AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
T's Guitars
長野県随一の交通の要衝として知られる塩尻駅からクルマで10分少々。アルプスに囲まれた、のどかな工業地帯の中にT's Guitarsはある。設立は1985年。ハイエンドなモデルが中心でテクニカル系のプレイヤーからの支持が高く、ユーザーは20~30代が多いそう。工場で働くスタッフも20~30代が中心で活気にあふれている。同社は、もともとは“クラフトギターワークス”という小さな工房からスタート。代表の高橋謙次氏が25歳の時のことだ。近隣にギター工場が多かったため下請け業務が多く、スタッフも増え、1992~3年にはNCルーターを導入するなどOEM企業として着実に規模を拡大していった矢先、悲劇に見舞われる。
「1997年に工房が全焼して、NCルーターも材料も修理で預かっていたお客様のギターも、すべて燃やしてしまったんです。それで将来を悩んだんですが、お客様のところに謝りに行った時に“高橋さんさえ無事だったら大丈夫ですよ。また1本作ってくれればいいですから”と言われて。これはやり続けなきゃダメだなと」
そう奮起して建てたのが、現在の工房。火事のあとは、ちょうどバブルも末期。時代が移りゆく中で、大量生産ではなくお客さんひとりひとりに届けられるようなギター作り(オーダーメイド)へとシフト。インターネットが普及し始めた2000年からホームページを開設すると、全国から修理やカスタム・オーダーの依頼が増えた。同時期にはアコースティック・ギターやウクレレの製作も開始。以降、生み出されたT's製ギターは、特に演奏性の高さにおいて他の追随を許さないものとなる。
「アメリカのコンポーネント・ギターが大好きで、その弾きやすさにぶちのめされたことがありました。弾いていて気持ちいい、一度弾き始めたら止まらない。それのどこが肝になっているのか自分なりに検証し、どのポジションも使えて良い音が出るということを最低条件に、硬く滑らかでスピーディなフレットを使い、グリップには特にこだわり、そのうえで指板のアールと弦高を最適なところに合わせています。弦高は、低ければ低いほどいいというわけではなく、最適な高さがあるんですよ」
また、より深みを探る中で苦労したのが音程とチューニングだったという。打開策がないか模索していく中、バズ・フェイトン・チューニング・システムの存在を知る。
「ギター作りを始めたころからずっと音程が気になっていて。それで納得いかない時に、バズ・フェイトン・チューニング・システムを知り、これで解決できるなと。それから本国アメリカに出向いて、バズ・フェイトン社よりライセンスを取得し、国内ブランドでは初めてバズ・フェイトン・チューニング・システムを採用したんです」
木工には強いこだわりがあり生地仕上げの工程では暗い部屋でボディに光を当てることで表面の凸凹を目視し、丁寧に研磨していく。木材ストックも非常に豊富で、その乾燥にはヒルデブランド社のボイラーを使用し、社内で木材の水分含有量などを細かく管理して、組み込み後に不具合が出ないよう品質管理を徹底している。
「トラスロッドの仕込みも他社ではやっていない試みで、アジャストが適正に効くようカーブを変えたり、独自の補強を入れたりしています。モダンなサウンドを目指していることもあるのですが、若干アジャストを締め込んだ状態で真っすぐになるようにしているんですよ。乾燥もトラスロッドの仕込みも指板の接着も、弦振動をしっかり受け止めることが出来る安定したネックをイメージした上で作っていますね」
現在は20~30代のユーザーが中心だが、ビンテージ系モデルの製作にも力を入れており、今後はシニア世代にもアピールしていきたいという。
「オーダーメイドではネック材などの選択肢を増やし、より満足してもらえるものに。またオーダーメイドを狙っていない人にもご満足いただけるスタンダードでハイクオリティなギターを提案していきたいと考えています」
カタログ・モデルとしては初めて、ローステッドのバーズアイ・メイプルをネックに採用した1本。高温で燻製状態にすることで理想的な乾燥状態を実現し、それによって枯れたトーン、レスポンスの良いサウンド・キャラクターが生まれるのだ。さらに、ネックにはカーボン・グラファイトの補強(レイン・フォースメント)がセットされており、剛性と安定性を高めるとともに、バーズアイやフレイム・メイプル特有のクセや経年変化を打ち消し、レスポンスの良さとサステインに大きく貢献している。ボディ・トップには5Aグレードのフレイム・メイプルを採用。上から下までびっしりと詰まった木目は“キラー・フレイム”と言っても過言ではないほどの逸品で、ソリッドでパワフル、倍音豊かなサウンドを構築している。ピックアップはS-S-Hで、DS-592(フロント&センター)、DH-560b(リア)というドライブ感のあるコンビネーションかつ、弾き手を選ばないオールラウンドな構成だ。また、ボディ・バックのネック・エンド付近の1弦側を大胆にカットすることで、どのようなプレイにも干渉しない弾き心地を提供している。
【Specifications】
●ボディ:5Aフレイム・メイプル(トップ)、アルダー2p(バック) ●ネック:ローステッド・メイプル(バーズアイ) ●指板:インディアン・ローズウッド ●フレット数:22 ●スケール:648mm ●ナット幅:42mm ●ピックアップ:T's S-S-H(DS-592/DS-592/DH-560b) ●コントロール:ボリューム、トーン(プッシュ/プルでコイルタップ切り替え)、5wayセレクター(ハーフ・ポジションでオートタップ仕様) ●ブリッジ:ゴトー 510TS-FE1 ●ペグ:ゴトー SG381-P7 MG-T ●カラー:Trans Blue Denim ●付属品:ギグバッグ ●価格:376,000円
昨年はローステッド・メイプル・ネックに対するお客さんからの反応が大きかったので、2018年の目玉のひとつにしたいと思っているんですよ。これまでカスタム・オーダーでは採用していましたが、カタログ・モデルとしてローステッド・メイプルのモデルを作るのは初めてですね。ネック材はフレイム・メイプルとバーズアイ・メイプルを用意しています。スペックを簡単に説明していくと、ペグはゴトーのMG-Tで、ポストの高さが1~2弦、3~4弦、4~6弦で異なる仕様です。これは特注でカスタマイズしてもらったものなんですよ。ジョイント・プレート付近はカッタウェイを施し、十分に強度を保てる厚みを持たせたうえで演奏性も高めています。
ネック形状は、指板とメイプルの境目あたりを少し薄めに仕上げたソフトVシェイプですね。こうやってバインディングをキレイに仕上げるためには通常の塗装よりも工程が多くなってしまうんですが、手間をかけて丁寧にやったからこその、この仕上がりだと思います。ローステッド・メイプルも極端にやり過ぎると炭化してしまうんですが、その工程を適正な度合いで済ませることでさまざまなメリットが加味されるんです。DST-ProやDST-DXといったモデルにも、このローステッド・ネックを組み合わせることが可能ですね。いろんなジャンルの方にオススメですが、特にモダン・テイストの音楽をやってみたい方、クリーンからハードに歪ませたトーンまでいろんなトーンを1本で出したいという人には、ぜひ使っていただきたいです。(T's Guitars代表 高橋謙次)
T's Guitars(ティーズ・ギター)
〒399-0702
長野県塩尻市広丘野村1871-1
0263-54-3190
http://www.guitar-shop.co.jp/