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- 2024/11/16
電子楽器
デジマート・マガジンをご覧の皆さんはじめまして。Yebisu303と申します! テクノ/アシッド・ハウス/エレクトロなどのトラック制作をするかたわら、さまざまな演奏動画をInstagramやYouTubeへ投稿しています。これから6回にわたってハードウェア機材を用いたライブ・パフォーマンスの方法論をテーマに連載させていただくことになりました。組み合わせや使い方次第で無限に広がるハードウェア機材の楽しさをあらゆる角度からお伝えいたします!
今回はドラムマシンとモノフォニック・シンセというシンプルな構成で、“オールド・スクール・エレクトロ”という音楽スタイルに挑戦します!
ドラムマシンRoland TR-808をメインに、イギリスの電子音楽とアメリカのファンクが融合して生まれたジャンルです。1982年にAfrika Bambaataa(アフリカ・バンバータ)がリリースした“Planet Rock(プラネット・ロック)”に始まり、イギリスやアメリカ・デトロイト、日本などさまざまな地域で独自のスタイルが開花しています。
そのほかのオススメなエレクトロをSpotifyプレイリストにまとめてみましたので、興味がある方は是非こちらもチェックしてみて下さいね。
フィルターの発振音やアナログ・シンセが持つ音色のクセを積極的に生かしたものが多く、音作りの研究対象としても非常に面白いジャンルと言えます。
Rolandが1980年代に発売した伝説の名機TR-808、TR-909を現代の技術でよみがえらせたドラムマシン。また拡張キット7X7-TR8によりTR-707/TR-727/TR-606のサウンドを追加することもできます。
最近は、後継機種TR-8Sが人気を博していますが、リアルタイム・パフォーマンスをメイン・コンセプトとし、名機の魅力をシンプルな操作感に落とし込んだTR-8は、さまざまなスタイルに対応する現代的なリズムマシンのひとつの到達点と言えるのではないでしょうか。本体重量1.9kgと、このサイズのドラムマシンの中ではダントツに軽いのもうれしいですね!
TR-8Sの発売により、中古市場での価格相場も徐々に下がってきているようですので、安価に高品質なドラムマシンを手に入れたい人にオススメですよ!
Pioneer DJとDave Smith Instruments(以下、DSI)のコラボにより生み出されたモノフォニック・アナログ・シンセです。DSIが2015年に発売したProphet-6と同等のパワフルな音源部が、コンパクトなボディにギュッと凝縮されています。個人的にもProphet-6は分厚くて艶やかな音色が大好きで愛用していますが、AS-1はその魅力を存分に受け継いでいます! また、高品質なデジタル・エフェクトが2系統使える点も心強いです。
ダンス・ミュージック・シーンをリードするPioneer DJが開発しているだけあって、内蔵されている495種類ものプリセット・サウンドは、どれも即実戦投入可能なクオリティの高さ! 音色とパターンがセットで用意されているので、シーケンスを再生するだけでトラック制作のイマジネーションをかき立ててくれます。個人的にはファンクで多用されるような粘りのあるベース・サウンドがお気に入りです。
それではさっそくこの動画の中でどんなことをしているかをお話していきます!
今回はMIDIを使用せず、AS-1に搭載する“Seq Jack Mode”を使って2台を同期させています。これは“あらかじめAS-1に打ち込んでおいたシーケンスが、トリガー・イン端子に音声信号が入力されるたびに1ステップずつ進む”という機能です。AS-1のトリガー・イン端子には、TR-8のアサイナブル・アウト端子から出力したハイ・タムの音声を入力し、トリガー信号として使用しています。
つまり、動画の冒頭から頻繁にTR-8を触っているのは、ハイタムの打ち込みをしてAS-1のシーケンスのステップの進み具合をコントロールしていたというわけなんです。動画の2:30あたりをご覧いただきたいのですが、TR-8の打ち込みの数が多くなるほどAS-1のシーケンスが多く走り出しているのが分かるはずです。
AS-1のSeq Jack Modeの設定方法
①[GLOBAL/WRITE]ボタンを押す。
②[PARAM/CATEGORY]つまみを回し、パラメータをNo.20の「Seq Jack Mode」に合わせ、設定値を「Trigger」に設定する。
③設定後にシーケンサーの再生ボタンを押す。
なお、このテクニックを使う際には2つの点に注意してください。
Seq Jack Modeには、あらかじめ音量がこのラインを超えたらシーケンスを進めるという“しきい値”が設けられています。トリガー信号に使用する音色のディケイが長過ぎたり、入力レベルが小さすぎると、ステップがきれいに進まなかったり逆に一気に進みすぎてしまうなど、意図しない挙動になる場合があります。これらを踏まえて、実際にAS-1のシーケンス動作を確かめながら、TR-8側で微調整しましょう。
TR-8のパート音量を変更する方法
KITモードが選択されている状態で任意のパートボタンを押したまま、TEMPOダイヤルを回す(音量のレベルがLEDに表示されます)
TR-8の目玉機能SCATTER(スキャッター)は、まるで波形をチョップしたかのような効果を加えてくれる楽しいエフェクトです。工場出荷時の[ON]ボタンの設定は、押すたびにON/OFFが切り替わる設定(ラッチ)になっていますが、押している間だけ効果がONになる(アンラッチ)に設定すると、OFFにする手間が省略できるので、ほかの操作と並行しながらタイミング良くSCATTERの効果を加えることができます。
SCATTERの[ON]ボタンをアンラッチにする設定
①[PTN SELECT]ボタンを押しながら電源を入れる(システム設定モードに入る)
②パッド[5]を押し、LEDを点灯させる
③[START/STOP]ボタンを押して設定を保存する(自動的にTR-8が再起動します)
さらに、[DEPTH]ボタンを押しながら[ON]ボタンを押すと、[ON]ボタンを押したタイミングから現在再生されているパターンの最後までONになるという挙動になります。動画の4:05付近では、AS-1のフィルターの開閉とSCATTERをからめながら“キメ感”を演出しています。
例えば、曲の展開でフィルイン的に使いたい場合は[DEPTH]ボタン+[ON]ボタン、キックの裏拍にだけ瞬間的に掛けたい場合は[ON]ボタンだけといった具合に使い分けできると、パフォーマンスのキレがぐっと上がりますよ。是非お試し下さい!
