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- 2024/11/16
STEINBERG / UR-RT4
STEINBERGが2018年4月に発売した新たなるUSBオーディオI/O、UR-RTシリーズ。シルバーとブラックを基調にした精悍なフル・メタル・ボディの内部には、従来のラインナップであるURシリーズからのアップデートが詰まっている。目玉は、入力部に搭載されたRUPERT NEVE DESIGNSのトランスフォーマー。UR-RTシリーズのためにカスタム・メイドされた逸品で、サウンドに深みと奥行きを与えるという。またフロント・パネルのスイッチでオン/オフが行なえるため、インプット・ソースによっての使い分けが可能だ。そんなUR-RTシリーズの魅力を、2人のアーティスト・インプレッションを通してお伝えしていく。
STEINBERGが、オーディオI/OのURシリーズのプレミアム版としてリリースしたUR-RTシリーズ。まずは製品の概要を見ていくとしよう。
UR-RTシリーズは、Mac/Windows/iOSをサポートするUSB2.0接続のオーディオI/O。最高24ビット/192kHzに対応し、オーディオ入出力数の違いによってUR-RT4とUR-RT2の2機種がラインナップされている。
UR-RT4はアナログ6イン/4アウトのモデルで、入力端子としてマイク/ライン・イン×4(XLR/TRSフォーン・コンボ)とライン・イン×2(TRSフォーン)を装備。UR-RT2はマイク/ライン・イン×2(XLR/TRSフォーン・コンボ)とライン・イン×2(TRSフォーン)を備え、アナログ4イン/2アウトを数える。両機種共に、マイク/ライン・インにはYAMAHA独自のクラスAディスクリート・マイク・プリアンプ“D-PRE”を搭載。フラットな周波数特性とナチュラルな音質を特徴としている。
D-PREのすぐ後段には、RUPERT NEVE DESIGNSがUR-RTシリーズのためにカスタム・メイドしたトランスフォーマー(トランス)がスタンバイ。トランスはビンテージ・アウトボードなどにも使われているコンポーネントで、音声を通すことにより独特のひずみが得られる。UR-RTシリーズでは、内蔵トランスのオン/オフ・スイッチが各マイク/ライン・インに備わっており、トランスをオフにしたデフォルトの状態ではナチュラルな音質、トランスを入れたときには倍音豊かなサウンドを楽しめる。
出力部もURシリーズから進化し、ダイナミック・レンジなどが向上。内蔵プロセッサーのYAMAHA SSP2も特徴で、付属のミキサー・ソフト“dspMixFx”やDSPエフェクトを駆動させてニアゼロ・レイテンシーのレコーディング・モニターが行なえる。またUR-RT4/UR-RT2共に、Mac/Windows対応のDAWソフトSTEINBERG Cubase AIやVSTプラグイン・エフェクト・バンドルBasic FX Suite、iOS用のDAWアプリCubasis LE for iPadを同梱している。
エレクトロニックなオルタナティブR&Bを鳴らすバンドyahyelでコンポーズやシンセサイザーを担当し、6月にメジャー・デビュー・アルバム『Digital Analog Translation System』をリリースしたDATSではボーカルも務める若き才能=MONJOE。これまでSTEINBERG UR22を楽曲制作に、UR28Mをライブ・パフォーマンスで使ってきた彼にUR-RT4を試していただいたところ「これは絶対に人気が出るオーディオI/Oだと思います」という力強いコメントをもらえた。
音像が大きく創作意欲をかき立てる
UR-RT4について「単刀直入に言うと、欲しいです。見た目から音まで、さまざまな点が気に入りました。すごく良いオーディオI/Oですね」と語るMONJOE。本機を箱から出すやいなや、テンションが上がったと言う。
「まずは天板から垣間見えるRUPERT NEVE DESIGNSのロゴ。目に入った瞬間、“このオーディオI/Oはただ者じゃない”と思いましたね。操作子や端子のレイアウトは、URシリーズとよく似たシンプルな配置で、特に難しいところはありません。そしてトランスのスイッチ。この光り方がまた良くて、今っぽいクールな音像を連想させる 。かなり自分好みのデザインです。見た目が良い機材を使っていると“これで良い音楽を作りたい”と思えるから創作意欲がわくし、そこから良い音がすれば、なおのこと新しい曲を作りたくなりますよね。UR-RT4は、僕にとってそういう一台です」
その“良い音”とは、具体的にどのようなものなのか?
