アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
Line 6 / HX Effects
モデリング・アンプ/エフェクトというシーンを切り拓いてきたLine 6が、進化の粋として2015年に発表したHelix。そのHelixのエフェクト機能を抜き出し、さらには同社のMシリーズ搭載のエフェクト群も追加しながらコンパクトなストンプ・ボックスに落とし込んだのが、HX Effectsだ。群雄割拠のマルチ・エフェクター・シーンをまさに切り拓かんとする本機の実力を、KenKenがチェック! 機材を含めて“音で表現する達人”であるKenKenに、新時代のマルチ・エフェクト・プロセッサー=HX Effectsはどのように映るのだろうか。
HX Effectsは、歪み系36タイプ、モジュレーション系45タイプ、フィルター系14タイプ、ディレイ35タイプを始め、全195タイプのエフェクトを内蔵している。また、Helixのみならず、DL4などストンプ・モデラー・シリーズから継承されたものもあり、ラインナップに不足はないうえに、最新ブティック系モデリングの採用など独自のチョイスが光る点もポイントだ。
ユーザー・プリセットを選択するモードのほか、コンパクト・エフェクター感覚で各エフェクトを個別にオン/オフできるストンプ・モードも搭載している。さらに、Helixの特徴でもあるタッチ・センシティブ・フット・スイッチも継承されており、スイッチを軽くタッチするだけで各パラメーターを瞬時に呼び出すことができる。リアルタイムでの微調整やコントロールが可能だ。
本機はセンド/リターンを2系統装備し、好みの外部エフェクターを接続することも可能なほか、パラレル・パスなども含む接続順の組み立て・変更も簡単に行なえる。[この商品をデジマートで探す]
トップ・パネルの上部左側には便利なボタンが集約されている。SAVEボタン(写真左上)で各名称や音色を保存可能。MENUボタン(右上)を押すことでシグナル・フロー、コントローラー・アサイン、グローバル・セッティングなどのメニューへとアクセスすることができるので、詳細な機能を使いたいときに重宝しそうだ。また、操作に迷った際にはホーム・ボタン(下)で瞬時にホーム画面に戻ることができるので、マルチ機器初心者も安心だ。
エディットしたいエフェクトのフット・スイッチに軽く触れると画面には3つのパラメーターが表示され、上部の3つのノブで各パラメーターを調節することができる。パラメーターを4つ以上持つエフェクトは画面右側に矢印が表示されるので、トップ・パネル上部右側の矢印ボタンでページをスクロールすることができるうえに、フット・スイッチにさらに1秒間ほど触れると複数の画面にすべてのパラメーターを一度に表示可能だ。
エフェクトの変更/配置はとてもシンプルで、フット・スイッチに軽く触れてからビッグ・ノブを回すとモデル・リストが表示され、ビッグ・ノブを押し込むとエフェクトを選択することができる。カテゴリーはDistortion、Dynamics、EQ、Modulation、Delay、Reverb、Pitch/Synth、Filter、Wah、Volume/Panなど多彩だ。
MENUボタンからアクセスできるシグナルフロー画面は、明解なグラフィックで信号の流れをわかりやすく表示してくれる。フット・スイッチの位置は維持したまま各エフェクトの接続順を自由に並べ替えることができるうえに、ひとつのスイッチに複数のエフェクトを設定したり、パラレル・ルーティングを作成することもできる。
視認性の高いチューナーを内蔵しており、TAP/TUNERスイッチを長押しすることで起動させることができる。チューニング時にアウトプットをミュートすることもできるうえに、標準の440Hz以外のリファレンスにもチューニング可能で、425〜455Hzの範囲内から選択可能。これらはトップ・パネル上部のコントロール・ノブで操作することができる。
実機エフェクターをセンド/リターンに接続することで、内蔵エフェクトを含めたルーティングに連結して使用可能。また、インプット/アウトプットとセンド/リターンを、アンプ側のセンド/リターンと組み合わせることで、好みのエフェクトをアンプのプリアンプの前後に分けて配置することができる“4ケーブル方式”にも対応するなど、優れた拡張性も併せ持っている。
【Specifications】
●プリセット・ロケーション:128 ●エフェクト数:195(※以上ファームウェア・バージョン:v2.50の場合) ●コントロール:セーブ、メニュー、ホーム、ビッグ・ノブ、ノブ×3、アクション、ページ×2、フット・スイッチ×8 ●入出力端子:インプット×2、アウトプット×2、エクスプレッション・ペダル/EXTアンプ×2、センド/リターン×2、MIDIイン、MIDIアウト/スルー、USB、DCイン ●電源:専用9Vアダプター ●外形寸法:274(W)×200(D)×76(H)mm ●価格:オープンプライス(市場実勢価格:74,000円前後)
輪郭や音の太さはそのまま
アトリエZの、特に僕のモデルはアクティブっていうこともあってかなりパワーが強いんで、よくある歪みをかけると音が細くなって終わりなんですけど、このHX Effectsの歪みは輪郭や音の太さはそのまま。僕のベースに負けない歪みは久々かもしれないです。しかもどのタイプも、ギター用とかベース用とか考えずに使えましたし、特に歪みと生音で絶対的な実音があまり変わらないっていうのは、ベーシストは助かるんじゃないですかね。ベースの場合、歪ませるとどうしてもベースの一番良いところも消えてしまうけど、このHX Effectsなら自然な音作りが追い込めると思います。
良かったのは、90'Sパンク風の「Minotaur」などに用意されたレベルのパラメーター。これはすごく大事で、このパラメーターをいじるだけでローも出るようになる。もとのカラッとした音にEQでローを足すと、この音の良さがなくなってしまうけど、これは使い勝手が良いですよ。ほかにもさまざまな印象の歪みがあるし、いじれるところもそれぞれ違うっていうのはすごいね。