AS-1はたくさんのプリセット・プログラムを本体に保存し、ツマミで瞬時に呼び出すことができますが、いざ演奏する曲の展開に合わせて異なるバンクに散らばったプリセットを呼び出すのは少々手間がかかります。
そこで、そんな悩みを解決してくれるのがクイック・プログラム機能です。この機能を使うとあらかじめ鍵盤に割り当てておいたプリセットを、[SHIFT]ボタンと[LATCH]ボタンを押しながら鍵盤に触れるだけで瞬時に呼び出すことができます。動画の中では1:15、1:55、3:40、5:00付近で活用していますよ。
クイック・プログラム機能設定方法
①[GLOBAL/WRITE]ボタンを押す
②[PARAM/CATEGORY]ツマミを回して、[Quick Program]画面を表示させる
③[VALUE]ツマミを回して、クイックプログラムをアサインする鍵盤を選ぶ
④[SHIFT]ボタンを押しながら[PROGRAM/BANK]ツマミを回して、各鍵盤にアサインするプログラムのバンク番号を選ぶ
⑤[SHIFT]ボタンから指を離してから[PROGRAM/BANK]ツマミを回し、各鍵盤にアサインするプログラムを選ぶ
“ボタン2つ同時押し+鍵盤”という操作は、ボタン同士の距離が短いので慣れれば左手だけで操作できるようになります。ぜひ挑戦してみて下さい!
TR-8には、リバーブ・セクションとディレイ・セクションにそれぞれ8種類のエフェクトが搭載されていて、その中にはフランジャーやビット・クラッシャーが付加されたタイプも用意されています(エフェクト・タイプ一覧はこちら)。いかにもデジタルといった感じのくっきりした音像のものから、アナログ・ライクな丸みのある響きを持ったものまで幅広いアルゴリズムがそろっています。曲調に応じて相性の良いものを探してみましょう!
動画の中ではリバーブ・セクションから“No.3 16 Note Pre Delay”、ディレイ・セクションから“No.7 Stereo Flanger”を使い、時間経過と共にエフェクトの量を増やしていくことで実験的な雰囲気を演出してみました。
AS-1には、フィルター(カットオフ/レゾナンス)、エンベロープ(アタック/ディケイ)、LFOといった主要なパラメーターをツマミで直感的にコントロールすることができますが、さらに詳細なパラメーターも本体だけで調整が可能です。とはいえ、ボタンとツマミを組み合わせながらのパラメーター調整はやはり作業効率は低くなってしまいがちですよね。そこでオススメしたいのが、Soundtower Inc.が無償公開しているエディター・ソフトTORAIZ AS-1 Editor LEです。
このように、コンピューターにAS-1をUSBで接続するだけで、プログラムの音色エディットやシーケンサーのパターン作成、バンク/プログラムの管理、さらに前述のクイック・プログラム機能の設定などが簡単に行なえますので、ぜひ活用してみて下さい。
いかがでしたでしょうか? 初めてこの2台の組み合わせにチャレンジしましたが、予想以上に相性の良いコンビだと感じました! 出音の素晴らしさや内蔵エフェクトの豊富さはもちろんのこと、AS-1のアウトプットをTR-8の外部入力端子(External In)につなげることで、ミキサーいらずのライブ・セットを構築できる点が個人的に気に入っています。ツマミやタッチ・スライダー、SCATTERボタンなどで即座に変化をつけられるパフォーマンス性もポイント高いですね。
最後に、アウト・テイクをご覧いただきながらのお別れとなります。それではまた次回お会いしましょう!
Yebisu303
トラックメイカー。20代後半よりトラック制作を開始。無類のハードウェア機材愛好家でもあり、日々マシンライブを行う傍らで演奏動画をYouTubeへ投稿している。アナログ・シンセサイザー"KORG monologue"のプリセット製作を担当。