AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
UNIVERSAL AUDIO / Arrow
2018年1月に発売された、UNIVERSAL AUDIOの新たなオーディオ・インターフェース、Arrow。Thunderbolt 3接続のインターフェースとしては世界で初めてバス・パワー駆動できるうえ、コンピューターのCPUに負荷をかけずUADプラグインが使用できるUAD-2 DSPを1基内蔵、さらに入力信号をモデリングのマイク・プリアンプで増幅できるUnisonテクノロジーを搭載するなど、多くのユーザーにとって注目の一品に仕上がっている。そんな本機を、元Galileo Galilei/現warbearの尾崎雄貴と、実弟の尾崎和樹(ds、prog)がチェック。今回は、北海道札幌市にあるプライベート・スタジオ“わんわんスタジオ”にて、Arrowを使ってレコーディングを行なってもらった。
「UNIVERSAL AUDIO / Apollo」の性能を受け継いだ新オーディオ・インターフェース、Arrow。Mac/Windowsに対応した2イン/2アウト機で、接続はThunderbolt 3。なんとバス・パワーで駆動が可能だ。その軽量でシンプルなデザインは可搬性に優れ、どこでも歌やギターなどをUNIVERSAL AUDIOクオリティで録れるのが魅力となっている。Apolloシリーズと同じくUAD-2 DSP(1基)を内蔵し、コンピューターのCPUに負荷をかけず、UADプラグインを使用できる点も魅力。また、Arrowのミキサー部をコントロールできるConsoleソフトウェア上でUADプラグインを使うことで、低レイテンシーなリアルタイムDSP処理が可能だ。Unisonテクノロジーに対応しているUADプラグインを使えば、Arrowのマイクプリ/Hi-
Z入力部のインピーダンスが変化し、ビンテージ機材の入力特性までも再現できる。
【Specifications】
■接続方式:Thunderbolt 3 ■オーディオ入出力:2イン/4アウト ■最高ビット/サンプリング・レート:24ビット/192kHz ■内蔵マイクプリ数:2 ■ダイナミック・レンジ:118dB(入力)、115dB(出力) ■外形寸法:179.9(W)×46.7(H)×121.1(D)mm ■重量:0.63kg ■価格:オープン・プライス(市場予想価格:58,000円前後)
【REQUIREMENTS】
■Mac:Mac OS X 10.12以降 ■Windows:Windows 10 with Anniversary Update(64ビット) ■共通項目:Thunderbolt 3端子、6GB以上のハード・ディスク空き容量、クアッド・コアのINTEL Core I7以上のプロセッサーを推奨、8GB以上のRAMを推奨、インターネット接続環境(ソフトウェアの入手、製品登録と追加プラグイン購入のため)、AAX/AU/RTAS/VST対応のホスト・アプリケーション ■付属UADプラグイン:UA 610-B、Marshall Plexi Classic Amplifier、Teletronix LA-2A、1176SE/LN、Pultec Pro Equalizers、Precision Mix Rack Collection、Raw Distortion、Softube Bass Amp Room 8X10、RealVerb Pro
誰が聴いても良い音だと感じさせる説得力がある
わんわんスタジオはGalileo Galilei時代から制作に使われてきた場所だ。これまでに集めたシンセやアウトボードなどが360°にわたって並べられ、ドラム録りができる空間まで設けられている。Arrow試用のためのレコーディングは尾崎和樹がエンジニアリングとドラムの演奏を担当し、尾崎雄貴がボーカル/ギター/ベース/シンセを弾いて、Arrowのサウンドをチェックした。
わんわんスタジオではシルバー・パネルの初代Apolloを長い間使ってきたそうだ。ArrowはApolloシリーズのAD/DAのクオリティを受け継いでいるが、尾崎雄貴はその音質の進化に驚いたという。
「すごくクリアでパワーがありますね。誰が聴いても良い音だと感じさせる説得力を持っていると思います。そして余計な部分はカットされて、低域がすっきりとしている。普段ドラムを録るときにはハイパス・フィルターを入れることも多いですが、Arrowでの録音では入れなくても大丈夫でした」
