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- 2024/11/16
KORG / D1
コルグから、とてもリーズナブルでしかも本格的なデジタル・ピアノ、D1が発売された。コルグ最高品質の鍵盤を搭載しながら、実売価格はなんと5万円を切るという。シンプルでスタイリッシュなこのD1の、スペックや音色、使用感などをレビューしていこう。
まず目を引くのがそのスリムさ。奥行き約26センチ、バンド向けのピアノとしては最細ではないだろうか。88鍵なのにとてもコンパクトに見える。ボディは艶消しのブラックをまとった木製で、触った感触も少しザラついていてなかなかの高級感だ。パネルも黒一色でカッコいい。“シンプル・イズ・ベスト”である。
重量は16kg。決して軽いとは言えないが、この重さは後述する鍵盤ゆえである。どのメーカーのデジタル・ピアノでも、タッチの良さと本体の重さは構造上どうしても比例してしまうが、“タッチの質は譲れない”という人には、競合機種と比較すればこの重さは軽い部類に入るのではないかと思う。専用のソフト・ケースもオプションで用意されており、キャリー・カートを使えば電車での移動も可能だろう。
さてこのD1、何はともあれ最大の売りは、冒頭でも触れた“この価格でこの鍵盤!”である。コルグの独自開発によるRH3(リアル・ウェイテッド・ハンマー・アクション3)鍵盤を採用、これはコルグの上位機種である、ミュージック・ワークステーションKronosやステージ・ピアノGrandstage、SV-1と同じものだ。低音部では重いタッチ、高音部ほど軽いタッチとなる、本物のグランド・ピアノの打鍵感覚を極力忠実に再現している。筆者もライブ・ステージでは好んでRH3鍵盤のKronosやGrandstageを使っているが、特にバンドの音楽や演奏においては、個人的な意見ではあるが長時間弾いていても疲れず違和感がない鍵盤だと思う。それがこのD1で得られるのが、まずすごいことである。
では肝心の内蔵音色をチェックしていこう。このD1にはメイン音色のアコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノをはじめ、クラビ、ハープシコード、ビブラフォン、マリンバ、アコースティック・ギター、オルガン、ストリングス、クワイアといった30種類の音色が内蔵されている。それぞれに使える音色ではあるが、やはりこのD1はあくまでピアノ。極論を言えば“ピアノが良ければそれでOK”である。
そのピアノ音色、アコースティック、エレクトリック合わせて計12種類の音色が用意されているが、どんなデジタル・ピアノでも何はともあれ“プリセットの1番”である(笑)。そのD1のファースト・インプレッションは、ひと言で言うと“臨場感”。何やらすごいステレオ感、空気感なのだ。それも人工的な感じでなく、あくまで自然な部屋、空気、マイク、マイキング……それらすべてが最高の環境・品質・技術で取り込まれたような音、と言うべきか。ちょっと大げさだがそんなイメージである。
実際にこのD1のピアノ音源は、鍵盤のタッチに応じて4つのサンプルを切り替えて発音させているなど、そうした従来からのPCM音源の手法も当然なされてはいるが、単に上質で大容量のサンプリング音源、というだけでなく、さまざまな新しいテクノロジーを駆使して臨場感のある音に仕上げているようだ。“ダンパー・レゾナンス”という、アコースティック・ピアノのダンパー・ペダルを踏み込んだときの弦の共鳴によって生まれる響きを再現する機能、そして“キーオフ・シミュレーション”という、鍵盤を離したときの音の余韻や残響を再現する機能などを有しており、それらを高次元で組み合わせることによって、ピアノの絶妙な音色を作り上げていると思われる。
こう言うと、“通”の人から“いや、そういう音色はだいたいバンドには合わないんだよね”、“ヘンに凝った音ほどオケから抜けてこないんだよね”などという声が聞こえてきそうだが、そこは“抜けのコルグ”、“芯のコルグ”である。素で聴くととてもリアルなピアノ・サウンドでありながら、バンドの中でも芯のあるピアノ・サウンドがしっかり聴こえてくる、それがコルグ・マジックだ。
そして意外に知られていない事実だが、昨今のコルグのピアノは妙にエレピに気合いが入っている(笑)。エレピの“プリセットの1番”を弾いてみると、往年のビンテージ・エレピの心地よい音が響く。もちろん、もとが電気ピアノなので、アコピのような臨場感はないが(あったらおかしい)、さすが隠れエレピのコルグ、なかなかに使える音だと思う。
そのほかの音色もさすがはコルグで使えそうなものが多く、ちょっとオルガンの音を使いたい、この曲だけストリングスにしたい、などというときに便利だ。それらの音を単体で使うのももちろんいいが、このD1では音色ボタンを2つ同時に押すだけで2音色を重ねて鳴らすことができる“レイヤー・モード”機能があり、これがとても簡単でなかなか良い。例えばコンサート・ピアノにシネマ・ストリングスをレイヤーすると、ゴージャスなオーケストレーション的サウンドが瞬時に出せる。
エフェクトはブリリアンス、リバーブ、コーラスを内蔵。あらかじめ各プリセット音色に最適なエフェクトが施されており、オン/オフも素早くできる。タッチ・レスポンスも5段階の設定から自分に適したものを簡単に選べるのも良い。
さて、接続端子を見てみよう。背面にライン・アウト(L/MONO、R)、MIDI端子(IN/OUT)、ダンパー・ペダル端子、そしてフロント左にヘッドフォン・ジャック。ライン・アウトがしっかり標準サイズの6.3mmのステレオ・アウトなので、ごく一般的なシールド・ケーブル(ギター・ケーブル)でアンプやミキサー、録音機器へ簡単&ダイレクトにつなげられるのがありがたい。また、MIDI端子はバンドでの使用や音楽制作環境には必須。音色の好みはプレイヤーによって本当にまちまちなので、MIDI OUTさえあればお好みの外部音源やソフト音源のピアノを鳴らすといった、いわゆるコントローラー的な使い方(考え方)をしても、このD1のコスパは十分に高い。要するに“高品位ピアノ音源はじめ30音色内蔵の、高品質88鍵ピアノ・タッチ・フルスケールのスタイリッシュなマスター・キーボード”と位置付けてもいいわけだ(ピッチ・ベンド&モジュレーション・ホイールはないが)。もちろんプログラム・チェンジもしっかり送ることができる。
ダンパー・ペダルは専用のものが付属しているが、個人的にこのペダルは結構気に入った。本物のピアノのダンパー・ペダルの形でありながらも、とてもコンパクトで踏み心地も適度な重さがある。もちろん接続端子は標準ジャックなので、好みのタイプのダンパー・ペダルに換えて使うこともできる。
今回このD1を試奏して改めて、デジタル・ピアノはまさに日進月歩だと思った。この価格でこれだけの心地よいピアノの音を、こんな上質な鍵盤で弾いて楽しめるのは素晴らしい技術の進歩である。そして見栄えもカッコ良く、ステージでは精悍に、部屋に置くのもスリムでコンパクト。88鍵の手軽な、かつ本格的なデジタル・ピアノを求めている人には迷わずオススメしたい。
価格:オープン