「ライン・アウトをモニター・スピーカーにつないでDAWの音を聴いてみたところ、低域から高域までのすべての帯域がURシリーズよりもクリアに聴こえ、周波数レンジが広く感じられました。中域に寄ったような音ではなく、低域の膨らみなどもしっかりと確保されています。また奥行きについてもよく見え、空間全体が明らかに大きくなっている。この違いは、小口径のスピーカーでも分かると思います。またエンジニアのように音響専門の人ではなく、僕のようなミュージシャンでも“明らかに良くなった”と思えるほどのクリアさがありますね。オーディオI/Oが良いかどうかでエフェクトのかけ方、特に空間系エフェクトの調整の仕方などは相当変わってくると思います。UR-RT4を使用すれば自らミックスする際に細かいところまで作り込めるでしょうし、エンジニアにミックスしてもらうにしても、結果をより正確にチェックできるはず。そういう環境を自宅に持つのは、すごく大事なことですよね」
トランスを入れると太さや張りが違う
MONJOEはDAWの音を聴いた後、普段作曲に使っているエレキ・ギターを接続し、録り音を聴いてみたという。
「まず、デフォルトの状態で録った音はクリアです。これについてはURシリーズとの大きな差を感じませんが、DAWでの後処理で好みの方向に持って行けるクオリティだと思います。次に、トランスをオンにしてみると……もう感動しました。スイッチを入れた瞬間に“これは欲しい!”と思いましたね。本っ当に、太さとか張りが全然違ってくるんですよ。豊かさとパンチの両方が増すというか、プロ仕様のプリアンプを通したような音が得られるんです。先日、サンレコ2018年4月号でエンジニアIllicit Tsuboiさんの記事を読んでいて、“ミュージシャンが自身の音のクオリティ・アップを目指すなら、良いプリアンプを1台買うといい”とコメントされていたのが印象的だったんですが、UR-RT4があれば、まさにそれを実現できると思いますね」
MONJOEにとっては、“いかにもライン録りした音”という感じを払拭できるのが魅力のようだ。
「これまで使ってきたオーディオI/Oでは、普通にライン録りをすると自分の演奏がちょっと丸まって聴こえがちだったんです。それこそがいわゆる“ライン録り感”なのですが、UR-RT4でトランスをオンにすると“リアルな自分の演奏”をキャプチャーできる。リアルっぽい、ではなく、リアルなんです。だからDAWで処理をする際も、“本物の状態”から始められるわけですね。例えば、コンプレッサーをかけるとトランスの効果が顕著に分かります。普通にライン録りした音は、処理を重ねても“リアルっぽさ”を脱しがたいように思いますが、トランスを通したサウンドはふくよかさや張りの部分がより際立ってくるんです。歌にも試してみたところ、やはりファットで張りのあるサウンドが得られました 。これまではプラグインなどでボーカルの音作りをしていて、どうしてもあと一歩のところで止まっていたんですが、このトランスを通して録ると“本物の音”になりますね」
楽器や歌のレコーディングだけでなく、オーディオ・ループのリサンプリングなどにも有用だと話す。
「例えば、DAWで再生しているループをライン・アウト3/4から出力してライン・イン1/2に戻せば、トランスのサチュレーションを加えたループができますよね。こういう“味付け”というのは、個人的に常々意識しているところなんです。最近はAI的に作られた音楽というか、“ここをこうしておくと気持ち良くなるだろう”といった狙いの下、生み出されたサウンドがあふれて返っていると思います。そんな中、僕は一人のトラック・メイカーとして固有の持ち味を出していきたいし、同じような考えの人も増えてきていると感じています。で、そのときに必要なのが、やっぱり自分なりの味付けであり“汚し”みたいなものだと思うんですね。UR-RTシリーズがあれば、それができるなと。特にDAWで制作のすべてを完結させる僕のようなアーティストにとっては、オーディオI/Oの中に良質なマイクプリとトランスがまとまっていることで、引き出しが全然変わってくると思います。アウトボードに出して戻すような処理が一台でできるので、もう本当にこれは欲しい。入手すれば、今まで以上に制作のすべてがはかどると感じています」
“エキスペリメンタル・ソウル・バンド”として、R&Bやジャズ、ビート・ミュージックなどを独自の視点で昇華するWONK。そこでベーシスト/ミックス・エンジニアを務めるのが井上幹だ。今回は彼にSTEINBERG U
R-RT4を試してもらい、そのインプレッションを語っていただいた。同社のUR22を使っていた時期もあると言う彼は、どのような部分に進化を感じたのか?
