楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 連載

ギター工房 弦【2018ギター工房放浪記。】

ギター工房 弦

このエントリーをはてなブックマークに追加

リペア業界のクオリティを底上げする、国内屈指のリペアショップ

ギター工房 弦 代表 渡部智弘

 店内に入ると目に飛び込んでくる膨大な“リペア・カルテ”。顧客ひとりひとりの診療(リペア)記録を記したカードが並ぶさまは、さながら病院の受付のようだ。丸ノ内線の新大塚駅から徒歩2分。“ギター工房 弦”は、2002年の開業から16年。開業当初はオリジナル・モデル製造に注力し、クオリティを上げることに明け暮れる日々だったという。当時は足りない経験を補うために、考えに考え、徹夜を重ねる日々だったというが、代表の渡部智弘氏に言わせると、やはり大切なのは、経験の蓄積だという。柔和な表情で少しぶっきらぼうに話す姿は、まさにギター職人といった出で立ちだ。

 こちらではリペアのほか、オーダーメイドも受け付けているが、業務の大半はリペアに集約される。それだけユーザーからの信頼が厚くリピーターが多いとも言えるが、その秘訣のひとつが冒頭で触れた、リペア・カルテだ。メーカーやモデル名はもちろんのこと、使用弦、ネックの反り、各弦12fの弦高、指板の状態、波打ち、ブリッジ状況、配線などなど、持ち込まれたギターのコンディションがこと細かに記されている。このリペア・カルテは、約10年前から導入しているそう。

「リペア・カルテは楽器ごとに起こします。預かった日付とギターの状態、作業内容、注意点、この1枚でお客さんのギターの情報が完結している。楽器の履歴というのは連続性が大事なので、前回にどういう作業をしたか把握したうえでのご提案もあります。どんな状況で使っていたから現在のコンディションになったのか、今後どのようにリペアをすればいいのかという会話もできる。例えば、前回のフレット交換からあまり日が経っていないのに減りが早いねとか、だったら次はステンレスのフレットを打ったほうがいいんじゃないかとか、弾き方による磨耗の具合もわかります。調整内容を記録しているからこそ、前回の調整がダメだった場合にどこを調整するかという話もできるわけで。あと、ご自身で楽器の気になっているところを問診票に書いてもらっている間に、こちらも楽器の状態を確認します。楽器の状態と問診票を見ながら会話を進めて、ジャックの相談でもフレットに問題があれば、まとめて伝えます。お客様自身で気づいていない箇所についても、見落としなくご案内することができますしね」

 “かかりつけ”とはまさにこのこと、履歴をもとに診てもらうことで楽器のコンディションがどんどん良くなっていく感覚だ。しかも弦では、直接対話でのコミュニケーションを重視している。渡部氏曰く「やはり声のトーンひとつとっても、そのお客様が何を大切にしているのかがわかる部分もあるじゃないですか」とのことで、ネットですべてが完結する現代において、時代と逆行しているように思えるかもしれないが、心から満足してもらえる仕事をするためにコミュニケーションは必要不可欠だと考えている。

「ウチには塗装、オーダー、リペアと工程ごとの専任がいます。その中でも経験値に偏りがあるので、得意な作業を担当してもらう形です。朝のミーティングは毎日やっていて、スケジュールや作業内容を共有し、問題になりそうな箇所があれば徹底的に検討します。病院で言うところの“カンファレンス”ですね。だから“ここはどうだろう?”って時はみんなで話し合いますし、それを毎日繰り返すことでクオリティをさらに上げることができる。そのためにスタッフにダメ出しもしますし、言い合うこともあります」

真面目な仕事と屈指のクオリティで全国各地から依頼が殺到

 楽器を通じて、そして人を通じての仕事をモットーにしている“ギター工房 弦”では、リペア・カルテや作業状況の共有化のほか、“美しく精度の高い仕事”と“アフターケア”を重視したサービスを提供している。

「最初は大丈夫でも、弾き込んでいくうちにボロが出る部分って、けっこうあるんですよ。具体的に言うとフレットの浮き。当店では接着もしますし、時間をかけてフレットと指板の隙間埋めもしています。隙間があるとフレットの引っかかりが生じるし、トーンの違いも出るので、そういう部分まで処理している工房はあまりないんじゃないかなと。この仕事で大切なことは、大事なところにしっかりと時間をかけること。大事じゃないところなんて、ほとんどないんですけどね(笑)。だから、スタッフに要求しているクオリティはかなり高いと思います」

 アフターケアについては、リペアは3ヵ月の作業保証、トータル・チューニングは1ヵ月の再調整保証が設けられている。つまり、すべての作業に保証期間が設けられているのだが、それだけではなくギターのコンディションを確認するために連絡を入れることもあるのだとか。

「一定期間を過ぎたら、こちらからお客さんに連絡しちゃいます(笑)。“問題ないですか?”って。これをやらないとダメなんです。万一不満に思われていることがあるならば、こちらから拾いにいきます。しばらく使ってみてもらって、満足していただけているかどうか。そこで満足していただいて、はじめて完成する仕事だと思っています」

 その真面目な仕事っぷりが口コミなどで広がり、北海道から沖縄まで全国津々浦々からリペアの依頼が入っている。

「ギターを送ってもらって、状態を確認してからお電話します。それで打ち合わせをさせていただいて、あとの流れは店頭と同じですね」

 オーダーではフル・オーダーやカスタム・オーダーのほか、所有しているボディやネックなどのパーツをもとに図面を起こして製作するケースもある。リペアで培った技術力の高さから、メーカーからのオーダーもあるというが、受注はかなり絞っているのが現状だという。最後に、渡部さんが思う“ギター工房 弦”の強みについて聞いた。

「おかげさまでここまでやってこられたのは、必要なことをちゃんとやってきたからだと思うんですね。リペア・カルテしかり、作業しかり。それだけかもしれないけど、逆を言うと、力を入れてやっていることと言えば、どんなに細かいことであっても、とにかく“改善”。現在の仕事に完全に満足しているかというと、していません。まだ品質を上げるためにできることはあるはず、常にそう考えています」

 なお、“提携スタジオ割引”というサービスを全国的に展開。提携スタジオの会員ならば、リペアの割引が受けられるので、HPなどでチェックしてみよう。プレイヤーに寄り添う弦ならではの取り組みと言えるだろう。

Shop Data

ギター工房 弦

〒112-0012
東京都文京区大塚5-6-15
03-3946-2710
http://www.gen-guitar.com/

このエントリーをはてなブックマークに追加

製品レビューREVIEW

製品ニュースPROUCTS