毎回同じタイミングで反応するのがすごく良い
反応が超良いです。フィルター系は右手の力でコントロールしなくちゃいけないわけですけど、これがデジタルの良いところで、一発目の入力さえ間違えていなければ、毎回同じタイミングで反応してくれる。フィルターおたくからすればすごく良い(笑)。ラインナップも、“Legacy”っていうカテゴリーには僕が2台も使っているLine 6 FM4搭載のエフェクト・モデルが全部入っている。これさえあれば僕のボードが半分になっちゃいますよ(笑)。HX Effectsのすごいところは、フット・スイッチに軽く触れるとそのエフェクトのパラメーターが表示されて、コンパクト・ペダルに近い感覚で簡単に操作できるんです。あと、僕はいつもストンプ・ボックスにレベルを上げるためのエフェクターをもうひとつかませてバランスを取っていたんですけど、各モデルごとにレベル調整ができるので、それがいらなくなる。飛び道具はジャム・セッションなんかでも強力な一撃として使えるんで持っているに越したことがないと思いますね。
音も空気感もキレイに再現してくれる
ベースでこれだけキレイにトレモロがかかってくれるっていうのは、あまりないですね。歪みもそうだったけど、こういうエフェクトの場合、入力に対してどこでエフェクトが反応するか、どこで“引っかかるか”っていうのがすごく大事。低音で、しかもアクティブでってなると、入力が全部を追い越しちゃうことが多々あるんですよ。そうすると一番良いところで引っかからないから、音は良くても現場ではなかなか使えないってことが多いんです。そういう問題が一切ないっていうのは良いですよ。音もクリアだし、リバーブ感というか空気感もキレイに再現してくれる。HX Effectsならミックスしたあとの音の感じまで絞り込めると思うし、ライブ中に1曲1曲で音を変えるのもより自然にできると思います。超便利です!
音に合うフレーズも浮かんでくる
僕はかなりディレイ・スラップを使うので、ディレイはいろいろ試してきましたけど、個人的にはデジタルに越したことはないと考えています。特に僕みたいな、残響を残しながらスラップしていくスタイルだったら、デジタルのキラッとした音のほうが合うはず。ただ、HX Effectsはアナログ・ディレイのモデリングも良くて、ついそういう音に合うフレーズとかも浮かんで来ますね。ミュージシャンの発想を広げてくれるのがエフェクターですけど、すごく可能性を感じます。それと、エフェクトのノリがとにかく良くて、僕のアンプでこれだけ再現できるんだったら、どのアンプで使っても大丈夫だと思うし、ラインに直接つないでもすごくキレイに鳴ってくれると思う。アンプがなくても演奏できる現場も増えるかな。
僕でさえ簡単に使えたっていう、わかりやすい操作性が大事
今僕が使っているエフェクター・ボードふたつは、並べたら幼稚園児が3人は昼寝ができそうなサイズで、車がないと運べないんです。もちろんすごく愛着のあるセットなんですけど、今僕は東京と京都を行ったり来たりしているので、自分だけで行く現場とかもあるわけです。そういう時にHX Effectsがあれば、ほぼあらかたのことはなんとかなると思いました。これからセッション現場は、HX Effectsを使うようになると思います。
特に良かったのが反応の良さと速さで、普通は僕のベースのパワーに負けちゃうんですけど、HX Effectsはちゃんとタッチにも反応してくれる。だから、ピッキングしないで左手だけで音を出していると、オクターバーは鳴るけどフィルターはかからない。右手でピッキングするとフィルターも反応するなんてこともできる。手の強弱によってサウンドを使い分けることができるわけです。
ライブやセッションはもちろん、今は家庭での作曲やレコーディング、それを動画で発表するということも当たり前になっていますよね。そういうときでも、これ1台あれば可能性がものすごく広がると思うんです。飛び道具的な音だけでなく、ベースらしい音も作れるし、単にラインでつないでレコーディングするより自分の好みの音を作っていけるはず。何より、こう見えてそこまでデジタル機械に強くない僕でさえ簡単に使えたっていうわかりやすさが大事です(笑)。ストンプ・ボックスをいじっているスピード感で音作りができたし、僕のなかではコンパクトとマルチの中間のような印象があります。もし、これが僕が10代のときにあったら、もっといろいろな曲ができていたと思うし、いろいろな発想に力を貸してくれるエフェクターだと思います。
製品レビュー:Line 6 / HX Effects
本記事は、リットーミュージック刊『ベース・マガジン 2018年5月号』の特集記事を転載したものです。表紙巻頭では、自身のバンドBULL ZEICHEN 88で『アルバム2』をリリースしたIKUOを大特集。そのほかにも、自身のベースを速弾き用にチューンナップするための機材ノウハウ企画『速弾き系セッティングに学ぶ “攻め”の基本調整法』、ベースの歴史を速弾きという側面から切り取り、時代ごとに異彩を放ってきた偉人ベーシストの奏法に迫る『時代を駆け抜けるSPEED☆KING』などを収録した、“速さ”を満載した注目の1冊となっています。ぜひチェックしてみてください!
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KenKen
ケンケン●1985年12月30日生まれ、下北沢出身。小学生の頃に音楽室に置いてあったベースを手にし、そこからベーシストとしての道が切り開かれた。RIZE、Dragon Ash、LIFE IS GROOVE、など、さまざまなバンドで活動する傍ら、コマーシャル音楽など、多方面での活躍によってその名を轟かせている日本屈指のベース・ヒーロー。