ドラムはオーバー・ヘッドのマイクとルーム・マイクを使ってレコーディングされた。演奏した尾崎和樹に印象を尋ねると「解像度が高く感じました。不思議な音の強さ、アタック感がある。所有している同社の4-710Dに近いサウンドだと思います」と語った。
2人はApollo Twin MKⅡも使用している。Apollo Twin MKⅡはデスクトップ型で、持ち運びできるサイズ感も人気の理由の一つ。しかし、より小型となっているArrowの可搬性は尾崎雄貴にとって魅力のようだ。
「突起部分も少なく、薄くて軽いので持ち運びしやすい。また、2イン/4アウトというシンプルな入出力なのでケーブルの数も少なくなり、取り回しのわずらわしさも無い。UNIVERSAL AUDIOの製品全体に言えることですが、デザインが洗練されていますよね。しかもバス・パワー駆動に対応しているので、電源の限られているホテルやツアー中の機材車でも作業できるのがありがたい。出先でも良い音で録れるというのは制作意欲の向上にもつながってくるでしょう」
UADプラグインは実機にかなり近い質感
ArrowはUAD-2 DSPを1基内蔵しており、コンピューターのCPUに負荷をかけずUADプラグインが使用可能。また、Unison対応UADプラグインを使うと、Arrowのマイクプリ/Hi-Z入力部のインピーダンスが変化し、アウトボードやギター・アンプの特性をよりリアルにエミュレートすることができる。さらにArrowのミキサー部を操作できるConsoleソフトウェア(Mac/Windowsに対応)を使えば、ほぼレイテンシーが無い状態でUADプラグインのかけ録りが可能だ。この“UADプラグインのかけ録り”は、尾崎雄貴の楽曲制作には欠かせないものだと言う。
「僕はミックス・エンジニアへ楽曲のデータを送る前に、ある程度自分で音を作っておくことがよくあります。楽曲で鳴らしたい音のイメージが決まっているんです。だから、最初からエフェクトを使ってかけ録りをすることが多い。“後でエフェクトをかけるから”と素の状態でレコーディングするより、音をちゃんと作ってから録った方が作業効率的にも良いと思っています。しかも、プロの機材をエミュレートしたUADプラグインを使ってかけ録りをすることで、商業スタジオでレコーディングをしている感覚になる。そのおかげで丁寧な演奏ができるんです。UNIVERSAL AUDIOの製品は、気楽にデモ作りをするというよりも“よし、仕事をするぞ”と、気持ちをシャキッとさせてくれるものが多い気がしますね」
Unison対応UADプラグインについてはどのような印象を持っているのだろうか? 尾崎雄貴に尋ねた。
「このテクノロジーは本当にすごいと思っているんです。今回、ボーカルにManley VoxBox、ギターにFender ’55 Tweed Deluxeなどを使いましたが、実機にかなり近い質感を得られます。こういった部分も制作におけるモチベーションにつながってくる」
高校生のころより音楽活動を続けてきた尾崎雄貴、尾崎和樹の2人。Arrowの存在は、若いアーティストたちにも貴重なものになると感じたようだ。尾崎雄貴は最後にこう締めくくってくれた。
「僕らはアウトボードやプラグインといったものに興味を持つまですごく時間がかかりました。でもArrowなら高校生のバンドでも、メンバーでお金を出し合って買えるような価格帯ですし、そういった人たちが機材に興味を持つきっかけとなると思います。高校生たちがUADプラグインを使ってプロのサウンドに触れ、“LA-2Aが欲しい”なんて学校での会話が生まれるかもしれませんね」
本記事は、リットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号』の特集記事を転載したものです。
本号の表紙は26歳のシンガー/クリエイター、小袋成彬(おぶくろなりあき)。その歌声と才能を宇多田ヒカルに発掘され、4月に宇多田プロデュースによってメジャー・デビュー・アルバム『分離派の夏』をリリース。今回、日本の音楽シーンの新たなフェーズを感じさせるアーティストのサウンド・クリエイティングの現場を訪れました。また特集企画では、「本気のハイグレード・スピーカー徹底試聴!」と題して"ペア25万円以上/サイズ300(W)×450(H)mm以内"の現行ニアフィールド・モニター9機種を5名の著名エンジニア/クリエイターがクロス・レビュー。こちらも見逃せない内容ですので、ぜひチェックしてみてください!
価格:オープン
尾崎雄貴・尾崎和樹
2007年よりGalileo Galileiのメンバーとして活動。バンド活動休止後、尾崎雄貴がソロ・プロジェクトwarbearをスタートさせ、弟である尾崎和樹とともに、アルバム『warbear』を2017年10月に発表した