極めて素直なデフォルトの音質
UR-RT4を前にして、開口一番「とても良い機材だと思います。かなり気に入りました」と話す井上。サウンド・チェックに用いたソースは、エレキ・ベースとエレクトリック・アコースティック・ギター、エレキ・ギターの3種類の楽器で、これらの音をDAWに録ってからプレイバック&試聴したという。まずはUR-RT4の基本的な音質(トランスのスイッチをオフにした状態)について伺ってみよう。
「極めて素直な音質だと感じます。このオーディオI/Oを通すことで、何かが変わるとは思いません。各周波数帯域がしっかりと再現されるため音がやせるような印象も無く、ダイナミクスに関してもきちんと再現されます。自分が想定した通りの音をキャプチャーできるイメージですね」
井上は、このデフォルトの状態をチェックした後、トランスのスイッチを入れて再びレコーディングに臨んだそう。各状態での録り音は、聴感/スペクトラム・アナライザー上の両方で比較。トランスをオンにすることで、どのような変化が得られるのだろう? 「どの楽器についても、それぞれのキャラクターが立ってくる印象です」と井上は語る。
「おいしい部分がしっかりと“来る”ようになるため、“この楽器はこういう聴こえ方にしたい”といった最終的なイメージに、録りの段階から近付けられるわけです。僕は普段、各楽器の特徴的な成分をミックス時にEQでブーストしたりするんですが、やっぱりイコライジングをすると狙っていない帯域まで上がってしまうんですね。その点、UR-RT4のトランスでは楽器本来のキャラクターを維持したまま“らしい部分”を際立たせることができます。結果、一部が出っ張ったような音ではなく整合性のあるサウンドが得られるんです」
より具体的な部分に迫ってみると、このトランスを通すことで低域の方に膨らみが出るとのコメントが。
「例えばベース。チェックに使ったのはフラット・ワウンド弦を張ったもので、もともと高域の量が少ないため3kHzから上の方にも持ち上がりを感じたんですが、それよりは低域の膨らみの方が印象的でしたね。スペクトラム・アナライザーを見てみると、150〜200Hzの“腰のある部分”が持ち上がっています。また、デフォルトの状態では150〜200Hzの間に音量の小さなポイントがあったのですが、トランスを入れるとそうした部分が無くなり、密度が濃くなりました。“最もベースらしい帯域”が厚くなるような感じですね。かなり良い音色変化だと思いますし、個人的にも好みです」
トランスで“ライン録り感”が無くなる
さらに井上は、エレアコの変化には本当に驚いたと目を輝かせる。
「デフォルトの状態ではどうしても“ライン録りした感じ”があったのですが、トランスを入れると、アンプで鳴らした音をマイク録りしたかのような質感になったんです! シルキーな感じで、すごく良い音なんですよ。エレアコはライン録りするとジャキジャキした音になりやすく、後処理に手間がかかりがちなんですが、このトランスを使えばいじらずにオケへ入れても曲によっては問題無いかもしれません。具体的には、サウンド・ホール周辺の空気感みたいなものが持ち上がった印象で、アナライザーをチェックすると120Hz辺りの密度が濃くなっていました。もちろん高域も倍音の出方などが変わりましたが、普段からベーシストをやっているせいか、低域の変化の方に耳を奪われましたね。エレキ・ギターについても同様で、500Hzより少し下の帯域の密度が上がり、高域はくっきりとしました 。印象としてはやはり音が太くなる感じなのですが、同時に輪郭も出てくるので、一つ一つの音が輪郭を保ったまま太くなるイメージです」
UR-RT4は、トランスの搭載以外にも前身のURシリーズからさまざまなアップデートをとげている。例えば、出力の音質も向上しているのだ。
「出力と言えば、ヘッドフォン端子の品質などもしっかりとしていますね。ハイ・インピーダンスのヘッドフォンを接続してボリュームを上げていっても、ひずんでくるような変化は全くありません。とても奇麗に鳴るんですよ」
井上はUR-RT4について「これほどのサウンドが得られるのに、リーズナブルかつボディもコンパクトなので、とりわけ自宅録音する方にマッチしそうです」と総括する。
「トランスを積んでいても、大きくて重いアウトボードを自宅に入れるのは厳しいと思うのですが、UR-RT4なら価格的にも手に入れやすいし、置き場所にも困らないでしょう。そしてトランスによってあれだけ音が良くなるので、導入すると制作がスムーズになりそう。昨今はプラグインやマイクなどにもモデリングの技術が持ち込まれ、さまざまなプロセスがいつでもリコール可能になっているわけですが、今回テストしたように録り音のキャラを“これ!”と決めてから進めるのも良いかもしれません。今までミックスに重きを置いてきたけれど、後処理の比率が高いと“録り音をどうやって良くするか?”と考えるところから始まるので、工数がかかりがちなんです。しかし最初から良い音が手に入っていればブラッシュ・アップの手間がかからないし、ミックス全体の指針も立てやすくなるでしょうね」
UR-RT4によって“即戦力になる音”が得られることを実感した井上。読者諸氏も、このUR-RTシリーズによって広がるサウンド・メイクの世界をのぞいてみてはいかがだろう?
本記事は、リットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号』の特集記事を転載したものです。表紙は、ENDRECHERI(エンドリケリー)としてファンク・アルバム『HYBRID FUNK』を発表した堂本剛。クリエイターとして自らのサウンドを追究し、いわゆる国民的アイドルの顔とは異なる “音楽家・堂本剛”を披露してくれました。特集「ラウドネスとは何か?〜放送基準から学ぶ音のレベル」とともにぜひチェックしてみてください。
価格:オープン
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MONJOE
yahyel(ヤイエル)で作曲やシンセサイザー/プログラミングなどを手掛け、DATS(ダッツ)ではボーカルまで担当。R&Bからダンス・ミュージック、インディー・ロックまで、さまざまな音楽への造詣の深さを感じさせるセンスで気鋭アーティストとして注目されている
井上幹(いのうえ・かん)
R&Bを軸に多彩なスタイルを取り入れ、独自のサウンドを確立しているエキスペリメンタル・ソウル・バンド、WONK(ウォンク)のベーシスト/ミックス・エンジニア。都内のプライベート・スタジオでは、打ち込みだけでなく生楽器も活用したプロダクションを実践している