの多くがこの広がりすぎたレンジを、805のEQや、805を信号が通過した際に生じる「適度なロー・カット効果」をうまく利用して、ハイ・ゲイン・サウンドの「音の芯」を引き出している。805をオンにすることで低域はスッキリしても、LOW EQでグッと迫力が出せる。MIDをあげてHIGHを少しカットすれば、リード・サウンドをさらに際立たせることも可能だ。爆音の中で自分の音をもっと聴かせたいというLOUDERな皆さんにも、ぜひオススメしたい。